貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

文字の大きさ
46 / 89

40.第一騎士団団長ジョーデン①

しおりを挟む
 俺は子供の頃から体格に恵まれ、頭もそこそこ良かった。剣術を習い始めると、その才能は開花した。

 恵まれた体格に、相手の戦力や技を分析する能力、力技だけではない、知力も伴う俺の剣に敵う者はいなかった。

 学院の剣術大会で俺に勝てる者がいなかったので、剣術の先生から、王家主催の剣術大会の出場を勧められた。

 俺は過去の剣術大会の結果が保管されている王立図書館に行った。
 過去に誰がどのような結果で勝ち上がったのか、技や勝つまでの時間、勝った者の所属などを調べた。

 その大会の日、まったく負ける気はしなかった。
 調べた限り、一人だけもしかしたら勝てないかもしれないと思った人物は、今回不参加だった。魔物の討伐があるらしい。

 案の定、俺は優勝した。
 学院生が、現役の騎士達を打ち負かしたのだ。

 国王陛下から直々に、陛下の護衛を主な役割とする、第一騎士団に入団するよう声をかけられた。第一騎士団は、騎士を目指している者が最も憧れる騎士団だった。

 国王陛下の勧誘を断ることなど出来るはずもなく、俺はそのまま第一騎士団の入団手続きをした。

 それからは、あっという間だった。
 気が付けば団長となり、かなりの人数の部下を従えていた。

 そんな時だった。とてつもない魔力とスキルを持った子供が、フォンベルト侯爵家の私兵として存在していることを知った。

 魔法師団長が、その子供に魔力操作を指導することになり、陛下の許可を得るためこの話しが表沙汰になった。

 所詮魔力があっての強さだ。肉体だけの強さなら俺には敵わないだろう。

 今までで俺より強いかもしれないと感じたのは、第二騎士団の前団長ライエムだけだった。

 その噂は驚くものだった。
 両手に剣を持ち、大型の魔物でも一瞬にして切り裂く素早さと、無駄の無い動きは一般騎士の10人分の働きをしたそうだ。

 そのライエムも、ひとり息子のジミールに団長を引き継ぎ退団した後、前聖人ローズマリアに執着し、あとを付け回すなどして厳重注意を受けたり、自身の妻に暴力を奮ったり、晩年は孤独だったようで、亡くなったあと、一月以上経ってから発見されたそうだ。

 第二騎士団は魔物討伐のための編成をしており、剣術大会にはほとんど参加しないので、ライエムのその強さを知る者は少なかった。

 それに、強いと言っても所詮第二騎士団だ。強いだけの愚か者だ。
 第二の教養も品位も無い、第一に入団できない格下の人間なのだ。
 俺が第一騎士団に在籍する限り、俺に敵うものはいない。
 そう思っていた。

 騎士団内でも噂になっていた。

 「おい聞いたか?すごい奴がいるらしいぞ。なんでもフォンベルト侯爵のとこの私兵で、まだ子供なのに剣の腕も凄いうえに、魔力がとんでもない量らしい。しかもスキルがあるそうだ」

 「あー聞いたぞ!そのスキル、凄いらしいぞ、威嚇だってよ!発動させたら生き物は動けなくなるそうだ」

 「本当か、それ?騎士が持っていたら最高のスキルだな。しかし初めて聞いたな、突然変異なのか?」

 強い者には特に興味が強くなるのは騎士の習性かもしれない。
 騎士ならば、誰もが欲しいであろうスキルを持った子供が注目されるのは当然の話しだ。

 なぜかイライラした。
 今まで一番強かったのは俺だ、俺以上に強い者はいなかった。

 誇り高い第一騎士団団長となり、英雄のような羨望の眼差しで見られていた。

 ただ、それから何年経っただろう。

 年々少しずつ衰えは自覚していた。
 でもまだだ、まだ俺はやれる。
 そんな胸の内で葛藤している時に現れた、俺よりも最強かもしれない人間が。

 魔力だかスキルだか知らないが、俺は実力で勝ち上がってきた。そんな運良く手に入れた魔法で強いなんて、そんなものは本物の強さじゃない。

 そいつに魔力が無ければ、純粋な剣の腕前なら俺の方が絶対に強い。

 ただ、俺は気になって仕方なかった。

 いつか俺を破りに来るのではないか、大勢の部下の前で、無様に膝を着く日が来るのではないか。

 国王陛下に別件で呼ばれた時に提言した。

 「陛下、フォンベルト侯爵家のスキルを持った兵の様子を一度確認しておきたいのですが」

 「なんだジョーデン、国内最強の騎士が私兵ごときを気にかけるとは」

 陛下には、見透かされているようで悔しさが込み上げた。

 「いえ、もし私怨のためにその魔力を使われたら、陛下にどのような火の粉が降りかかるか確認しておきたいのです」

 「ああ、ルイが言っていたな。なんでも過去にそのスキルで、王家を脅かすまでの者がいて粛清されたと」

 やはり危険だ。私の力でも陛下をお守り出来なかったなど、あってはならない。

 「わかった、見てきてくれジョーデン。ルイが侯爵家に魔力操作の指導に行っている。それに同行してくれ。イカれた奴なら早めに引き取って、対処しないとならないな」
 陛下はニヤリと笑った。

 ルイ魔法師団長に話し、フォンベルト侯爵家に行く時に同行すると伝えた。

 「ジョーデン騎士団長も気になりますよね、やっぱり。一度は王家に粛清された魔力ですからね。
 でも彼、魔力無しでも凄いんですよ。まあ見てもらった方が早いですね」

 侯爵邸の鍛練場に入った。
 大勢の私兵の中にいたその少年はすぐにわかった。

 大人よりもまだ少しだけ背が低いが、動きが普通のそれではなかった。

 大柄な私兵5人に囲まれているが、やられる気配がまったく無いどころか、眼光は鋭く、無駄な動きが一切無い。
 足の位置もブレが無く、余程鍛えないとあの俊敏さは得られないはずだ。
 黒い髪を後ろで縛り、金色の瞳で鋭く獲物を捕らえる。
 まるで狼だった。

 私兵が次々と倒れていった。

 「クソッ!ジュリアンめ!お前また強くなってないか!?畜生っ、悔しい!」

 「とうとう5人かよー、お前俺たちより強くなってどうする?」

 「はぁー、明日またやるぞジュリアン!次はもう副私兵長も入ってもらおう」

 皆で笑っていた。このジュリアンと呼ばれている少年に負けて、悔しいというより、喜んでいるように見えた。

 当の本人は汗をかき、息を切らしてはいるが涼しい顔をしていた。
 この時点で俺は背中に嫌な汗をかいていた。

 初めてだった。人の剣を見て、余裕をなくすことなど、今までただの一度も無かったのに。

 不気味とさえ思った。
 こんな奴がいたら、この剣術の腕前に魔力も加わったら、俺どころか騎士団全員が瞬殺だろう。

 「やあ、君がジュリアン君だね。私は第一騎士団団長のジョーデンだ。君の剣を見せてもらったよ。5人も相手にしてるんだね」

 「まだまだです。5人くらいでこんなに時間がかかっていては遅すぎる。もっと鍛えないと」

  「ハハハ、あれでまだまだとは、君の理想はどこまでなんだい?」

 子供の物言いだったが、笑うしかなかった。あんなこと、うちの騎士団員でも無理だ。

 私でも、自分より大きな手練れの騎士5人相手に、あそこまで出来るのか…

 「おれ… 私は、大切な侯爵家の旦那様とそのご家族、屋敷の使用人の全員を、私だけで守れる事が目標です」

 真剣な瞳だった。
 鳥肌が立った。
 この少年なら出来るだろうとすぐに理解したから。

 恐ろしかった。初めて人に対して恐ろしいという感情を持った。
 魔力を使わなくてこれなのだ。

 「そうかそれは凄いな。君なら出来るだろう」

 握手をしようと手を出すと、少年も手を出して俺の手を握った。

 わからない、魔力のせいなのか、ただ単にこの少年の力なのか、握られた手に込められた力に、この少年の覚悟と、誰も我が主人には近寄らせないと忠告された気がした。

 駄目だ。
 早く、出来うる限り早く、この狼を潰しておかないと。俺の脅えからくる心の声がした。






しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

処理中です...