貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

文字の大きさ
48 / 89

42.第三王子リチャード·カイザル①

しおりを挟む
 幼い頃から、側妃から生まれた第三王子として、特に期待されることもなく育った。

 それでも王子として、のちに国王となる異母兄を支えるための教育を受け始めた。

 僕はとにかく平均的だった。
 勉強も魔法も剣術も、どれかひとつでも突出していれば何かが違ったかもしれない。

 王子教育の先生達が話しているのを、こっそり聞いたことがある。

 「リチャード殿下は伸び代を感じませんね。隣国の言葉も、まったく習得できませんから、国王の補佐で外交は無理でしょうな。かといって内政も難しい。せめて騎士団に入れるくらいの剣の技術があれば良かったのに、それも無いとは」

 「早々に爵位を賜って、あてがわれた領地を維持していければ良いのかと。 
 それが聞いた話しだと、陛下は聖人との婚約を考えているようですよ。本当は第二王子が相応しいと誰もが提言したようなのですが、陛下はリチャード殿下と聖人を婚約させると譲らなかったそうです」

 「あぁ!そういうことですか。聖人のフォンベルト侯爵令嬢はとにかく優秀らしいですよ。第二王子のライナルト殿下と婚姻されたら、第一王子の地位が揺らぎかねない。フォンベルト侯爵が、いっそう力を持つのも恐れたんでしょうな」

 「それでリチャード殿下と聖人を結婚させておけば、聖人は国内に留めることができるし、言ってはなんですが、リチャード殿下なら、国王として担ぎ上げる派閥もおらんでしょう。聖人の夫としての役割が出来れば充分ですな。良い落とし所でしょう」

 そうか、僕とは関係無いところで、僕の人生はもう決まっているのだ。
 それなら、勉強も魔法も頑張らなくて良いのでは…?

 王子としてのあるべき姿は自分でも好きだ。品良く優雅に立ち振る舞うのはカッコいいから、マナーの講義は好きだ。

 そして、いつかお姫様のような可愛い子と結婚して、美しくエスコートしたい。聖人がお姫様みたいに可愛いかったらいいな。

 そう、あの時の、あのお茶会の時に出会った、本から出てきたような女の子。

 金色の髪に水色の潤んだ瞳、白い肌はまさにお姫様だった。

 そのうえ、とても心のキレイな子だった。
 木から落ちた鳥の雛を助けようとして、泣きそうになっていた。
 助けられないとわかると涙を流していた。

 見た目も美しいお姫様だったけど、心も美しい女の子だった。あんな女の子がこの世にいるなんて。

 それにほかの貴族の令嬢は、みんな僕を見るとすぐに近くまで寄って来て、媚びるような表情や言葉をかけてくる。 

 だけどあの娘は、僕が第三王子だと知っていても、素っ気ない感じで、それがまた僕には新鮮だった。

 もう一度会いたい。
 あの娘が聖人だったらどんなに幸せだろうか。
 あんなに心がキレイなんだ、きっとあの娘が聖人に違いない。

 でも、あの娘には会えなくなった。
 お茶会に来なくなったのだ。何があったのだろう、心配だった。会えなければ余計に会いたい気持ちが募った。ただ一度きり会えたお姫様、僕の運命の人なんだ。
 シャルルアン・ゴルドー伯爵令嬢。


 その後、僕と聖人の婚約が決まったが、その相手は運命のあの娘ではなかった。

 でも、婚約者の聖人ユリアナ嬢もとても美しかった。
 月の色のような美しい髪に菫色の大きな瞳。
 知的な表情と所作に年下とは思えないほどだった。

 僕はこのお姫様でも、いつか好きになれるだろうと思った。運命のあの娘を思いつつも。

 定期的に会ってお茶会をして、たまに街にこっそり遊びに行って買い物をしたり、観劇したりした。護衛が付き、時間通りに行動して、お互い危険が無いように配慮した。
 いつでも僕は優雅にユリアナをエスコートした。

 誕生日にはセンスの良い贈り物を持って侯爵邸を訪問し、何かあれば手紙を書き、花を贈り、公務で他の領地に行けば必ずお土産を買って届けた。

 聖人として厳しい環境で頑張っているユリアナを労った。
 紳士としての振る舞いは完璧だった。そんな自分が誇らしかった。

 ユリアナも会うたびに少しずつ表情が和らいでいき、1年もすると僕に懐いてきた。
 会って僕の顔を見ると、嬉しそうに頬を染めてたくさん話しをした。

 ただユリアナの話しは、魔物や瘴気が無くなるにはどうしたら良いかとか、そのために国として他にどのような方法を考えれば良いか、被害にあった国民を救う対策についてとか、少し面倒な話しが多かった。

 美しい王子様とお姫様はそんなことは考えないで、国民の憧れでいればいいんだ。
 ましてやユリアナは聖人という、この世界に唯一の美しい存在なんだから。

 そう言うとユリアナは、更に頬を染めて俯いた。
 僕は美しい王子様という役割を、紳士という役割を優雅にこなし、ユリアナの婚約者として過ごしていった。
 でも、心の片隅にはいつもあの娘がいた。

 ユリアナをエスコートする時も、もしこれがあの娘だったらと思う時があった。
 あの娘のあの潤んだ瞳で見つめられたら、あの時の小さな指にまた触れることができたら。
 僕はその時、冷静でいられるだろうか。


 その数年後、その時はやってきた。

 「あっ、申し訳ありません…私少し気分が…」

 僕を見上げたその瞳は、あの時のあの瞳だった。
 潤んだ水色の瞳、金色のふわふわした髪。
 あの時のままのお姫様が目の前に現れた。

 信じられなかった。夢かと思った。
 また会えるなんて!
 僕の運命のお姫様!

 あぁ、か弱い君をこの腕に抱き締めて、僕が一生守ってあげたい。

 「体調が悪いようだね、僕が医療室まで案内するよ」

 護衛は怪訝な表情をしていたが、ユリアナはなんの反応も見せなかった。
 大丈夫だ、僕が紳士だから、いつでも誰にでもスマートな対応をしていることを知っている。

 運命のあの娘だ、あぁ、この心も姿も美しいこの娘が、今僕の隣にいて、肩を抱いている!
 夢のようだ…!

 やはりあの時のシャルルアン嬢だった。
 しかも、シャルルアンも僕をずっと思っていたなんて!これはもう真実の愛だ!
 ああ、女神様、いつも頑張っていた僕に、最大のご褒美をありがとうございます。

 それからは、もう僕の目にも心にも生活にも、シャルルしか存在しなくなった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

処理中です...