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32.商会の男が見つけた物
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ナイジェルは3つ下の妹を溺愛していた。
幼い頃に自分の過ちで、妹のユリアナを死なせるところだった。
ユリアナは1週間高熱を出し、生死をさまよったが、1ヶ月後にはすっかり元気になり、ナイジェルを見付けると喜んでヨタヨタと歩いて来た。
「ニャイ、ニャーイ」
「ユリアナ、ニャイじゃないよ、ナイジェルだよ。ナ、イ、ジェ、ル、言ってごらん」
「ニャ、イ!」
違う、名前なんてどうでもいいんだ。
「ユリアナ、ごめんよ、お兄さまのせいで病気になって苦しかっただろ、ごめんね」
「ニャイ」
ユリアナはしゃがんでいる僕の頭を撫でた。多分。加減がわからないから、撫でているのか叩いているのかわからないが。
でも、ニッコリと笑って抱き付いてきた。
僕は小さなユリアナを抱き締めた。
ごめんよユリアナ、ありがとう。これからは仲良くしようね。お兄さまはお前を守るからね。
それからは、後ろを付いて来るユリアナをいつも見守り、遊びも勉強もなんでも一緒にやった。剣術もやりたいと言えば、僕が父上と母上を説得した。
「お兄様、ありがとうございます」
ぽっちゃりでヨタヨタ歩きながらヨダレを垂らしていたあの小さなユリアナが、喋れるようにもなり、僕に似てとても可愛い優秀な妹に育った。
家庭教師たちも優秀なユリアナを褒めていた。
その上、聖人であることがわかると、その役割を理解し必死に頑張っていた。
第三王子リチャードとの婚約も予想通りで、その事は僕も両親もユリアナも納得し、幸せになってくれさえすればよかった。
ある時から、ユリアナの体調が悪くなった。何人もの医者に診てもらったが、原因がわからず悪化するばかりだった。
しかし、ルイ魔法師団長にみてもらうと、闇魔術をかけられていたことがわかった。
何故こんなことに、どうしてユリアナが…
その解術方法を必死で調べていた。
国内ではもう調べ尽くした。絶望している暇はない、隣国に行った。
第二王子ライナルトが留学しているため、報告もかねて相談した。
すると、これはまだ国王陛下の耳にしか入れていないが、と言ってユリアナに関係しているかも知れないから、と話してくれた。
国内の商会を営む伯爵家が、隣国トルランにも商会があり、商品を運ぶのに月に2、3回、我が国とトルラン国を行き来していた。
ある日、その商会の荷馬車がもうすぐトルランとの国境というところで、雨が本降りとなり雷と風で馬を制御出来なくなった。
その商会の男は、この状況を切り抜ける方法を一つだけ思い付いていた。
それは、国境の手前に二股になった道があり真っ直ぐ行けばトルラン、その反対を行くと古い屋敷がある。
普段その二股を国境に向かって進むとき、いつも遠くに見える屋敷が気になっていた。
昔、一緒に荷馬車でトルランに行っていた、同じ従業員の男が教えてくれた。
あの屋敷は何百年か前に一族全員が殺された屋敷で、今でもその主の声が聞こえる幽霊屋敷だ、と。
その時は、何で何百年も前の屋敷が残っているんだ、俺を怖がらせているだけだ、と信用しなかった。
薄気味の悪さは感じていたが、あの場所に行くことは無いから気にしていなかった。
しかしこの雨、国境までは馬がもたない。少しだけこの雨風をしのげれば。男は二股を曲がった。
その屋敷の前まで来ると雨も風も和らいだ。でも、振り返るとゴウゴウと風が鳴り、辺りは真っ暗だった。
馬車止めを過ぎ、裏手に回るとちょうど馬と荷馬車が雨風をしのげる建物があり、そこに入った。
自分は屋敷に入り温まりたかった。
幽霊は怖かったが、背に腹はかえられない。
鍵は空いていた。何百年前の建物とは思えないほど、屋敷の中はまともだった。
窓が割れたり壁が崩れたりしているかと思ったが、破損している箇所はなく、住めるかと言われれば無理だが、一晩くらいなら問題ない程だった。
やっぱりあの男の言っていたことは嘘だったと思った。
暖炉に火を入れ、持っていた干し肉をあぶってかじった。
そこまでは記憶がある。
気が付いたら別な場所にいた。地下室のようだった。そこには書物らしき物が山積みになっていた。
その男は、言われた通り荷物を運ぶことは出来るが、字は読めなかった。
しかし、その中にやたらと気になる本があった。その本だけうっすらと光っているような、手に取らないといけないような気がした。
その本を手に取るとパラパラと本が勝手に開いた。そのあと気が付いたら暖炉の前で寝ていた。手にはその本を持っていた。
翌朝、すっかり天気は良くなり、その屋敷から隣国へ出発した。
また何かあればここに泊まろう、自分だけの秘密の家が出来たようでウキウキした。
馬を走らせその屋敷の門を出た途端、後ろからドォーッンと凄い音がした。振り返ると屋敷が跡形もなく崩れ落ちていた。
しかもよく見ると、何百年も経過していると言われたら納得出来るほど、朽ちた瓦礫の山だった。
さっきまで、そこそこ快適に過ごした屋敷の有り様に、恐怖で身体がガタガタ震えた。
やっぱり幽霊屋敷だった!
馬にムチを振り荷馬車とは思えない速さで国境に向かった。
「その屋敷の主は闇魔術を受け継ぐ家系で、500年前に粛清された一族の屋敷だった。
屋敷が崩れること無くいつまでも存在しているため、王家の影に何年かに一回様子を見させていたが、地下があるという報告は受けていない。
その男は、トルラン国の酒場でその屋敷での出来事を面白おかしく話していたそうだ。
だか、トルランで闇魔術のことを口にするのは禁忌だ。
もちろん国境沿いのその屋敷の事を、トルラン人は知っていた。暗黙の了解で誰も口にしない。
だから俺のところにまで報告が来た。
その男は俺の護衛に捕らえさせたが、その持ってきた本というのはすでに手放していた。
俺が自白魔法を掛けたら話したよ、誰に渡したのか」
「誰にですか?」
殿下の続く言葉を待てなかった。
「ゴルドー伯爵だよ、自分の雇い主だ」
ナイジェルの心臓は、ドクドクと感じたことの無い違和感で鳴り始めた。
「…ライナルト、リチャードの親密にしている令嬢を知っているか?」
「親密?親密とはどういう事だ?ユリアナがいるだろう」
「その令嬢がシャルルアン・ゴルドー。ゴルドー伯爵家の一人娘だ」
ライナルトはすべてが繋がったようで、顔を歪めた。
幼い頃に自分の過ちで、妹のユリアナを死なせるところだった。
ユリアナは1週間高熱を出し、生死をさまよったが、1ヶ月後にはすっかり元気になり、ナイジェルを見付けると喜んでヨタヨタと歩いて来た。
「ニャイ、ニャーイ」
「ユリアナ、ニャイじゃないよ、ナイジェルだよ。ナ、イ、ジェ、ル、言ってごらん」
「ニャ、イ!」
違う、名前なんてどうでもいいんだ。
「ユリアナ、ごめんよ、お兄さまのせいで病気になって苦しかっただろ、ごめんね」
「ニャイ」
ユリアナはしゃがんでいる僕の頭を撫でた。多分。加減がわからないから、撫でているのか叩いているのかわからないが。
でも、ニッコリと笑って抱き付いてきた。
僕は小さなユリアナを抱き締めた。
ごめんよユリアナ、ありがとう。これからは仲良くしようね。お兄さまはお前を守るからね。
それからは、後ろを付いて来るユリアナをいつも見守り、遊びも勉強もなんでも一緒にやった。剣術もやりたいと言えば、僕が父上と母上を説得した。
「お兄様、ありがとうございます」
ぽっちゃりでヨタヨタ歩きながらヨダレを垂らしていたあの小さなユリアナが、喋れるようにもなり、僕に似てとても可愛い優秀な妹に育った。
家庭教師たちも優秀なユリアナを褒めていた。
その上、聖人であることがわかると、その役割を理解し必死に頑張っていた。
第三王子リチャードとの婚約も予想通りで、その事は僕も両親もユリアナも納得し、幸せになってくれさえすればよかった。
ある時から、ユリアナの体調が悪くなった。何人もの医者に診てもらったが、原因がわからず悪化するばかりだった。
しかし、ルイ魔法師団長にみてもらうと、闇魔術をかけられていたことがわかった。
何故こんなことに、どうしてユリアナが…
その解術方法を必死で調べていた。
国内ではもう調べ尽くした。絶望している暇はない、隣国に行った。
第二王子ライナルトが留学しているため、報告もかねて相談した。
すると、これはまだ国王陛下の耳にしか入れていないが、と言ってユリアナに関係しているかも知れないから、と話してくれた。
国内の商会を営む伯爵家が、隣国トルランにも商会があり、商品を運ぶのに月に2、3回、我が国とトルラン国を行き来していた。
ある日、その商会の荷馬車がもうすぐトルランとの国境というところで、雨が本降りとなり雷と風で馬を制御出来なくなった。
その商会の男は、この状況を切り抜ける方法を一つだけ思い付いていた。
それは、国境の手前に二股になった道があり真っ直ぐ行けばトルラン、その反対を行くと古い屋敷がある。
普段その二股を国境に向かって進むとき、いつも遠くに見える屋敷が気になっていた。
昔、一緒に荷馬車でトルランに行っていた、同じ従業員の男が教えてくれた。
あの屋敷は何百年か前に一族全員が殺された屋敷で、今でもその主の声が聞こえる幽霊屋敷だ、と。
その時は、何で何百年も前の屋敷が残っているんだ、俺を怖がらせているだけだ、と信用しなかった。
薄気味の悪さは感じていたが、あの場所に行くことは無いから気にしていなかった。
しかしこの雨、国境までは馬がもたない。少しだけこの雨風をしのげれば。男は二股を曲がった。
その屋敷の前まで来ると雨も風も和らいだ。でも、振り返るとゴウゴウと風が鳴り、辺りは真っ暗だった。
馬車止めを過ぎ、裏手に回るとちょうど馬と荷馬車が雨風をしのげる建物があり、そこに入った。
自分は屋敷に入り温まりたかった。
幽霊は怖かったが、背に腹はかえられない。
鍵は空いていた。何百年前の建物とは思えないほど、屋敷の中はまともだった。
窓が割れたり壁が崩れたりしているかと思ったが、破損している箇所はなく、住めるかと言われれば無理だが、一晩くらいなら問題ない程だった。
やっぱりあの男の言っていたことは嘘だったと思った。
暖炉に火を入れ、持っていた干し肉をあぶってかじった。
そこまでは記憶がある。
気が付いたら別な場所にいた。地下室のようだった。そこには書物らしき物が山積みになっていた。
その男は、言われた通り荷物を運ぶことは出来るが、字は読めなかった。
しかし、その中にやたらと気になる本があった。その本だけうっすらと光っているような、手に取らないといけないような気がした。
その本を手に取るとパラパラと本が勝手に開いた。そのあと気が付いたら暖炉の前で寝ていた。手にはその本を持っていた。
翌朝、すっかり天気は良くなり、その屋敷から隣国へ出発した。
また何かあればここに泊まろう、自分だけの秘密の家が出来たようでウキウキした。
馬を走らせその屋敷の門を出た途端、後ろからドォーッンと凄い音がした。振り返ると屋敷が跡形もなく崩れ落ちていた。
しかもよく見ると、何百年も経過していると言われたら納得出来るほど、朽ちた瓦礫の山だった。
さっきまで、そこそこ快適に過ごした屋敷の有り様に、恐怖で身体がガタガタ震えた。
やっぱり幽霊屋敷だった!
馬にムチを振り荷馬車とは思えない速さで国境に向かった。
「その屋敷の主は闇魔術を受け継ぐ家系で、500年前に粛清された一族の屋敷だった。
屋敷が崩れること無くいつまでも存在しているため、王家の影に何年かに一回様子を見させていたが、地下があるという報告は受けていない。
その男は、トルラン国の酒場でその屋敷での出来事を面白おかしく話していたそうだ。
だか、トルランで闇魔術のことを口にするのは禁忌だ。
もちろん国境沿いのその屋敷の事を、トルラン人は知っていた。暗黙の了解で誰も口にしない。
だから俺のところにまで報告が来た。
その男は俺の護衛に捕らえさせたが、その持ってきた本というのはすでに手放していた。
俺が自白魔法を掛けたら話したよ、誰に渡したのか」
「誰にですか?」
殿下の続く言葉を待てなかった。
「ゴルドー伯爵だよ、自分の雇い主だ」
ナイジェルの心臓は、ドクドクと感じたことの無い違和感で鳴り始めた。
「…ライナルト、リチャードの親密にしている令嬢を知っているか?」
「親密?親密とはどういう事だ?ユリアナがいるだろう」
「その令嬢がシャルルアン・ゴルドー。ゴルドー伯爵家の一人娘だ」
ライナルトはすべてが繋がったようで、顔を歪めた。
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