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35.伯爵家の侍女②
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私は気が付くと自分の部屋に寝かされていた。
ベッドの横の小さな棚にその本は置かれていた。早く手に取って読まなくては。急いで起き上がりその本に手を伸ばした。
本の表紙には読めない文字が書かれていた。それでも本を開くと、開いた瞬間、ドクンと心臓が跳ねた。
そして、その一瞬だけ本が白くパーッと光り、その光りが消えたあとまた本を見ると、さっきまで読めなかった文字が読めた。
本を閉じ、表紙に書いてあった文字を読んだ。
『スコット家 魔術と解』
と書いてあった。
表紙が読めた。
スコット家?魔術の本?
表紙を開くと、
『これはスコット家に受け継がれる闇といわれる魔術を記した書である』
と書かれていた。闇?闇って何?
捲っていくと、五つの魔術が書かれていた。
1.呪い殺す
2.魅了
3.奪う
4.永遠の苦痛
5.魔物を作り出す
それぞれの方法と呪文、そして、その魔術を解術する方法も書かれていた。
1の呪い殺すは、呪いをかけたあと時間をかけて死に至らしめるため、事切れる前に解術できる呪文だと書かれていた。
私が生きているのは、聖人に復讐するためだ。
お母さんを見殺しにした、あの女に復讐するためだけに生きている。それが済んだら私もお母さんのもとへ逝くと決めている。
しかし、これをやり遂げるには私ひとりでは難しいかもしれない。確実にやり遂げたいのだ。
この闇魔術、私には使える気がする。いや、必ず使える。
このタイミングでこの本が私のもとにたどり着き、その方法と呪文が私にはわかるのだ。
神殿で魔力の核はあると言われたが、魔力は発動しなかった。きっとこのためだったのだ。この闇魔術を使うための核だったのだ。
これはもう誰かが、私に味方してくれた誰か、それは悪魔かもしれない。でも悪魔だろうと誰であろうと、私にその機会を与えてくれたのだ。
大人に、力のある大人に、私の知ってる信用出来る大人に相談しよう。
「なんだって!?この本が読めるだと?」
旦那様は驚いていたが、書かれてあることを伝えると難しい顔をして唸ったあと、口角を上げた。
「今のところこの本を読めるのはお前しかいない。お前の言っていることが偽りだった場合、お前を処分することなど容易いが、それは理解しているか?」
「私は聖人に母を殺されました。たったひとりの家族を。その苦しみはすでに旦那様にはご理解頂けていると思います。その復讐のためにこの本に巡り合えたと思っています」
伯爵様はもはや喜びの顔になった。
「そうか。それにしても闇魔術とはな。数百年前にその一族は粛清されたのだが、魔術を残すためにあの屋敷とこの本に魔術をかけて残したのかもしれない。それがお前にだけ理解できるとは、これは使えということだ」
「私も旦那様と同じ考えにございます」
「この本の内容を別な紙に書き写せないか」
そうなのだ、書き写しさえすれば、私以外に使える者に高く売れるかもしれない。そう思って紙に書き写しても、本が光る前に見た読めない字に変化してしまうのだ。
「それは試しました。書き起こそうと紙に書くと、旦那様に見えてるように、読めない文字に変わってしまうのです。声を出して読み上げることも出来ません。なので呪文も暗記するしかないのです」
伯爵はその侍女の目を探るように見た。
本当か嘘かわからない。
書き写せるものなら、書き写したあと口封じのためにこいつを始末しようと思ったが、それが出来ないのであれば、生かして役立てるしかない。
「わかった。それでは方法はお前に任せる。お前の憎しみと恨みは、私と同じだと考えてくれ。それを踏まえて、あの聖人とフォンベルト侯爵家を地に這わせるような魔術の使い方を考えるんだ」
「かしこまりました」
なんてことだろう、こんなに早くあの女を地獄に送ることができる機会が訪れるなんて。
何度も本を読み、どの闇魔術があの女をより長く苦しめるのか考えた。
ただ呪い殺すといっても、旦那様がいう家族も苦しめるには足りないかもしれない。それだと永遠の苦痛も同じではないか。
魅了も魔物も違う。
そうか、奪えばいいんだ。あの女からすべてを奪ってやる。私からお母さんを奪ったのだから。
あの女があの女として存在する価値、聖人の力だ。まずはそれを奪ってやる。
闇魔術の一つ『奪う』は、その様々な奪うものによってそれぞれの方法が書かれていた。
闇魔術は対象に発動するとその影響は大きいようだった。
例えば、対象の『意識を奪う』の場合、ほんの数秒などではなく、ひと月から数年単位だった。
その期間意識が無ければ、その者の存在が世の中から少しずつ消えていく。
意識が無くとも年は重ねていくので、目が醒めたら老人になっていたということもあり得るのだ。
魅了は、対象に術をかけその者を傀儡にし、王位を狙うこともできる。その術の強さは術者の力量によるようだが、ある意味一番恐ろしい闇魔術かもしれない。
本当に恐ろしいわ、粛清されたのがわかる気がする。私は本当にこの恐ろしい闇魔術を使えるの…?
…違う、使うのよ、覚悟したはずよ。お母さんを見殺しにされた時、わたしの心も死んだの。あとは復讐するだけよ!
聖人の力を奪う。
しかし、その力を私が持ってはダメだ。聞いたことがある、聖人は自害できない。傷を受けてもすぐに回復し、聖人は老衰でしか女神様のもとへは行けないと。
私は、聖人に闇魔術を掛けたら、すぐにお母さんのもとへ逝くのだから。
いるではないか、聖人の力を持つのに相応しい人が、私のすぐそばに。
あの美しいお嬢様こそ聖人であり、旦那様もそれを望んでいるのでは?
お嬢様が聖人となれば、王族と結婚してお妃様になるのでは?
そうなったら旦那様はもっと喜ぶのではないか。
私を救って、このようなチャンスを与えてくれた。感謝している。
私はこの闇魔術を使い、あの聖人が苦しんで死ぬところを見届ければ、すぐに命を絶つつもりだ。
この復讐を理解し、手助けしてくれる旦那様が一番望む方法にしたい。
侍女はこの後、何度も伯爵と相談し、あらゆる情報を得てから計画を立てた。
そしてお嬢様には、聖人の力を持ってもらう、それは本来の姿に戻るだけだと伝えた。
聖人の誕生日に決行することになった。これはお嬢様たっての希望だった。
「あの女の誕生日に色々と絶望させてやりたいわぁ。もう彼は私に夢中だから、婚約破棄するって言ってた!自分の誕生日に婚約破棄なんて、あっははは!悲惨よねぇ、私には最高の誕生日の贈り物だけど。だって私のものをすべて奪ったんだから、返してもらうわ!」
その日、私の闇魔術は発動した。
お嬢様があの女の心臓にあてた右手の平に、私の発動した闇魔術の紋章が刻まれていたのだ。
ベッドの横の小さな棚にその本は置かれていた。早く手に取って読まなくては。急いで起き上がりその本に手を伸ばした。
本の表紙には読めない文字が書かれていた。それでも本を開くと、開いた瞬間、ドクンと心臓が跳ねた。
そして、その一瞬だけ本が白くパーッと光り、その光りが消えたあとまた本を見ると、さっきまで読めなかった文字が読めた。
本を閉じ、表紙に書いてあった文字を読んだ。
『スコット家 魔術と解』
と書いてあった。
表紙が読めた。
スコット家?魔術の本?
表紙を開くと、
『これはスコット家に受け継がれる闇といわれる魔術を記した書である』
と書かれていた。闇?闇って何?
捲っていくと、五つの魔術が書かれていた。
1.呪い殺す
2.魅了
3.奪う
4.永遠の苦痛
5.魔物を作り出す
それぞれの方法と呪文、そして、その魔術を解術する方法も書かれていた。
1の呪い殺すは、呪いをかけたあと時間をかけて死に至らしめるため、事切れる前に解術できる呪文だと書かれていた。
私が生きているのは、聖人に復讐するためだ。
お母さんを見殺しにした、あの女に復讐するためだけに生きている。それが済んだら私もお母さんのもとへ逝くと決めている。
しかし、これをやり遂げるには私ひとりでは難しいかもしれない。確実にやり遂げたいのだ。
この闇魔術、私には使える気がする。いや、必ず使える。
このタイミングでこの本が私のもとにたどり着き、その方法と呪文が私にはわかるのだ。
神殿で魔力の核はあると言われたが、魔力は発動しなかった。きっとこのためだったのだ。この闇魔術を使うための核だったのだ。
これはもう誰かが、私に味方してくれた誰か、それは悪魔かもしれない。でも悪魔だろうと誰であろうと、私にその機会を与えてくれたのだ。
大人に、力のある大人に、私の知ってる信用出来る大人に相談しよう。
「なんだって!?この本が読めるだと?」
旦那様は驚いていたが、書かれてあることを伝えると難しい顔をして唸ったあと、口角を上げた。
「今のところこの本を読めるのはお前しかいない。お前の言っていることが偽りだった場合、お前を処分することなど容易いが、それは理解しているか?」
「私は聖人に母を殺されました。たったひとりの家族を。その苦しみはすでに旦那様にはご理解頂けていると思います。その復讐のためにこの本に巡り合えたと思っています」
伯爵様はもはや喜びの顔になった。
「そうか。それにしても闇魔術とはな。数百年前にその一族は粛清されたのだが、魔術を残すためにあの屋敷とこの本に魔術をかけて残したのかもしれない。それがお前にだけ理解できるとは、これは使えということだ」
「私も旦那様と同じ考えにございます」
「この本の内容を別な紙に書き写せないか」
そうなのだ、書き写しさえすれば、私以外に使える者に高く売れるかもしれない。そう思って紙に書き写しても、本が光る前に見た読めない字に変化してしまうのだ。
「それは試しました。書き起こそうと紙に書くと、旦那様に見えてるように、読めない文字に変わってしまうのです。声を出して読み上げることも出来ません。なので呪文も暗記するしかないのです」
伯爵はその侍女の目を探るように見た。
本当か嘘かわからない。
書き写せるものなら、書き写したあと口封じのためにこいつを始末しようと思ったが、それが出来ないのであれば、生かして役立てるしかない。
「わかった。それでは方法はお前に任せる。お前の憎しみと恨みは、私と同じだと考えてくれ。それを踏まえて、あの聖人とフォンベルト侯爵家を地に這わせるような魔術の使い方を考えるんだ」
「かしこまりました」
なんてことだろう、こんなに早くあの女を地獄に送ることができる機会が訪れるなんて。
何度も本を読み、どの闇魔術があの女をより長く苦しめるのか考えた。
ただ呪い殺すといっても、旦那様がいう家族も苦しめるには足りないかもしれない。それだと永遠の苦痛も同じではないか。
魅了も魔物も違う。
そうか、奪えばいいんだ。あの女からすべてを奪ってやる。私からお母さんを奪ったのだから。
あの女があの女として存在する価値、聖人の力だ。まずはそれを奪ってやる。
闇魔術の一つ『奪う』は、その様々な奪うものによってそれぞれの方法が書かれていた。
闇魔術は対象に発動するとその影響は大きいようだった。
例えば、対象の『意識を奪う』の場合、ほんの数秒などではなく、ひと月から数年単位だった。
その期間意識が無ければ、その者の存在が世の中から少しずつ消えていく。
意識が無くとも年は重ねていくので、目が醒めたら老人になっていたということもあり得るのだ。
魅了は、対象に術をかけその者を傀儡にし、王位を狙うこともできる。その術の強さは術者の力量によるようだが、ある意味一番恐ろしい闇魔術かもしれない。
本当に恐ろしいわ、粛清されたのがわかる気がする。私は本当にこの恐ろしい闇魔術を使えるの…?
…違う、使うのよ、覚悟したはずよ。お母さんを見殺しにされた時、わたしの心も死んだの。あとは復讐するだけよ!
聖人の力を奪う。
しかし、その力を私が持ってはダメだ。聞いたことがある、聖人は自害できない。傷を受けてもすぐに回復し、聖人は老衰でしか女神様のもとへは行けないと。
私は、聖人に闇魔術を掛けたら、すぐにお母さんのもとへ逝くのだから。
いるではないか、聖人の力を持つのに相応しい人が、私のすぐそばに。
あの美しいお嬢様こそ聖人であり、旦那様もそれを望んでいるのでは?
お嬢様が聖人となれば、王族と結婚してお妃様になるのでは?
そうなったら旦那様はもっと喜ぶのではないか。
私を救って、このようなチャンスを与えてくれた。感謝している。
私はこの闇魔術を使い、あの聖人が苦しんで死ぬところを見届ければ、すぐに命を絶つつもりだ。
この復讐を理解し、手助けしてくれる旦那様が一番望む方法にしたい。
侍女はこの後、何度も伯爵と相談し、あらゆる情報を得てから計画を立てた。
そしてお嬢様には、聖人の力を持ってもらう、それは本来の姿に戻るだけだと伝えた。
聖人の誕生日に決行することになった。これはお嬢様たっての希望だった。
「あの女の誕生日に色々と絶望させてやりたいわぁ。もう彼は私に夢中だから、婚約破棄するって言ってた!自分の誕生日に婚約破棄なんて、あっははは!悲惨よねぇ、私には最高の誕生日の贈り物だけど。だって私のものをすべて奪ったんだから、返してもらうわ!」
その日、私の闇魔術は発動した。
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