貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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69.返してあげる②

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 リチャードは、お父様のことを口にした途端、わかりやすく怯え失禁し、震え出すとそのまま動かなくなった。

 お父様の恐ろしさをわかっていて、なぜこんな愚かなことができたのか。そこまでの想像力すらないのね… 永久に理解できないわ。


 私は、シャルルアンの牢に近付き、鉄格子につかまり、ジュリのスキルで抑え込まれているシャルルアンの肩に触れ、回復魔法を流した。

 あまりにも酷い醜さだと、シャルルアンに与える罰には不向きな姿だからと、お父様から、少しだけ見れる程度に回復させて、と頼まれていた。そして、お腹に子供がいるからと。

 ゆっくり起き上がると、少し元気になったため、喚き始めた。

 「ユリアナー!お前はぁ、許さなぁい!お前だけはぁ、絶対に許さなぁいっ!」

 恐ろしいほど醜かったシャルルアンは、少しだけマシになった程度だったが、これ以上は私が嫌だった。

 「いやだわ、恐ろしい顔をして?
 あまりにも醜いから、魔物かと思ったらシャルルアンだったのね?思わず浄化魔法を使いそうになったじゃない!紛らわしいわね。
 それよりシャルルアン、私のドレスご覧になって?美しいでしょ?
 聖人の私をイメージして作ってもらったドレスなの!半年かかったのよ!とても気に入ってるの!
 あら…?ごめんなさい、あなたはもうドレスは着れなかったわね?
 ああでも、ご覧になって、この私のネックレス、希少な宝石なのよ?素敵でしょ?
 あら…ごめんなさい?ネックレスもできなかったわね?
 でもその囚人服、醜いお前にとってもお似合いよ!フフフフ!」

 シャルルアンは、また顔を歪めると、激しく何かを喚いているが、何を言っているのか、嗄れた声と、良く動かない顎で、まさに魔物の唸り声のようだった。

 「シャルルアン、落ち着きなさいな。そんなに醜くなった上に、なにか、汚い言葉を言っているのでしょ?そんなことを喚いたら、愛するリチャード様に嫌われるわよ?
 ああでも、真実の愛だから、お前がどんな姿になろうとも大丈夫ね!」

 「だまれぇ…このブス!おまえなんか殺してやるからぁ…!」

 「まあ怖い!殺してやるなんて、私に対する脅しね?それは殺人予告ね。どんどんと罪が増えていくわ?お前は生きているだけで、愚かしい罪を重ねていくのね?どうしてかしら?」

 「うるさぁい!だまれぇ!」
 
 「わかるわけないわね…。お前は、勉強が嫌だと言って何も学ばなかったのだから。幼い子供でもわかることを、何ひとつ学んでこなかった。
 だから、何も知らないの。可哀想ね。人としても、貴族としても、この国の国民としても、なんの知識もない。でも、わからなければ、学ぶのよ?普通は。その間お前は何をしてたの?」

 「うるさぁい!お前に、関係ない!」

 「そうね、私には関係なかったわね、お前が何人もの下男を買い漁って、夜な夜な楽しんでいたことなんか。気に入らなくなったら処分していたことなんか、関係なかったわね?ごめんなさいね?」

 「だ、…だまれ…!うるさい!」

 「お前が性欲解消に下男と楽しんでいた頃、私は聖人として働き、魔物の討伐と浄化、騎士たちの治療と、昼も夜も関係なく働いていたわ。
 そして、中等部ですでに高等部の勉強も終わらせた。
 学院が終わると、王宮で王子妃教育の授業を受けて、病院や診療所の患者さんを治療しに行って、とても忙しかったけど充実してたわ。
 私は私の役割を、私なりに誠実にこなしてきたわ。
 お前は私と同じ16歳と言ったけど、全然違うわね。
 お前も少しだけ我慢してお勉強をしていれば、少しだけ我慢してマナーや教養を身に着けていたら、こちら側にいたかも知れないのにね、残念ね?」

 「うるさい!うるさい!うるさぁい!だまれぇ、このクソ女っ!!」

 「まぁ!酷い言葉!そんな汚い言葉、どこで習ったのかしら?そんな言葉しか言えないなんて、はずかしいわ… やっぱりお勉強は大事よ?シャルルアン」

 「……帰れ、帰れっ!!もう来るな!お前なんか、殺してやるっ!」

 「懲りずにまた殺害予告ね…。また罪を増やして、困った人ね。
 でも、どれだけ罪を増やしても、もうお前の刑罰は決まっているそうよ?
 これ以上ないくらい恐ろしい罰だって、私のお父様が言ってたわ。
 やっぱり私には教えられないって仰ってたから、私はお前がどうなるかはわからないけど、まずはお前の出産が先だから、それが落ち着くまでは、お前たちにお似合いの、この素敵なお住まいで過ごしてもらうそうよ?安心して?」

 「………出産…?」

 先に反応したのはリチャードだった。

 「リチャード様?あなたの奥様は、ご懐妊されてるのよ!?まさかそれを知らずに…?随分と、ご無体をなさっていたのね…どれだけ好きモノなのかしら… 心の底から軽蔑しますわ…。まぁでも、リチャード様のお子なのかは、わかりませんけどねぇ。
 それでは、無事に出産できることをお祈り申し上げます。そのあとに、罪を償う罰を、きっちり受けてもらわなくてはなりませんから」

 「…ごかいにん、てなに?出産って、私が……」

 シャルルアンがようやく考え始めたが、私にはもう永遠にこの二人に用はなくなった。


 「囚人リチャードと囚人シャルルアン、それでは運命の人と、真実の愛とやらとどうかお幸せに!私は今とっても幸せです!
 あっ、そうそう、ただそのご報告だけに来たんです!ごめんなさいね、愛し合ってるお二人のお邪魔をしてしまって?
 それではお二人とも、末永くお幸せにー!さようならー!」

 「待って!ユリアナ!待って!助
けてくれ!俺を許して!ユリアナー!」

 リチャードはずっと喚いていたが、私はニッコリと微笑んで、ジュリにエスコートしてもらい、地下牢をあとにした。

 馬車に戻った私を、ジュリが普段は見せない微笑みで見つめていた。 
 
 「ジュリ、私…」

 「お嬢様、お強くなられましたね。もう我慢しなくて良いですよ」

 前回の時、リチャードに蔑ろにされ、シャルルアンに陥れられた、人の悪意を知らなかったユリアナは死んだのだ。

 死に戻った私は、強くなった。
 私はコイツらに負けなかった。
 家族を、ジュリをアンナを、マーカスを守りきったのだ。

 私はジュリにそっと縋り付き、そのジュリの胸の中で泣いた。
 ジュリはずっと、私を力強く抱き締めてくれた。

 私の悪夢のような出来事は、終わったのだ。


 
 「お父様、あの二人はやはり、まったく自分たちの状況を理解していませんでした。ですので、反省もしていなければ、正式な謝罪もありませんでした」


 「そうか、まぁ予想通りだな。ユリアナ、お前の言う通り計画を進めていくぞ?それに、裁判所からも、あの二人に処刑の判決が出た。いつかは死ぬからな、その時期がいつになるかわからないというだけで、ハハハ」

 私は、あの二人をまずは貴族牢に入れて、大した罰ではないと思わせたところで、地下牢に移した。

 あの二人は、地下牢に移されたあと、しばらくは騒ぎ続けた。

 「私は第三王子だぞ!地下牢に入れられる人間ではない!早く出せ!」

 「こんな臭いとこ、イヤよぉ!誰か、出しなさいよぉ!」

 二人が叫び、喚く度に、看守騎士が鉄の棒で、二人の鉄格子を無言で叩き続けた。それは地下牢全体に響き渡る不快な騒音だった。

 ここから出してくれと、その看守騎士にいくら声を掛けても、返事もしてくれなければ、目も合わせてくれない。

 喚いたり騒いだりすると、すぐに鉄格子を叩きに来るのに、自分たちが声を掛けても、存在しないかのように無視する。
 それを一月繰り返すと、ようやく喚くこともしなくなった。一月かけて学習した、自分たちに願いを叶えてもらう権利はないのだと。

 しかし、その地下牢に2ヶ月いても、反省も謝罪もできなかった。
 
 そして、この悪夢のような地下牢で数カ月過ごした時、シャルルアンが、お腹が痛いと騒ぎ出した。
 すぐに人が大勢シャルルアンの牢に入り、一日半、痛い!痛い!と騒いだあと、出産した。
 



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