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73.キイラの処遇
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闇魔術を使うことは、あり得ない。
それは500年前に闇魔術を使う一族が粛清されたことで、その術も、その術を発動させる者も存在しないというのが、教育を受けたこの国の国民全員の認識だった。
しかし、現れた、その禁忌の魔術を扱える者が。
「本来であれば、直ちに処刑となる。その、ライナルトが手に入れた禁術書も、魔法省で封印してもらい、呪いの力が弱くなった頃に消滅させなければならない。
…しかし、こんなに近くに闇魔術を操れる者が存在していたとは…。
魔力判定で見逃されるとは思えない。受けていなかったのだろう」
キイラは現在、魔力拘束具を付けられ、ルイ師団長の結界を張った王宮の一室に監禁状態となっている。
私のみならず、レオンハルト様にも闇魔術を掛けた。実際に呪ったのはレオンハルト様の影にだったが、それは、なんの猶予も無く処刑なのだ、本来であれば。
キイラ自身も処刑を受入れ、その日が来るのをじっと待っている。
「レオンハルト様、キイラは被害者でもあります。ゴルドー元伯爵が、我が侯爵家に妬みから恨みの感情を抱き、私を陥れるためにした愚かな行いにより、キイラの母親が助からなかった。
私は闇魔術の被害者ではありますが、このような背景を知っていて、キイラをすぐに処刑という思いにはなれません…」
レオンハルト様は、微かに眉を寄せ、私を見た。
「ユリアナ、貴女の気持ちはわからんでもない。しかし、此度のことは、感情で判断できるものではない。この判断を誤れば、過去の王家の行いを否定することになる」
レオンハルト様は、未来の国王となるお方だ。聡明で常に冷静であり、決断力があり、判断を間違えることはない。
恐らく、レオンハルト様ご本人に闇魔術をかけていたら、かばいきれなかっただろう。
しかも今回私は知ってて、自分から闇魔術を掛けられたのだ。
それにキイラは、自分の誤解であるとわかると、すぐに反省し、解術もした。
レオンハルト様の影も、私も、今のところ身体に後遺症や不調もない。
前回の時は、解術が間に合わず、苦痛と絶望の中、処刑されたのだ。
「しかし、キイラの母親は、私が治療すれば、恐らく助かったでしょう。ゴルドーがあの日、王宮にさえ居なければ。
そしてゴルドーが、我が侯爵家に、私に、理解のできない妬みと恨みの感情を抱いていなければ。
それが原因と言うなら、尚のこと、キイラには同情しないではいられません。
キイラは、近所のお年寄りや困っている人を、いつも進んで助ける優しい子だったそうです。その事に、なんの見返りも求めず、母親と二人、貧しくとも心は豊かに暮らしていたと、キイラを知る人は皆そう言っていたと聞きました。
深く傷付いた心につけ込み、己の勘違いした恨みのために、心優しい娘の感情を利用した。恐ろしい罪人はゴルドーだけだと、私は考えます」
同席しているルイ師団長が、
「レオンハルト殿下、キイラはキイラ自身が闇魔術を操れるわけではありません。あの禁術書がなければ、ただ魔力を保持しているだけです。
それが証拠に、キイラの前科はありません。そして神殿に、キイラが魔力判定を受けた記録がありました。
恐らく、ですが、前神官長ロランド様は気が付いたのかもしれません。
魔力判定の時に、意図的にキイラの魔力の核に、神力を流さなかったのではないでしょうか?
それがこの度、あの禁術書の魔力に誘発されたのではないかと」
ルイ師団長が言った言葉に、ロランド様に最後に会った日のことを思い出した。
『たまにね、もしかしたら見付からない方が良かったのかと思う魔力の子がいるんだ。危険だと思う魔力が。
その時は迷うんだ、発表しても良いのかと。ユリアナ様のようにあんなに輝いてしまっては隠せないよ?はっはは。
でも聖人様以外は私にしかわからない』
ロランド様… ロランド様は、幼いキイラのために、御自分の役割に反してでもキイラを守ってくださったんだわ…
それなのに、あの家族、あの愚かな伯爵家は、キイラのすべてを奪い、絶望させた。
「…ユリアナ、どうした?」
レオンハルト様が、眉を寄せ心配そうに私を見ていた。
涙が溢れ、膝の上で握っていた手の上にポトポトと落ちてきた。
ロランド様、ロランド様… お会いしたい。ロランド様の深い優しさに触れたい。
ロランド様の、子供の未来に対する愛情深い配慮を、嘲笑うかのように踏みにじり、キイラから唯一の家族を奪い、キイラの人生を終わらせようとしている。
「レオンハルト様、私はロランド様に最後にお会いした時、ロランド様の仰っていたことが、ずっと気になっていました。
それが今、ルイ師団長の言葉でわかった気がします」
私はロランド様の言葉を、この場にいるレオンハルト殿下とルイ師団長、ライナルト殿下とお兄様に話した。
「そうか…、ロランドはキイラの魔力の核を目覚めさせないことにしたのか…、それなのに、アイツらは自分たちの欲や恨みをはらすことに使った、キイラの犠牲も考えずに」
レオンハルト殿下は、普段は見せない苦悶表情を浮かべ、思考の中に入っている。
「ルイ、キイラの使い道はあるか?」
「キイラの魔力は特殊です、自発的に使うことは出来ませんが、外からの刺激で強大な魔力を発動できます。恐らく、魔術書を扱うことができるのではと思います」
魔術は、ルイ師団長のような魔法師が、魔法を設計図のように幾重にも重ね構築し、魔術として人に役立つ魔法を作り上げたものだ。
それは主に呪文のようにして口にすると、魔術として発動される。
ルイ師団長は、現在その研究を続けていて、完成にはまさにキイラのような魔力を持つものが必要だった。
「ルイに預けるのが一番有益であり、安心ではあるな。闇魔術は私の責をもって、この時代で消滅させる。キイラのような魔力を持つ者が、今後二度と使うことができないように。
しかし、キイラを生かしておいたとあっては、あらゆる反発は免れない。事情が複雑だしな。
それに…あの赤髪だ。まずは見た目を変えて、王宮に軟禁し、2年かけて徹底して教育する。恐ろしい思想は二度と持たせない。ルイ、やれるか?」
「レオンハルト殿下、お任せください。私の生涯をかけて、キイラを教育し、魔術を役立てるものとして使えるよう尽力致します」
ルイ師団長は深々と頭を下げ、レオンハルト殿下に忠誠を誓った。
それは500年前に闇魔術を使う一族が粛清されたことで、その術も、その術を発動させる者も存在しないというのが、教育を受けたこの国の国民全員の認識だった。
しかし、現れた、その禁忌の魔術を扱える者が。
「本来であれば、直ちに処刑となる。その、ライナルトが手に入れた禁術書も、魔法省で封印してもらい、呪いの力が弱くなった頃に消滅させなければならない。
…しかし、こんなに近くに闇魔術を操れる者が存在していたとは…。
魔力判定で見逃されるとは思えない。受けていなかったのだろう」
キイラは現在、魔力拘束具を付けられ、ルイ師団長の結界を張った王宮の一室に監禁状態となっている。
私のみならず、レオンハルト様にも闇魔術を掛けた。実際に呪ったのはレオンハルト様の影にだったが、それは、なんの猶予も無く処刑なのだ、本来であれば。
キイラ自身も処刑を受入れ、その日が来るのをじっと待っている。
「レオンハルト様、キイラは被害者でもあります。ゴルドー元伯爵が、我が侯爵家に妬みから恨みの感情を抱き、私を陥れるためにした愚かな行いにより、キイラの母親が助からなかった。
私は闇魔術の被害者ではありますが、このような背景を知っていて、キイラをすぐに処刑という思いにはなれません…」
レオンハルト様は、微かに眉を寄せ、私を見た。
「ユリアナ、貴女の気持ちはわからんでもない。しかし、此度のことは、感情で判断できるものではない。この判断を誤れば、過去の王家の行いを否定することになる」
レオンハルト様は、未来の国王となるお方だ。聡明で常に冷静であり、決断力があり、判断を間違えることはない。
恐らく、レオンハルト様ご本人に闇魔術をかけていたら、かばいきれなかっただろう。
しかも今回私は知ってて、自分から闇魔術を掛けられたのだ。
それにキイラは、自分の誤解であるとわかると、すぐに反省し、解術もした。
レオンハルト様の影も、私も、今のところ身体に後遺症や不調もない。
前回の時は、解術が間に合わず、苦痛と絶望の中、処刑されたのだ。
「しかし、キイラの母親は、私が治療すれば、恐らく助かったでしょう。ゴルドーがあの日、王宮にさえ居なければ。
そしてゴルドーが、我が侯爵家に、私に、理解のできない妬みと恨みの感情を抱いていなければ。
それが原因と言うなら、尚のこと、キイラには同情しないではいられません。
キイラは、近所のお年寄りや困っている人を、いつも進んで助ける優しい子だったそうです。その事に、なんの見返りも求めず、母親と二人、貧しくとも心は豊かに暮らしていたと、キイラを知る人は皆そう言っていたと聞きました。
深く傷付いた心につけ込み、己の勘違いした恨みのために、心優しい娘の感情を利用した。恐ろしい罪人はゴルドーだけだと、私は考えます」
同席しているルイ師団長が、
「レオンハルト殿下、キイラはキイラ自身が闇魔術を操れるわけではありません。あの禁術書がなければ、ただ魔力を保持しているだけです。
それが証拠に、キイラの前科はありません。そして神殿に、キイラが魔力判定を受けた記録がありました。
恐らく、ですが、前神官長ロランド様は気が付いたのかもしれません。
魔力判定の時に、意図的にキイラの魔力の核に、神力を流さなかったのではないでしょうか?
それがこの度、あの禁術書の魔力に誘発されたのではないかと」
ルイ師団長が言った言葉に、ロランド様に最後に会った日のことを思い出した。
『たまにね、もしかしたら見付からない方が良かったのかと思う魔力の子がいるんだ。危険だと思う魔力が。
その時は迷うんだ、発表しても良いのかと。ユリアナ様のようにあんなに輝いてしまっては隠せないよ?はっはは。
でも聖人様以外は私にしかわからない』
ロランド様… ロランド様は、幼いキイラのために、御自分の役割に反してでもキイラを守ってくださったんだわ…
それなのに、あの家族、あの愚かな伯爵家は、キイラのすべてを奪い、絶望させた。
「…ユリアナ、どうした?」
レオンハルト様が、眉を寄せ心配そうに私を見ていた。
涙が溢れ、膝の上で握っていた手の上にポトポトと落ちてきた。
ロランド様、ロランド様… お会いしたい。ロランド様の深い優しさに触れたい。
ロランド様の、子供の未来に対する愛情深い配慮を、嘲笑うかのように踏みにじり、キイラから唯一の家族を奪い、キイラの人生を終わらせようとしている。
「レオンハルト様、私はロランド様に最後にお会いした時、ロランド様の仰っていたことが、ずっと気になっていました。
それが今、ルイ師団長の言葉でわかった気がします」
私はロランド様の言葉を、この場にいるレオンハルト殿下とルイ師団長、ライナルト殿下とお兄様に話した。
「そうか…、ロランドはキイラの魔力の核を目覚めさせないことにしたのか…、それなのに、アイツらは自分たちの欲や恨みをはらすことに使った、キイラの犠牲も考えずに」
レオンハルト殿下は、普段は見せない苦悶表情を浮かべ、思考の中に入っている。
「ルイ、キイラの使い道はあるか?」
「キイラの魔力は特殊です、自発的に使うことは出来ませんが、外からの刺激で強大な魔力を発動できます。恐らく、魔術書を扱うことができるのではと思います」
魔術は、ルイ師団長のような魔法師が、魔法を設計図のように幾重にも重ね構築し、魔術として人に役立つ魔法を作り上げたものだ。
それは主に呪文のようにして口にすると、魔術として発動される。
ルイ師団長は、現在その研究を続けていて、完成にはまさにキイラのような魔力を持つものが必要だった。
「ルイに預けるのが一番有益であり、安心ではあるな。闇魔術は私の責をもって、この時代で消滅させる。キイラのような魔力を持つ者が、今後二度と使うことができないように。
しかし、キイラを生かしておいたとあっては、あらゆる反発は免れない。事情が複雑だしな。
それに…あの赤髪だ。まずは見た目を変えて、王宮に軟禁し、2年かけて徹底して教育する。恐ろしい思想は二度と持たせない。ルイ、やれるか?」
「レオンハルト殿下、お任せください。私の生涯をかけて、キイラを教育し、魔術を役立てるものとして使えるよう尽力致します」
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