貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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60.あの日の誕生日

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 前回の時の誕生日の事を思い出すと、悔しさで魔力が暴走しそうになる。

 アンナが持ってきたリチャードからの手紙は、前回の時とまったく同じだった。

 前回は淡い期待をして、少し浮かれながらドレスを着たわね。
 あの時の可哀想なユリアナを抱き締めてあげたいわ…。

 「お嬢様、せっかくのお誕生日ですのに、このワンピースでよろしいのですか…?」

 今日は、リチャードのために着飾ることはしない。レストランのドレスコードに反しない程度の、もしまたアンナが、あの女に殴られでもしたらすぐに動けるように服を選んだ。
 
 「えぇ、良いのよ、アンナ。今日はね、動きやすい服が一番なの!
 でもね、帰ってきたら、お母様が今日のために作ってくださったドレスを着るわ。その時はまたお願いね!」

 「はい!わかりました!」

 前回と同様に、アンナと私兵長と、私兵3人と、今回はジュリにエスコートしてもらうことにした。

 「ジュリ、何度もごめんなさい。いい?私が何をされても、とにかく我慢してね?私が助けて欲しい時は必ずお願いするから」

 「…わかりました。でもお嬢様が少しでも傷付くような事があれば、黙っていられるかわかりません」

 それはわかったとは言わないのだけど、ジュリは私に忠誠を誓ったから仕方ないのよね…。

 カムデン私兵長には、ジュリのいない時に、私に何かあってジュリが動こうとしたら、止めて欲しいとお願いしておいた。

 私兵長は、
 「ジュリアンを止める、ですか?
 お嬢様に何かあった場合のジュリアンを止められる人間はこの世に存在しませんが、お嬢様の頼みとあれば努力致します」
と苦い表情をしていた。
 なんかごめんなさいと言っておいた。

 レストランの馬車止めから、また気持ちの良い木々の間を歩いていると、やはり現れた、あの女と赤毛の侍女。

 「ユリアナ様、初めましてぇ、私シャルルアンですぅ!えーっと私のこと知ってますよねぇ?」     

 はぁ、こんなマナーも教養もない女に命を奪われたのかと思うと、情けなさすら感じる。

 私の後ろにいるジュリから、殺気を感じるが、視線を送り落ち着くようにうなずいてみせた。

 「どなたかしら?私は侯爵家の者ですけど、貴女を存じ上げないので、私より上位貴族ではないわね?
 私より下位貴族の者が、許可もなく話しかけてくるなんて、貴女、マナーってご存知?あら失礼、知っていたら話しかけてこないわよね」
  
 私はお母様からお借りした扇子を口元に持っていき、クスクスと笑ってみせた。

 「…っ!なっ、なによ!私のこと知ってるでしょ!? 私はリチャード様と、とーっても仲の良い恋人よ!シャルルアン·ゴルドーよ!」

 「シャルルアン·ゴルドー… ゴルドー伯爵家のご令嬢でしたか。どおりで…クスクス 貴女のご両親に、本日の貴女の無礼な行動を、侯爵家から正式に抗議させていただきますね?
 それから、リチャード様の恋人、と仰ってましたけど、私はリチャード様の婚約者よ?
 恋人とは、どのようなご関係なのかしら…?私は婚約者ですので、将来はリチャード様の妻になりますけど…貴女は今のところ…クスクス リチャード様の欲求のはけ口?かしら、クスクス
 あらごめんなさいね?娼婦だなんて、はしたないことを言ってしまって、クスクス」

 シャルルアンは、顔を真っ赤にして喚き出した。

 「なによっ!アンタなんか、リチャード様に見向きもされてないくせに!リチャード様は私に夢中なのよ!私たちは運命の恋人同士なの!
 アンタなんかもう終わりよ!リチャード様のお姫様は私なんだから!」

 凄いお顔ね…魔物より醜いわ。
 そんな顔で喚かなくても差し上げるのに、あんな男。

 でも、レストランの従業員の方も、何事かと出てきてくれたし、証言は取れそうだからこの辺でいいわね。
 ジュリももう待てが限界のようだし。

 「そうですか、貴女とリチャード様は運命の恋人だと…。それで?私に何か用があったのでは?」

 「そ、そうよ!アンタに言いたい事があったのよ!」

 そして、いよいよ私に近付くと、前回の時と同じように、やはり侍女が私の背中側に回った。
 ここでも手出ししないようアンナや私兵長に合図し、されるがままに2度目の闇魔術を掛けられた。
 
 わかっていれば、それほどでもないわね。
 背中から胸にかけて刺激を感じたが、それ以上何も無いことは前回の時でわかっている。

 「アンタはもう終わりよ?アハハハ、今私を馬鹿にしたこと、後悔するわよ!」

 「あら、馬鹿にされたことは理解できてたのね?クスクス でもね、終わるのは貴女よ?残念ね?」

 シャルルアンはまた顔を真っ赤にすると、
 「アンタの事は全部リチャード様に言ってやるからっ!」

 とまた冤罪をひとつ作り上げたのか、捨て台詞を吐いて消えて行った。

 「はぁ、ああいう人種を相手にすると疲れるわね…」

 「お嬢様、ジュリアンを抑え込むのに三人がかりでした… 次回このような場面がある時は、ジュリアンは待機でお願いします」

 私兵長と私兵二人が、汗まみれだった。私よりも遥かに疲れていた。

 「皆さんごめんなさい!ジュリもごめんなさい。でもジュリ、私お願いしてたのに!」
 
 「お嬢様、追いかければアイツの首を斬れます。指示してください」

 「ジュリ!約束したでしょ、私がお願いしたら助けてって。今日はお願いよ?約束守ってね?」

 この一連のやり取りを、一番間近で見ていたアンナが喋りだした。

 「お嬢様!すごかったです!私、驚きました!お嬢様が、旦那様を叱っている時の奥様のように見えて、やっぱり親子なんだなーって思いました!お嬢様、カッコよかったです!」

 アンナの言葉に、ジュリすら固まっている。
 誰もコメント出来ない事は言わない方が良いのだけど、アンナが前回の時のように、殴られたりしなくて良かったわ。

 「それじゃあ、次で最後だけど、ジュリ?我慢できそうになければ、ここで待ってて?」

 「……お嬢様の指示に従います」

 ややしばらく考えたジュリは、そう返事をすると、私をエスコートしてレストランに入った。




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