薄明の契り ―私を喰らう麗しき鬼―

北の集落で慎ましく暮らす千代には、誰にも打ち明けていない悩みがあった。それは、新月の夜に必ず見る奇妙な夢の中に、麗しき神主によく似た鬼のような何かが出てくるという悩みだ。しかもその夢は成人に近づくにつれ、徐々に淫猥で生々しいものに変わっていく。

一方的に繰り返される夢に、千代は神主を過剰に恐れて接触を避けるが、成人を迎えるその日、とうとう神主に捕まってしまう。神主は「元服まで君を守る代わりに君の肉を喰らう契りを交わしただろう」と言い、鬼の姿となって千代を幽玄の世界に連れ去るが、幽玄での暮らしは思いのほか優しく、温かくて――?

「私が食べたいんですよね? それならどうして食べないんですか……!」
「君がいなくなるのに、美味いと思えるわけがない」
「弱った。君が泣くと心の臓が痛んで仕方がない。君が消えてしまうことの方が苦痛だ」

――愛おしいから食べてしまいたい。愛しているから食らいたくない。

これは孤独な鬼が愛する女性を喰らうまでのお話。

「千代、鬼の執着を舐めるなよ」
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