貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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80.解術する

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 ジュリの一言で、ナナカは緊張の糸が切れたように泣き出した。

 「ジュリアン様、ありがとうございます…ありがとうございます…。この御恩は必ずお返し致します…!」

 ジュリは、感情を表に出すことはほとんど無い。それでも、ユリアナだけに見せる表情や言葉数は多かった。

 その時は、真っ直ぐにユリアナを見て微笑んだ。

 ジュリアンは思っていた。
 ユリアナが魔物の討伐に行く度に、自分も同行して魔物を殲滅させていたが、自分より弱い騎士たちは、すぐに魔物に襲われ怪我をしたり、酷いときは逃げる時に転んだと言って怪我をしている者もいた。

 その度に、ユリアナに優しく治療され、心配されている。

 なんであんな弱い奴が、お嬢様の近くで優しくされているんだ。

 その光景を見るたび、なぜか心がイライラする。その感情についてはよくわからなかったが、自分はとにかく強いのでかすり傷すらできない。

 騎士たちのように、お嬢様に優しく治療されることは皆無だった。

 魔物さえいなければ、お嬢様が討伐に出ることは無い。だからどんな時でもスキルを使い、魔物を徹底的に駆逐した。

 しかし、また時が経てば、魔物が湧いたと連絡が来る。
 魔物さえいなければ、俺とお嬢様の時間を邪魔されずに済むのに。

 そんなことをいつも考えている時、侯爵家の養子となったナナカが、決定的な提案をしてきた。
 俺が魔物をすべて殲滅する。その間にその魔術とやらを使ってくれと言った。

 これで魔物が沸かなければ、お嬢様は討伐に呼ばれることもない。

 「ジュリ、ナナカをお願いね?とにかく、何があってもナナカを優先して助けてほしいの」

 「俺が優先するのはお嬢様です」
  
 「…ジュリ、その時だけはナナカを優先して?ナナカはお腹に赤ちゃんがいるの。ナナカに何かあったら私は生きていけないかも知れない。だからお願いね?」

 「………お嬢様を優先して、次にナナカ様を助けます」

 「ジュリアン?これは私の命令よ?ナナカを一番に助けるの」

 「………わかりました。二人同時に助けます」

 お互い頑固で譲らないこのやり取りに、兄ナイジェルがクスクス笑っている。

 「当日はナナカとルイ師団長と、ランも行くんだろ?それから第三騎士団と、ユリアナとジュリアンか、大丈夫そうだな!」

 私の魔法の先生であるラン·タイラー先生は、私の作った万能薬の管理をしていて、当日その万能薬を持参し、怪我人の対応を手伝ってくれることになった。

 まずは西の森の巨木から、解術することになった。この西の巨木は、南より王都に近いため、まずは西からとなった。

 「ナナカ、無理はするな、いいか?試しに行ってみるということで、私は許可した。お前が怪我をしたり危険なことがあれば、即中止だ、わかったな?」

 「国王陛下、この度はご英断に感謝致します。もったいない御言葉、肝に銘じ、同行していただく皆様にご迷惑をお掛けしないよう、任務に当たります」

 「頼んだぞ、お前も私の大切な国民の一人だ。それを忘れるな」

 私たちはまずは西の森の手前にある、キャリック子爵家の横の森に、拠点を作った。
 あのリチャードと同級生だったクリスチャン·キャリック子爵令息は、私を裏切っていたエマ·ハンスの婚約者だ。

 当日、クリスチャンの姿は見えなかった。

 キャリック子爵は、この度の解術に懐疑的だった。

 「魔物がいなくなるのは喜ばしいことですが、そんなに上手くいくものでしょうか…?私どもキャリック家が、今後も王都を守り抜きますよ?」

 なぜか積極的にこの度の解術に理解を示さないキャリック家に少し違和感を感じたが、そもそも今回は討伐隊に編成していないので、そこまで前のめりではないのだろう。

 第三騎士団の先鋒隊とジュリを先頭に、巨木のある場所まで進んだ。
 しばらくはジュリたちだけで魔物をサクサクと蹴散らした。
 巨木に近付く程、魔物の種類も凶暴さも増した。私もジュリたちが取りこぼした魔物を容赦なく浄化していった。

 巨木が見えてくる頃には、ナナカ以外の全員が討伐に参加していた。
 ルイ師団長は常にナナカを背中に隠し、結界で覆い、強力な魔力を放ち、魔物をまったく近寄らせなかった。

 「おい!お前!さっきから何してるんだっ!」

 先陣の第三騎士団の副団長が叫んだ。
 見ると巨木の奥に、クリスチャン·キャリックがいた。なぜか魔物を斬ることはせず、生かして追い立て、ナナカのいる方に魔物を差し向けている。

 「クリスチャン!なにをしてるのっ!馬鹿なことをするなら許さない!ジュリ、アイツを捕縛して!」

 「御意」

 ジュリはユリアナに返事をすると同時に、クリスチャンに威嚇のスキルを使い地面に転がした。

 「殺してはダメよ!ルイ師団長!コイツを―――」

 「ユリアナ様、俺がコイツを殺っても?」

 私が言い終わらないうちに、クリスチャンのすぐ近くまで移動していたルイ師団長は、聞いたことのない低い声で殺意をみなぎらせていた。

 「ルイ師団長!ダメよ、殺してやりたいけど、すべてが終わってからよ。まずは眠らせておいてください」

 「…わかりました」

 クリスチャンがなぜこんなことをしたのか、それは後から、ゆっくりと、すべて喋りたくなる状況を作ってからよ。
 ナナカを狙っていたなら許さない。

 かなりの数の魔物が湧いて出てきている。しかし、ジュリの前では子猫のように無力化されていた。

 ジュリの本気の姿を見たことは無いが、それに近い状態だと思った。

 「お嬢様、今なら大丈夫です。俺がここから先には行かせません」

 「ありがとうジュリ!数分で良いの、お願いね!ナナカ!今よ、お願い!」

 ナナカはルイ師団長に手を握られ、巨木の前に素早く移動した。
 そして、巨木に触れると、聞いたことのない発音の解術の呪文を口にした。

 その数分後、ゴゴゴーッという音と共に、巨木が振動するように揺れた。
 幹が揺れ、枝が揺れ、枝に付いていた葉が一瞬で木が枯れたかのようにすべて落ちた。

 そしてそのあと、根本から湧き上がるように黄金の光が細い枝の先まで輝くと、一気に枝に美しい緑色の葉が生い茂った。
 
 ジュリが留めていた魔物をすべて殲滅すると、その場から魔物が湧いて出てくることはなかった。

 「ナナカ!ナナカ大丈夫?身体は?身体はなんともない!?」

 私はナナカに駆け寄ると、ルイ師団長がナナカの肩を抱いていた。

 「ユリアナ様!私はどこも何ともありません!大丈夫です!それより、術は、解術はどうですか、ルイ様…?」

 ナナカは顔色も変わらず、気分が悪そうな様子もない。

 「ああ、ナナカ!凄いよ!解術は成功だ!ナナカ、ありがとう…良くやったね、素晴らしいよ…!」

 ルイ師団長は周りを気にすることなく、ナナカを優しく抱き締めた。

 良かった、本当に良かった…!
 ナナカが無事だ、何よりそれが本当に良かった。

 「ジュリ!ありがとう…!あなたがいてくれて本当に心強かったわ!」
 
 「俺は強いので大丈夫です。でも、帰ったら、ご褒美を、…ください」

 最近このご褒美システムを乱発してくるわね…確かにジュリがいなければ、このナナカの解術は難しかったわ…。

 「ジュリ?ジュリのお陰だから、ご褒美を用意するわ、何でも言ってね…?」

 ジュリは美しい顔を崩し、嬉しそうに笑った。

 ルイ師団長は、ナナカを横抱きにして抱え、拠点まで戻った。その間ナナカは顔を真っ赤にして、

 「ルイ様、私は歩けます…!」

と言っていたが、ルイ師団長に、

 「僕が抱いてるのはお腹の子だよ?」

と言われ、ナナカはうーっと顔を覆い、諦めていた。

 クリスチャンは、ルイ師団長に眠らされたままで、第三騎士団の騎士たちに、引きずられるように運ばれていた。

 拠点に戻ると、キャリック子爵が騒ぎ始めた。

 「ク、クリスチャン…!こ、これは、一体どういうことですか!?なんで息子が縛られて、いるのです、か…?」
 
 ルイ師団長に、ジュリの威嚇の如く睨まれ、言葉を弱める。

 「ああ、これはあなたの御子息でしたか?いえね、この馬鹿が私の愛する妻に魔物を差し向けましてね。
 本当ならその場で首を斬り落としたかったのですが、ユリアナ様の御慈悲で捕縛したまでです。
 ちなみにあなたも連帯責任で捕縛します」
  
 そう言うと、キャリック子爵はルイ師団長に身体を拘束され、クリスチャンと同じように眠らされた。






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