貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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66.返してもらう

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 「シャルルアン、私はお前みたいな下品な人間から、欲しいものなど何もないわ」

 「下品てなによっ!リチャードさま、聞きましたかぁ…?あの人は本当に悪魔のような人です!
 私が聖人よっ!!証明するから、皆、見てー!」

 そう言うと、自分の右手を前に出し、手の平から、癒しの光を出してみせた。その右手には、闇魔術の紋章が見えた。

 「シャルルアン、お前のその右手の紋章は何かしら?説明できるの?」

 シャルルアンは、はっという顔するとその手を背中の方に回した。

 「これは、ただのアザよ…」

 その光を見ると、思い出したかのようにリチャードが私を睨みつけた。

 「ユリアナ、お前は聖人を語っていたが、ここにいるシャルルアンが本物の聖人だ。皆見たか?今のシャルルの聖なる光を!」

 魔力は少しずつ奪われているが、前回の比ではない。疲労感は軽くあるが、気になるものではなかった。

 「そうですか。では殿下、その方が聖人だとして、今後の私たちの関係はどうなさるおつもりですか?」

 リチャードはフッと笑うと、

 「ユリアナ、お前は私のことが好きだろ?だから、そのまま私の第二夫人としてやるが、本物の妻はここにいる聖人シャルルアン嬢だ。私は聖人と婚姻を結ぶことになっているからね」

 その女を聖人だと言うなら、私と婚姻する必要はないでしょうに…。
 
 「えー!?リチャードさまぁ、あんな人を奥さんにするなんて私、嫌です。怖いです…また私の物を奪われて、何かされるかもしれないのにぃ…」

 シャルルアンはまたリチャードの胸に縋りつく。
 そうよ、シャルルアン、頭の悪さを発揮しなさい。

 「そうか…そうだね、聖人は君なんだ。ムリにあんな女に妻になってもらう必要は無かったね?
 大丈夫だよ、シャルル、私の真実の愛は君だけだ。
 ユリアナ·フォンベルト、お前とは婚約を解消し、私の妻はシャルルアンとする!そして、聖人シャルルアンに対して数々の嫌がらせを行ったとして、ユリアナを貴族牢に入れる」
 
 今までのやり取りで、明らかな被害を受けたのは私だと、まともな貴族なら理解してるだろうけど、
 あぁ、でも良かった、やっとここまで来たわ、長かった…
 

 「婚約解消の件、承知致しました。
 この時をもって、私ユリアナ·フォンベルトは第三王子リチャード殿下との婚約を、リチャード殿下の命により解消となったことを、ここにいる皆様の前で受け承りました。殿下、これに異論はございませんね?」

 「あ?あぁ…そうだ、お前とは婚約解消だ…」

 「良かったです。それでは生涯シャルルアン·ゴルドーと添い遂げるということでよろしいですね?」

 「そ、そうだと言っているだろ!お前のような悪質なヤツは私には釣り合わない!私の真実の愛はシャルルだ」

 「リチャードさまぁ…私嬉しい!これでもうリチャード様は私の婚約者でぇ、あの人に奪われるものは無くなりましたぁ!」

 「シャルルアン、お前には人間の言葉が通じないということがよくわかったわ」

 シャルルアンは顔を真っ赤にして歪ませ、黙って私を睨みつけている。少しは言葉が理解できるようになったのかしら。

 「ユリアナ!貴様、いつまでシャルルを痛めつけるんだ!お前は人として最低の人間だ!」

 と言うとシャルルアンを抱き締めて、シャルルアンの頭に口づけをした。

 「愚かな男ね、誰が本当に最低な人間なのか、証明致しましょう。ご自分の言葉に責任を持って、せいぜい後悔するといいわ」

 そのタイミングで私は合図した。

 シャルルアンの、私を見る優越感で満たされた表情が、みるみる青ざめていく。

 「…えっ?…キイラ?キイラなの?あなた何してるの?なんでここにいるのよっ!?」

 私の合図でキイラに出て来てもらった。
 そして、私の横に立つと、キイラは静かに話し始めた。

 「この会場にいる皆様、お聞きください。私の愚かな行いで、ここにいらっしゃる聖人ユリアナ様に、闇魔術による呪いを掛けてしまいました。それは、シャルルアンが、聖人ユリアナ様の魔力を奪い取るという呪いです。先ほどのシャルルアンの魔力は、聖人ユリアナ様の魔力なのです」

 なんだって!闇魔術だと!?
 その一族は何百年か前に粛清されたはずだぞ!
 禁忌の魔術を使うなんて!
 しかもユリアナ様から魔力を奪っているなんて…!
 悲鳴が聞こえた。
 
 まともな貴族であれば、歴史的にも闇魔術がどれだけ危険であり恐ろしいものか、そのために王家に粛清されたと、その経緯も学習し理解しているため、悲鳴とともにザワつき出した。

 先ほどまで、可愛らしくグスグスとリチャードに縋り付いていたシャルルアンの形相が変わった。

 「何を言ってるのよっキイラ!アンタも処刑されたいわけ!?嘘つくんじゃないわよっ!これは私の魔力よっ!」

 「……シャルル?どうしたんだい…?君は、聖人なんだろ?それに、なんだか、顔が、怖いよ…?」

 「リチャードさまぁ!酷いです!あの人はまた私を虐めるために、あんな嘘を!私の侍女を使って、酷いですっ!あんな悪い女、早く地下牢に入れてください!」

 シャルルアンは動揺しているが、まだどうにかなるとでも思っているのだろう。

 「リチャード殿下、ここにいるキイラの発言が嘘ではないことを証明致します」

 私はキイラを促すと、キイラは

 「ユリアナ様、本当に申し訳ありませんでした。では解術いたします」
と言って、私の背中に手をあてた。

 「やめなさい!キイラ!アンタ殺されたいのっ!? 許さないからねっ…!」
と、シャルルアンがこちらに向かって駆け出して来た。

 その瞬間、私の前にジュリが現れ、シャルルアンがピタリと止まり、その場に座り込んだ。ジュリがスキルを使い、シャルルアンを抑え込んだ。

 キイラが私の背中にあてた手を離すと、私の身体が淡く白い光に包まれ、身体中に魔力がみなぎり、今までの疲労感や不快な感覚がすべて消え失せた。

 「キイラ、良くやったわ、私の魔力は回復したわね」

 ルイ師団長がすぐに私の手を握り、魔力鑑定をした。

 「…ユリアナ様、邪悪な魔力が消え去っています。良かった、本当に良かった…」

 するとジュリが、私の手を握っているルイ師団長の手を、そっと私から引き離した。
 そして、わたしの手を握ると、優しい瞳で私を見つめ、その私の手にそっと唇を付けた。

 「いやっー!…いやっ!なにこれ…!なんでっ!?」

 目の前にしゃがみこんでいるシャルルアンが、自分の手を見て騒ぎ出した。

 見ると、その手はシワだらけで、萎びて艶もなく、枯れ枝のようだった。

 そして、叫んだその声は嗄れており、低くガサガサした声は、先ほどまで出していた甲高い声の持ち主とは到底思えない声だった。
 顔は老婆のような深いシワと染みがあり、頬はこけ、顎は尖っていた。
 そして自慢の金色のフワフワの髪は、艶も消え失せくすんでおり、萎びたように顔にまとわりついていた。

 「ユリアナ様の膨大な魔力を奪い取って、今度はその魔力を失ったから、生命力も大きく失ったのでしょう」

 ルイ師団長が、興味深く観察するように、シャルルアンを見ながら言った。

 シャルルアンはヨロヨロと立ち上がると、その足も枯れ枝のように細くシワだらけで、着ているピンク色の豪華なドレスは、その醜さを際立たせていた。

 立ち上がるとゆっくりと振り向き、リチャードのいる方に向かって歩き出した。

 「いやぁ…、こんなの嫌よ、リチャードさまぁ、リチャードさまぁ…助けてぇー」

 枯れ枝のような足になって、フラフラと歩くのもやっとな様子だった。
 私はキイラに、お願いと言ってシャルルアンの介助をさせた。

 「なによぉ!裏切り者ぉ…アンタなんか処刑してやるからぁ、リチャードさまぁ、助けてぇ…!」
 
 キイラに支えられ歩くシャルルアンを、魔物を見るような目で見ているリチャード。

 「リチャード殿下、この愚かな女が私に掛けた闇魔術は、無事に解術されました。誰がどのように最低なのか、この状況を見て、もう一度仰ってください」

 リチャードは、目の前のシャルルアンから目を反らし、顔を歪め、言葉を発することができないでいる。

 そこに、王太子レオンハルト様が現れた。

 「皆、せっかくの夜会に遅れてすまなかった。リチャード、お前の余興は楽しかったよ、すべて見させてもらった。
 それにリチャード、私にも随分と恐ろしいことをしてくれたね?
 でもご覧の通り私は元気だ。お前には…残念だったね?とでも言えば良いか?」

 リチャードはもう顔色を無くしていた。
 異母兄である、王太子殿下の意識を呪いで奪ったのだ。それも自分の欲を満たす理由で。

 目の前で私が解術され、永遠に目覚めることが無いと思っていたはずの異母兄が、まさか突然目の前に現れ、直視することもできずにいる。実際に呪ったのは影とも知らず。

 レオンハルト殿下はよく通る低い声で、

 「先ほど聖人ユリアナが宣言した通り、お前はこのシャルルアン·ゴルドーと婚姻するんだ。
 良かったな、運命の人と結ばれるんだ、お前の望んだ通りだ!
 それから、お前ら二人は今日から平民だ、王族の籍も抜くからな?真実の愛があれば、身分など必要ないよな?
 そして、お前にあてがわれていた財産をすべて現金化して、聖人ユリアナ殿に慰謝料として払う。残念ながらそれでもまったく足りないよ?
 頭が悪い上に、金も無い。その上身分も失った。お前は救いようがないな?あははは!
 しかしなぁ、お前の言う運命の出会いの日に、この女は小さなひな鳥を蹴飛ばして、殺すような女だったぞ?お前も物好きだな?心の醜さは、……表面に表れるのだな?
 でもお前とお似合いだよ。
 さぁ、あとはお前たち二人に相応しい愛の巣を用意しているから、そこに行け。
 なんの罪もない聖人ユリアナ殿を陥れ、冤罪で牢に入れようとした罪だ。二人で仲良くお前らが牢に入れ。王太子命令だ」

 「あ、兄上!私は、いっ、嫌です…!こんな、こんな、老婆みたいな女…、お願いします!こんな女は嫌だっ!
 それに…ひな鳥、とは?なんですか?
 ユリアナ?ユリアナ、俺が好きだよな?俺のことが好きだろ?なんとか言ってくれよ!?どうにかしてくれよ!」

 「罪人リチャード、私はお前を好きだと思ったことは、婚約中ただの一度も無いわ。むしろ嫌いでした。
 婚約中にどこぞの薄汚い女と不貞行為する男を、好きになるとでも思っていたの?それは本気?
 仕方なく会う度に、いつもお前が気持ち悪くて、吐き気がしたわ。
 でも、このように愚かだけど、素敵な夜会を開いてくれて感謝するわ。お前を褒めてあげる、最初で最後ね?では永遠にさようなら。
 ……あ、間違えたわ、嫌いじゃないわ、ごめんなさい。大っ嫌いだったわ!では、ごきげんよう」

 「…… ユ、ユリアナ?え?どういうこと…?吐き気…?気持ち悪い、って、どうして、待って!?大っ嫌いって、嘘だろ…?! 嫌だ!こんな、こんな女と、一緒なんて、…嫌だっ!!」

 「ひどいわぁ…リチャードさまぁ!私を愛してるって、何度も何度も、言って、愛を交わしたでしょ…!」

 「…う、うるさい!黙れ!お前みたいな醜い嘘つきは、ゴメンだ!兄上……うぐぅ、んー!」

 その後、二人とも口の中に騎士の手袋を詰められ、声を出すこともできず、引きずられて行った。

 「皆のもの!醜悪な姿を見せたこと、心よりお詫びする!後に此度の愚行を精査し、詳細を公表する。愚か者には然るべき処罰をすることを誓う!
 今宵は好きなだけ飲んで食べてくれ!城中の高級な酒と料理をすべて出す!」

 レオンハルト様が叫ぶと、貴族や騎士たちはうぉーっ!と声を上げ、楽団の音楽と共に夜会が始まった。



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