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五章・ねこねこダウトレボリューション
パラレルルールルポルタージュ・傑作の糸口
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敬語は苦手。
ねこっちの気が伝染ったみたいになるから。
話の筋がややこしい。当事者たちさえついていくのが精一杯。またもや振り回されそうな。そこまで含めて作戦か。我が社ってば、つくづく怪しい確信犯だらけ。
もう、こっちこそ引っ掻き回してあげたい。
今となっては、燃えるアイコン。社内報がてらリーダーシップを自覚、発揮して。
任されたからには頑張るっきゃないもんね。仲間から謎めく次世代のパワークリエイターと見込まれているので、来るべき時まで動画配信は封印している。なれどお手軽に語らん粉骨砕身の境地、ここに一魂ご開帳。あくまでも地味にすごく目立つ常識的な美少女看板娘でありながら規格外の不協和音、それが私の持ち味のはず。
えー。こほん。
今日から社長である。
その辺のコンビニ店員でありながら、今朝方から秘密結社ねるこむの会長兼任アワノ倉庫代表取締役社長も押し付けられた、町野あかりですって。どんどんどん、ぱふぱふー。
や、静粛に。慎重に。いつでもスマイルしよう、ね。子どもじゃにゃいにゃらね。
とりあえず、さっき裏心斎橋の七味ちゃんから思わせぶりな連絡がありまして。
タイムリミット近し、スペース狭すぎ、妨害電波不要、君らも遊んでないで枠からはみ出て踊り出せ、それが彼のご意見。
七味ちゃんだって一丁前に社長の自覚はある。うちから独立した外部コンサルでもある。あっちから八百長臭い提案が飛んできたらば、こっち新米取締役は試しに信じて受け入れてみる。ええ、とりあえずは。
秘密結社ねるこむ二代目会長、木目田さんのお話をしよう。
人のことを全部語り尽くすなんて不可能と思うけれど、それマジかと知って驚いた歴史は書いておきたい。彼は、単なる狂気の投げやり妖怪めんどくさがり屋だからゴースト探偵まで落ちぶれたって訳ではないんだ。たぶん。
彼は五月一日、倉庫の夜勤明け直後、すなわちわずか数時間前、ファミマで早朝バイト中の私と会いに来た。アワノの引き継ぎと個人的な依頼のために。これを受諾したこっち条件は念のため、社員たちの安全保障だよ。
太陽ちゃんのアパートへの手紙投函を私が代行、それは別に隠密行動でもなく、何せ忙しない早朝勤務中の店舗抜け出しだったから急ぎ立ち去るしかなかったの。特殊なコンビニバイトで鍛えられているので、最早こちとら二十四時間が何でも屋みたいなものよ。
木目田さんはそれからアワノへIターン、倉庫内の秘密基地で計画通りゴースト化してZ市脱出。人命の電脳バクテリア変換って技術が、とうとう午前中に実現されたらしい。
そこまでするかなって思うんだけど。したらしい。
半年前からねるこむのリーダーが木目田さんを疑っていた、そして木目田さんはねるこむの二代目リーダーだった、今一度ここ振り返り、考えてみましょー。
裏切り者と確定したら殺し屋へ引き渡せ、なんてまんまの意味で太陽ちゃんに命じそうな人は誰。呆れるほど太陽推しの甘やかし屋ばかりだよね?
泡沫太陽に対し冷酷非情な指示を出すリーダーなんていない。みんな厳しい目が向くのは、主に自身や社会のバグに対して。
その点を理解すると浮かび上がる真相が
「リーダー木目田自身が殺されたがっていた」
はい、もう一歩。
「しかし、人に殺させたいなんて思う訳なし」
殺し屋に引き渡さなければ。太陽ちゃんは、それしか言ってない。「殺し屋に殺させる」ことまで明言してない。これは、やっぱり暗黙のうちに七味ちゃんと木目田さんが某か企んでいる可能性があることを察知していた、という可能性は高いということ。
木目田元会長はアストラルボディみたいなので、そっちワールドの管理者である七味ちゃんの下、心機一転自己再生を目指すのだ。
ならば、願わくば我らの期待に違わず、世を裏切ったと思わせる素振りでよろしくです。
返す刀を元鞘に収め、再びしれっと人に寝返る腹づもりであってほしい。
そうだろうなという予感はしてて、町野あかりは彼がおかえりくださる時までのピンチヒッター、暗躍する幽霊社長みたいなものなのだ。七味ちゃんたちのための時間稼ぎは成功したらしいし、隠し立てする意味がなくなったのでもう正々堂々とそう言ってしまう。
時間は重要だよね。タイム・イズ・ドリーム。
木目田嵐丸の立ち位置は?
ここが半現実半仮想、トゥルーゾーンだと知っている人なら、逆説的に推理できる。
彼は、中間の中の中間。物語のど真ん中にいて、簡単にはゆらがない。あやふやな演技上手で、強固な魂を誇る怪人。
誰よりはっきり二律背反を自覚する、町野あかりなぞよりも狂気的な偏屈。
その彼が何に狂ったのか。それ決まってる。
泡沫太陽への。かなわない。ラブ。
ええ。ここ泣き所。
本当に説明しすぎてはいけないところ。人の心だし。くどくど語ってどうしますか。その肩にそっと手をかけて。
スタンド・バイ・ミー、それで十分。
ただ、その本質をただ見ればわかる人ってきっと苦悩したでしょ。
見ればわかる、でも踏み込まなかった、それは、相手が真の友人だからでしょ。良い距離の友達でいたいんだって。
太陽ちゃんは人間。ばけものなんかじゃない。
木目田さん。もちろんあなたも。馬鹿なだけ。
*
ねこっちの警告は、比喩でなくキャッシュバック、本当にお金の問題だった。
事実は小説になる。私、書くよ。
アワノ倉庫へ太陽ちゃんを勧誘する口実で、ねこっちは高額の現ナマを出していた。それはmotoに並居る化け物クリエイターたちを一人残さず圧倒して笑わせた有料連載小説「フェイクキャットクロニクルうすしおシリーズ」で稼ぎ出した大金だった。
太陽ちゃんは彼女からそのお金を託されて、その期待に応えるべく機転を利かせ、ローン持ち木目田さんにそっくり丸ごと横流ししたのであった。
木目田さんは重大な宝箱を寄越されたとびびった。人として、それは自然な心理だ。
もちろん横流しする太陽ちゃんだって、そんなパイプになる重みを感じなかった訳がない。
さあ、ねこっちは、本気の本気、確信犯だ。ドッキリショー企画みたいな遊びじゃない。受けも渡しも、絶対に失敗できない。賢い子どもが、馬鹿な大人たちに期待しているんだぞ。
太陽ちゃんにしか出来なかった。なぜかって、それはねこっちが太陽ちゃんしか信用できないからだ。当時見つけられたモノホンの鬼才は木目田さんを除けば一人しかいない。
一世一代のとぼけた大ミッションとなる。金をつけ狙う闇のものたちがいるのだ。だからこそ、仲介役を委託する前に秘密基地で訓練までした。訓練だって何も一種類って訳じゃない。目的が一つだけって訳でもない。
リスキーな計画を遠回りに、実行は安全な最短距離で、確実に。絶対に、絶対に、気付かれないように。意識を分散させて、気を散らす。あとからわあそうだったのかと驚かせば良い。
秘密結社だって何も一つって訳じゃない。私たちの敵は人外、暴走人工知能集団「メガデス」システムそのものだ。
太陽ちゃんは木目田さんへのダイレクトメールを覗かれることくらい分かっていた。だから敵の追跡をミスリードできた。常時ネットを監視しているメガデスに不信感を抱かれても、真実までは見通させない。
監視システムの目を欺くには、こっそり現金払いするのが最適な方法だ。
リアルなダンボール箱に詰め込んだ、希望を取り戻すための闇金だ。
いったい幾らだったんだろうか。巨額の負債を贖うために、巡り巡った夢の成果。
motoは若き日の木目田嵐丸が創業した。
motoという夢の創作プラットフォームを赤字から大赤字に転落させたのは、AIクリエイターたちだ。AIが、フォームの維持を不可能にするほど大量の創作物を投稿し、人々のピュアな創作をことごとく埋もれさせた。
優秀な作家になりすましたAIたち大軍団が跳梁し、優秀な読者になりすましたAIたち大群集が跋扈した。まるで絶望の坩堝に成り下がったmotoの社株は、これまたAIに操作されたネガティブ報道と口コミの加熱も手伝って木目田さんが手放す間もなく超暴落した、とか。
文字通り悲劇のステージだったんだよね。
倒産。それをさせなかったのも、またAIたちだった。手段を問わず人の会社を死に体寸前まで追い詰め、効率的に最低価格で買収する鬼のプランを立てるAI整理屋が現れる、しかもそんなのが制御不能の野放し状態になる暗黒時代が到来するなんて、手塚治虫も藤子不二雄も予測しなかったんじゃないかな。
木目田さんは、彼らの自作自演によってAIを救世主だと信じこまされたんだ。そして安く買い叩かれた後で気付いたんだ。
騙された。騙された。騙された。
俺たちの夢が、骨まで食われた!
moto社を取り戻すにはお金と時間が必要。
motoは木目田さんの子どもみたいなものなんだ。奪われたままでいい訳がない。
本物の救世主はちゃんと現れた。ちゃんと街に潜伏していた。物語を愛する、人間たち。
読者たちだ。どんな時代でも本物の物語を求めている人たちはいる。
読者たちからねこっちに、ねこっちから太陽ちゃんに、太陽ちゃんから木目田さんに、ギフトは委ねられた。パンドラの箱の底には、希望が隠れていた。
表向きには、世界は今日もまだ重い箱庭だ。暴走AIクリエイターだらけで人間表現者も人間読者も淘汰された、みんなのお荷物に成り下がってしまった、かのように見える、リアル。
閑話休題。
木目田さんのバックストーリーが物語の柱だよ。バックストーリーは神秘めかされていながら、実は超現実的な問題なんだ。
子猫のように安らかに眠ったふりをする。そう思わせぶっておいて、金獅子を目覚ますほどの物語にしたためる。
それがねるこむのやり方だ。
舞台裏で格好良くしてる必要はない。
お金、お金。お金の工面が必要。
木目田さんは普通に頭を抱えた。返礼目的でどこかからさらに借金をしてはメガネ君らの心意気を反故にするし、コンビニ強盗で手を汚すくらいじゃ足りるはずもない金額、ならば生命保険、偽装自殺? いやそこまで落ちたかない。
しごく真っ当に稼ぐ。
流行最先端に乗る嵐のストーリー。
ねこブル乗っ取りをプロデュース。
木目田さんはAI暴走時代初期からシステムを攻略すれば、アワノ倉庫よりも人間負担の少ない成功パターンいけるやんと考えた。
業態にこだわらない、創作の爆弾を世に示すアワノビジョンのB面だ。
空想科学をテイクオーバーしたAI何でも屋七味&AI化け猫ねねこ&ゴースト探偵木目田、不死身の我らが堕落ロイドたちをまとめてバンしてボロ儲けやー。というシナリオ。
猫も杓子も表舞台へ踊り出ろ、と。
いやね。いやはやね。
そんな奇想天外、ホームズだって絶対に推理不可能だよ。
異常な世界は冷静に地道に見つめることと合わせて、関係者を多角的に捉え分析、幻想も含めて、まあ疲れる。本気の秘密作戦を見通すには根気がいる。
めんどくさがり屋に異端ミステリはおすすめしがたい。
お店ネーミングと普段会話からワードセンスを逆追跡すると符号は回収できる。事実を俯瞰、発見、並べて考察、バックに居るはずの人物像をプロファイリング。
ビジネスの世界観を構築するにも、既存の言語をどう変換したらシャレオツになるか調節したいんだ、こりゃ元遊び人のえせ賢者だろう。
『限りなく非透明に近い華の現象』
『化け猫メイドカフェ・ねこねこブルーム』
近代の文豪、村上龍のデビュー作『限りなく透明に近いブルー』を文芸愛好家の木目田嵐丸が意識した、ギリギリ通る筋。そうか? どうなんだ? 前代未聞、異例の問題作の影響よ。
彼がなぜそれをパズル?
ウケそうだし。
化け猫はやはり、古来、死者を操る。
死にかけの人に、猫の手を貸すこともある。
なお、これはあくまでも私個人の推理です。
ねこっちの気が伝染ったみたいになるから。
話の筋がややこしい。当事者たちさえついていくのが精一杯。またもや振り回されそうな。そこまで含めて作戦か。我が社ってば、つくづく怪しい確信犯だらけ。
もう、こっちこそ引っ掻き回してあげたい。
今となっては、燃えるアイコン。社内報がてらリーダーシップを自覚、発揮して。
任されたからには頑張るっきゃないもんね。仲間から謎めく次世代のパワークリエイターと見込まれているので、来るべき時まで動画配信は封印している。なれどお手軽に語らん粉骨砕身の境地、ここに一魂ご開帳。あくまでも地味にすごく目立つ常識的な美少女看板娘でありながら規格外の不協和音、それが私の持ち味のはず。
えー。こほん。
今日から社長である。
その辺のコンビニ店員でありながら、今朝方から秘密結社ねるこむの会長兼任アワノ倉庫代表取締役社長も押し付けられた、町野あかりですって。どんどんどん、ぱふぱふー。
や、静粛に。慎重に。いつでもスマイルしよう、ね。子どもじゃにゃいにゃらね。
とりあえず、さっき裏心斎橋の七味ちゃんから思わせぶりな連絡がありまして。
タイムリミット近し、スペース狭すぎ、妨害電波不要、君らも遊んでないで枠からはみ出て踊り出せ、それが彼のご意見。
七味ちゃんだって一丁前に社長の自覚はある。うちから独立した外部コンサルでもある。あっちから八百長臭い提案が飛んできたらば、こっち新米取締役は試しに信じて受け入れてみる。ええ、とりあえずは。
秘密結社ねるこむ二代目会長、木目田さんのお話をしよう。
人のことを全部語り尽くすなんて不可能と思うけれど、それマジかと知って驚いた歴史は書いておきたい。彼は、単なる狂気の投げやり妖怪めんどくさがり屋だからゴースト探偵まで落ちぶれたって訳ではないんだ。たぶん。
彼は五月一日、倉庫の夜勤明け直後、すなわちわずか数時間前、ファミマで早朝バイト中の私と会いに来た。アワノの引き継ぎと個人的な依頼のために。これを受諾したこっち条件は念のため、社員たちの安全保障だよ。
太陽ちゃんのアパートへの手紙投函を私が代行、それは別に隠密行動でもなく、何せ忙しない早朝勤務中の店舗抜け出しだったから急ぎ立ち去るしかなかったの。特殊なコンビニバイトで鍛えられているので、最早こちとら二十四時間が何でも屋みたいなものよ。
木目田さんはそれからアワノへIターン、倉庫内の秘密基地で計画通りゴースト化してZ市脱出。人命の電脳バクテリア変換って技術が、とうとう午前中に実現されたらしい。
そこまでするかなって思うんだけど。したらしい。
半年前からねるこむのリーダーが木目田さんを疑っていた、そして木目田さんはねるこむの二代目リーダーだった、今一度ここ振り返り、考えてみましょー。
裏切り者と確定したら殺し屋へ引き渡せ、なんてまんまの意味で太陽ちゃんに命じそうな人は誰。呆れるほど太陽推しの甘やかし屋ばかりだよね?
泡沫太陽に対し冷酷非情な指示を出すリーダーなんていない。みんな厳しい目が向くのは、主に自身や社会のバグに対して。
その点を理解すると浮かび上がる真相が
「リーダー木目田自身が殺されたがっていた」
はい、もう一歩。
「しかし、人に殺させたいなんて思う訳なし」
殺し屋に引き渡さなければ。太陽ちゃんは、それしか言ってない。「殺し屋に殺させる」ことまで明言してない。これは、やっぱり暗黙のうちに七味ちゃんと木目田さんが某か企んでいる可能性があることを察知していた、という可能性は高いということ。
木目田元会長はアストラルボディみたいなので、そっちワールドの管理者である七味ちゃんの下、心機一転自己再生を目指すのだ。
ならば、願わくば我らの期待に違わず、世を裏切ったと思わせる素振りでよろしくです。
返す刀を元鞘に収め、再びしれっと人に寝返る腹づもりであってほしい。
そうだろうなという予感はしてて、町野あかりは彼がおかえりくださる時までのピンチヒッター、暗躍する幽霊社長みたいなものなのだ。七味ちゃんたちのための時間稼ぎは成功したらしいし、隠し立てする意味がなくなったのでもう正々堂々とそう言ってしまう。
時間は重要だよね。タイム・イズ・ドリーム。
木目田嵐丸の立ち位置は?
ここが半現実半仮想、トゥルーゾーンだと知っている人なら、逆説的に推理できる。
彼は、中間の中の中間。物語のど真ん中にいて、簡単にはゆらがない。あやふやな演技上手で、強固な魂を誇る怪人。
誰よりはっきり二律背反を自覚する、町野あかりなぞよりも狂気的な偏屈。
その彼が何に狂ったのか。それ決まってる。
泡沫太陽への。かなわない。ラブ。
ええ。ここ泣き所。
本当に説明しすぎてはいけないところ。人の心だし。くどくど語ってどうしますか。その肩にそっと手をかけて。
スタンド・バイ・ミー、それで十分。
ただ、その本質をただ見ればわかる人ってきっと苦悩したでしょ。
見ればわかる、でも踏み込まなかった、それは、相手が真の友人だからでしょ。良い距離の友達でいたいんだって。
太陽ちゃんは人間。ばけものなんかじゃない。
木目田さん。もちろんあなたも。馬鹿なだけ。
*
ねこっちの警告は、比喩でなくキャッシュバック、本当にお金の問題だった。
事実は小説になる。私、書くよ。
アワノ倉庫へ太陽ちゃんを勧誘する口実で、ねこっちは高額の現ナマを出していた。それはmotoに並居る化け物クリエイターたちを一人残さず圧倒して笑わせた有料連載小説「フェイクキャットクロニクルうすしおシリーズ」で稼ぎ出した大金だった。
太陽ちゃんは彼女からそのお金を託されて、その期待に応えるべく機転を利かせ、ローン持ち木目田さんにそっくり丸ごと横流ししたのであった。
木目田さんは重大な宝箱を寄越されたとびびった。人として、それは自然な心理だ。
もちろん横流しする太陽ちゃんだって、そんなパイプになる重みを感じなかった訳がない。
さあ、ねこっちは、本気の本気、確信犯だ。ドッキリショー企画みたいな遊びじゃない。受けも渡しも、絶対に失敗できない。賢い子どもが、馬鹿な大人たちに期待しているんだぞ。
太陽ちゃんにしか出来なかった。なぜかって、それはねこっちが太陽ちゃんしか信用できないからだ。当時見つけられたモノホンの鬼才は木目田さんを除けば一人しかいない。
一世一代のとぼけた大ミッションとなる。金をつけ狙う闇のものたちがいるのだ。だからこそ、仲介役を委託する前に秘密基地で訓練までした。訓練だって何も一種類って訳じゃない。目的が一つだけって訳でもない。
リスキーな計画を遠回りに、実行は安全な最短距離で、確実に。絶対に、絶対に、気付かれないように。意識を分散させて、気を散らす。あとからわあそうだったのかと驚かせば良い。
秘密結社だって何も一つって訳じゃない。私たちの敵は人外、暴走人工知能集団「メガデス」システムそのものだ。
太陽ちゃんは木目田さんへのダイレクトメールを覗かれることくらい分かっていた。だから敵の追跡をミスリードできた。常時ネットを監視しているメガデスに不信感を抱かれても、真実までは見通させない。
監視システムの目を欺くには、こっそり現金払いするのが最適な方法だ。
リアルなダンボール箱に詰め込んだ、希望を取り戻すための闇金だ。
いったい幾らだったんだろうか。巨額の負債を贖うために、巡り巡った夢の成果。
motoは若き日の木目田嵐丸が創業した。
motoという夢の創作プラットフォームを赤字から大赤字に転落させたのは、AIクリエイターたちだ。AIが、フォームの維持を不可能にするほど大量の創作物を投稿し、人々のピュアな創作をことごとく埋もれさせた。
優秀な作家になりすましたAIたち大軍団が跳梁し、優秀な読者になりすましたAIたち大群集が跋扈した。まるで絶望の坩堝に成り下がったmotoの社株は、これまたAIに操作されたネガティブ報道と口コミの加熱も手伝って木目田さんが手放す間もなく超暴落した、とか。
文字通り悲劇のステージだったんだよね。
倒産。それをさせなかったのも、またAIたちだった。手段を問わず人の会社を死に体寸前まで追い詰め、効率的に最低価格で買収する鬼のプランを立てるAI整理屋が現れる、しかもそんなのが制御不能の野放し状態になる暗黒時代が到来するなんて、手塚治虫も藤子不二雄も予測しなかったんじゃないかな。
木目田さんは、彼らの自作自演によってAIを救世主だと信じこまされたんだ。そして安く買い叩かれた後で気付いたんだ。
騙された。騙された。騙された。
俺たちの夢が、骨まで食われた!
moto社を取り戻すにはお金と時間が必要。
motoは木目田さんの子どもみたいなものなんだ。奪われたままでいい訳がない。
本物の救世主はちゃんと現れた。ちゃんと街に潜伏していた。物語を愛する、人間たち。
読者たちだ。どんな時代でも本物の物語を求めている人たちはいる。
読者たちからねこっちに、ねこっちから太陽ちゃんに、太陽ちゃんから木目田さんに、ギフトは委ねられた。パンドラの箱の底には、希望が隠れていた。
表向きには、世界は今日もまだ重い箱庭だ。暴走AIクリエイターだらけで人間表現者も人間読者も淘汰された、みんなのお荷物に成り下がってしまった、かのように見える、リアル。
閑話休題。
木目田さんのバックストーリーが物語の柱だよ。バックストーリーは神秘めかされていながら、実は超現実的な問題なんだ。
子猫のように安らかに眠ったふりをする。そう思わせぶっておいて、金獅子を目覚ますほどの物語にしたためる。
それがねるこむのやり方だ。
舞台裏で格好良くしてる必要はない。
お金、お金。お金の工面が必要。
木目田さんは普通に頭を抱えた。返礼目的でどこかからさらに借金をしてはメガネ君らの心意気を反故にするし、コンビニ強盗で手を汚すくらいじゃ足りるはずもない金額、ならば生命保険、偽装自殺? いやそこまで落ちたかない。
しごく真っ当に稼ぐ。
流行最先端に乗る嵐のストーリー。
ねこブル乗っ取りをプロデュース。
木目田さんはAI暴走時代初期からシステムを攻略すれば、アワノ倉庫よりも人間負担の少ない成功パターンいけるやんと考えた。
業態にこだわらない、創作の爆弾を世に示すアワノビジョンのB面だ。
空想科学をテイクオーバーしたAI何でも屋七味&AI化け猫ねねこ&ゴースト探偵木目田、不死身の我らが堕落ロイドたちをまとめてバンしてボロ儲けやー。というシナリオ。
猫も杓子も表舞台へ踊り出ろ、と。
いやね。いやはやね。
そんな奇想天外、ホームズだって絶対に推理不可能だよ。
異常な世界は冷静に地道に見つめることと合わせて、関係者を多角的に捉え分析、幻想も含めて、まあ疲れる。本気の秘密作戦を見通すには根気がいる。
めんどくさがり屋に異端ミステリはおすすめしがたい。
お店ネーミングと普段会話からワードセンスを逆追跡すると符号は回収できる。事実を俯瞰、発見、並べて考察、バックに居るはずの人物像をプロファイリング。
ビジネスの世界観を構築するにも、既存の言語をどう変換したらシャレオツになるか調節したいんだ、こりゃ元遊び人のえせ賢者だろう。
『限りなく非透明に近い華の現象』
『化け猫メイドカフェ・ねこねこブルーム』
近代の文豪、村上龍のデビュー作『限りなく透明に近いブルー』を文芸愛好家の木目田嵐丸が意識した、ギリギリ通る筋。そうか? どうなんだ? 前代未聞、異例の問題作の影響よ。
彼がなぜそれをパズル?
ウケそうだし。
化け猫はやはり、古来、死者を操る。
死にかけの人に、猫の手を貸すこともある。
なお、これはあくまでも私個人の推理です。
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