貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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ローズマリア編6.第二騎士団の始まり

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 第二騎士団の、何十年も続く横暴な振る舞いが手に負えなくなってきていた。

 第二騎士団団長ジミールの不遜な態度は、誰もが顔をしかめたが、咎める者はいなかった。

 聖人ローズマリアが寝込んでからは、さらにその横暴さが加速していった。


 過去にジミールに対し、正義感の強い真面目な貴族官僚が、その行いを改めるように進言した事があった。

 横暴な振る舞いはやめろ、それでも騎士なのかと。
 ジミールは、その場でその貴族を斬り捨てようと思ったが、それはなんとか耐えた。

 ある日、その貴族の領地の裏山から魔物が出た。
 しかし、討伐してくれるはずの騎士団はいくら待っても現れず、領民の半数近くが魔物の犠牲になった。

 第二騎士団が出兵したはずが、その時ジミールは、道に迷いたどり着けなかった、親しくしていた貴族なのに助けられなくて申し訳ない、と言った。


 もちろんその貴族とは親しくはなかった。

 この俺をアイツは批難しやがった。どうしてやろうかと思っていたら、その貴族の領地に魔物が出た。直ぐに出兵するよう王命があった。

 部下を引き連れ、その領地の近くまで行った。残った部下の半数は、2~3日の休暇だと言って家に帰らせた。

 領地の手前の街で宿をとり、そこで連れてきた部下と朝から酒を飲み、娼館に行ったりして3日間楽しく過ごした。

 そのあとその領地に行き、残った少しの魔物を適当に始末した。

 城に戻れば国王はわかっていたようだが、何も言わなかった。

 この俺に余計なことを言える訳がない。第二騎士団がこの国を守っているのだ、この俺がこの国の神なのだ。



 その貴族官僚は、官僚の職を辞し領地に帰った。
 魔物に襲われた者のなかに、妻と子供たちがいた。

 領民が半数近く減ったことと、そもそも土地が痩せていて作物が育たず、森の木を材木にして周辺の領地に売って細々と収益をあげていた領地だ。

 領地の男たちが、魔物と対峙し必死に抗ったが、ほとんどが大怪我をするか魔物に喰われてしまった。
 重たい材木を扱う男手が無くなった領地は、僅かな収益しか得られず没落した。

 領主だったその貴族は、持っていた財産を全て残った領民に分け与え、隣の領地や行きたい場所があればそこに移住するための転入書類を持たせた。

 すべの領民が移動し終わると、妻と子の墓の前で自害した。

 その男の手には国王陛下への手紙が握られたいた。しかし、雨に打たれ泥水を吸い込み、1月後に発見された時には読める状態にはなかった。


 この出来事は貴族のなかで、
 第二騎士団には、頼ることも恩を売ることも、とにかく関わることすべてが命懸けだという認識となった。




 なぜ第二騎士団はこんなにも尊大で、聖人に敵意を持つようになったのか。

 それは、ジミールの父親、前第二騎士団団長ライエムが団長に就任してからだった。

 元々、ならず者と何が違うのかと言うほど、気性が荒く何でも暴力で解決するような男だった。違うのは貴族だったことだ。

 男爵家の二男として、男ばかりの3人兄弟で育った。兄は男爵家を継ぎ、弟は小さな商会に婿入りした。

 兄が家を継ぐことは生まれた時から決まっていたので、両親は兄に当主教育をした。兄の補佐にとライエムにも教育を始めたが、人には向き不向きがある。ライエムに教育は向いていなかった。

 両親が兄に手をかける時間が多く、暇なライエムはひとりで街に行っては喧嘩をしたり揉め事を起こしていた。

 大事に育てている長男に悪い噂が立っては困ると、両親は早々にライエムを騎士団に入れた。

 最年少で入団し、どこか恐怖という感情が欠如している少年は、めきめきと頭角を現していった。

 そしてなぜかいつもイライラしているライエム少年は、その怒りを剣にぶつけると心がスッとした。

 そしてまた、最年少で魔物討伐の選抜隊に選ばれた。

 他の年上の隊員より先に選ばれ、両親には多目に褒賞金が送られたようで、初めて父親から手紙がきた。
 手紙には、もっと頑張れと書いてあった。
 よくわからないが、また何か心がイライラした。

 初めて討伐の日、そのイライラを抱えて魔物の群れに飛び込んだ。

 剣を両手に持ち、宙を舞うように魔物をなぎ倒していった。
 途中何度か複数の魔物に襲われ、手足の何ヵ所かに傷を負ったが、昔から喧嘩で殴られたり、ひどい時は刃物で切られたこともあったから、立ち止まる程の傷では無いことは自分でわかる。

 だかその日は違った。

 次の魔物に向かおうすると、先輩の騎士に腕を引かれた。傷が多すぎる、出血もひどいからもう行ってはダメだと。

 自分の体なのだ、やれるかやれないかは自分で決めると、掴まれた腕を振り払おうとすると、横から見たことのない女の子が出てきて、両手をライエムの前に広げ、行かせないと睨んでいる。

 「魔物の毒のせいで出血が止まらないの!このまま動いたら体の血が無くなるわ!」

 ライエムは驚いた。魔物がいて怒号が飛び交う死地のような場所に、なぜ天使のような女の子がいるのか。

 その女の子に呆気に取られているうちに、出血過多で気を失った。

 気が付くと討伐隊の救護天幕の寝台に寝かされていた。

 隣の寝台にも床にも数名の隊員が寝かされていたが、その側にはさっきの女の子がいた。

 怪我の痛みで声をあげている隊員に、「すぐに治します」と言って近付き、その傷口に両手をあてた。

 すると白いキラキラした光が出たと思ったら、抉れた腕の傷口からの出血が止まり、腕の傷が何事も無かったかのように消えた。

 何が起きたのか、夢でも見ているようだった。

 治してもらった騎士は、
 「ローズマリア様、ありがとうございます、ありがとうございます…!」
と涙を流していた。

 その名前でこの女の子が聖人であると初めて知った。その子はライエムの方に振り返ると、

 「目が覚めた?かなり無茶をしたわね。でも毒も浄化したし、回復魔法もかけたからもう大丈夫よ。私がいるんだから、傷ができたらすぐに私の所に来てね!」

 天使だと思った。
 頭の後ろでひとつに縛った髪は金色で、若草色の瞳は優しく自分を見つめていた。
 こんなに可愛くて優しくて、俺にだけ特別に魔法をかけてくれて、こんな親切な事を言ってくれるなんて。

 ライエムは人の気持ちや表向きの言葉などが理解出来なかった。
 嫌味もわからないし、言われた言葉はその言葉通りに受け止める。

 そして、今までこんな風に優しい笑顔を向けられた事も無かった。

 勘違いしたライエムの、ローズマリアに対する執着はここから始まった。




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