貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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57.剣術大会

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 その日は訪れた。

 私とお兄様は、この日のために調整していた。
 
 お兄様に、私が死に戻ったことを話してから、私とお兄様の絆は更に強固になった。

 このような突拍子もない話を、お兄様はまったく疑う事なく信じてくれた。

 あの処刑された時、またこの家族の元に生まれたいと願った私は、間違いじゃなかった、また何度でもこの家族の元に辿り着きたい。

 「ユリアナ、面白いもんだね。ジュリアンはまだ回復していないけど、侯爵家のメンツにかけて出場させると噂を流したら、あのゴリラたち、優勝は団長だー!って騒いでたよ!アッハハハ!俺は吹き出しそうになるのを堪えるのに必死だったよ!アハハハ!」

 お兄様が楽しそうだわ。
 もちろん私もとても楽しみにしていた、今日という日を。

 「ジュリ、あなたを利用するように、こんな風に大会に出場させることを許して欲しいの」

 私は、ジュリを酷い目に遭わせた奴らをどうしても許せない、この剣術大会でジュリが勝ち抜けば、そいつらを痛い目に遭わせることができる。
 それに協力して欲しいとジュリに話した。

 「そこで優勝すれば良いんですね?それなら俺にご褒美をください。俺は間違いなく優勝するので、あとから無かったことには出来ませんよ?」

 珍しくジュリが饒舌で、ワガママのような物言いに少し嬉しくなった。

 「もちろんよ!何でもいいわ!ジュリの希望するものを何でも用意する!」

 ジュリは自分で言ったくせに、え?という顔をしたあと、顔を真っ赤にさせた。耳まで真っ赤だ。

 え?どういうこと…?

 「ジュリアン… お前の考えていることは、お前が無理だ。そうだな、ユリアナ、ジュリアンへのご褒美はピクニックにしよう」

 え?お兄様が決めてしまっては、ジュリのご褒美にならないのに…。

 「…はい、それが良いです…。それでお願いします」

 え?いいの?ジュリ…大丈夫かしら?
 まだ顔が真っ赤だけど…?

 
 当日は国中がお祭りのように盛り上がっていた。平民の間では、誰が優勝するか予想するのが、楽しみのひとつだ。

 「第一騎士団の団長様に決まってるだろ!」

 「お前知らないのか?今第三騎士団て言って、その団長様が育ててる騎士様が強いんだとよ!」

 「お前こそ何も知らないな?侯爵家の狼って聞いたこと無いのか?目だけで人を倒す力を持ってるそうだぞ」

 競技場には立ち見も含めて満員の人集りだった。

 平民の席と、騎士団員の席、貴族の席と決められた場所には、国民全員いるのではと思うくらいの人だった。

 私たち高位貴族は、王家の近くに席があり、私たち家族と私兵長と私兵5名、執事のマーカスと、お母様の専属侍女のヘレンと私の侍女のアンナも連れてきた。

 「お嬢様!私、初めて剣術大会を見ます!ジュリアン様、勝てますか?」

 「アンナ、そう言えば剣術大会は初めてね?大丈夫よ、ジュリアンが負けるわけないわ」

 良かったー!と言ってアンナはお菓子をもりもり食べていた。アンナが元気で良かったわ…。

 チラッと王家の座席の方を見ると、リチャードがこちらを見て手を振っていた。
 私はマナー講師に訓練された、なんの感情もわからせない貼り付けたような笑顔を向けた。リチャードが、ほんの少し戸惑った表情をしていた。

 あなたにいつまでも夢中だと思っていたら大間違いよ。そのうち猿のようにシャルルアンに盛るかと思ったら、吐き気がするわ。

 
 国王陛下の開始宣言のあと、時間通りに大会が始まった。

 剣術大会は、純粋に剣の技術を競う大会のため、魔力があっても無くても、出場者全員が魔力拘束具を付けて出場する。

 そしてその上で、ルイ師団長が結界を張り、魔力を少しでも発動した者が分かる仕組みになっていた。


 見ているのもあっという間なくらい、秒殺でジュリが勝ち上がっていった。
 ジュリはほとんど動かずに、相手をいなしてすぐに勝負を決めていた。

 「お嬢様!ジュリアンはま、ふごいでふね!」

 「アンナ、お菓子を口に入れながら喋ってはダメよ?」
 
 「…んんっ!すみませんお嬢様、このお菓子美味しくて止まらなくてー」

 もはやアンナが何をしに来たのかわからなくなってきたけど、アンナが喜んでるならいいわ…。

 いよいよ決勝となり、最後の対戦相手のジョーデンとなった。

 ジョーデンは、ジュリの試合をすべて見ていたのだろう。顔色を無くし、引きつった表情をしていた。

 ジュリを亡き者にしようとしたお前を、今度はジュリがお前を終わらせる番よ。

 横の国王陛下をチラッと見ると、微かに口角を上げて中央に立つ二人を見ていた。

 試合が始まった。
 ジュリを前にして焦ったのだろう、ジョーデンが先に仕掛けた。

 ジュリは今までの試合となんら変わりないといった感じで、さらりとジョーデンをいなし、一撃を加えた。
 
 しかし、そこは今までの騎士たちとは違った。何とか持ちこたえたジョーデンは、余裕のない表情で、

 「貴様ぁーっ!!」
 と言いながら、またジュリに向かって行った。
 気が付くと、ジョーデンは地面に這いつくばっていた。

 一瞬耳が痛いほどの静寂から、民衆の歓声が怒号のように競技場に渦巻いた。

 競技場の中央に立つジュリは、私たちの方を見て笑っていた。

 しかし、愚かなジョーデンは負けを認めなかった。

 「コイツは魔力を使った!こんな卑怯者が優勝なんて認めない!もう一度確認して再戦だ!」

 ルイ師団長が、国王陛下の元に行き、何か伝えている。

 「ジュリアン·エトール兵士が魔力を使っていないことは、ルイ·エンバリー魔法師団長が確認している。この試合は有効だ」

 「しかし陛下!この魔力拘束具に細工がしてあります!だからコイツが魔力を使えたのだと!コイツは卑怯者です!私が負けるわけがない!」

 「…わかった、それならお互いの魔力拘束具を交換しろ。そして次に勝った者が真の勝者だ」

 ルイ師団長が競技場に降り、魔法師数人で拘束具を交換した。

 これで良いな?とルイ師団長がジョーデンに確認した声が聞こえた。

 「これで俺が優勝だ」
 ジョーデンは挑発するようにジュリに向かって言葉を発した。

 ジュリは、ジョーデンが愚かしく叫んでいる間も、ずっと私の方を見てただニコニコしていた。

 再び試合の合図が鳴ると、鳴ったと同時にくらいに、ジョーデンは無様に地面に叩きつけられていた。

 ジュリがしたことは、右足を一歩前に出し、剣を振り抜いただけだった。

 ルイ師団長の魔力を侮辱し、負けを認めない愚かな姿を晒した挙句、地面に膝どころか全身を叩きつけられて、カエルのような姿となって無様に負けた。

 民衆からは、失望のヤジが飛んでいた。

 部下に抱えられることも拒み、顔を覆いながら退場して行った。
 
 お兄様と私は顔を見合わせて微笑んだ。
 まずは一人目。もう一人はと、陛下の方を見ると、明らかに表情を無くしていた。

 魔力を使わなくても、圧倒的なジュリの強さを目の当たりにした。
 ジュリの強さを甘く見て、中途半端に虐げようとした自身の愚かさを後悔すればいいわ。

 
 その後、ジュリはその国王陛下から、優勝の証の勲章を受け取っていたが、それを渡す陛下の手が不自然なくらいに震えているのが見えた。

 ジュリはその勲章を受け取ったあと、手を振りながら競技場を一周して、その勲章を近くにいた平民の子供にあげていた。

 それを見たお兄様は吹き出して笑い、お母様に叱られていた。

 ジュリは私たち家族の座っている方に来ると、階段を駆け上がり、お父様を素通りして私の前に跪き、私の手を取ると、
 
 「優勝しました。ご褒美をいただきます」
と言って、私の手の甲に唇を付けた。

 そして、その輝く瞳で見つめられると、私の心臓がまたドクンと跳ねた。

 「ジュリアン、わしを素通りとはやるな?」
 
 その後、お父様とジュリは、子供の喧嘩のようにじゃれ合っていた。




 
 

    
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