貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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68.返してあげる①

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 「俺に近寄るな!この薄汚い女め!」

 「ひどいわぁ、私のこと愛してるって、あんなに舐め回したくせに!」

 夜会の日の夜から、リチャードとシャルルアンは二人で同じ一室の貴族牢に入っていた。
 レオンハルト王太子殿下の用意した、愛の巣だ。

 それでもお優しいレオンハルト様は、
 「個室が希望なら地下牢だ。でもまずは二人一緒が良いだろ?運命の人なんだから」
と、選択肢を与えて選ばせた。

 リチャードは散々迷った挙句、貴族牢を選んだ。
 シャルルアンの姿は、時が経過してもまったく元に戻らず、醜い姿のままだった。

 そこに、帰国した父である国王陛下が面会に来た。

 「父上!良かった!お願いします、ここから出してください!私はユリアナと結婚したいんです!」

 父王の表情は無かった。
 聖人ユリアナに呪いの魔術をかけ、剰えあまつさ我が息子レオンハルトにも呪い掛けた。
 聖人ユリアナの助言で、前もって影とすり替わることができたが、レオンハルト本人が呪われていたら、コイツはすぐにでも処刑していただろう。

 そして、帰国した私たちにも、レオンハルトと同じ呪いを掛ける計画をしていた。なんて恐ろしいんだ、我が子とは思いたくもない、愚かで短慮な息子。
 
 幼い頃から、何をさせても平均以下のこの息子に、優秀な聖人をあてがえば、なんとか将来も安泰だろうと、第二王子ライナルトの淡い思いを無視して婚約させたのに、結果このザマだ。

 ライナルトは私の思惑を理解してくれていると思うが、もうこの国には戻らないだろう。
 結果、我が子を二人も失った。

 何が悪かったのだ。レオンハルトと同じように育てたつもりが、なぜこのようなことに…。

 「父上!お願いします…!父上が王命を出せば元通りにできます!父上!」

 「リチャード、私はお前に言ったはずだ。よく調べたのか、本当にこの女で良いのかと。私はお前に良いようにとお膳立てしてやったのに、お前はすべてをひっくり返し、めちゃくちゃにした。すべてはお前が選んだ結果でここにいるのだ。何か文句があるか?」

 「…ひっ…父上…私は…」

 「時間はたっぷりある。考えろ」

 コイツが何かに気付いたところで、もうどうにもならんが、愚かなまま死ぬより良いだろう。
 私も潮時だな。あとはレオンハルトに任せよう。


 リチャードとシャルルアンを、まずは貴族牢に入れて欲しいと言ったのは私だ。
 そして、貴族牢で1ヶ月過ごさせ、このままここで、そこそこ快適に過ごせると思い始めた頃に、地下牢に移した。

 前回、あの悪臭の漂う暗い地下牢に私を入れたあの二人。

 そして、あの女は、ジュリを始末しろと言い、結果カイル様も命を奪われた。

 私の髪を掴んで引きずり、牢に蹴り入れ、私が死んで欲しいほど嫌いだった、自分のものを奪ったと言い、すぐに処刑したのだ。

 私は死に戻ったが、あれは事実だった。
 実際に私は冤罪にかけられ、処刑され、家族もすべて命を奪われた。

 あのあと、世界は地獄となった。
 そのため、女神様が私に命を与え、時を与えたのだ。

 あのおぞましい程の出来事はすべて事実だった。
 生きてることが地獄と思うような時間は、実際に経験したものでないと分からないだろう。

 誰に理解されなくても良い、私の行いが醜悪だと思われても良い。

 私はアイツらに、あの時の仕返しをしてやりたかった。
 あの時もらった悪意をお返ししてあげる。


 「ごきげんよう?囚人リチャード」

 まずはコイツだ。

 薄暗く、悪臭の漂う狭い地下牢に、お互いが見えるように、通路を挟んで向い合せの牢に、リチャードとシャルルアンを一人ずつ入れた。
 
 私は、これ以上ないくらい着飾り、美しく輝くよう仕上げてこの場に来た。口にハンカチをあてて。

 「あぁ、ユリアナ!迎えに来てくれたんだね!嬉しいよ!…ユリアナ、なんて美しいんだ…私が間違えていた、少し間違えたんだ、許しておくれ?ね、ユリアナ、私をここから出して、私と結婚しよう?ユリアナ、愛してるよ!」

 最初の言葉がこれね… もう救いようがないわ。コイツの罰は決定ね。

 横にいたジュリが、信じられない力で牢の鉄の扉を蹴った。

 「ジュリ?扉が壊れるわ?こんな者のために国費を使って扉を直すなんてもったいないでしょ?」

 私はハンカチで口元を覆いクスクスと笑った。

 「な!なんだコイツは!暴力はやめろ… ユリアナ、僕を迎えに来たんだよね?」

 地下牢の扉の横は鉄格子で、中は丸見えになっている。

 「ユリアナー!このメス豚!何しに来た!私のリチャード様を誑かしやがって…!ふざけるなっ!」

 凄い顔ね。好いてる殿方の前でこんな姿を晒しても良いのかしら。

 「まあ怖い!シャルルアン、そのような恐ろしいお顔で、愛するリチャード様に見られたら、嫌われますわよ?魔物より醜いお顔ですわね?フフフ」

 リチャードを見ると、シャルルアンの形相に、あからさまに顔を歪めている。

 「まあ、リチャード様、愛するシャルルアンをそのようなお顔で見つめるなんて、愛していらっしゃるのね?真実の愛とは素晴らしいですわね!」

 ジュリにお願いして、シャルルアンをスキルで黙らせて欲しいと頼んだ。
 ルイ師団長との約束を、私の都合で何度も破らせてごめんなさいと言うと、コレは人ではないので問題ないですと言い、すぐにシャルルアンは大人しくなった。

 「ユリアナ、お願いだ、許してくれ!頼む、私は本当に少し間違えただけなんだ!後悔している、あの女に騙されていたんだっ、私も被害者なんだよっ…!」

 鉄格子の間から、縋るように私を見ている。 

 「まあ被害者!?驚きましたわ!」

 「そうだろ!?だから私は悪くないんだ!お願いだユリアナ、ここから出してくれ!」

 「リチャード様、あなたは私になんと言ったかしら?俺の愛するシャルルアンに嫉妬で酷い仕打ちと嫌がらせをした悪質な女…でしたっけ?そんな女が、あなたにしてあげられることは…… ございませんわね?フフフ」

 「い、いやっ、違う!それは、それこそが騙されていたんだ!私はあの醜い女に嵌められたんだっ!」

 「いやですわ、リチャード様。その醜い女と、随分と親密に濃厚に、何度も何度も愛を交わしておられましたのに。嵌められたなんて、ご冗談を!真実の愛を否定なさってはいけませんわ、これからご夫婦として生涯共に過ごしますのに」

 「い、嫌だ!あんな女と一生過ごすなんて、老婆みたいな、嘘つきで醜い女は嫌だ!」

 「囚人リチャード、お前は本当に愚かな男ね?お前があの女と不貞行為をしてくれて、本当に良かったわ!頭の悪いお前と結婚なんて、地獄よりも悲惨だもの」

 「…な!ユ、ユリアナ、なんて言った…?」

 「あら、頭も悪ければ耳も悪いのかしら?お前は、婚約者がいたのに、あの女との欲に溺れていたわよね?」

 「……そ、それは、あの女が誘ってきたから…」

 「まあ!?一度だけならまだしも、こちらで確認できている限り、25回も交わっておられたのに!?しかも神聖な学院内で!おぞましいですわぁ… 己の欲望に正直ですのねぇ、立場も場所もわきまえず、盛りのついた猿のように…あら、はしたない事を言ってしまったかしら?」

 「……さ、猿、とは…失礼じゃ…」

 「えっ!?公共の場で、しかも学院内で、最低でも25回ですよ!?
 それも我が国の第三王子たるお人が、知性も教養もない女と、あのようなはしたない行為を…。私という婚約者がありながら… 猿と何が違うのです?」

 「…す、すまなかった…ユリアナ、私は本当はお前を愛してたんだ!」

 「リチャード様、そのような見え透いた嘘は結構でございますわ。吐き気がしますので。
 それに…私たちの大切な学び舎が汚されたと、学院生も卒業生も、あなたたち二人を訴えると仰ってましたわよ?あちこちから恨まれて、大変ですわね?」

 「…くっ…!私は…たぶらかされたんだ、騙されたんだ……」

 「ですが、騙されたと言うなら、普通気が付きますわよね?途中で。
 シャルルアンに夢中で、というか身体に夢中で、とはっきり申し上げた方が良いかしら?ああ、情事に夢中で、ですわね、だから冷静になる暇もなかったのですね?」

 「ぐっ…!そ、それは…」

 「お答えにならなくて結構。リチャード様、その上、私に冤罪をかけて、牢に入れようとなさったでしょ?私は何も悪くないのに」

 「……すまない」

 「私が何をしたの?」

 「な、何もして、…ない」

 「恐ろしいですね。何もしていない私を、冤罪で地下牢に入れようとしていたこと。レオンハルト様を呪ったこと。そして、ご自身の父親、正妃様までも呪いをかけようとしたこと。
 あなたは自分の欲のために、とても恐ろしいことした」

 「………ゆ、許して…欲しい、すまなかった」

 「許しませんよ?許されると思っているのかしら?
 やだわ、驚きしかないわ。
 王宮の教師たちも罰を与えられるのかしらね、第三王子の頭でも理解できる授業をしなかったことを。
 では逆に聞きますけど、こんなことをあなたがされたら、許すの?」

 「…………」

 「そういうことよ。あなたは許されない、誰にも。私は許さない」

 リチャードは、涙をこぼし、縋るように私を見た。

 「悪いことをしたら罰を受ける、当たり前のことよね?
 私のお父様が、それはもう怒っているのよ。そうよね、溺愛している娘が、その婚約者と得体の知れない頭のおかしい女に、冤罪で地下牢に入れられそうになったのだから。
 あなたに相応しい罰を用意しているそうよ?
 お父様がその罰は、私には聞かせられないと言っていたけど…私に教えられないって、どんな罰かしら?
 でも、すぐには殺さないとは言っていたわ!良かったわね、囚人リチャード」

 リチャードは、フォンベルト侯爵のあの感情の読み取れない表情を思い出した。

『ユリアナを傷付けてみろ、お前のような馬鹿を埋めるのは容易いぞ』

 自分の足が、生温かい何かで濡れていくのがわかると、身体が震え、立ってもいられずその場に座り込んだ。

 すぐには殺さない

 その言葉だけが、頭の中で永遠に繰り返していた。


 
 



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