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45.断罪①
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私の身体は、ただただ衰弱していった。
その年の、冬の寒い朝に、私の専属侍女のアンナが、ノックもせずに部屋に駆け込んできた。
「お嬢様っ!!お許しください!このアンナがお嬢様を絶対にお守りしますから!!」
アンナが私のベッドに飛び乗り、寝ている私の上に覆い被さり、私の頭を両腕で抱え込んだ。
この頃の私は、ほぼ1日をベッドの上で過ごしていた。
起き上がるのは、食事が取れそうなときとバスルームに行くときだけだった。
突然騒がしくなった外の様子に緊張していたところに、アンナが駆け込んで来たことで不安が恐怖に変わった。
侯爵邸に第二騎士団がなだれ込むように入ってきたそうだ。
早朝に起こった暴挙に、我が侯爵家の私兵は何が起きたのか理解する間もなかった。
王家騎士団が容赦なく振りかざす剣に応戦するが、王命であろう騎士団に刃を向けることは出来ず、それでも抵抗したものは反逆罪として斬り捨てられるか捕縛された。
私の部屋の前にいた護衛騎士は、抵抗した末に斬り捨てられていた。
「お願いです!やめてください!お嬢様は病気なんですっ」
私を守るように抱えていたアンナを、騎士が無理やり引き剥がし、アンナを床に叩き付けた。
「アンナ…アンナ…!」
「…ぐっ、うぅ…」
アンナは、投げ付けられた先にあった硬いテーブルに打ち付けられたようで、声をかけても起き上がることが出来ない。
侯爵家の令嬢であり聖人、しかも見るからに病人に対する配慮もない乱暴な扱いで、有無も言わさずベッドから引きずり出された。
そして、馬車に投げ入れるように乗せられた。
「乱暴はよせ!」
ひとりの騎士が、私を馬車の中に乱暴に投げ入れた騎士に向かって言った。
「お前、あとでジミール団長の罰を受けろ」
そう言うと、
私を庇ってくれた騎士も馬車に押し込み、乱暴に扉を閉めた。
その騎士は優しく私を抱えると、座席に座らせてくれた。合図もなく走り出す馬車に、座席から落ちそうになると、私の体に腕を伸ばし支えてくれた。
「どうして……」
この仕打ちは何…?どうして…?
「申し訳ありません、こんなこと本当はあってはならないのに…!ユリアナ様、お力になれず申し訳ありません…!」
顔を上げその人を見ると、カイル·ヒューリー様だった。
苦し気に顔を歪めていた。
そして、周りの騎士に聞こえないように、小声でこの状況を話してくれた。
第三王子とその親しくしている令嬢が、貴女を裁くと言い、侯爵家から、何がなんでもユリアナを連れて来い、抵抗する私兵は反逆罪で捕縛または斬り捨てて良い、という命令を第二騎士団に出した、ということだった。
「裁くとは何を…?」
理解が出来なかった。
なぜこんな奇襲の様な方法で?しかも覚えのない罪を裁くとは…
秩序ある国の法律では、到底許されるはずのない暴挙である。
「第三王子殿下の命令だからと、第二騎士団の誰もが何の疑問も持たず出兵しました…」
馬車は王宮の裏口に付けられた。
リチャード様と、お茶会でよく使用していた応接室に、カイル様ともう一人別の騎士に誘導された。
ぴったりと隙間無く寄り添う二人。リチャード様と、この数ヶ月リチャード様の隣に当たり前のようにいたシャルルアン・ゴルドー伯爵令嬢。
二人の前まで歩かされた。
「やっと来たか、相変わらず聖人ぶって生意気な女だ」
リチャード様が低い声で冷ややかに言葉を発した。
そして、私の罪を罰すると言い、そのあとにシャルルアンが話した内容は、耳を疑うものばかりだった。
ユリアナ様から暴言を吐かれた、暴力をうけた、私物を壊された、殺されそうになったとシャルルアンが涙声で訴え始めた。
しかもきっちり証拠品と証人を揃え、してもいない事を本当の事にしてみせた。
立っているのも辛い状態だったが、この二人に弱っている姿を見せることは私自身が許せない。
(しっかりするのよユリアナ)
自分で自分を叱咤し、足を踏ん張り背筋を伸ばす。
「私は女神様に誓って、今この方が仰った罪は何一つ身に覚えがございません」
リチャード様が、微かに眉間にシワを寄せ、小さなため息をついた。
「ユリアナ、ここまで証拠が揃っていてそれは道理が通らないよ。シャルルは…シャルルアン嬢は君がここで誠心誠意謝罪をすれば、罪には問わず裁判にもかけないと言ってくれているんだ。わかるよね、悪いことをしたら謝るんだよ」
私が知る穏やかで優しい声色で話すリチャード様はもういない。
その言葉には怒りしか含まれていない。
「殿下、してもいない事に謝ることも道理が通りませんのでは?」
リチャード様の横にぴたりとくっついていたシャルルアンが、全身をプルプルと震わせながら、こちらを睨み付けてくる。
「ユリアナ様!罪を認めてください!そこに跪いて謝れば、許してあげます! …リチャードさまぁ…私また思い出して怖くなってきましたぁ…」
リチャード様の胸に縋りつき、グスグスと泣き出した。
リチャード様は、シャルルアンのその縋る頭を優しい手つきで撫でたあと、その頭に口づけた。その光景に、まだ胸が痛む自分がいた。
「リチャード様、私はその方にお会いしたのは2回だけです。私から声をかけたことはございません。もう一度お調べください。裁判にかけてくださって───」
「嘘よっ!また嘘を言うんですか!?ユリアナ様はズルいですっ」
リチャードさまぁ、とまた胸にすがり付く。
リチャード様があからさまにため息をつき、私に向き直った瞬間、女は胸に埋めていた顔を少しこちらに向けてニヤリと笑った。
「……ユリアナ、君は謝れば良かったものを。謝らないのであれば、君との婚約も破棄させてもらう。このような罪を犯すものを妻には出来る訳がない。
それに君は聖人ではなかったではないか。魔力も無いのに聖人を名のるなんて大罪だ。
でも、ここにいるシャルルは、最近になって後天的な体質で魔力が増えてきて、聖人としての仕事も始めているんだよ。
私と君の婚約は君が聖人であって、国のために尽くすということで結ばれたものなんだ。聖人が他国に嫁がれたら困るからね。だから、今の君では婚約を継続する理由もない」
私が今まで怪我人や病人を治療したり、瘴気を浄化してきたのに、それは無かったことになっているの?
私の今のこの姿を見て何も思わないなんて…
リチャード様の腕にすがり付き、輝く金色の髪をフワフワと揺らしながら、
「リチャードさまぁ、私、魔法師の先生に浄化魔法が上手くなってきたって褒められたんですぅー。だって魔力があるなら皆の助けをするのは当然ですもの!私もっと頑張りますね!」
優越感のこもった表情で私を見て口角を上げる。
リチャード様の角度からはシャルルアンの表情は見えず、
「ああ、シャルルよく頑張っているね。酷い嫌がらせにも心折れず、健気に努力する姿は私の心を捕らえて離さないんだ、私の愛しい人。私の真実の愛。
君には皆が期待しているよ。真の聖人となって私やこの国を支えておくれ」
そう言って、彼女の肩にかけた手をぐっと引き寄せ、愛おしそうにシャルルアンを抱き締めた。
リチャード様の心が完全に彼女のものとなり、愛おしそうに触れる仕草に、このような状況となった今でも胸が張り裂けそうだった。
彼の心に私の愛は届いていなかった。
そうか、もともとリチャード様は私が思うほどの愛情を、私にはもっていなかったのだ。
政略結婚というものを彼は正しく理解していたのだ。
その年の、冬の寒い朝に、私の専属侍女のアンナが、ノックもせずに部屋に駆け込んできた。
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早朝に起こった暴挙に、我が侯爵家の私兵は何が起きたのか理解する間もなかった。
王家騎士団が容赦なく振りかざす剣に応戦するが、王命であろう騎士団に刃を向けることは出来ず、それでも抵抗したものは反逆罪として斬り捨てられるか捕縛された。
私の部屋の前にいた護衛騎士は、抵抗した末に斬り捨てられていた。
「お願いです!やめてください!お嬢様は病気なんですっ」
私を守るように抱えていたアンナを、騎士が無理やり引き剥がし、アンナを床に叩き付けた。
「アンナ…アンナ…!」
「…ぐっ、うぅ…」
アンナは、投げ付けられた先にあった硬いテーブルに打ち付けられたようで、声をかけても起き上がることが出来ない。
侯爵家の令嬢であり聖人、しかも見るからに病人に対する配慮もない乱暴な扱いで、有無も言わさずベッドから引きずり出された。
そして、馬車に投げ入れるように乗せられた。
「乱暴はよせ!」
ひとりの騎士が、私を馬車の中に乱暴に投げ入れた騎士に向かって言った。
「お前、あとでジミール団長の罰を受けろ」
そう言うと、
私を庇ってくれた騎士も馬車に押し込み、乱暴に扉を閉めた。
その騎士は優しく私を抱えると、座席に座らせてくれた。合図もなく走り出す馬車に、座席から落ちそうになると、私の体に腕を伸ばし支えてくれた。
「どうして……」
この仕打ちは何…?どうして…?
「申し訳ありません、こんなこと本当はあってはならないのに…!ユリアナ様、お力になれず申し訳ありません…!」
顔を上げその人を見ると、カイル·ヒューリー様だった。
苦し気に顔を歪めていた。
そして、周りの騎士に聞こえないように、小声でこの状況を話してくれた。
第三王子とその親しくしている令嬢が、貴女を裁くと言い、侯爵家から、何がなんでもユリアナを連れて来い、抵抗する私兵は反逆罪で捕縛または斬り捨てて良い、という命令を第二騎士団に出した、ということだった。
「裁くとは何を…?」
理解が出来なかった。
なぜこんな奇襲の様な方法で?しかも覚えのない罪を裁くとは…
秩序ある国の法律では、到底許されるはずのない暴挙である。
「第三王子殿下の命令だからと、第二騎士団の誰もが何の疑問も持たず出兵しました…」
馬車は王宮の裏口に付けられた。
リチャード様と、お茶会でよく使用していた応接室に、カイル様ともう一人別の騎士に誘導された。
ぴったりと隙間無く寄り添う二人。リチャード様と、この数ヶ月リチャード様の隣に当たり前のようにいたシャルルアン・ゴルドー伯爵令嬢。
二人の前まで歩かされた。
「やっと来たか、相変わらず聖人ぶって生意気な女だ」
リチャード様が低い声で冷ややかに言葉を発した。
そして、私の罪を罰すると言い、そのあとにシャルルアンが話した内容は、耳を疑うものばかりだった。
ユリアナ様から暴言を吐かれた、暴力をうけた、私物を壊された、殺されそうになったとシャルルアンが涙声で訴え始めた。
しかもきっちり証拠品と証人を揃え、してもいない事を本当の事にしてみせた。
立っているのも辛い状態だったが、この二人に弱っている姿を見せることは私自身が許せない。
(しっかりするのよユリアナ)
自分で自分を叱咤し、足を踏ん張り背筋を伸ばす。
「私は女神様に誓って、今この方が仰った罪は何一つ身に覚えがございません」
リチャード様が、微かに眉間にシワを寄せ、小さなため息をついた。
「ユリアナ、ここまで証拠が揃っていてそれは道理が通らないよ。シャルルは…シャルルアン嬢は君がここで誠心誠意謝罪をすれば、罪には問わず裁判にもかけないと言ってくれているんだ。わかるよね、悪いことをしたら謝るんだよ」
私が知る穏やかで優しい声色で話すリチャード様はもういない。
その言葉には怒りしか含まれていない。
「殿下、してもいない事に謝ることも道理が通りませんのでは?」
リチャード様の横にぴたりとくっついていたシャルルアンが、全身をプルプルと震わせながら、こちらを睨み付けてくる。
「ユリアナ様!罪を認めてください!そこに跪いて謝れば、許してあげます! …リチャードさまぁ…私また思い出して怖くなってきましたぁ…」
リチャード様の胸に縋りつき、グスグスと泣き出した。
リチャード様は、シャルルアンのその縋る頭を優しい手つきで撫でたあと、その頭に口づけた。その光景に、まだ胸が痛む自分がいた。
「リチャード様、私はその方にお会いしたのは2回だけです。私から声をかけたことはございません。もう一度お調べください。裁判にかけてくださって───」
「嘘よっ!また嘘を言うんですか!?ユリアナ様はズルいですっ」
リチャードさまぁ、とまた胸にすがり付く。
リチャード様があからさまにため息をつき、私に向き直った瞬間、女は胸に埋めていた顔を少しこちらに向けてニヤリと笑った。
「……ユリアナ、君は謝れば良かったものを。謝らないのであれば、君との婚約も破棄させてもらう。このような罪を犯すものを妻には出来る訳がない。
それに君は聖人ではなかったではないか。魔力も無いのに聖人を名のるなんて大罪だ。
でも、ここにいるシャルルは、最近になって後天的な体質で魔力が増えてきて、聖人としての仕事も始めているんだよ。
私と君の婚約は君が聖人であって、国のために尽くすということで結ばれたものなんだ。聖人が他国に嫁がれたら困るからね。だから、今の君では婚約を継続する理由もない」
私が今まで怪我人や病人を治療したり、瘴気を浄化してきたのに、それは無かったことになっているの?
私の今のこの姿を見て何も思わないなんて…
リチャード様の腕にすがり付き、輝く金色の髪をフワフワと揺らしながら、
「リチャードさまぁ、私、魔法師の先生に浄化魔法が上手くなってきたって褒められたんですぅー。だって魔力があるなら皆の助けをするのは当然ですもの!私もっと頑張りますね!」
優越感のこもった表情で私を見て口角を上げる。
リチャード様の角度からはシャルルアンの表情は見えず、
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君には皆が期待しているよ。真の聖人となって私やこの国を支えておくれ」
そう言って、彼女の肩にかけた手をぐっと引き寄せ、愛おしそうにシャルルアンを抱き締めた。
リチャード様の心が完全に彼女のものとなり、愛おしそうに触れる仕草に、このような状況となった今でも胸が張り裂けそうだった。
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