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34.伯爵家当主
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我が伯爵家は領地を持ち、国内では知らないものがいないほど有名な商会を経営していた。
国内では我が領地と王都に1件ずつ、隣国にも1軒あり、生活品から高級宝飾品まで取り揃える、平民から高位貴族までが利用する商会だった。
経営はもちろん順調で、金はいくらでもあった。
妻と娘はそれは美しく自慢の家族だった。そんな愛する妻と娘は少しだけ買い物が好きで、少しだけ我が儘ではあるが、私からすれば可愛いものだった。
とりわけ娘は天使か妖精かと見間違えるほどに可愛らしく、歴代の聖人と似た容姿であるから、間違いなく我が娘が聖人だと思っていたのに、そう思っていたのに!まただ!またフォンベルトだ!
私とフォンベルト侯爵、ベンジャミンは学院で同級生だった。
ベンジャミンは生まれながらに見た目が美しく、侯爵家の嫡男であり、その上成績はほぼ首席だった。
なのに当の本人は、飄々としてつかみ所のない男だった。
出来すぎる能力を鼻にかける事もなく、いつもニコニコと穏やかで誰に対しても紳士的な対応をしていた。
なのでとにかく男女問わず人気があった。
しかし、ベンジャミンは一定の人間とだけ親しくすることはせず、誰に対しても一定の距離を保って同じように接していた。
同じく同級生に、とても美しい侯爵令嬢がいた。凛とした立ち振舞いに、はっきりとした物言いは、これまた男女問わず慕われていた。
私も彼女を好ましく思っていた。好ましい以上の感情だ。彼女にはまだ婚約者はいなかった。父上に頼んで婚約の申し込みをしてもらったが、一度目は断られた。
私が伯爵家の嫡男というのは、彼女が嫁入りするにはそれほど問題無いと思っていたのに、なぜ断られたのかわからなかった。
教室でも彼女に声をかけ、挨拶をし昼食を誘った。街の劇場で、なかなか手に入らない観劇の席を購入できたからと誘っても、カフェの特別席を予約しても、どれも断られた。
そんな進展しない関係を続け、学院の卒業間近になった。
また父上に頼んで婚約の申し込みをしてもらった。卒業も近いのに彼女はまだ婚約者がいない。
今度こそは承諾の返事だろうと思っていたが、断られた。
悔しかった。
なぜだ、伯爵家とはいえ財力は国内でも10本の指に入る。我が家に嫁げば贅沢に暮らせるのに!
そんな腹立たしさを抱えながら、学院高等部の卒業パーティーの日になってしまった。領地が隣の伯爵家の二女で、幼い頃から兄妹のように育ったアイリーンにせがまれ仕方なくエスコートした。
会場に入ると人はまばらだった。
彼女は来ているのか?忙しく目を動かし探した。
そろそろパーティーが始まるという頃、入り口辺りが騒がしくなった。
そちらに目をやると、驚いた。
あのベンジャミンが、私の恋い焦がれた、何度も婚約の申し込みをした、あの彼女をエスコートして入場してきたではないか。
なにが起こっている?
なぜだ、なぜベンジャミンが?
彼女は初めて見る表情をしていた。
ベンジャミンを見つめる熱を持った瞳は、誰が見ても恋情を持った乙女だった。
ベンジャミンは彼女の瞳の色と同じ薄い紫色のアスコットタイとタイチーフを身に着けて、いつも通り飄々としていた。
彼女もベンジャミンの瞳と同じ濃い青に、髪の色と同じ濃い金色の刺繍がされた美しいドレスを身にまとっていた。
ベンジャミンと彼女が、親しく話していた場面を見たことがなかった。それなのに、これではまさに婚約者同士の振る舞いではないか。
「えぇ、中等部に入った頃に婚約したの。私がベンジャミンの求婚を受けて決まったのよ。式は来年なの。招待状を出すわ。よかったら来てくださる?…ありがとう」
彼女が親しくしている令嬢との会話を盗み聞きした。中等部?中等部の時に婚約なんて、その頃からお互い生涯の伴侶を決めていたのか。
悔しかった、私は何もかも遅かったのだ。
私は傷心のまま、親の決めた通りアイリーンと結婚した。生まれた娘はアイリーンに似た美しい娘だった。
しかし、時々思うのだ。
あの彼女が、マリアンヌが妻だったらと。
毎朝目が覚めると私の横にいるマリアンヌを想像した。ああ、一度でいいからあの肌に触れたかった。
一人娘が魔力判定で神殿に行った日、マリアンヌとそっくりな娘を見た。そのうえ聖人だった。
またなのか?またベンジャミンなのか!?俺から欲しいものを奪っていくのは、いつでもベンジャミンだ!
俺は奪われたままこの人生を終えるのか?あいつの悔しがる顔を見ないまま…
あいつに勝ちたい、あいつを優越感のこもった顔で見下ろしてやりたい。
あいつのものを奪ってやりたい。
そんな時だった。
商会の従業員が、不思議なものを手に入れたから面会して欲しいと言っている、と従者から連絡があった。
何の変哲もない普通の本だった。
表紙を見てもページを捲って見ても、何が書いてあるか良くわからない文字だった。
その従業員が言うには、国境近くの古い屋敷で見つけ、なぜかこの本だけが存在感を放ち、持って帰らなければと感じたと言う。
あの場所は何度となく通っており、幽霊屋敷だという噂は聞いていた。こいつはあの家に入ったのか? 気持ち悪さを感じたが、取り敢えずその本を受け取り、王都の邸に帰った。
その本を手に邸に入ると、先日引き取った赤い髪の侍女が向かいから歩いてきた。
私を見るとすぐ廊下の端に寄り頭を下げた。
しかし、私がその侍女の前を通る時、パッと顔を上げ私の持っている本を凝視した。
私は足を止めて、その侍女を見ると、みるみる顔色が悪くなっていく。
「おいどうした?具合いでも悪いのか?それともこの本に何かあるか?」
その侍女はさらに顔色を悪くし、
「申し訳ありません旦那様、なぜかその本が私に何か言っているようで…」
本が何か言うわけないだろ…しかし様子がおかしい。
「この本が気になるのか?これは幽霊屋敷で拾った本だ、何が書いてあるかは読めないからわからんぞ、見たいのか?」
「はい旦那様、なぜか私はその本を読まないと、読むように言われている気がしてならないのです」
良くわからん本だが、幽霊の呪いでもあるのか?まあでも、孤児の侍女ひとりが何かあっても痛くも痒くもない。
「うむ、それならお前に渡しておく。我が家に有益な内容であれば、隠さず伝えると誓えるか?」
侍女は怯えた目をしつつも何度もうなずき、手を出し早く渡せと言っているようだった。
そして、本を差し出しその侍女が受け取ると、本は淡く光り出した。
侍女はその本をしっかり抱えると、その場にバタンと倒れた。
国内では我が領地と王都に1件ずつ、隣国にも1軒あり、生活品から高級宝飾品まで取り揃える、平民から高位貴族までが利用する商会だった。
経営はもちろん順調で、金はいくらでもあった。
妻と娘はそれは美しく自慢の家族だった。そんな愛する妻と娘は少しだけ買い物が好きで、少しだけ我が儘ではあるが、私からすれば可愛いものだった。
とりわけ娘は天使か妖精かと見間違えるほどに可愛らしく、歴代の聖人と似た容姿であるから、間違いなく我が娘が聖人だと思っていたのに、そう思っていたのに!まただ!またフォンベルトだ!
私とフォンベルト侯爵、ベンジャミンは学院で同級生だった。
ベンジャミンは生まれながらに見た目が美しく、侯爵家の嫡男であり、その上成績はほぼ首席だった。
なのに当の本人は、飄々としてつかみ所のない男だった。
出来すぎる能力を鼻にかける事もなく、いつもニコニコと穏やかで誰に対しても紳士的な対応をしていた。
なのでとにかく男女問わず人気があった。
しかし、ベンジャミンは一定の人間とだけ親しくすることはせず、誰に対しても一定の距離を保って同じように接していた。
同じく同級生に、とても美しい侯爵令嬢がいた。凛とした立ち振舞いに、はっきりとした物言いは、これまた男女問わず慕われていた。
私も彼女を好ましく思っていた。好ましい以上の感情だ。彼女にはまだ婚約者はいなかった。父上に頼んで婚約の申し込みをしてもらったが、一度目は断られた。
私が伯爵家の嫡男というのは、彼女が嫁入りするにはそれほど問題無いと思っていたのに、なぜ断られたのかわからなかった。
教室でも彼女に声をかけ、挨拶をし昼食を誘った。街の劇場で、なかなか手に入らない観劇の席を購入できたからと誘っても、カフェの特別席を予約しても、どれも断られた。
そんな進展しない関係を続け、学院の卒業間近になった。
また父上に頼んで婚約の申し込みをしてもらった。卒業も近いのに彼女はまだ婚約者がいない。
今度こそは承諾の返事だろうと思っていたが、断られた。
悔しかった。
なぜだ、伯爵家とはいえ財力は国内でも10本の指に入る。我が家に嫁げば贅沢に暮らせるのに!
そんな腹立たしさを抱えながら、学院高等部の卒業パーティーの日になってしまった。領地が隣の伯爵家の二女で、幼い頃から兄妹のように育ったアイリーンにせがまれ仕方なくエスコートした。
会場に入ると人はまばらだった。
彼女は来ているのか?忙しく目を動かし探した。
そろそろパーティーが始まるという頃、入り口辺りが騒がしくなった。
そちらに目をやると、驚いた。
あのベンジャミンが、私の恋い焦がれた、何度も婚約の申し込みをした、あの彼女をエスコートして入場してきたではないか。
なにが起こっている?
なぜだ、なぜベンジャミンが?
彼女は初めて見る表情をしていた。
ベンジャミンを見つめる熱を持った瞳は、誰が見ても恋情を持った乙女だった。
ベンジャミンは彼女の瞳の色と同じ薄い紫色のアスコットタイとタイチーフを身に着けて、いつも通り飄々としていた。
彼女もベンジャミンの瞳と同じ濃い青に、髪の色と同じ濃い金色の刺繍がされた美しいドレスを身にまとっていた。
ベンジャミンと彼女が、親しく話していた場面を見たことがなかった。それなのに、これではまさに婚約者同士の振る舞いではないか。
「えぇ、中等部に入った頃に婚約したの。私がベンジャミンの求婚を受けて決まったのよ。式は来年なの。招待状を出すわ。よかったら来てくださる?…ありがとう」
彼女が親しくしている令嬢との会話を盗み聞きした。中等部?中等部の時に婚約なんて、その頃からお互い生涯の伴侶を決めていたのか。
悔しかった、私は何もかも遅かったのだ。
私は傷心のまま、親の決めた通りアイリーンと結婚した。生まれた娘はアイリーンに似た美しい娘だった。
しかし、時々思うのだ。
あの彼女が、マリアンヌが妻だったらと。
毎朝目が覚めると私の横にいるマリアンヌを想像した。ああ、一度でいいからあの肌に触れたかった。
一人娘が魔力判定で神殿に行った日、マリアンヌとそっくりな娘を見た。そのうえ聖人だった。
またなのか?またベンジャミンなのか!?俺から欲しいものを奪っていくのは、いつでもベンジャミンだ!
俺は奪われたままこの人生を終えるのか?あいつの悔しがる顔を見ないまま…
あいつに勝ちたい、あいつを優越感のこもった顔で見下ろしてやりたい。
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そんな時だった。
商会の従業員が、不思議なものを手に入れたから面会して欲しいと言っている、と従者から連絡があった。
何の変哲もない普通の本だった。
表紙を見てもページを捲って見ても、何が書いてあるか良くわからない文字だった。
その従業員が言うには、国境近くの古い屋敷で見つけ、なぜかこの本だけが存在感を放ち、持って帰らなければと感じたと言う。
あの場所は何度となく通っており、幽霊屋敷だという噂は聞いていた。こいつはあの家に入ったのか? 気持ち悪さを感じたが、取り敢えずその本を受け取り、王都の邸に帰った。
その本を手に邸に入ると、先日引き取った赤い髪の侍女が向かいから歩いてきた。
私を見るとすぐ廊下の端に寄り頭を下げた。
しかし、私がその侍女の前を通る時、パッと顔を上げ私の持っている本を凝視した。
私は足を止めて、その侍女を見ると、みるみる顔色が悪くなっていく。
「おいどうした?具合いでも悪いのか?それともこの本に何かあるか?」
その侍女はさらに顔色を悪くし、
「申し訳ありません旦那様、なぜかその本が私に何か言っているようで…」
本が何か言うわけないだろ…しかし様子がおかしい。
「この本が気になるのか?これは幽霊屋敷で拾った本だ、何が書いてあるかは読めないからわからんぞ、見たいのか?」
「はい旦那様、なぜか私はその本を読まないと、読むように言われている気がしてならないのです」
良くわからん本だが、幽霊の呪いでもあるのか?まあでも、孤児の侍女ひとりが何かあっても痛くも痒くもない。
「うむ、それならお前に渡しておく。我が家に有益な内容であれば、隠さず伝えると誓えるか?」
侍女は怯えた目をしつつも何度もうなずき、手を出し早く渡せと言っているようだった。
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