74 / 89
68.返してあげる①
しおりを挟む
「俺に近寄るな!この薄汚い女め!」
「ひどいわぁ、私のこと愛してるって、あんなに舐め回したくせに!」
夜会の日の夜から、リチャードとシャルルアンは二人で同じ一室の貴族牢に入っていた。
レオンハルト王太子殿下の用意した、愛の巣だ。
それでもお優しいレオンハルト様は、
「個室が希望なら地下牢だ。でもまずは二人一緒が良いだろ?運命の人なんだから」
と、選択肢を与えて選ばせた。
リチャードは散々迷った挙句、貴族牢を選んだ。
シャルルアンの姿は、時が経過してもまったく元に戻らず、醜い姿のままだった。
そこに、帰国した父である国王陛下が面会に来た。
「父上!良かった!お願いします、ここから出してください!私はユリアナと結婚したいんです!」
父王の表情は無かった。
聖人ユリアナに呪いの魔術をかけ、剰え我が息子レオンハルトにも呪い掛けた。
聖人ユリアナの助言で、前もって影とすり替わることができたが、レオンハルト本人が呪われていたら、コイツはすぐにでも処刑していただろう。
そして、帰国した私たちにも、レオンハルトと同じ呪いを掛ける計画をしていた。なんて恐ろしいんだ、我が子とは思いたくもない、愚かで短慮な息子。
幼い頃から、何をさせても平均以下のこの息子に、優秀な聖人をあてがえば、なんとか将来も安泰だろうと、第二王子ライナルトの淡い思いを無視して婚約させたのに、結果このザマだ。
ライナルトは私の思惑を理解してくれていると思うが、もうこの国には戻らないだろう。
結果、我が子を二人も失った。
何が悪かったのだ。レオンハルトと同じように育てたつもりが、なぜこのようなことに…。
「父上!お願いします…!父上が王命を出せば元通りにできます!父上!」
「リチャード、私はお前に言ったはずだ。よく調べたのか、本当にこの女で良いのかと。私はお前に良いようにとお膳立てしてやったのに、お前はすべてをひっくり返し、めちゃくちゃにした。すべてはお前が選んだ結果でここにいるのだ。何か文句があるか?」
「…ひっ…父上…私は…」
「時間はたっぷりある。考えろ」
コイツが何かに気付いたところで、もうどうにもならんが、愚かなまま死ぬより良いだろう。
私も潮時だな。あとはレオンハルトに任せよう。
リチャードとシャルルアンを、まずは貴族牢に入れて欲しいと言ったのは私だ。
そして、貴族牢で1ヶ月過ごさせ、このままここで、そこそこ快適に過ごせると思い始めた頃に、地下牢に移した。
前回、あの悪臭の漂う暗い地下牢に私を入れたあの二人。
そして、あの女は、ジュリを始末しろと言い、結果カイル様も命を奪われた。
私の髪を掴んで引きずり、牢に蹴り入れ、私が死んで欲しいほど嫌いだった、自分のものを奪ったと言い、すぐに処刑したのだ。
私は死に戻ったが、あれは事実だった。
実際に私は冤罪にかけられ、処刑され、家族もすべて命を奪われた。
あのあと、世界は地獄となった。
そのため、女神様が私に命を与え、時を与えたのだ。
あのおぞましい程の出来事はすべて事実だった。
生きてることが地獄と思うような時間は、実際に経験したものでないと分からないだろう。
誰に理解されなくても良い、私の行いが醜悪だと思われても良い。
私はアイツらに、あの時の仕返しをしてやりたかった。
あの時もらった悪意をお返ししてあげる。
「ごきげんよう?囚人リチャード」
まずはコイツだ。
薄暗く、悪臭の漂う狭い地下牢に、お互いが見えるように、通路を挟んで向い合せの牢に、リチャードとシャルルアンを一人ずつ入れた。
私は、これ以上ないくらい着飾り、美しく輝くよう仕上げてこの場に来た。口にハンカチをあてて。
「あぁ、ユリアナ!迎えに来てくれたんだね!嬉しいよ!…ユリアナ、なんて美しいんだ…私が間違えていた、少し間違えたんだ、許しておくれ?ね、ユリアナ、私をここから出して、私と結婚しよう?ユリアナ、愛してるよ!」
最初の言葉がこれね… もう救いようがないわ。コイツの罰は決定ね。
横にいたジュリが、信じられない力で牢の鉄の扉を蹴った。
「ジュリ?扉が壊れるわ?こんな者のために国費を使って扉を直すなんてもったいないでしょ?」
私はハンカチで口元を覆いクスクスと笑った。
「な!なんだコイツは!暴力はやめろ… ユリアナ、僕を迎えに来たんだよね?」
地下牢の扉の横は鉄格子で、中は丸見えになっている。
「ユリアナー!このメス豚!何しに来た!私のリチャード様を誑かしやがって…!ふざけるなっ!」
凄い顔ね。好いてる殿方の前でこんな姿を晒しても良いのかしら。
「まあ怖い!シャルルアン、そのような恐ろしいお顔で、愛するリチャード様に見られたら、嫌われますわよ?魔物より醜いお顔ですわね?フフフ」
リチャードを見ると、シャルルアンの形相に、あからさまに顔を歪めている。
「まあ、リチャード様、愛するシャルルアンをそのようなお顔で見つめるなんて、愛していらっしゃるのね?真実の愛とは素晴らしいですわね!」
ジュリにお願いして、シャルルアンをスキルで黙らせて欲しいと頼んだ。
ルイ師団長との約束を、私の都合で何度も破らせてごめんなさいと言うと、コレは人ではないので問題ないですと言い、すぐにシャルルアンは大人しくなった。
「ユリアナ、お願いだ、許してくれ!頼む、私は本当に少し間違えただけなんだ!後悔している、あの女に騙されていたんだっ、私も被害者なんだよっ…!」
鉄格子の間から、縋るように私を見ている。
「まあ被害者!?驚きましたわ!」
「そうだろ!?だから私は悪くないんだ!お願いだユリアナ、ここから出してくれ!」
「リチャード様、あなたは私になんと言ったかしら?俺の愛するシャルルアンに嫉妬で酷い仕打ちと嫌がらせをした悪質な女…でしたっけ?そんな女が、あなたにしてあげられることは…… ございませんわね?フフフ」
「い、いやっ、違う!それは、それこそが騙されていたんだ!私はあの醜い女に嵌められたんだっ!」
「いやですわ、リチャード様。その醜い女と、随分と親密に濃厚に、何度も何度も愛を交わしておられましたのに。嵌められたなんて、ご冗談を!真実の愛を否定なさってはいけませんわ、これからご夫婦として生涯共に過ごしますのに」
「い、嫌だ!あんな女と一生過ごすなんて、老婆みたいな、嘘つきで醜い女は嫌だ!」
「囚人リチャード、お前は本当に愚かな男ね?お前があの女と不貞行為をしてくれて、本当に良かったわ!頭の悪いお前と結婚なんて、地獄よりも悲惨だもの」
「…な!ユ、ユリアナ、なんて言った…?」
「あら、頭も悪ければ耳も悪いのかしら?お前は、婚約者がいたのに、あの女との欲に溺れていたわよね?」
「……そ、それは、あの女が誘ってきたから…」
「まあ!?一度だけならまだしも、こちらで確認できている限り、25回も交わっておられたのに!?しかも神聖な学院内で!おぞましいですわぁ… 己の欲望に正直ですのねぇ、立場も場所もわきまえず、盛りのついた猿のように…あら、はしたない事を言ってしまったかしら?」
「……さ、猿、とは…失礼じゃ…」
「えっ!?公共の場で、しかも学院内で、最低でも25回ですよ!?
それも我が国の第三王子たるお人が、知性も教養もない女と、あのようなはしたない行為を…。私という婚約者がありながら… 猿と何が違うのです?」
「…す、すまなかった…ユリアナ、私は本当はお前を愛してたんだ!」
「リチャード様、そのような見え透いた嘘は結構でございますわ。吐き気がしますので。
それに…私たちの大切な学び舎が汚されたと、学院生も卒業生も、あなたたち二人を訴えると仰ってましたわよ?あちこちから恨まれて、大変ですわね?」
「…くっ…!私は…誑かされたんだ、騙されたんだ……」
「ですが、騙されたと言うなら、普通気が付きますわよね?途中で。
シャルルアンに夢中で、というか身体に夢中で、とはっきり申し上げた方が良いかしら?ああ、情事に夢中で、ですわね、だから冷静になる暇もなかったのですね?」
「ぐっ…!そ、それは…」
「お答えにならなくて結構。リチャード様、その上、私に冤罪をかけて、牢に入れようとなさったでしょ?私は何も悪くないのに」
「……すまない」
「私が何をしたの?」
「な、何もして、…ない」
「恐ろしいですね。何もしていない私を、冤罪で地下牢に入れようとしていたこと。レオンハルト様を呪ったこと。そして、ご自身の父親、正妃様までも呪いをかけようとしたこと。
あなたは自分の欲のために、とても恐ろしいことした」
「………ゆ、許して…欲しい、すまなかった」
「許しませんよ?許されると思っているのかしら?
やだわ、驚きしかないわ。
王宮の教師たちも罰を与えられるのかしらね、第三王子の頭でも理解できる授業をしなかったことを。
では逆に聞きますけど、こんなことをあなたがされたら、許すの?」
「…………」
「そういうことよ。あなたは許されない、誰にも。私は許さない」
リチャードは、涙をこぼし、縋るように私を見た。
「悪いことをしたら罰を受ける、当たり前のことよね?
私のお父様が、それはもう怒っているのよ。そうよね、溺愛している娘が、その婚約者と得体の知れない頭のおかしい女に、冤罪で地下牢に入れられそうになったのだから。
あなたに相応しい罰を用意しているそうよ?
お父様がその罰は、私には聞かせられないと言っていたけど…私に教えられないって、どんな罰かしら?
でも、すぐには殺さないとは言っていたわ!良かったわね、囚人リチャード」
リチャードは、フォンベルト侯爵のあの感情の読み取れない表情を思い出した。
『ユリアナを傷付けてみろ、お前のような馬鹿を埋めるのは容易いぞ』
自分の足が、生温かい何かで濡れていくのがわかると、身体が震え、立ってもいられずその場に座り込んだ。
すぐには殺さない
その言葉だけが、頭の中で永遠に繰り返していた。
「ひどいわぁ、私のこと愛してるって、あんなに舐め回したくせに!」
夜会の日の夜から、リチャードとシャルルアンは二人で同じ一室の貴族牢に入っていた。
レオンハルト王太子殿下の用意した、愛の巣だ。
それでもお優しいレオンハルト様は、
「個室が希望なら地下牢だ。でもまずは二人一緒が良いだろ?運命の人なんだから」
と、選択肢を与えて選ばせた。
リチャードは散々迷った挙句、貴族牢を選んだ。
シャルルアンの姿は、時が経過してもまったく元に戻らず、醜い姿のままだった。
そこに、帰国した父である国王陛下が面会に来た。
「父上!良かった!お願いします、ここから出してください!私はユリアナと結婚したいんです!」
父王の表情は無かった。
聖人ユリアナに呪いの魔術をかけ、剰え我が息子レオンハルトにも呪い掛けた。
聖人ユリアナの助言で、前もって影とすり替わることができたが、レオンハルト本人が呪われていたら、コイツはすぐにでも処刑していただろう。
そして、帰国した私たちにも、レオンハルトと同じ呪いを掛ける計画をしていた。なんて恐ろしいんだ、我が子とは思いたくもない、愚かで短慮な息子。
幼い頃から、何をさせても平均以下のこの息子に、優秀な聖人をあてがえば、なんとか将来も安泰だろうと、第二王子ライナルトの淡い思いを無視して婚約させたのに、結果このザマだ。
ライナルトは私の思惑を理解してくれていると思うが、もうこの国には戻らないだろう。
結果、我が子を二人も失った。
何が悪かったのだ。レオンハルトと同じように育てたつもりが、なぜこのようなことに…。
「父上!お願いします…!父上が王命を出せば元通りにできます!父上!」
「リチャード、私はお前に言ったはずだ。よく調べたのか、本当にこの女で良いのかと。私はお前に良いようにとお膳立てしてやったのに、お前はすべてをひっくり返し、めちゃくちゃにした。すべてはお前が選んだ結果でここにいるのだ。何か文句があるか?」
「…ひっ…父上…私は…」
「時間はたっぷりある。考えろ」
コイツが何かに気付いたところで、もうどうにもならんが、愚かなまま死ぬより良いだろう。
私も潮時だな。あとはレオンハルトに任せよう。
リチャードとシャルルアンを、まずは貴族牢に入れて欲しいと言ったのは私だ。
そして、貴族牢で1ヶ月過ごさせ、このままここで、そこそこ快適に過ごせると思い始めた頃に、地下牢に移した。
前回、あの悪臭の漂う暗い地下牢に私を入れたあの二人。
そして、あの女は、ジュリを始末しろと言い、結果カイル様も命を奪われた。
私の髪を掴んで引きずり、牢に蹴り入れ、私が死んで欲しいほど嫌いだった、自分のものを奪ったと言い、すぐに処刑したのだ。
私は死に戻ったが、あれは事実だった。
実際に私は冤罪にかけられ、処刑され、家族もすべて命を奪われた。
あのあと、世界は地獄となった。
そのため、女神様が私に命を与え、時を与えたのだ。
あのおぞましい程の出来事はすべて事実だった。
生きてることが地獄と思うような時間は、実際に経験したものでないと分からないだろう。
誰に理解されなくても良い、私の行いが醜悪だと思われても良い。
私はアイツらに、あの時の仕返しをしてやりたかった。
あの時もらった悪意をお返ししてあげる。
「ごきげんよう?囚人リチャード」
まずはコイツだ。
薄暗く、悪臭の漂う狭い地下牢に、お互いが見えるように、通路を挟んで向い合せの牢に、リチャードとシャルルアンを一人ずつ入れた。
私は、これ以上ないくらい着飾り、美しく輝くよう仕上げてこの場に来た。口にハンカチをあてて。
「あぁ、ユリアナ!迎えに来てくれたんだね!嬉しいよ!…ユリアナ、なんて美しいんだ…私が間違えていた、少し間違えたんだ、許しておくれ?ね、ユリアナ、私をここから出して、私と結婚しよう?ユリアナ、愛してるよ!」
最初の言葉がこれね… もう救いようがないわ。コイツの罰は決定ね。
横にいたジュリが、信じられない力で牢の鉄の扉を蹴った。
「ジュリ?扉が壊れるわ?こんな者のために国費を使って扉を直すなんてもったいないでしょ?」
私はハンカチで口元を覆いクスクスと笑った。
「な!なんだコイツは!暴力はやめろ… ユリアナ、僕を迎えに来たんだよね?」
地下牢の扉の横は鉄格子で、中は丸見えになっている。
「ユリアナー!このメス豚!何しに来た!私のリチャード様を誑かしやがって…!ふざけるなっ!」
凄い顔ね。好いてる殿方の前でこんな姿を晒しても良いのかしら。
「まあ怖い!シャルルアン、そのような恐ろしいお顔で、愛するリチャード様に見られたら、嫌われますわよ?魔物より醜いお顔ですわね?フフフ」
リチャードを見ると、シャルルアンの形相に、あからさまに顔を歪めている。
「まあ、リチャード様、愛するシャルルアンをそのようなお顔で見つめるなんて、愛していらっしゃるのね?真実の愛とは素晴らしいですわね!」
ジュリにお願いして、シャルルアンをスキルで黙らせて欲しいと頼んだ。
ルイ師団長との約束を、私の都合で何度も破らせてごめんなさいと言うと、コレは人ではないので問題ないですと言い、すぐにシャルルアンは大人しくなった。
「ユリアナ、お願いだ、許してくれ!頼む、私は本当に少し間違えただけなんだ!後悔している、あの女に騙されていたんだっ、私も被害者なんだよっ…!」
鉄格子の間から、縋るように私を見ている。
「まあ被害者!?驚きましたわ!」
「そうだろ!?だから私は悪くないんだ!お願いだユリアナ、ここから出してくれ!」
「リチャード様、あなたは私になんと言ったかしら?俺の愛するシャルルアンに嫉妬で酷い仕打ちと嫌がらせをした悪質な女…でしたっけ?そんな女が、あなたにしてあげられることは…… ございませんわね?フフフ」
「い、いやっ、違う!それは、それこそが騙されていたんだ!私はあの醜い女に嵌められたんだっ!」
「いやですわ、リチャード様。その醜い女と、随分と親密に濃厚に、何度も何度も愛を交わしておられましたのに。嵌められたなんて、ご冗談を!真実の愛を否定なさってはいけませんわ、これからご夫婦として生涯共に過ごしますのに」
「い、嫌だ!あんな女と一生過ごすなんて、老婆みたいな、嘘つきで醜い女は嫌だ!」
「囚人リチャード、お前は本当に愚かな男ね?お前があの女と不貞行為をしてくれて、本当に良かったわ!頭の悪いお前と結婚なんて、地獄よりも悲惨だもの」
「…な!ユ、ユリアナ、なんて言った…?」
「あら、頭も悪ければ耳も悪いのかしら?お前は、婚約者がいたのに、あの女との欲に溺れていたわよね?」
「……そ、それは、あの女が誘ってきたから…」
「まあ!?一度だけならまだしも、こちらで確認できている限り、25回も交わっておられたのに!?しかも神聖な学院内で!おぞましいですわぁ… 己の欲望に正直ですのねぇ、立場も場所もわきまえず、盛りのついた猿のように…あら、はしたない事を言ってしまったかしら?」
「……さ、猿、とは…失礼じゃ…」
「えっ!?公共の場で、しかも学院内で、最低でも25回ですよ!?
それも我が国の第三王子たるお人が、知性も教養もない女と、あのようなはしたない行為を…。私という婚約者がありながら… 猿と何が違うのです?」
「…す、すまなかった…ユリアナ、私は本当はお前を愛してたんだ!」
「リチャード様、そのような見え透いた嘘は結構でございますわ。吐き気がしますので。
それに…私たちの大切な学び舎が汚されたと、学院生も卒業生も、あなたたち二人を訴えると仰ってましたわよ?あちこちから恨まれて、大変ですわね?」
「…くっ…!私は…誑かされたんだ、騙されたんだ……」
「ですが、騙されたと言うなら、普通気が付きますわよね?途中で。
シャルルアンに夢中で、というか身体に夢中で、とはっきり申し上げた方が良いかしら?ああ、情事に夢中で、ですわね、だから冷静になる暇もなかったのですね?」
「ぐっ…!そ、それは…」
「お答えにならなくて結構。リチャード様、その上、私に冤罪をかけて、牢に入れようとなさったでしょ?私は何も悪くないのに」
「……すまない」
「私が何をしたの?」
「な、何もして、…ない」
「恐ろしいですね。何もしていない私を、冤罪で地下牢に入れようとしていたこと。レオンハルト様を呪ったこと。そして、ご自身の父親、正妃様までも呪いをかけようとしたこと。
あなたは自分の欲のために、とても恐ろしいことした」
「………ゆ、許して…欲しい、すまなかった」
「許しませんよ?許されると思っているのかしら?
やだわ、驚きしかないわ。
王宮の教師たちも罰を与えられるのかしらね、第三王子の頭でも理解できる授業をしなかったことを。
では逆に聞きますけど、こんなことをあなたがされたら、許すの?」
「…………」
「そういうことよ。あなたは許されない、誰にも。私は許さない」
リチャードは、涙をこぼし、縋るように私を見た。
「悪いことをしたら罰を受ける、当たり前のことよね?
私のお父様が、それはもう怒っているのよ。そうよね、溺愛している娘が、その婚約者と得体の知れない頭のおかしい女に、冤罪で地下牢に入れられそうになったのだから。
あなたに相応しい罰を用意しているそうよ?
お父様がその罰は、私には聞かせられないと言っていたけど…私に教えられないって、どんな罰かしら?
でも、すぐには殺さないとは言っていたわ!良かったわね、囚人リチャード」
リチャードは、フォンベルト侯爵のあの感情の読み取れない表情を思い出した。
『ユリアナを傷付けてみろ、お前のような馬鹿を埋めるのは容易いぞ』
自分の足が、生温かい何かで濡れていくのがわかると、身体が震え、立ってもいられずその場に座り込んだ。
すぐには殺さない
その言葉だけが、頭の中で永遠に繰り返していた。
418
あなたにおすすめの小説
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。
山田 バルス
恋愛
結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。
また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。
大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。
かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。
国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。
スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。
ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。
後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。
翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。
価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
【完結】最愛から2番目の恋
Mimi
恋愛
カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。
彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。
以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。
そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。
王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……
彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。
その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……
※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります
ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません
ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる