貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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31.ナイジェル·フォンベルト

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 物心ついた時から、いつも振り返るとユリアナがいた。嫌いだった。

 みんな僕のことだけを見ていたのに、ユリアナが生まれてから、みんながユリアナを見るようになった。

 母上は僕を抱っこしてくれなくなった。
 父上はユリアナを見ると顔を崩した。僕には厳しい顔をするのに!

 歩けるようになったユリアナは、ずっと僕の後ろを付いてきた。

 僕が振り返ると、ニコーッと笑ってたまにヨダレを垂らす。汚ないから拭いてやると、遊んでもらえると思うのかキャッキャッと喜んで抱き付いてくる。

 父上も母上も忙しくて、僕も遊ぶ相手がいないから仕方なく、後ろを付いて来るのはいいよと言うと、嬉しいのかまたキャッキャッと笑った。

 喜んでいるから、僕もお兄さまとしてもっとカッコいいところを見せたいと思った。

 普段、行ってはいけないと言われている、庭のさらに奥に行った。行ってはダメなところに来ても、お兄さまは怖くないところを見せた。

 振り返るとユリアナはまたニコーッと笑っている。喜んでいるみたいだ。

 もっとカッコいいところを見せたくなり、昨日降った雨のせいで出来た大きな水溜まりを、勢いをつけて飛び越えて見せた。

 またこんなにカッコいいのだから、喜んでいるだろうと振り返ると、ユリアナはユリアナ自身最高のスピード(メチャクチャ遅い)で、水溜まりにトテトテ向かって行く。

 待って!ユリアナには無理だよ!と言う前に、ユリアナ自身最高のジャンプ(片足が気持ち高い)で水溜まりにバシャン!と倒れた。

 こんな浅い水溜まりだから、自分で起き上がるだろうとそのまま見ていると、ジタバタするだけで起き上がらない。少しすると動きが弱くなってきた。 
 どうしようと思っていたら、ジュリアンが物凄い速さで駆けて来た。

 ジュリアンはユリアナを抱き上げると、足を抱えて逆さまにしてユリアナの背中を叩いた。
 ユリアナはゲホッと言うと、水か何かわからないものを吐き出した。そのあと泣き出しずっと咳をしていた。

 僕は怖くなってその場から逃げようとすると、ジュリアンに抱えられた。
 左手にユリアナ、右手に僕を抱えるとジュリアンはまた物凄い速さで邸に向かって走った。

 ジュリアンは、邸に入るとすぐに侍女長のヘレンのところまで走り、泣いているユリアナを差し出した。

 「まあっ!なんてことでしょう!」
 ヘレンは驚きつつも、近くにいたメイドに二人分の湯浴みと着替えの用意と、マーカスを呼ぶよう指示し、医者を呼ぶよう伝えた。

 僕は気が付くと震えが止まらず、泣いていた。するとジュリアンは自分のシャツの綺麗な部分で僕の顔を拭いて、ギュッと抱き締めてくれた。
 大丈夫だと言ってくれているみたいに。

 しかしヘレンに、
 「ジュリアン様、何があったかわかりませんが、お嬢様を助けてくださったのですね。ありがとうございます。ですが、その泥だらけの体で坊ちゃまを抱き締めますと…そうです、その通り、泥だらけです」

 えっ?と言う顔でジュリアンが僕を見ると、ジュリアンは走ってかいた汗以上にダラダラと汗が流れていた。

 湯浴み二人分は僕とジュリアンだった。
 どう見てもユリアナとジュリアンで、悪い僕は後回しかと思った。

 そのあとユリアナはずっと熱を出して寝ていた。
 僕があんなことをしなければ、行ってはいけない場所に行かなければ、僕のせいだ、僕のせいでユリアナが死んだらどうしよう。

 みんながユリアナを心配して僕のことは気にしていない。
 外の植え込みの陰にしゃがんでいると、ジュリアンが来て覗き込んだ。さすがにジュリアンにも怒られるかもしれないと覚悟を決めると、

 「ナイジェル様、遊びましょう」
と手を出してきた。

 ユリアナが死ぬかも知れないのに遊ぶ気にはならず、首を横に振ると、ジュリアンは、
 「お嬢様は大丈夫ですよ」
と言い笑った。

 ジュリアンが笑っているのなら大丈夫なのかもと思った。

 そして、ジュリアンと一緒に庭を走った。
 最近はユリアナに合わせてずっと歩いていたから、ジュリアンと思いっきり走るのは気持ち良かった。
 ジュリアンが追いかけて来るから走って逃げたら転んだ。

 「1、2、3、ナイジェル様、立てますか?」

 足が痛くて立てそうもなく、そのまま動かないでいると、ジュリアンは僕を持ち上げ立たせてくれた。

 「ナイジェル様、どこが痛いですか?」
 「膝が痛い…」

 ジュリアンはハンカチを出して、膝の傷に巻いてくれた。泣くのは恥ずかしいから、泣かないように頑張った。

 「痛いのに泣かないで頑張りましたね、邸に戻ってヘレン様に傷を見てもらいましょう」

 僕がうなずくと、ジュリアンが続けた。

 「昨日はそばに付いていなくて申し訳ありませんでした。ナイジェル様とお嬢様に怖い思いをさせてしまったのは俺のせいです。
 もうそばを離れないと誓います」

 僕がコクンと頭を下げると、

 「もし昨日のようにお嬢様が転んでしまったら、今のように3つ数えて声をかけてください。自分で起き上がれるかと。3つ数えて起き上がらなかったら、助けてあげてください。自分で起き上がったら、えらかったと褒めてあげてください」

 ジュリアンが優しく微笑んで、お願いしますと言った。
 そうかユリアナが転んだらそうすればいいのか。

 「わかった。やってみる。ありがとうジュリアン」

 「俺はいつでもナイジェル様を守ります、ナイジェルさまもお嬢様を見守ってください」

 ジュリアンのまっすぐな瞳がカッコ良かった。


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