貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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70.あの二人の罰

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 「なんでだ…!なんで髪の色も瞳の色も俺の色が無いんだ…!?」

 リチャードとシャルルアンが、地下牢に入って3ヶ月後、シャルルアンは出産した。

 しかも、髪色も瞳の色も、リチャードにもシャルルアンにも無い色の女の子だった。

 「お前!俺以外の男とも交わっていたのか…!?この淫乱女、アバズレめ!汚らしい女だ、…くそっ…なんでこんな女に…俺は、俺は、くそっ!騙しやがって!何が運命だ!何が最愛だ!くそっ…」

 その赤子の髪は濃い茶色で、瞳の色は黒かった。
 シャルルアンは思い出していた。あの美しい見た目の下男との素晴らしい夜を。

 あの時期ね、きっと。ヒューイも私に夢中だったもの。あぁ、あの時に戻りたい、何も考えずに欲に溺れていた頃に…。

 「そういえばお前、俺と最初に交わした時、破瓜の痛みもその印も無かったよな!?そんなこともあるって、お前に言われて、俺は、俺は、騙されてたんだ…!
 チクショー、お前なんかに、汚らわしいお前なんかに、夢中なるなんて、俺はなんて愚かだったんだ…!」

 「私のせいばかりにしないでよ!アンタが盛るから、下手くそなのに付き合ってやったんじゃない!アンタで気持ち良かったことなんて、一度もないわ!」

 「…っ!なんなんだコイツ…!あれは全部演技だったのか!? 猫なで声で甘えてきたのも、俺しかいないなんて言ったのも全部… 詐欺だぞ!お前は王族を誑かした詐欺師だ!このアバズレの悪魔め!」

 「馬鹿じゃないの!?ちょっと顔が良くて、王子だなんて、誰だって手に入れたいに決まってるじゃない、どんな手を使っても。アンタが勝手に運命の人だ、私の最愛だって、気持ち悪いほど囁いていたじゃない!私のせいにしないでよ!」

 「……おい、思い出したぞ…!兄上が言っていた小鳥を蹴飛ばしたって、あれ、あの時、お前はあのひな鳥を殺したんだな?」

 「知らないわよ!自分の膝に気持ちが悪いものが落ちてきたら、蹴飛ばすに決まってるでしょ!? アンタが勝手に私の行動を、美しく作り上げたんじゃない!私のせいにしないでよっ!」

 「…ユリアナが、虐めるだとか、殺そうとするとか、そんなのも全部嘘だった… しかも聖人の力も闇魔術で奪っていたなんて… 俺は、俺は…」

 「その嘘を勝手に信じたんでしょ?知らないわよ、疑うなら調べればよかったじゃない!今更文句言わないでよ!結果こんなことになってるのに!」

 リチャードは、取り返しのつかない現状に、今になって激しく後悔していた。

 ユリアナになんの落ち度もなかった。
 礼儀もマナーも正しく美しかった。
 余計なことはせず、淡々と私との交流を進め、ゆっくりと信頼関係を築いていった。
 そんなある時から、ユリアナの私を見る目に恋情を感じた。

 侯爵令嬢であり聖人であるユリアナ。美しい月の色の髪、優しく微笑む菫色の大きな瞳。美しい少女だった。

 そこに激しく溺れるような愛はなくとも、あのまま時を重ねていけば、お互いが最も信頼できる相手となり、将来家族を作り、穏やかに暮らして行けただろう。

 なぜこんなことに…?
 しかも、運命の人だと思ったこの女は、最初から違ったのだ。

 私の勝手な思い込みで、心の優しい、貴族とは少しかけ離れた奔放さも可愛らしい、運命の人だと信じてしまった。

 そうだ、父上に、本当に調べたのかと、本当にこの女で良いのかと、問われていたのに、私は目の前に欲に溺れ、運命の人という言葉に我を失っていた。

 こうなって然るべき状況なのだ。
 私が自分で選択した人生なのだ。父上が言った通り、私の選んだ結果でここにいるのだ。文句など…、言えるわけがない。

 私とシャルルアンの輝く未来のためにと、レオンハルト兄上を呪い、帰国した父上と正妃様をも呪う計画をしていた。

 なんて恐ろしいんだ…!
 兄上が解術されて良かった、ユリアナに魔力を返すことが出来て良かった…。

 私はすべて間違えていた。
 あのままユリアナを大切にしていたら、今頃は婚姻の準備をして、あと1年半もすればあの美しいユリアナを抱いていたんだ。くそっ…!

 地下牢に入ってすぐに、この場に現れたユリアナ、それはもう本当に美しかった。
 あのユリアナを、あの美しいユリアナを、俺のものにできたのに!どうしてこうなったんだ!

 ……でも、待てよ、ユリアナは俺のことを、お慕いしていない、好きでもない、と何度も言っていた…。
 だから嫉妬なんてするわけ無いと…
 しかも、大嫌いとも…言っていた。

 俺のことを、恋情のこもった目で見ていたのはいつだ…?
 シャルルと再会して、ユリアナを蔑ろにし、シャルルとの情事に夢中になると、ユリアナからはまったく手紙が届かなくなった。

 ユリアナは、王家からの打診で婚約した政略的婚約だと言った。侯爵家から、私を望んだことは一度も無いと。

 最初から、ずっと、ユリアナは俺に興味が無かったのか?それに、シャルルとの仲も知っていた、だから連絡しなかったと。

 はなから興味のない男が、他の女に夢中になり、それも親密な関係になっているとあれば、好きになるわけがない。

 貴族の作法として、親の決めた婚約者とは、そこに愛がなくとも婚姻し後継となる子を為す。
 ユリアナはその貴族の作法に則り、私と正しく交流していただけなのだ。

 ユリアナは何も間違っていない。
 それなのに、私は、私たちは、ユリアナを陥れるために、恐ろしい計画をして、それを実行した。

 そしてその結果、私の目の前には老婆のような、嘘つきで頭の悪い、アバズレで愚かな女がいる。

 永遠にこの女とこの地下牢で生きて行くのだ。
 それが私の選んだ人生だ。
 なんて愚かしいんだ。
 私に真実の愛などと言っておきながら、他の男に股を開く女。それが俺が選んだ女だったなんて……

 「囚人リチャード、囚人シャルルアン、お前たちの刑が決まった。牢から出ろ。これからその刑を執行する場所へ移動する」

 シャルルアンが出産してしばらく経ったある日、突然看守騎士が来て告げた。

 助けてくれ!と言っても、父上に伝えてくれ!と言っても、やはり誰もが目も合わせてくれなかった。

 手枷と足枷、目隠しをされ、乱暴に馬車に乗せられた。隣にシャルルアンがいるのだろう、髪を引っ張らないでっ!と言い泣いていた。

 泣いたシャルルアンを何度慰めただろう。それもすべて全部、偽りだった。もうコイツに何があろうと、助けることも慰めることもない。

 このような荷物を運ぶであろう馬車に乗せられ、揺れによる吐き気で、頭痛やめまいが限界になったところで、着いたと言われ、また乱暴に降ろされた。 

 そのまま歩けと言われ、どこか建物に入ると、椅子に座らされ縛られた。
 目隠しを外され、眩しくて、ぼやける視界がハッキリしてくると、目の前に、フォンベルト侯爵がいた。

 心臓がギュッと苦しくなると、座っている椅子が温かくなり、ポタポタと水滴の垂れる音が聞こえた。

 「罪人リチャード、私を見た途端お漏らしか?ふざけた奴だ。ユリアナを蔑ろにすることは、私に楯突くということが、今の今までわからなかったとは」

 フォンベルト侯爵は、ソファーに深く座り、長い足を組んでこちらを見ているが、今まで見せていた、あの感情の読み取れない微笑みではなく、明らかに殺意のこもった顔でこちらを見ていた。

 侯爵の後ろに立っている私兵長も副私兵長も、同じように、あからさまに殺意のこもった目をしてこちらを見ていたいた。

 「なによ!だれよこの人!」

 地下牢に入れられても、やはり己の立場や状況を理解できないシャルルアンは、怖いもの知らずと言ってよかった。 

 侯爵の後ろに立っている副私兵長が剣に手を掛けた。

 「メルヴィル、待て。お前の剣がけがれる」

 「は、申し訳ございません」
と言い、剣に掛けた手は下げたが、こちらに向ける殺意はさらに膨れ上がった。

 侯爵は軽く息を吐くと、

 「黙れ化け物、誰が口を開いて良いと言った?」

 低く殺意のこもった声で、次の言葉を発することは死を意味すると、さすがのシャルルアンでもわかるほどに、目の前の男の殺気はすさまじかった。

 そこに、二人の人間が同じように手枷をされ、腰縄を引かれ、入って来た。そして、同じように椅子に座らされ縛られた。

 よく見るとシャルルアンの両親である、ゴルドー夫妻だった。
 ゴルドーの両耳には、大きなガーゼがあてられており、夫人の髪は男と見間違うほどに短く切られていた。

 「…!お父様?お母様…?」

 フォンベルト侯爵が、シャルルアンに視線をやり黙らせると、

 「これで化け物の家族が集結か、よくもまあ引きつけ合うように、揃いも揃って馬鹿ばかりで、圧巻だな、アハハハ!ところで、罪人リチャードとそこの化け物、お前らの利き腕はどっちだ?」

 フォンベルト侯爵が雑談のような軽い口調で問うと、ゴルドー夫人が、微かな声でヒッ…と言い、怯えだした。

 「私はお前らのような世の中に必要とされない、むしろ害のある奴らに割く時間は無いからな、お前らの今後について話そう」
 
 そう言うと、綺麗な所作でゆっくりお茶を飲み、口角を上げた。

 「まずはリチャードと化け物、お前らの利き腕を斬り落とす。
 そして、お前らは随分と愛を交わしていたな?その行為が殊の外ことのほか好きなようだ。
 しかしな、リチャード。お前はそこの、汚らわしい化け物の中に挿入した、お前の股間のお粗末なモノはもう必要無いだろ?
 散々そこら辺の野良犬にも、股を開いていた化け物だ。おかしな病気が移っていたら困るだろ?それにもう、散々楽しんだから、要らないよな?お前のその股間の不要なモノも斬り落とす」

 リチャードは頭の中が真っ白になった。なに…?侯爵は何を言ってる?なんて言ってる…?俺の大切なモノを、斬り落とす?そんなこと、そんなこと、されたら、死ぬだろ…?

 「それだけだと思ってるのか?安心するのはまだ早いぞ?股間を斬り落としたお前は、女の相手はできないから、男たちの慰み者だ。もう女は懲り懲りだろ?
 それでもお前はいやらしいことが好きだからな。それなら男が相手でも構わないよな?」

 血の気が引き、もう意識を保つのが精一杯だった。目の前が暗くなりかけた時、物凄い力で頬を叩かれた。

 (お嬢様の痛みを知れ)
  
 侯爵の後ろにいた、先ほど剣に手を掛けた副私兵長だった。気を失うことも許されず、現実に引き戻される。

 「そうだな、男一人相手に、1リリン働いたことにしよう。お前は我が娘に慰謝料を払わなくてはならないだろ?
 お前の財産だけでは全額には程遠い。残り48億リリンだ。金が無ければ、普通は働くのだ。死ぬ気で働いて、誠意を持って慰謝料を全額払え」

 1リリン!? 一日に一人相手にして、10日で10リリン…?10リリンで何が買える…?そうだ、子供の頃、街にお忍びで行った時、カチカチの粗末なパンが10リリンだった…。
 俺は、俺の身体を、汚い男に差し出しても、粗末なパン程度の収入しか得られないのか…しかも10日もかけて… 1日に何人相手にすればいいんだ……

 「それから、そこの化け物、お前だ。お前の両親を見てみろ?耳を失い、手も失った。
 お前をまともに教育せず、お前は世の中に害を為す化け物に育った。その罪は極刑と言って良い。だがな、簡単には死なせられんのだよ。わかるか?悪いことをしたら、償うんだ。簡単に死ぬことは許されない。……まだお前にはわからんか。
 ゴルドー、お前が作り上げた結果だ。化け物には言葉が通じん」

 ゴルドー夫妻は、あれからまたフォンベルト侯爵に言い訳がましいことを言い、ゴルドーは残された左耳を、夫人は左手を斬り落とされた。
 そして、これから自分の娘に与えられる処罰を聞く恐怖に怯えていた。

 「この化け物は利き腕を斬り落とし、ここの未開拓の地の男どもの性欲処理になってもらう。
 しかし、ただそれだけでは、この化け物が喜ぶだけだ。なにせ好きだからな、男に股を開くのが。
 この化け物が、男たち相手に働く合間に、教養やマナーを身に着けさせろ。それをお前ら両親が二人でやれ。半年後と1年後に、教育が上手く行っているか見に来よう。上手くいっていれば、ここから出してやる。2回のチャンスを逃すなよ?」

 この未開拓の地から、生きて戻ってきた者などいない。
 商会を営むことで、あらゆる情報を持っているゴルドー夫妻は、もちろんそのことも知っていた。
 







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