貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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76.元第一騎士団団長ジョーデンのその後

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 剣術大会の日から、第一騎士団団長ジョーデンは、自宅である伯爵家にいた。

 騎士団の団員は、有事の際にすぐに編成し出兵できるように、全員が宿舎で生活をしている。それは、団長も同じだった。

 ジョーデンは剣術大会で、呆気なく侯爵家私兵ジュリアンに負けた。

 しかし、ジュリアンが魔力を使って不正をしたと、ありもしない疑いをかけて騒ぎ、ルイ魔法師団長の魔力拘束具や結界を、機能していないとでもいう発言をし侮辱した。

 それにもかかわらず再戦したが、開始直後にまた無様な姿を晒した。

 そして、そのあと宿舎には帰らず、逃げるように自宅の伯爵家に行き、その日から一度も自室から出てこなかった。

 (くそっ…、なんで、なんで負けたんだ!しかもあんな醜態を晒し、団員全員が見守る中、いや国民のほとんどが観に来ていた…。あの野郎、あの狼、もっと早くに処分していれば、こんなことには… くそっ!)

 今の己の実力、衰えてきている現実に向き合うことができず、過去の自分に未だ縋り付く哀れな男。

 騎士としてのプライドも忘れ、対戦相手が不正をしていると騒いだ挙句、無様に敗れた。

 堂々と戦士として戦い、己の実力を認め、清々しく後継にその場所を譲っていれば、生涯英雄として称えられたものを、負けを認めず喚き、結果無様に地面に全身を打ち付けた姿に、第一騎士団の騎士たちは失望していた。

 そして今、許可なく自宅に引きこもり、騎士団の仕事も放棄している。

 あんなのは英雄じゃない。
 憧れていた団長ではない。

 ジョーデンが自宅に引きこもっても、騎士団の誰一人、迎えに来なかった。

 しかも、そのジュリアンが、聖人ユリアナに暴力を奮った騎士の腕を斬り落とした時、自分を遥かに超えてくる実力だと怯え、過剰な罰を与えた。
 あのごろつきしかいないような第二騎士団に入団させ、潰し合いをさせようとしたのだ。

 その事実を知った第一騎士団団員たちは、ジョーデンに対する感情が、失望から軽蔑に変わっていった。

 自宅に引きこもってしばらくすると、第一王子レオンハルト殿下から手紙が届いた。

 剣術大会での姿を観ていた。残念としか言いようのない有り様に失望している。その後、勝手に仕事を放り投げ、許可なく休暇を取るなど、第一騎士団団長に値しない行動だ。
 3日後に登城しろ。登城しなければ、お前の処分を決定する。

 殿下にも失望されていた。
 その手紙には、国王ロードリックは退位し、レオンハルト殿下が玉座に着くとも書かれていた。

 ロードリック陛下に救いを求めることはもう無理だ。

 友人であり、宰相のデイビッド·コンフォードに、殿下との間に入って欲しいと手紙を出したが、お前のせいでひどい目にあっている、二度と連絡してくるなと返事が来た。

 なぜだ…アイツはいつだって俺の言うことを聞いていたのに!

 あんな恥を晒し、尚且つ今の今まで自宅に引きこもっていた。
 今更ノコノコと登城なんてできない。
 自分の部下たちにどんな顔をして会えばいいんだ。考えれば考える程、登城する気にはなれなかった。

 結果、登城命令を無視するかたちとなった翌日、伯爵家の前に王家の馬車が到着した。

 レオンハルト殿下の側近で、侯爵家の嫡男ナイジェル·フォンベルトがいた。

 「罪人ジョーデン、お前は国境にある鉱山で5年間の労役刑となった。すぐに出発する」

 王家の馬車で、騎士団に戻って来いと迎えに来てくれたんだと思った。
 そのため、身なりを整え、帯剣はせず応接室で待っていた。

 「鉱山!?なぜですか?なぜ俺が!」

 レオンハルト殿下直筆の手紙を渡され、読めと言われた。

 「お前は自分のプライドを優先させ、侯爵家私兵ジュリアン·エトール兵長を亡き者にするよう企てた。
 剣術大会でもエトール兵長に濡れ衣を着せ、ルイ·エンバリー魔法師団長の魔法を声高に侮辱した。
 昨日、登城していれば貴族牢に収監としたものを、その要請にも己のプライドを優先させた。お前は二度と城に入ることはない、安心して国境の鉱山に行け」

 自室に戻ることも許されず、そのまま連行されるように馬車に押し込まれた。

 この豪華な馬車でなら、国境まではそれほど苦痛では無いだろうと思った矢先、この馬車が向かっている先に不安が込み上げた。
 嘘だろ!?やめてくれ… 俺が一番行きたくなかった場所だ…!

 第一騎士団棟の馬車止めで馬車が止まると、そこには部下全員がいるのではと思うほど、大勢の騎士服を着た騎士たちが馬車の窓から見えた。

 「罪人ジョーデン降りろ」

 ナイジェルが馬車の扉を開け、低い声で言った。

 「い、嫌だ…降りません…」

 「これ以上、レオンハルト陛下の命にそむくなら、5年ずつ鉱山刑の年数を増やすように王命が出ている。お前の刑は、たった今、鉱山刑10年となった」

 「…!じゅ、10年!?そんな…!」

 「降りろ、今すぐ降りなければ15年になるだけだ」

 ジョーデンはうつむきながら、馬車を降りた。
 そして、ほんの少しだけ顔を上げ、視線を騎士たちの方に向けると、そこには自分の側近として身近にいた者が数名見えた。

 「ここにいる元第一騎士団団長ジョーデンは、10年の鉱山刑となった!
 レオンハルト国王陛下による罪状を読み上げる!
 『この者は愚かにも、フォンベルト侯爵家の私兵ジュリアン·エトール兵士の強さを妬み、妬むだけでは足らず、亡き者にしようと企てた。
 騎士として、団長としての清廉たる志を失い、王家直属の騎士である第一騎士団を辱め、国民も、国王である私をも失望させた。この罪は重い。よってこの者を鉱山での労役刑とする。
 今後、第一騎士団に在籍する騎士は、その信頼回復に努め、騎士としての廉直であるべき魂を再度見つめ直し、互いを認め合い、崇高な役割を果たしていくことを命じる』以上だ。異論のある者、発言を許す」

 俺の側近だった一人が前に一步出た。

 「発言します。元団長、罪人ジョーデンのせいで、我々第一騎士団員は、強い騎士になればなるほど仲間に命を狙われる組織だと、友人知人には冷ややかな目で見られ、
 家族には、罪もないエトール兵士の殺害未遂に加担したのではと、疑いの目で見られています。
 第一騎士団の信頼回復に、どれだけの月日がかかるのか、想像もできませんが、その日まで、この男がこの城に戻ることを許可しないでいただきたいと…お願い申し上げます…!」
 
 その発言した騎士の後ろにいる全員が、頭を下げ、騎士としての礼をしていた。

 「レオンハルト国王陛下には、私が責任を持って、一言一句違えずに伝える」

 ナイジェルがそう言うと、看守騎士がジョーデンを馬車の中に誘導した。チラッと部下たちの方に視線をやると、全員が仄暗い瞳で俺を見ていた。
 
 もう仲間でも友人でもない、ただ軽蔑と怒りの含まれた視線がつらかった。

 
 すぐに王家の馬車で出発したが、森に差し掛かるところで粗末な檻のような馬車に移された。

 「ナイジェル殿!お願いです、俺は最強の騎士です!これからも王家に忠誠を誓い、お役に立つと約束します!これは、その、あまりにも酷いのでは…!?」
 
 ジョーデンは、手枷と足枷をされる前に抵抗した。ジュリアンに負けたとはいえ、ジュリアンは規格外の強さであり、実質このジョーデンが国内でも最強と言われる一人なのだ。

 暴れるジョーデンを魔力で抑え込み、檻の馬車に乗せた。

 「ジョーデン、俺の家族であり大切な私兵のジュリアンは、その檻よりもはるかに狭い、窓もない物置小屋に一月閉じ込められていた。ほぼ水しか与えられないで。
 それは、お前がジュリアンに与えた罰だ。知っていたよな?そうなるように仕向けたのはお前なのだから。
 それは酷くないのか?」
 
 「お、俺は… 俺が、最強じゃなくちゃ…ダメなんです… あんな後から出てきた、あんな魔力の、小僧が、…俺より、強いなんて… そんなのは、許されない…」

 「お前は、自分が衰えていくことはないとでも思っていたのか?
 いつか後継に、自分のあとを譲るということを、想像もしていなければ、その器も無かったな。
 ジュリアンの剣を見て怖かったか?自分よりも遥かに強い、いつか負けるかもしれないと?
 あたり前だ、ジュリアンは6歳の時から親元を離れ、我が侯爵家私兵に混じって、過酷な訓練を続けてきた。休むことも、怠けることも、弱音を吐くことも、ただの一度もなかった。
 その厳しい鍛錬の間に、魔力操作の指導を受け、もちろん貴族としての教養やマナーも習得した。
 簡単に得た力ではない。ジュリアンが、血反吐を吐きながら努力して得た結果だ。
 そのジュリアンの努力を、強さを妬み、亡き者にまでしようとしたお前は、戦士としても男としても、器の小さい、情けない哀れな男だ。
 俺たちの家族であるジュリアンを害したお前を、俺たちは許さない。
 お前の王家に対する忠誠は偽物だ。行け」

 ナイジェルの指示で、目隠しと猿ぐつわをされその馬車は出発した。

 なぜだ… ジョーデンの頭の中では、何故?としか浮かんでこなかった。
 こうなってもまだどこかで、陛下が連れ戻してくれるのではと、生ぬるい考えを持っていたから。

 馬車は1週間かけて鉱山についた。
 その間、ほぼ水しか与えられず、空腹と疲労で体力も気力も失いかけていた。

 「ようこそ!鉱山という名の監獄へ! ……おいおいおい、お前ら見ろよ!コイツお坊ちゃまじゃねーか?この豪華な服を見てみろ?おい、これはまた上玉が来たぜ!見ろよ、あの美味そうなケツを…!」

 朝日が登ると同時に鉱山での労働が始まる。夜暗くなるまで働き、夜は大部屋で雑魚寝状態だった。

 訓練で鍛えてはいたが、団長ともなると、団員ほどの鍛え方はしない。そして、年齢による衰えも、ここにきて如実に理解させられた。
 しかも剣術大会のあとは、自室でほとんど寝て過ごしていた。
 
 それに加え、馬車での移動は水しか与えられなかった。国内最強の騎士の名も、今のジョーデンの身体からは想像もできない。

 鉱山での過酷な労働で、横になるとすぐに眠ってしまった。


 何が起きているか、わからなかった。
 下半身に違和感を感じ起きると、強い力で抑え込まれた。

 「なにをする…!」

 「あぁ、王子様、起きたか…、どうだ気持ち、良いだろ…?」

 複数人の男たちが、俺を抑え込み、俺の下半身をいじり、俺の中に挿入していた。あまりの激痛に暴れると、殴られうつ伏せにされ、また抑え込まれた。

 まったく抵抗出来なかった。
 鉱山で鍛えたであろう屈強な男たちに抑え込まれ、次から次へと相手をさせられた。

 こんなことが許されるのか!
 明日、班長に訴えてやる…!こいつら皆、俺の手で処刑してやる!

 しかし…、なんと言うのだ…?なんと言えば良い?男に犯されたと、言うのか…?俺が?この国最強の俺が?
 そんな屈辱的なこと… くそっ…!

 ジョーデンの鉱山での日々は、昼は倒れる寸前まで働かされ、夜は男たちの餌食となる毎日だった。

 俺は、俺は、何を間違えた…?
 俺は最強なんだ、最強の騎士として永遠に崇められる存在だったのに…!
 なぜこんな慰み者に成り下がったんだ…!

 ジョーデンのこの状況は、次の新人が労役刑として入ってくるまで、2年間続いた。

 しかし新しく入って来た罪人の男は、激しく暴れ抵抗し、すぐに班長に報告すると、その新人を襲った、今までジョーデンを犯していた男たちは全員、別の寄宿舎に移された。

 そうなっても、ジョーデンは自分の状況を理解出来なかった。

 「おい、今度はお前が俺を慰めるんだ」

 新しく入って来た男は、護身用にナイフを持つことを許可されていた。
 その男は、自分にのしかかってきたジョーデンの喉を、その護身用ナイフで刺した。
 


 それから十数年後、ジョーデンがこの世にはもういないという噂が、一瞬だけこの王都にも流れたが、誰もがそれ以上の関心を示すことは無かった。 
 
 




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