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無垢
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「お疲れさまでございます。血圧がやや低めですが、お身体に異常はございません」
週に2回、周は薫の体調を検診に訪れていた。朔耶はこれに必ず立ち合っている。彼を信用していない訳ではないが、薫が幼い時から付き従う事が朔耶の役目だった。薫は武とは違って丈夫で半ば話し相手と教育係のような状態になっているのが、立ち会って見ているだけしかない朔耶には少々歯痒い。まるで自分たちが責められているようにも感じた。
「スコーンを焼いて参りましたので、お茶にいたしましょう」
「はぁい」
「薫さま、お返事は短くすっきりと」
「はい、ごめんなさい」
何気ない雑談の折りに夕麿が武の教育係として、庶民育ちを修正したのだという会話を周が行長と交わしていた。朔耶が見た限りでは今でも多少は残っている感じはあるが、むしろ武らしい気さくさとして魅力的な部分だけが残されている。溌剌として彼らの中にいた姿が思い出された。あれは確かに今の薫には欠けているよう思えた。
行長と周は半ば朔耶に聞かせようとしているのではないか……と思ってしまう程に武の昔話に興じる時がある。月耶が言った『苦労知らず』がとんでもなく的外れでであったのを朔耶は実感していた。
18歳。貴族や皇家の成人を迎えても皇国民の成人年齢である20歳を過ぎた今でも、暗殺を企てた学院の元校医 佐久間が投与した薬剤の影響も相まって、武の幼い素振りはなかなか成長してはいない。彼を暗殺する為に利用された夕麿の乳母の絹子が、療養後に再びロサンゼルスに渡って共に武の教育を手伝った結果、何とか現在はそれが解消されつつあった。夕麿たちの苦労は未だに完全に解消された訳ではないのだと二人は語る。
では薫はどうなる?同じように生命を脅かされるのか?けれども学院の特別室に住み続けても、いずれは生命が絶たれるというのであればどこに救いがあるのだろう。守役としての自分は何を考え、どの様に判断すれば良いのかわからない。
第一、薫がここを出て行ったとしても自分は変わらずの道しか残されてはいない。もっともそれももう長くは続けられないだろうが。
「お待たせいたさました」
「いただきます!」
笑顔でスコーンにフォークを使う薫を周はじっと見つめている。彼のこの状態は彼本来の性格もあるだろうが、わざとこういう状態にとめ置かせているのではないかと、必ず後で問われるに違いない。事実であるのだからYESとしか答えようがない。
身分が高い出生の子供をどう育てるか……周の認識では学院の方針は夕麿や清方を見ていればわかる。人の上に立つ者として、模範的な人間に育つように教育される。夕麿はその典型的な姿に成長したし、清方も雫との別れがなければ同じような状態だった。だからこそ今の薫の状態には強い違和感を感じてしまう。
確かに閉じ込められる運命を見越してにしても、この状態は異常だとは朔耶も思って来た。ただ両親の命令には逆らえない立場にある。薫をこんな状態でいさせるようにしたのは誰だと考えてしまう。 恐らく両親も誰かに命じられての事だろう。
「下河辺、僕は一度、貴之に御影家の事を徹底的に調査してくれるように依頼すべきだと思っている。同時に清方さんに分析を依頼した方が安心出来る。特別室の住人を短命にする謀は、再び起こると判断された武さまは正しいと僕も納得してしまうよ」
「そうですね。私ができる事には限界があります。薫さまを幼子のように無垢な存在にして、何もわからないままに生命を断つつもりであるのか、それとも何かに利用する計画があるのか。双子の弟君とはいえ、薫さまは現東宮の御子には違いないのですから」
「いや、絶対にそんな事はさせないてさせてはならない」
周がきっぱりと断言するのが聞こえた。立ち聞きするつもりはなかったのだが、通りかかって聞いてしまったものは仕方がない。
朔耶の心配を他所に薫はまるで子犬のように周に懐いてしまった。だが紫霄学院での周の経歴を調べてみると良くない記録が出て来た。歴代の生徒会に於ける評価、教師の評価、学院生活に於ける態度と傾向など、生徒会に保存されている記録は誰におもねる事もなく、ありのままをシビアに記載されている。生徒会執行部経験があれば自由に閲覧できる。ただし武たちが言った旧特別室の住人に死因に対しては記載はない。彼らが在校したという事実だけが残されていた。
朔耶には思いっ切り嫌味を周にぶつけた。醜聞だらけの彼を牽制したかったのだ。
「言っておくが、お子さまに手を出す趣味はない」
「なる程、あの噂は真実なようですね?」
「噂?」
「次々と下級生に手を出してはいたが、本当は従弟の君にぞっこんだったと」
「なっ…」
「図星ですか?従弟って、夕麿さまですよね?」
眉一つ動かさずに平然と言うと周は、思いっきり不快そうな顔をした。
「既に過去の話だ」
「それはそれは」
「何が言いたい?武さまも夕麿も知っている。今更突いても微塵も痛みはない」
「お見それいたしました」
「遠回しな話は止めろ。紫霞宮家が薫さまに関わるのが、そんなに気にいらないか、御影 朔耶?」
「何故今のままにしていてくださらないんです?」
「お前も彼を死なせたい側か?」
周の口調が変わった。
「言っておくが、お前やお前の弟たちも巻き込まれるぞ?夕麿がどんな目に合ったと思う?その為に武さまはご自分のお生命を捨てるお覚悟をされた程だ。
薫さまに同じ想いをさせたいのか?」
10歳以上年下の少年に腹が立つのだろうか。彼の口ぶりは学院の揺り籠の中にいる者に、自分たちの苦労や武と夕麿の痛みがわかる筈はないと言いたげに聴こえた。
「まさか、薫さまはそんな事態になってもわからないと思ってはいまいな?」
「それは……」
「彼は彼なりにお前たちを大切に思っていらっしゃる。武さまのように自分がいなければ…と生命を投げ出そうとなさる可能性もある。その時にお前には何が出来る?ただ手をこまねいて見てるだけか?それともお前は…暗殺者の側か?」
「…」
貴族は官僚たちと同じく、基本的に事なかれ主義だ。だから武の周囲にそうではない人間が集まったのは、今から思えば奇跡だとも言える。
朔耶の態度が当たり前なのだと周も、わかっているからこそ腹立たしく思うのだろう。武と夕麿が学院を変えようとし賛同する者があらゆる所で努力をしている。下河辺 行長が高等部で教師になり、生徒会顧問でいるのもその一つだ。それをぶち壊しそうな人間には苛立ちしか感じない。
「ずっとこのままで過ごせると思っているのか?」
貴之の報告書を読んで、周は思わずこう吐き捨てた。
「それとも自分は途中からいなくなるから良いのか?」
入学式の日、月耶は武たちに苦労知らずと言った。だが報告書を見る限り、苦労知らずは御影兄弟の方だった。御影家は清華でも中間どころの位置にあるそこそこの家柄だ。裕福な家庭で両親にも取り立てて問題はない。父親の姉が未だに未婚で現東宮御所の後宮に仕えている縁で薫の養育を任されたのだろう。その辺りの経緯は周の母の浅子が護院 清方を預かったのと似ている。
「自覚はあるようだな?僕の事を揶揄する暇があるなら、薫さまをどうお守りするかを兄弟で話し合え。さもないと僕は武さまに君たちは役立たずだと報告するぞ?」
自覚はしていなくてもいずれ薫の生命を狙う時の道具であると、周から見た彼ら三兄弟の役割はそんな所だ。
「はっきり言おう。薫さまのお生命を縮めるのは、既に予定に入っている」
「何を根拠に言われるのですか?」
「お前たちの存在そのものが根拠だ」
「仰る意味がわかりません」
「ある日、お前たちの誰かに毒物を手渡して言えば良い。これを何かに入れて薫さまに…と。その前に重篤な病になられたら、治療はおろか水も食料も与えずに放置する。お前たちは片棒を担がされるぞ?」
武を必死で守ろうとした自分たちの存在で彼らは学んだ筈である。薫に出来るだけ他者と距離を持たせる必要性に。その為の壁が御影兄弟だと彼は続けた。
「もう一つ根拠がある。今上は薫さまの存在をご存知なかった」
「え…?」
「武さまの存在は今上がご存知だった故に、僕たちはまだ守護がし易い部分がある。だが今上は薫さまをご存知なかったのだ。薫さまを最初からこの学院で殺害する予定になっていると言う意味だ」
朔耶の顔から血の気がひいた。本当に知らされていない。
「下河辺が武さまと夕麿に知らせなかったら、高等部在学中にも実行される可能性があった」
武が慌てた理由がわかる。雫が久留島 成美を身辺警護に付け、交代に滝脇 岳大が配置された理由も。そして武と夕麿に常時警護を付けたのも。彼らは紫霞宮家が薫を守り、学院から出す為に動き始めたのを察知している。周と雅久を通じて今上に薫の存在が伝わってしまったのも。薫だけでなく事情を知る立場にいる者の口封じまで今回は行い兼ねない状況。
雫たちのチームはそうプロファイルしたからこそ、周は自分の役目として医学面で薫を守ろうとしているのだと答えた。
「戸次 幸久を叔父君の養子にされたのも……」
「彼の不遇を武さまが心配されたのもある。だがそれ以上に彼を巻き込ませない為だ。御園生の人間を害すれば報復は凄まじいからな。僕はそれがどれ程のものかは実家が被ったのだから熟知している。武さまが高等部にご在学中に僕の両親は夕麿に、異母妹を嫁がせようと企んだ。もちろん許される事ではない。当然ながら武さまの身に危険が及ぶのは必須だった。
御園生家の存続にも大きく影響する事態を招きそうなそれは、当主である有人氏の怒りをかったんだ。取引銀行に手を回され、取引先も次々と手を引いた。それでも海外への輸出で何とか繋いでいたが、$やユーロに対する円高でとうとう立ち行かなくなった。
息の根を止めようとするようにさらに、特殊技術者へのヘッドハンティングがかけられた」
ジワジワと首を絞めるような攻勢に耐えかねた周の父親 周哉が有人に屈したのが2年前。残念ながら周哉は会社に忠誠を尽くす程の信頼を社員から受けてはいなかった。
武が佐田川一族を潰し夕麿の実家六条家を追い詰めた時は、内情が火の車だったとは言え急激に一気に片を付けた。だが有人の残酷非道さには、実家を毛嫌いしている周すら色をなくした。潰すならば完膚無きまでに。有人の企業人としての非情さが浮き彫りになった。
「利用されるならば私でしょうね」
朔耶は誰に言うともなく呟いた。
「周先生、ご存じでいらっしゃるのでしょう?」
「お前が心疾患だと?」
「私は弟たちとは母が違うのです。生まれてすぐに御影に引き取られましたから弟たちは知りません。生まれついての心臓欠陥なんです。20歳まで生きられないと宣言を受けています。
本当はもう……こうしているのもかなり辛い」
この人には真実を言っても良いのではないか、と朔耶は思っていた。利用されるのが怖いのではない。先に自分が死んでしまった場合、二人の弟のどちらかが代わりにならざるを得ない状態が怖いのだ。
「最後に診断を受けたのはいつだ?」
「さあ…?記憶にありません」
捨て駒として本当の状態はどうでも良いのだろうとは思って来た。今の朔耶には薫に寄り添う以外の生き方は許されてはいない。
残酷な事をする……と周は呟いた。
「優秀な外科医がいる。病気治療の為の特別外出許可を取ろう。薫さまの為にきちんと検査を受けろ」
医学の進歩は日進月歩だ。もし朔耶の診断がかなり前に下されたものならば、現在では治療の可能性があるかもしれない。いやそもそも治療不可能な状態だったのだろうか?敢えて薫の生命を縮める為の生贄として、治療の手段をとらなかったのではないのか?周は医師として、それ以上に人間として、強い怒りと痛みを感じていた。
彼は白鳳会に席を置く。当然ながら3年の課程は全て修了させている筈だ。進学は国内に限定すれば手術などの治療を受ける時間が出来る。
『どのような理由があっても誰かを犠牲にしてはならない』
慈園院 司と星合 清治の死を受けて、武が全員に徹底させた事だ。誰かを犠牲にするならば武は自らの生命を投げ出す。だからこそ全員が命懸けで武の意向を貫く。
朔耶も武の言葉の例外にはならない筈だと周は告げた。
「心音を聴かせてもらうよ?」
「はい」
聴診器を当て聴いた心音には、確かに雑音が混じっていた。次いで血圧を測る。
「低いな。処方されている薬を持ってるか?」
「はい」
出された薬で病名の大体の見当を付けたらしい。周は武に電話を掛けた。出来れば今すぐにでも朔耶を学院の外へ連れ出したいと。
朔耶は止まったままの自分の時間が動き始めた音を聴いた気がした。
ゲートに迎えに来ると朔耶に薫が縋り付いていた。
「薫さま、お手をお放しになってください」
「だって……」
「彼は治療を受けて元気になる為に行くのです」
「薫の君……」
周が清方を慕っていたように、いや年齢が近いだけにもっと、薫には大切な身内意識があるのだろう。
「下河辺先生、薫の君をお願いいたします」
「もちろんです。今は自分の病気を治療する事だけを考えていなさい」
「はい」
三日月と月耶も不安げに立っていた。彼らは詳しくは兄の病気を教えられていなかったらしい。
「行って来ます」
そう答えた朔耶が車に乗る。次いで周が乗った。朔耶の身元引受は護院家が御影家から買い取った。周が武に相談した事がきっかけで、清方の父護院 久方が動いてくれたらしい。御影家は紫霞宮家が薫に接触した事で、朔耶を生贄にする事の危険性を悟ったようだ。
「保先生、如何ですか?」
ロサンゼルスから帰国した慈園院 保も周と同じく、御園生系列の総合病院に勤めている。周はその保に朔耶の手術を依頼したのだ。
「通常は中学生の時期にオペをするのですが…タイムリミットぎりぎりというところですね。血圧が下がっている事から判断して、心不全を起こしてもおかしくない状態です。予定通りの日程で執刀しましょう。君は絶対安静だ。」
「お願いいたします」
親が子供を捨て駒にする。その事実に今更ながら周は朔耶が可哀想になった。子供の時には親だけが全てだ。どんなに自分の状況を恨めしく思っても変える事は不可能だ。
保の言葉を受けて朔耶を車椅子で病室へ上がると武が来ていた。 病室には雫と清方、それに清方の母護院 高子がいた。
「周さん、保さんは何て?」
武が真っ先に口を開いた。
「予定通りの手術日程で、執刀してくださるそうです」
その言葉に全員がホッと一息つく。
「朔耶さん、卒業後に家へ来てくださいね」
高子が笑顔で言った。
「高子さま、ありがとうございます」
周が彼女の好意に頭を下げた。朔耶は不思議な気持ちだった。
「あら、お礼はよろしくてよ?子供たちは皆、独立してしまって寂しいんですの。本宅は次男に明け渡したので、マンション住まいになってしまいますけど」
帰国した雫と清方が武の用意したマンションに移る事を知って、護院夫妻は同じマンションに部屋を求めた。夕麿が手を回したので下の階のワンフロアを占有して、夫妻は現在隠居生活を再会した息子の近くで満喫している。
「あの、どうしてそこまでしていただけるのですか?」
朔耶にすれば入学式に初めて出会った先輩で学院の理事の彼ら。周が薫の主治医だと言っても、自分にまで手が差し伸べられる理由がわからない。
「僕もお前と似たような立場だったから…かな?」
「似たような立場?」
周の言葉に清方が苦笑した。
「周と私の関係は、あなたと薫さまの関係と同じなのです」
「ああ…乳兄弟ですね…」
「ええ。私も薫さまのように生まれてすぐに、久我家に預けられましたから」
「じゃあ、周さん。 後をよろしくな?」
明るく言う武に周は頭を下げて答えた。
「お任せください」
周を朔耶の側に残して全員が病室を出て、揃って特別病棟用の面会室へ入った。
「う~ん…」
「如何あそばされました、武さま?」
座ってすぐに首を捻った武に高子が話し掛けた。
「周さんが熱心に治療の事を言って来るから、てっきり…って思ったんだけど…」
「私もそう思ったのですが…あれは過去の後悔から来ていますね」
「過去の後悔? 何だ、それは?」
清方の言葉に雫が問い返した。
「周は私や夕麿さまが苦しんでいる時に、何も出来なかった自分を今でも恥じています。ですが、小学生や中学生に何が出来ます?無力なのが普通でしょう?」
「そうだな。高校生だった俺もあの頃は何も出来なかった」
「雫…それは言わない約束でしょう?私も彼が新たな恋をしてくれる事を望んではいます」
そう言って清方は武に向き合った。
「武さま、夕麿さまを周から奪ったと思ったままでいらっしゃいますね、まだ?」
「…事実だろ?」
「夕麿さまが周に恋愛感情を持っていたならば、そう言う事が出来ます。しかし…夕麿さまにはそんなお気持ちはおありにはならなかった。だからそれは奪ったとは言えませんよ?」
周はロサンゼルスで夕麿への長年の恋心を吹っ切った。だがそれからずっと今まで想う相手に巡り会えてはいない。武が周を薫の主治医にしたのも、紫霄の環境ならば出逢いがあるのではないか…と思ったからだ。自分の想いを横に置いて、忠義を尽くしてくれた周。それにどれだけ救われたか。
だからこそ、周に幸せになって欲しい。自分たちの為に何もかも捨ててしまった周には。
「武さま。周には周の時があります。待ちましょう、周の運命の時を」
「運命の時?」
「ええ。私と雫、あなたさまと夕麿さま…皆さんが、それぞれの運命の時を迎えた。出逢いとはそのようなものだと、私は思っております」
「そうか…早く、来れば良いな」
武が目を細めて言うと、雫が清方を抱き寄せながら言った。
「案外、もうその相手と出逢っているかもしれません。ただお互いの準備が整わないだけで」
「だったら良いな」
全ての人間が幸せになる。それは不可能な事かもしれない。けれど身近な人間に不幸になって欲しくないとは思う。
「成瀬室長。念の為にここと、周さん…それに護院ご夫妻の警護をお願いします」
「はっ」
薫を武のように学院から解放する。快く思わないものはたくさんいるだろう。どんな事をしても彼を学院から助け出して、ちゃんと人生を歩ませてやりたい。武の願いを叶えるべく、数多くの紫霄のOBとその家族が動き始めていた。
朔耶は少し気落ちしていた。周が自分の治療の手配をしてくれた、本当の理由を知ってしまったから。かつて大切な人々を守れなかった贖いなのだと。
「御影…」
「弟たちと混じりますから、名前で呼んでいただけませんか?」
せめて名前で呼ばれたい。
「そうだな。朔耶、明日は手術の為の予備検査を行う。機材のほとんどはここへ運ばせる」
「はい」
「学院との日程が短いので手術は明後日。執刀してくださる慈園院 保先生は名医だ」
「慈園院…温室の薔薇の碑の…?」
温室にある慈園院 司と星合 清治の慰霊碑は、夕麿の代以降、武、御厨 敦紀、相良 通宗、水無瀬 翼、六条 透麿と歴代の高等部生徒会長が、武と夕麿の意志を継いで守り続けて来ていた。
朔耶も前年度の生徒会長。当然ながら慰霊碑を守る一人だった。慰霊碑は今では『薔薇の碑』と呼ばれ、叶わぬ恋の守り神のように生徒たちから思われていた。
「そう、彼の2歳上の兄だ。もっとも保先生は紫霄には在校してはいなかったが」
「周先生は、慰霊碑の方々をご存知なのですか?」
「あそこで供養されているのは、第80代高等部生徒会長と副会長だった二人だ。僕は一年先輩になる。二人は武さまと夕麿の結婚を見届けて、慈園院家の別荘で服毒して心中した」
「そうですか…ご存知なのですね」
「僕たちの繋がりは司と清治が残してくれたようなものだ」
紫霄の風景はほとんど変わっていない。木々がホンの少し成長しただけだ。自分たちがいたあの頃が昨日の事のように蘇って来る。
どこか遠くを見つめて優しい眼差しになった周を朔耶は黙って見上げた。スキャンダラスな伝説が残る彼の本当の姿はどうなのだろう、と。
「朔耶、僕は明後日の手術に立ち合う予定でいるから」
「はい、ありがとうございます」
万が一、武や夕麿が体調を崩した場合はそちらを優先しなければならないのだろう。あくまでも周は紫霞宮家の主治医なのだ。
「今日はもう休め。出来るだけ体力を温存して、手術に備えておくんだ」
心臓の手術は通常、10時間以上の時間を要する。その間を全身麻酔にかかったままであるのは、かなりの体力を消耗するのだ。朔耶は一番体力のある年代ではあるが、長期に渡る状態に体力はかなり低下している。責任ある立場として無理をし続けて来た事もあった。
本日の保の診察で手術に耐えられるだけの体力は、十分あると判断が出されて周は胸をなで下ろした。心配する薫を絶対に朔耶は元気になる。そう言って落ち着かせて来たのだ。 嘘にする訳にはいかない。ましてや、護院夫妻が彼を引き取り養子にすると言っている。
彼はこの先どのような人生も自分で選んで生きて行ける。武が望んだ事がまた実現された。手助けが出来るのを周は誰よりも誇らしく思っていた。
「朔耶…大丈夫かな?」
朔耶が不在の間、代わりに月耶が薫の側にいた。長期の休みでない今は彼も学院からは出られない。兄の無事を祈るしかなかった。
「…周先生は大丈夫だって言ってたんだ」
薫の言葉に返事をしたのか、自分に言い聞かせたのかわからない。
その時、特別室のセキュリティーホーンが鳴った。月耶が立ち上がって出た。
「え?周先生の代理?わかりました、どうぞ」
周の代わりに出向いて来たのは清方だった。彼は精神科医だが内科医も兼ねている。
朔耶の不在、手術に不安を抱いている可能性がある。カウンセリングを含めた往診を周は清方に依頼したのである。
「こんにちは、薫さま、月耶君。お目もじするのは二度目でございますね。護院 清方です」
「護院先生?あ、入学式の日にいらっしゃった?」
月耶の言葉に清方が頷いた。
「私も清方と、名前の方で呼んでください」
清方の柔らかな物腰は、対峙する人間を安心させてしまうところがある。
「清方先生ってさ、周先生のお友だちか何か?」
月耶のタメ口に苦笑しながら答えた。
「周にとっての私は、あなたにとっての薫さまですね。私の乳母が周の母親なんです」
先日、同じ説明を朔耶にしたばかりだ。
「だってさ、薫の君。周先生の話でもして貰えば?」
「薫さまは周がお好きですか?」
他意があって質問した訳ではない。薫にとって好き嫌いは恋愛感情とは違う可能性が高かった。だが清方の言葉を受けた薫は真っ赤に頬を染めた。清方はそれを見つめて微笑んだ。
朔耶と薫。
どちらが周の心を揺り動かせるだろうか。どちらも動かせないかもしれない。
周は確かに夕麿への想いを吹っ切った。だがそれから何年が過ぎた?そろそろ次のステージを用意してくれても良いだろうと、八百万神の尻を叩いて催促したくなる。
周は天邪鬼な表向きで自分の弱さを覆い隠して来た。
両親の不仲。
義母に虐待を受ける夕麿を見つめるしか出来ない。
幼い頃の傷ゆえに不安さを偽りの仮面で隠してしまった。
清方は後悔していた。悲しみに負けて、周に捌け口を求めてしまった事を。夕麿への報われない想いに泣く彼と、互いの傷を舐め合うように肌を重ねてしまった過去を。もし武が現れなかったら。伴侶として夕麿と愛し合わなかったら。周は報われる事も満たされる事もなかっただろう。
いや、その場合…武の伴侶になったのは雫だ。そうしたら、自分もまた報われないままだった。
精神医学を学んだ人間が何を言うと笑う者もいるだろう。だが人と人の出会い結び付きを眺めていると、そこには精神医学では解明出来ない部分がある。出会いや結び付きはまるで、パズルのピースのようにあるべき場所に収まるように見える。そこにその人間が存在する事を誰かが決めたように。気が付くと一枚の絵画のように全てがあるべき場所にある。
偶然で片付けるのは簡単だ。だが偶然と呼ぶには余りにも、武と夕麿を中心とした繋がりは強固で美しい。自分と周を含む全員、中心である武と夕麿自身もが、繋がりの中で成長して救われて行った。
いや今もそれは続いている。武と夕麿が描く人の繋がりという絵画パズルは、まだまだ大きいのであろうと思う。自分もその繋がりの一人である事実に喜びと誇りを感じる。
未来を得る。人間にとっての一番の幸せなのだと清方は切実に感じていた。周がいつも行っている、薫の健康状態をチェックして電子カルテに書き込む。それを病院の周のPCに送信した。
「武さまから美味しい和菓子を預かって参りました」
清方が周の代わりに学院に行くと聞いた武が、誰かに結城和菓子司へ買いに行かせたらしい。それを貴之が清方に届けたのだ。お茶を淹れて菓子折りを開け、小皿に和菓子を乗せる。
それを手渡して清方は改めて訊いた。
「それで周の何をお訊きになられたいのですか?」
にっこりと笑顔で言ってみるとまた薫は赤くなる。
「月耶~」
「はいはい。朔耶兄がさ、周先生の事を調べたらしいんだけど……」
「事実がお知りになられたいのですか?」
外側の情報だけなら、周は下級生を弄んだ酷い男になってしまう。情報では周の苦悩はわかりはしない。
「周先生が後輩とその……」
「事実ではあります。当時の周には辛い事がたくさんありました。非難されても仕方がないでしょう。しかし、そうしなければ当時の周は、生きてはいられなかったのです」
この二人、特に薫には周の本当を知って欲しかった。
「周先生…どうしたの?」
薫が心配そうに言った。
「周にはどうにも出来ない、でもどうかしたい悲しい事がありました。何も出来なくても周が悪かったわけではありません」
周は夕麿と同じように優しい。だが悲しい事に10代ゆえの弱さや脆さがあった。夕麿は心を凍り付かせ、周は救いを求めて彷徨った。悲しい過去だった。
「周先生は何が悲しかったの?」
やや大きめの目を潤ませて、薫は清方に真っ直ぐに言った。
「それは私の口からはお話出来ません。でも薫さま。周はそういった事からは卒業いたしました。ですからどうか、ありのままの彼を見てくださいませ」
「うん」
薫の眼差しは武より純粋だった。しかも薫には武のような、自分自身に対する不安からの怯えがない。どこまでも純粋無垢を素晴らしいとは思う。もしも武と薫の違いを挙げるとしたら、武はIQの高さもあいまって気をまわし過ぎるところがある。逆に薫は無垢は無垢ではあるが無邪気過ぎる。薫は武のような傷付き方はしないかもしれないが、無邪気さゆえに無頓着さもうかがえて正反対な事態を起こしそうにも感じられた。いや……もしかしたら身近な誰かを傷付けてきたかもしれない。
無垢も無邪気も良い意味に考えられているが実際は、物事の是非や善悪に対しても時として発揮される。当然ながら相手が傷付いているのにも気付かない可能性がある。本人には悪意がないだけに傷付く方は辛いのではないか。
清方は薫の言動を観察してそう感じていた。
週に2回、周は薫の体調を検診に訪れていた。朔耶はこれに必ず立ち合っている。彼を信用していない訳ではないが、薫が幼い時から付き従う事が朔耶の役目だった。薫は武とは違って丈夫で半ば話し相手と教育係のような状態になっているのが、立ち会って見ているだけしかない朔耶には少々歯痒い。まるで自分たちが責められているようにも感じた。
「スコーンを焼いて参りましたので、お茶にいたしましょう」
「はぁい」
「薫さま、お返事は短くすっきりと」
「はい、ごめんなさい」
何気ない雑談の折りに夕麿が武の教育係として、庶民育ちを修正したのだという会話を周が行長と交わしていた。朔耶が見た限りでは今でも多少は残っている感じはあるが、むしろ武らしい気さくさとして魅力的な部分だけが残されている。溌剌として彼らの中にいた姿が思い出された。あれは確かに今の薫には欠けているよう思えた。
行長と周は半ば朔耶に聞かせようとしているのではないか……と思ってしまう程に武の昔話に興じる時がある。月耶が言った『苦労知らず』がとんでもなく的外れでであったのを朔耶は実感していた。
18歳。貴族や皇家の成人を迎えても皇国民の成人年齢である20歳を過ぎた今でも、暗殺を企てた学院の元校医 佐久間が投与した薬剤の影響も相まって、武の幼い素振りはなかなか成長してはいない。彼を暗殺する為に利用された夕麿の乳母の絹子が、療養後に再びロサンゼルスに渡って共に武の教育を手伝った結果、何とか現在はそれが解消されつつあった。夕麿たちの苦労は未だに完全に解消された訳ではないのだと二人は語る。
では薫はどうなる?同じように生命を脅かされるのか?けれども学院の特別室に住み続けても、いずれは生命が絶たれるというのであればどこに救いがあるのだろう。守役としての自分は何を考え、どの様に判断すれば良いのかわからない。
第一、薫がここを出て行ったとしても自分は変わらずの道しか残されてはいない。もっともそれももう長くは続けられないだろうが。
「お待たせいたさました」
「いただきます!」
笑顔でスコーンにフォークを使う薫を周はじっと見つめている。彼のこの状態は彼本来の性格もあるだろうが、わざとこういう状態にとめ置かせているのではないかと、必ず後で問われるに違いない。事実であるのだからYESとしか答えようがない。
身分が高い出生の子供をどう育てるか……周の認識では学院の方針は夕麿や清方を見ていればわかる。人の上に立つ者として、模範的な人間に育つように教育される。夕麿はその典型的な姿に成長したし、清方も雫との別れがなければ同じような状態だった。だからこそ今の薫の状態には強い違和感を感じてしまう。
確かに閉じ込められる運命を見越してにしても、この状態は異常だとは朔耶も思って来た。ただ両親の命令には逆らえない立場にある。薫をこんな状態でいさせるようにしたのは誰だと考えてしまう。 恐らく両親も誰かに命じられての事だろう。
「下河辺、僕は一度、貴之に御影家の事を徹底的に調査してくれるように依頼すべきだと思っている。同時に清方さんに分析を依頼した方が安心出来る。特別室の住人を短命にする謀は、再び起こると判断された武さまは正しいと僕も納得してしまうよ」
「そうですね。私ができる事には限界があります。薫さまを幼子のように無垢な存在にして、何もわからないままに生命を断つつもりであるのか、それとも何かに利用する計画があるのか。双子の弟君とはいえ、薫さまは現東宮の御子には違いないのですから」
「いや、絶対にそんな事はさせないてさせてはならない」
周がきっぱりと断言するのが聞こえた。立ち聞きするつもりはなかったのだが、通りかかって聞いてしまったものは仕方がない。
朔耶の心配を他所に薫はまるで子犬のように周に懐いてしまった。だが紫霄学院での周の経歴を調べてみると良くない記録が出て来た。歴代の生徒会に於ける評価、教師の評価、学院生活に於ける態度と傾向など、生徒会に保存されている記録は誰におもねる事もなく、ありのままをシビアに記載されている。生徒会執行部経験があれば自由に閲覧できる。ただし武たちが言った旧特別室の住人に死因に対しては記載はない。彼らが在校したという事実だけが残されていた。
朔耶には思いっ切り嫌味を周にぶつけた。醜聞だらけの彼を牽制したかったのだ。
「言っておくが、お子さまに手を出す趣味はない」
「なる程、あの噂は真実なようですね?」
「噂?」
「次々と下級生に手を出してはいたが、本当は従弟の君にぞっこんだったと」
「なっ…」
「図星ですか?従弟って、夕麿さまですよね?」
眉一つ動かさずに平然と言うと周は、思いっきり不快そうな顔をした。
「既に過去の話だ」
「それはそれは」
「何が言いたい?武さまも夕麿も知っている。今更突いても微塵も痛みはない」
「お見それいたしました」
「遠回しな話は止めろ。紫霞宮家が薫さまに関わるのが、そんなに気にいらないか、御影 朔耶?」
「何故今のままにしていてくださらないんです?」
「お前も彼を死なせたい側か?」
周の口調が変わった。
「言っておくが、お前やお前の弟たちも巻き込まれるぞ?夕麿がどんな目に合ったと思う?その為に武さまはご自分のお生命を捨てるお覚悟をされた程だ。
薫さまに同じ想いをさせたいのか?」
10歳以上年下の少年に腹が立つのだろうか。彼の口ぶりは学院の揺り籠の中にいる者に、自分たちの苦労や武と夕麿の痛みがわかる筈はないと言いたげに聴こえた。
「まさか、薫さまはそんな事態になってもわからないと思ってはいまいな?」
「それは……」
「彼は彼なりにお前たちを大切に思っていらっしゃる。武さまのように自分がいなければ…と生命を投げ出そうとなさる可能性もある。その時にお前には何が出来る?ただ手をこまねいて見てるだけか?それともお前は…暗殺者の側か?」
「…」
貴族は官僚たちと同じく、基本的に事なかれ主義だ。だから武の周囲にそうではない人間が集まったのは、今から思えば奇跡だとも言える。
朔耶の態度が当たり前なのだと周も、わかっているからこそ腹立たしく思うのだろう。武と夕麿が学院を変えようとし賛同する者があらゆる所で努力をしている。下河辺 行長が高等部で教師になり、生徒会顧問でいるのもその一つだ。それをぶち壊しそうな人間には苛立ちしか感じない。
「ずっとこのままで過ごせると思っているのか?」
貴之の報告書を読んで、周は思わずこう吐き捨てた。
「それとも自分は途中からいなくなるから良いのか?」
入学式の日、月耶は武たちに苦労知らずと言った。だが報告書を見る限り、苦労知らずは御影兄弟の方だった。御影家は清華でも中間どころの位置にあるそこそこの家柄だ。裕福な家庭で両親にも取り立てて問題はない。父親の姉が未だに未婚で現東宮御所の後宮に仕えている縁で薫の養育を任されたのだろう。その辺りの経緯は周の母の浅子が護院 清方を預かったのと似ている。
「自覚はあるようだな?僕の事を揶揄する暇があるなら、薫さまをどうお守りするかを兄弟で話し合え。さもないと僕は武さまに君たちは役立たずだと報告するぞ?」
自覚はしていなくてもいずれ薫の生命を狙う時の道具であると、周から見た彼ら三兄弟の役割はそんな所だ。
「はっきり言おう。薫さまのお生命を縮めるのは、既に予定に入っている」
「何を根拠に言われるのですか?」
「お前たちの存在そのものが根拠だ」
「仰る意味がわかりません」
「ある日、お前たちの誰かに毒物を手渡して言えば良い。これを何かに入れて薫さまに…と。その前に重篤な病になられたら、治療はおろか水も食料も与えずに放置する。お前たちは片棒を担がされるぞ?」
武を必死で守ろうとした自分たちの存在で彼らは学んだ筈である。薫に出来るだけ他者と距離を持たせる必要性に。その為の壁が御影兄弟だと彼は続けた。
「もう一つ根拠がある。今上は薫さまの存在をご存知なかった」
「え…?」
「武さまの存在は今上がご存知だった故に、僕たちはまだ守護がし易い部分がある。だが今上は薫さまをご存知なかったのだ。薫さまを最初からこの学院で殺害する予定になっていると言う意味だ」
朔耶の顔から血の気がひいた。本当に知らされていない。
「下河辺が武さまと夕麿に知らせなかったら、高等部在学中にも実行される可能性があった」
武が慌てた理由がわかる。雫が久留島 成美を身辺警護に付け、交代に滝脇 岳大が配置された理由も。そして武と夕麿に常時警護を付けたのも。彼らは紫霞宮家が薫を守り、学院から出す為に動き始めたのを察知している。周と雅久を通じて今上に薫の存在が伝わってしまったのも。薫だけでなく事情を知る立場にいる者の口封じまで今回は行い兼ねない状況。
雫たちのチームはそうプロファイルしたからこそ、周は自分の役目として医学面で薫を守ろうとしているのだと答えた。
「戸次 幸久を叔父君の養子にされたのも……」
「彼の不遇を武さまが心配されたのもある。だがそれ以上に彼を巻き込ませない為だ。御園生の人間を害すれば報復は凄まじいからな。僕はそれがどれ程のものかは実家が被ったのだから熟知している。武さまが高等部にご在学中に僕の両親は夕麿に、異母妹を嫁がせようと企んだ。もちろん許される事ではない。当然ながら武さまの身に危険が及ぶのは必須だった。
御園生家の存続にも大きく影響する事態を招きそうなそれは、当主である有人氏の怒りをかったんだ。取引銀行に手を回され、取引先も次々と手を引いた。それでも海外への輸出で何とか繋いでいたが、$やユーロに対する円高でとうとう立ち行かなくなった。
息の根を止めようとするようにさらに、特殊技術者へのヘッドハンティングがかけられた」
ジワジワと首を絞めるような攻勢に耐えかねた周の父親 周哉が有人に屈したのが2年前。残念ながら周哉は会社に忠誠を尽くす程の信頼を社員から受けてはいなかった。
武が佐田川一族を潰し夕麿の実家六条家を追い詰めた時は、内情が火の車だったとは言え急激に一気に片を付けた。だが有人の残酷非道さには、実家を毛嫌いしている周すら色をなくした。潰すならば完膚無きまでに。有人の企業人としての非情さが浮き彫りになった。
「利用されるならば私でしょうね」
朔耶は誰に言うともなく呟いた。
「周先生、ご存じでいらっしゃるのでしょう?」
「お前が心疾患だと?」
「私は弟たちとは母が違うのです。生まれてすぐに御影に引き取られましたから弟たちは知りません。生まれついての心臓欠陥なんです。20歳まで生きられないと宣言を受けています。
本当はもう……こうしているのもかなり辛い」
この人には真実を言っても良いのではないか、と朔耶は思っていた。利用されるのが怖いのではない。先に自分が死んでしまった場合、二人の弟のどちらかが代わりにならざるを得ない状態が怖いのだ。
「最後に診断を受けたのはいつだ?」
「さあ…?記憶にありません」
捨て駒として本当の状態はどうでも良いのだろうとは思って来た。今の朔耶には薫に寄り添う以外の生き方は許されてはいない。
残酷な事をする……と周は呟いた。
「優秀な外科医がいる。病気治療の為の特別外出許可を取ろう。薫さまの為にきちんと検査を受けろ」
医学の進歩は日進月歩だ。もし朔耶の診断がかなり前に下されたものならば、現在では治療の可能性があるかもしれない。いやそもそも治療不可能な状態だったのだろうか?敢えて薫の生命を縮める為の生贄として、治療の手段をとらなかったのではないのか?周は医師として、それ以上に人間として、強い怒りと痛みを感じていた。
彼は白鳳会に席を置く。当然ながら3年の課程は全て修了させている筈だ。進学は国内に限定すれば手術などの治療を受ける時間が出来る。
『どのような理由があっても誰かを犠牲にしてはならない』
慈園院 司と星合 清治の死を受けて、武が全員に徹底させた事だ。誰かを犠牲にするならば武は自らの生命を投げ出す。だからこそ全員が命懸けで武の意向を貫く。
朔耶も武の言葉の例外にはならない筈だと周は告げた。
「心音を聴かせてもらうよ?」
「はい」
聴診器を当て聴いた心音には、確かに雑音が混じっていた。次いで血圧を測る。
「低いな。処方されている薬を持ってるか?」
「はい」
出された薬で病名の大体の見当を付けたらしい。周は武に電話を掛けた。出来れば今すぐにでも朔耶を学院の外へ連れ出したいと。
朔耶は止まったままの自分の時間が動き始めた音を聴いた気がした。
ゲートに迎えに来ると朔耶に薫が縋り付いていた。
「薫さま、お手をお放しになってください」
「だって……」
「彼は治療を受けて元気になる為に行くのです」
「薫の君……」
周が清方を慕っていたように、いや年齢が近いだけにもっと、薫には大切な身内意識があるのだろう。
「下河辺先生、薫の君をお願いいたします」
「もちろんです。今は自分の病気を治療する事だけを考えていなさい」
「はい」
三日月と月耶も不安げに立っていた。彼らは詳しくは兄の病気を教えられていなかったらしい。
「行って来ます」
そう答えた朔耶が車に乗る。次いで周が乗った。朔耶の身元引受は護院家が御影家から買い取った。周が武に相談した事がきっかけで、清方の父護院 久方が動いてくれたらしい。御影家は紫霞宮家が薫に接触した事で、朔耶を生贄にする事の危険性を悟ったようだ。
「保先生、如何ですか?」
ロサンゼルスから帰国した慈園院 保も周と同じく、御園生系列の総合病院に勤めている。周はその保に朔耶の手術を依頼したのだ。
「通常は中学生の時期にオペをするのですが…タイムリミットぎりぎりというところですね。血圧が下がっている事から判断して、心不全を起こしてもおかしくない状態です。予定通りの日程で執刀しましょう。君は絶対安静だ。」
「お願いいたします」
親が子供を捨て駒にする。その事実に今更ながら周は朔耶が可哀想になった。子供の時には親だけが全てだ。どんなに自分の状況を恨めしく思っても変える事は不可能だ。
保の言葉を受けて朔耶を車椅子で病室へ上がると武が来ていた。 病室には雫と清方、それに清方の母護院 高子がいた。
「周さん、保さんは何て?」
武が真っ先に口を開いた。
「予定通りの手術日程で、執刀してくださるそうです」
その言葉に全員がホッと一息つく。
「朔耶さん、卒業後に家へ来てくださいね」
高子が笑顔で言った。
「高子さま、ありがとうございます」
周が彼女の好意に頭を下げた。朔耶は不思議な気持ちだった。
「あら、お礼はよろしくてよ?子供たちは皆、独立してしまって寂しいんですの。本宅は次男に明け渡したので、マンション住まいになってしまいますけど」
帰国した雫と清方が武の用意したマンションに移る事を知って、護院夫妻は同じマンションに部屋を求めた。夕麿が手を回したので下の階のワンフロアを占有して、夫妻は現在隠居生活を再会した息子の近くで満喫している。
「あの、どうしてそこまでしていただけるのですか?」
朔耶にすれば入学式に初めて出会った先輩で学院の理事の彼ら。周が薫の主治医だと言っても、自分にまで手が差し伸べられる理由がわからない。
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「似たような立場?」
周の言葉に清方が苦笑した。
「周と私の関係は、あなたと薫さまの関係と同じなのです」
「ああ…乳兄弟ですね…」
「ええ。私も薫さまのように生まれてすぐに、久我家に預けられましたから」
「じゃあ、周さん。 後をよろしくな?」
明るく言う武に周は頭を下げて答えた。
「お任せください」
周を朔耶の側に残して全員が病室を出て、揃って特別病棟用の面会室へ入った。
「う~ん…」
「如何あそばされました、武さま?」
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「周さんが熱心に治療の事を言って来るから、てっきり…って思ったんだけど…」
「私もそう思ったのですが…あれは過去の後悔から来ていますね」
「過去の後悔? 何だ、それは?」
清方の言葉に雫が問い返した。
「周は私や夕麿さまが苦しんでいる時に、何も出来なかった自分を今でも恥じています。ですが、小学生や中学生に何が出来ます?無力なのが普通でしょう?」
「そうだな。高校生だった俺もあの頃は何も出来なかった」
「雫…それは言わない約束でしょう?私も彼が新たな恋をしてくれる事を望んではいます」
そう言って清方は武に向き合った。
「武さま、夕麿さまを周から奪ったと思ったままでいらっしゃいますね、まだ?」
「…事実だろ?」
「夕麿さまが周に恋愛感情を持っていたならば、そう言う事が出来ます。しかし…夕麿さまにはそんなお気持ちはおありにはならなかった。だからそれは奪ったとは言えませんよ?」
周はロサンゼルスで夕麿への長年の恋心を吹っ切った。だがそれからずっと今まで想う相手に巡り会えてはいない。武が周を薫の主治医にしたのも、紫霄の環境ならば出逢いがあるのではないか…と思ったからだ。自分の想いを横に置いて、忠義を尽くしてくれた周。それにどれだけ救われたか。
だからこそ、周に幸せになって欲しい。自分たちの為に何もかも捨ててしまった周には。
「武さま。周には周の時があります。待ちましょう、周の運命の時を」
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「ええ。私と雫、あなたさまと夕麿さま…皆さんが、それぞれの運命の時を迎えた。出逢いとはそのようなものだと、私は思っております」
「そうか…早く、来れば良いな」
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「だったら良いな」
全ての人間が幸せになる。それは不可能な事かもしれない。けれど身近な人間に不幸になって欲しくないとは思う。
「成瀬室長。念の為にここと、周さん…それに護院ご夫妻の警護をお願いします」
「はっ」
薫を武のように学院から解放する。快く思わないものはたくさんいるだろう。どんな事をしても彼を学院から助け出して、ちゃんと人生を歩ませてやりたい。武の願いを叶えるべく、数多くの紫霄のOBとその家族が動き始めていた。
朔耶は少し気落ちしていた。周が自分の治療の手配をしてくれた、本当の理由を知ってしまったから。かつて大切な人々を守れなかった贖いなのだと。
「御影…」
「弟たちと混じりますから、名前で呼んでいただけませんか?」
せめて名前で呼ばれたい。
「そうだな。朔耶、明日は手術の為の予備検査を行う。機材のほとんどはここへ運ばせる」
「はい」
「学院との日程が短いので手術は明後日。執刀してくださる慈園院 保先生は名医だ」
「慈園院…温室の薔薇の碑の…?」
温室にある慈園院 司と星合 清治の慰霊碑は、夕麿の代以降、武、御厨 敦紀、相良 通宗、水無瀬 翼、六条 透麿と歴代の高等部生徒会長が、武と夕麿の意志を継いで守り続けて来ていた。
朔耶も前年度の生徒会長。当然ながら慰霊碑を守る一人だった。慰霊碑は今では『薔薇の碑』と呼ばれ、叶わぬ恋の守り神のように生徒たちから思われていた。
「そう、彼の2歳上の兄だ。もっとも保先生は紫霄には在校してはいなかったが」
「周先生は、慰霊碑の方々をご存知なのですか?」
「あそこで供養されているのは、第80代高等部生徒会長と副会長だった二人だ。僕は一年先輩になる。二人は武さまと夕麿の結婚を見届けて、慈園院家の別荘で服毒して心中した」
「そうですか…ご存知なのですね」
「僕たちの繋がりは司と清治が残してくれたようなものだ」
紫霄の風景はほとんど変わっていない。木々がホンの少し成長しただけだ。自分たちがいたあの頃が昨日の事のように蘇って来る。
どこか遠くを見つめて優しい眼差しになった周を朔耶は黙って見上げた。スキャンダラスな伝説が残る彼の本当の姿はどうなのだろう、と。
「朔耶、僕は明後日の手術に立ち合う予定でいるから」
「はい、ありがとうございます」
万が一、武や夕麿が体調を崩した場合はそちらを優先しなければならないのだろう。あくまでも周は紫霞宮家の主治医なのだ。
「今日はもう休め。出来るだけ体力を温存して、手術に備えておくんだ」
心臓の手術は通常、10時間以上の時間を要する。その間を全身麻酔にかかったままであるのは、かなりの体力を消耗するのだ。朔耶は一番体力のある年代ではあるが、長期に渡る状態に体力はかなり低下している。責任ある立場として無理をし続けて来た事もあった。
本日の保の診察で手術に耐えられるだけの体力は、十分あると判断が出されて周は胸をなで下ろした。心配する薫を絶対に朔耶は元気になる。そう言って落ち着かせて来たのだ。 嘘にする訳にはいかない。ましてや、護院夫妻が彼を引き取り養子にすると言っている。
彼はこの先どのような人生も自分で選んで生きて行ける。武が望んだ事がまた実現された。手助けが出来るのを周は誰よりも誇らしく思っていた。
「朔耶…大丈夫かな?」
朔耶が不在の間、代わりに月耶が薫の側にいた。長期の休みでない今は彼も学院からは出られない。兄の無事を祈るしかなかった。
「…周先生は大丈夫だって言ってたんだ」
薫の言葉に返事をしたのか、自分に言い聞かせたのかわからない。
その時、特別室のセキュリティーホーンが鳴った。月耶が立ち上がって出た。
「え?周先生の代理?わかりました、どうぞ」
周の代わりに出向いて来たのは清方だった。彼は精神科医だが内科医も兼ねている。
朔耶の不在、手術に不安を抱いている可能性がある。カウンセリングを含めた往診を周は清方に依頼したのである。
「こんにちは、薫さま、月耶君。お目もじするのは二度目でございますね。護院 清方です」
「護院先生?あ、入学式の日にいらっしゃった?」
月耶の言葉に清方が頷いた。
「私も清方と、名前の方で呼んでください」
清方の柔らかな物腰は、対峙する人間を安心させてしまうところがある。
「清方先生ってさ、周先生のお友だちか何か?」
月耶のタメ口に苦笑しながら答えた。
「周にとっての私は、あなたにとっての薫さまですね。私の乳母が周の母親なんです」
先日、同じ説明を朔耶にしたばかりだ。
「だってさ、薫の君。周先生の話でもして貰えば?」
「薫さまは周がお好きですか?」
他意があって質問した訳ではない。薫にとって好き嫌いは恋愛感情とは違う可能性が高かった。だが清方の言葉を受けた薫は真っ赤に頬を染めた。清方はそれを見つめて微笑んだ。
朔耶と薫。
どちらが周の心を揺り動かせるだろうか。どちらも動かせないかもしれない。
周は確かに夕麿への想いを吹っ切った。だがそれから何年が過ぎた?そろそろ次のステージを用意してくれても良いだろうと、八百万神の尻を叩いて催促したくなる。
周は天邪鬼な表向きで自分の弱さを覆い隠して来た。
両親の不仲。
義母に虐待を受ける夕麿を見つめるしか出来ない。
幼い頃の傷ゆえに不安さを偽りの仮面で隠してしまった。
清方は後悔していた。悲しみに負けて、周に捌け口を求めてしまった事を。夕麿への報われない想いに泣く彼と、互いの傷を舐め合うように肌を重ねてしまった過去を。もし武が現れなかったら。伴侶として夕麿と愛し合わなかったら。周は報われる事も満たされる事もなかっただろう。
いや、その場合…武の伴侶になったのは雫だ。そうしたら、自分もまた報われないままだった。
精神医学を学んだ人間が何を言うと笑う者もいるだろう。だが人と人の出会い結び付きを眺めていると、そこには精神医学では解明出来ない部分がある。出会いや結び付きはまるで、パズルのピースのようにあるべき場所に収まるように見える。そこにその人間が存在する事を誰かが決めたように。気が付くと一枚の絵画のように全てがあるべき場所にある。
偶然で片付けるのは簡単だ。だが偶然と呼ぶには余りにも、武と夕麿を中心とした繋がりは強固で美しい。自分と周を含む全員、中心である武と夕麿自身もが、繋がりの中で成長して救われて行った。
いや今もそれは続いている。武と夕麿が描く人の繋がりという絵画パズルは、まだまだ大きいのであろうと思う。自分もその繋がりの一人である事実に喜びと誇りを感じる。
未来を得る。人間にとっての一番の幸せなのだと清方は切実に感じていた。周がいつも行っている、薫の健康状態をチェックして電子カルテに書き込む。それを病院の周のPCに送信した。
「武さまから美味しい和菓子を預かって参りました」
清方が周の代わりに学院に行くと聞いた武が、誰かに結城和菓子司へ買いに行かせたらしい。それを貴之が清方に届けたのだ。お茶を淹れて菓子折りを開け、小皿に和菓子を乗せる。
それを手渡して清方は改めて訊いた。
「それで周の何をお訊きになられたいのですか?」
にっこりと笑顔で言ってみるとまた薫は赤くなる。
「月耶~」
「はいはい。朔耶兄がさ、周先生の事を調べたらしいんだけど……」
「事実がお知りになられたいのですか?」
外側の情報だけなら、周は下級生を弄んだ酷い男になってしまう。情報では周の苦悩はわかりはしない。
「周先生が後輩とその……」
「事実ではあります。当時の周には辛い事がたくさんありました。非難されても仕方がないでしょう。しかし、そうしなければ当時の周は、生きてはいられなかったのです」
この二人、特に薫には周の本当を知って欲しかった。
「周先生…どうしたの?」
薫が心配そうに言った。
「周にはどうにも出来ない、でもどうかしたい悲しい事がありました。何も出来なくても周が悪かったわけではありません」
周は夕麿と同じように優しい。だが悲しい事に10代ゆえの弱さや脆さがあった。夕麿は心を凍り付かせ、周は救いを求めて彷徨った。悲しい過去だった。
「周先生は何が悲しかったの?」
やや大きめの目を潤ませて、薫は清方に真っ直ぐに言った。
「それは私の口からはお話出来ません。でも薫さま。周はそういった事からは卒業いたしました。ですからどうか、ありのままの彼を見てくださいませ」
「うん」
薫の眼差しは武より純粋だった。しかも薫には武のような、自分自身に対する不安からの怯えがない。どこまでも純粋無垢を素晴らしいとは思う。もしも武と薫の違いを挙げるとしたら、武はIQの高さもあいまって気をまわし過ぎるところがある。逆に薫は無垢は無垢ではあるが無邪気過ぎる。薫は武のような傷付き方はしないかもしれないが、無邪気さゆえに無頓着さもうかがえて正反対な事態を起こしそうにも感じられた。いや……もしかしたら身近な誰かを傷付けてきたかもしれない。
無垢も無邪気も良い意味に考えられているが実際は、物事の是非や善悪に対しても時として発揮される。当然ながら相手が傷付いているのにも気付かない可能性がある。本人には悪意がないだけに傷付く方は辛いのではないか。
清方は薫の言動を観察してそう感じていた。
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