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しおりを挟むぱちん。
耳元で何かが爆ぜる音に気づき、瞬時に意識が覚醒した。
この破裂音には聞き覚えがある。――いつも、この音がするとき、私はあの見知らぬ部屋にいる。
そのことに気づいた途端、全身が極度の緊張状態に追いやられ、呼吸が引きつった。
眼前に二つ、星のように瞬く黄金色の瞳が浮かんでいる。その瞳は躊躇いなく私と視線を絡ませ、三日月のように笑んだ。
「君、随分と派手に気をやったなあ」
喉を鳴らしながら笑う男は、うっとりと目を細めつつ私の腹を爪先でなぞっている。唆すようにあいまいに肌の表面に触れる手つきは、容易く私の全身に熱を孕ませた。
なぜ、どうしてこの夢が始まってしまったのだろうか。
ようやく解放されたと思い込んでいたのだ。しかし男は私の困惑など気にすることなく腰を掴み寄せ、慣れた手つきで濡れそぼった泥濘に指先を挿し入れた。
「っあああ……!? あ、んん、ぁあ……!」
男はまるで、長らく犯し続けていた箇所を再びなぞるように私の腹の中を擦り、呆気なく私の身体を法悦に浸らせる。ひどく慣れた手つきだった。それはまるで、私の体を隅々まで暴いた経験のある男のように。
男はなおも男の手一つに翻弄されてひくひくと体を痙攣させる私を見下ろし、愉快そうに笑みを浮かべていた。
「ひ、ぁあああっ……! あっ、だめ……っ! しお、紫苑っ……!」
媚びる猫のような声が、私の身体から飛び出していく。一度も呼んだことのない名を当然のように叫んだ身体は、私の求めに応じるように激しく中を責める男の手によって、呆気なく上り詰めさせられた。
極まる寸前に獰猛な目で私を見下ろした男が、やはり何の躊躇いもなく唇に噛みついてくる。
「んああっ……! ふ、っん、んん~~っ!」
その柔らかな熱に声を飲み込まれ、震える指先で男の背中に爪を立てた。
気を抜いていると、どの瞬間にでも快楽に投げ飛ばされてしまいそうだ。それほどの刺激の強さで、頭の中がひたすらぐらぐらと浮ついている。
「あ、……ぁ、しお、」
「ああ」
床に力なく寝そべる私の両足を、男が肩にかける。壮絶な色気を孕んだ瞳が、鋭く私を見下ろしていた。
この男に、すべてを奪われてしまうのだ。そう、意識すると、無意識に下腹部から熱が蕩け出る。
「もう欲しいのか?」
「ん……っ、だ、ってえ」
「君は我慢が下手だからなあ」
恋人同士の秘事を見せられているかのようだ。
愛おしいものを見つめるような瞳で見下ろされ、動揺が止まらなくなる。そのはずが、この身体は心地よい鼓動を響かせて、男を受け入れようとしていた。
なぜ、なぜこのような夢を見る。理由がわからない。私自身の欲求ゆえのことだとすると、あまりにも恐ろしい。
これは、私の目の前にいる男は、決して私とは同じではない。別の生き物なのだ。
「くださ、い。……紫苑、お願い」
唇が勝手に囁いて、男の接吻をねだる。男は私が体を浮かせて口吸いをねだるのを見遣り、緩やかに顔をほころばせた。
「君は可愛いなあ」
こんな言葉を、果たしてあの鬼が言うだろうか。
呆気に取られているうちに、私の唇に彼のものが重ねられ、口吸いに意識を奪われているうちに、くちりと泥濘に男の熱が触れた。途端、目を見張る間も無く激しい衝撃に突き落とされる。
「んっ、んんんっ、ふ、んあああっ……!」
遠慮のない一突きで、呼吸があやしくなる。
何が起こっているのか。整理もできぬままにもう一度腰を打ちつけられ、ただ猫のように喉が鳴った。続けて獣のように奥を穿つ男に揺す振られ、視界にちかちかと火花が散る。
「……っ、く、」
「あ、っ、あ、んんんっ、んっ……!」
中を擦る自身を確かめるように節くれ立った指先で腹を弄られ、呆気なく再び上り詰めさせられる。
碌な声を上げることもできずにしがみつく私を、男は掻くように抱き上げて、耳元に唸るように囁いた。
「全部、中に……っ、くれてやるっ!」
「ひっ、んあああああ……!」
すべてが真白に塗りつぶされてしまうような快感に意識を奪われ、腹の中に熱が迸った。その熱が何であるのか、頭が回る前に、勝手に唇が囁く。
「紫苑、もっと、……っもっと」
甘ったるい囁き声に、眩暈が止まらなくなる。なぜ、どうしてこのような夢を見るのか。
どれだけ私が困惑していようと、この夢は私の意思とは関係なく続いていくのだ。
私の痴態をからかうように笑った男が再度私の腰を掴み直し、妖艶に囁き返してくる。
「はは、困ったお雛さんだな」
その声を耳に聞いた瞬間、ようやく指先に力がこもり、無我夢中で男を引きはがそうと胸を押し返した。
「っやめて……!!」
媚びる猫のような声ではない。絶叫のような金切り声が響いて、布団から飛び出した。
全力で駆け回った後のように切れる息をどうにか整えようと着物の袷を握りしめ、深くため息を吐く。
またあの夢だ。否、もっと酷くなっている。
ここに来る前に最後に見たときには、まだ一線を越えていなかったはずだ。それが今見た夢は、まるで何度も情を交わした間柄のようだった。強い眩暈に堪えきれず畳に倒れこむ。
「どうして……」
全身から汗が噴き出て止まらない。
額を拭って、落ち着けるように深く呼吸を繰り返している。それにもかかわらず、身体が痺れのように疼いて熱が収まらない。猛烈な喉の渇きを覚えて、からからの唾を飲み下した。
「ちがう、……ちがう」
強く擦り合わせるように瞼を瞑って、脳裏に浮かぶ情景をかき消す。
この世界にいるうちは、この夢から離れられるものだと思い込んでいた。思い込みたかっただけなのかもしれないが、少なくとも今日までは何の夢も見ることなく、穏やかに眠ることができたのだ。それなのに、どうして。
ぐるぐると考え込み、ようやく動悸が落ち着いたところでのっそりと歩き出す。
幽玄の世に連れられてから、すべての者を無視して引きこもり続けていた。おじさまにもらった小袖はじっとりと汗に濡れ、心なしか汚れているようにも感じる。狐仙がしきりに召し替えを願う言葉を口にしていたことを思い返し、ため息を吐いた。
少しだけ、夜風にあたりたい気分だ。
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