貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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33.伯爵家の侍女①

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 私は没落した男爵家の人間だった。

 男爵家は魔力のある家系で、お祖父さんの代で魔力のあるものが生まれなくなり、それまでは魔道具を作り販売していたが、それも出来なくなり爵位を返上した。

 今まで魔力に頼って生きてきた者が、他の商売も出来ず、領地も無かった。爵位に執着もなかったので、一族は皆平民となった。

 その生き残りが私とお母さんだった。
 私とお母さんは、貧しい生活でも二人で支え合い幸せに生活していた。

 10歳の魔力判定の日、お母さんは、
 「キイラ、魔力はあれば助かるけど、男爵家からもう誰ひとり生まれなくなってしまったし、期待してはだめよ。魔力が無くてもあなたが健康でいてくれたら私は幸せだから」

 そう言って私を抱き締めて、二人で神殿に入った。

 結果は、魔力の核はあるようだが、神官長様の神力を流しても目覚めない。このような子はたまにいる。結局魔力は無いという判定になった。

 「お母さん、ごめんね。私が聖人様になったら、お母さんに美味しいものたくさん食べさせてあげたかったのに」

 「私の愛するキイラ、あなたはなんて優しいの。お母さんはその言葉だけで嬉しくてお腹いっぱいよ!」

 お母さんは私の燃えるような赤毛を愛おしそうに撫でてくれた。そのあと二人で手を繋いで帰った。
 このままお母さんと楽しく生きていければ良いんだ。貧しくてもお母さんがいてくれれば幸せだわ!

 私たちは小さな家の横に畑を作り、そこで育った野菜を売って生活していた。自分たちが食べる分と、余ったら売ってお金にして、生活費にしていた。

 ある朝起きるとお母さんがいなかった。
 前の晩に雨が降ると、畑の土が流されてたりするので、お母さんは早起きして見に行っていることがあったから、今朝もそうだと思っていた。

 でも、私が顔を洗っても、着替えをしてもお母さんが戻って来ない。 
 雨の被害が酷かったのかと心配になり、私も畑に走った。

 畑にお母さんが見当たらない。さらに森に近い方まで行くと、お母さんが倒れていた。

 「お母さん!お母さん!どうしたのっ!?」
 見るとお母さんの服が赤黒く変色している。

 「…キイラ、来てはダメ、逃げて…」

 お母さんが死んじゃう、泣きながらそばに行こうと走ると、森の中から唸り声が聞こえた。
 魔物だった。
 お母さんは持っていたクワで魔物に対抗したようで、魔物も弱っているようだった。

 今なら隣のおじさんを呼べば間に合うかもしれない。お母さん待ってて!絶対に助けるから!

 ゆっくり振り返り、隣のおじさんの家まで泣きながら走った。
 お母さんお母さんお母さんっ!死んじゃいや、私をひとりにしないで!

 おじさんと他の村人にも助けてもらい、街の大きな病院に運んでもらった。

 病院の先生は、今は何とか魔物にやられた傷を塞いだけど、傷が深くてこれは聖人様じゃないと治せない、聖人様のお力をお貸し戴けるか王宮に連絡するからね、と言ってくれた。

 お母さんの顔は真っ白だったけど、手はまだ温かい。お母さんお願い死なないで!

 それから、2日後お母さんは女神様のもとへ帰った。聖人様は来てくれなかった。

 先生は3回連絡したが返事が無かったと言った。

 どうして?どうして?どうして来てくれなかったの!?平民だから助けてくれないの!?

 冷たくなっていくお母さんの横で呆然としていた。

 すると、他の病室から、
 「信じられない…治ってる!ありがとうございます、聖人ユリアナ様!娘の命の恩人です!」

と、喜び叫ぶ声が聞こえた。

 「ユリアナ様、ありがと!」
 幼い女の子の元気な声も。

 なんで…?どうして?どうしてその子は助けて、私のお母さんは助けてくれなかったの…?

 あと半日、いや数時間早く来てくれていたら、お母さんはこんなに冷たくならなくて済んだのに、どうして……

 連絡したと先生は言っていた。
 瀕死の状態だったのに、それなのに、今頃呑気にやって来て、ほかの病人は治していった。

 許せない…!
 私たちが、私とお母さんが何をしたって言うの?貧しくても幸せに生きていたのに、それ以上は望まなかったのに、なんで、なんで私からお母さんを奪ったの!

 それから、どうしたかわからない。
 気が付いたら、お母さんは共同墓地に埋葬され、私は家に帰っていた。

 これから一人で生きていかないとならない。お母さんと一緒に寝ていたベッドに、倒れるように横になった。お母さんの優しい匂いがした。

 私は声を張り上げて泣いた。
 いつまで泣いていたのか、もうこのまま私も女神様のもとへ連れていって…と泣き続けた。
 それから何日経ったのかわからない。

 目の前に女の人が二人いた。支援院から来たと言っていた。
 私のように、魔物で家族を失った人を助けるところだから一緒に行きましょう、と言われた。

 お母さんとの思い出の家から出たくなかったが、拒否する体力も無かった。

 それからは支援院で生活しながら、頼まれた仕事をして体と心の回復を目指した。
 徐々に回復し、元気になればなるほどあの時の事を思い出す。

 聖人ユリアナ、私のお母さんを見殺しにした女。あんなのは聖人なんかじゃない、自分勝手で傲慢な悪魔よ!

 いつか、いつか思い知らせてやる!私からお母さんを奪った苦しみを味合わせてやる。

 その時は想像以上に早くきた。

 「お前か?母親が魔物で死んだっていうのは」
 胡散臭い貴族が支援院に来て、私に会いたいと言った。支援院の面談室でそのおじさんと二人で話しをした。

 「お前の母親は聖人が治療すれば助かったのではないか?なぜ聖人に頼まなかった?」

 「…病院の先生が頼んでくれたけど、来てくれませんでした」

 「なんだって!?なんて酷いことを!頼んだのに来ないなんて、お前が平民だからか?」

 そのおじさんの言い方にわざとらしさを感じたが、私は今まで聖人を恨んでいることを誰にも話せずにいたので、知らないおじさんだけど話しを聞いてくれるならと、その時のことを話した。

 「酷いことを!なんて傲慢なんだ!自分の力を気分で使っているのだ。お前の母親も聖人の気が向けば助けてもらえたのだろう、残念だったな…辛かったろう。そんなのは聖人なんかじゃない!悪魔だ!」

 話し始めてから、私の目から涙が溢れ止まらなかった。おじさんは私の思いを理解してくれた。

 「私の家は伯爵家だ。お前には見込みがある。私のひとり娘の侍女を探していたんだ。お前のような、聖人に家族を見殺しにされたものを、我が家では優遇している。我が家に来て私と娘に仕えてくれないか?」

 この人は伯爵様だった。そんな爵位の高い人が私みたいな平民と同じテーブルで話しをするなんて、普通ならあり得ない。

 伯爵様は、私の気持ちも理解してくれて、かわいそうな私を雇ってくれると言う。

 私は伯爵様のお屋敷で雇ってもらうことになった。支援院の人たちが、伯爵家の侍女なんてすごいわ!と喜んで送り出してくれた。

 伯爵家のお嬢様は、私が生きてきた中で一番可愛かった。ふわふわの金色の髪に空色の瞳、桃色の唇。

 初めてお会いした日に言われた。

 「ねえキイラ、私にうるさい事を言ったらすぐクビよ!勉強とかマナーとか言ったら許さないから!私の言うことを絶対に守って。約束よ」

 私は私で、聖人に復讐するという目的がある。お嬢様に構っている暇はないので、

 「かしこまりました、お嬢様。お嬢様のために働きます」

と、無駄に反感を持たれないよう返事をした。




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