貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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81.無自覚な悪意

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 私たちは王宮に戻り、国王陛下に報告した。

 「ナナカ、良くやった。栄誉ある働きをした。無事に戻ってきたこと、まずはそれだけで褒美に値する。ルイ、お前の妻は、肝の座った凄い、いや素晴らしい女性だ」

 レオンハルト国王陛下は、夫婦を見て微笑んだ。

 それから、次の南の森の巨木の計画をした。
 やはりナナカの、子を宿している今の状態が良いと言う、ナナカたっての希望で、来週には南の巨木に向かうことが決まった。

 「それとな、ルイ。ライナルトがキャリック子爵に自白魔法を掛けた。
 キャリック子爵領は、西の森の防衛線だったが、魔物が出る度に出兵手当が支給されていた。あの家族は在駐騎士だからな。
 それが、出てもいない魔物が出たと言って、その出兵手当を相当な額申請し、横領、受け取っていた。それをゴルドーに知られた。そして脅されていたようだ。くすねた金の半分はゴルドーに渡していたそうだ。
 そして、ゴルドーが処刑されて、今度はくすねた金が全額自分の懐に入る。
 それなのに、魔物が出なくなっては、金がもらえなくなる。それで、クリスチャンが、術の使えるナナカを狙ったらしい。お粗末な奴らだ」

 愚かしい人たち…。あの時のクリスチャンの顔は、目が血走り、異様な雰囲気だった。

 「キャリック子爵は、相当な額の借金があった。賭け事にのめり込み、子爵領の維持も出来ず、没落寸前だった。
 それに加え、キャリックの息子たちは薬物に溺れていた。
 その支給される金欲しさで、ナナカに解術されたら困ると考えたのだろう。
 いつ出没するかわからない魔物に怯える日々だ。薬物に依存する気持ちもわからんでもないが、違法薬物の使用は処刑だ」

 何が原因で、自分の進む道が崩れていくかわからない。クリスチャンも、あの子爵領の子息でなければ、こんなことにはなっていないかも知れない。
 でも、こうなっては、どうすれば良かったのか、私にはわからない。

 その数日後、私の侯爵邸に、クリスチャンの婚約者で、シャルルアンの手先だったエマ·ハンスが面会に来た。

 「…ユリアナ様…申し訳ありませんでした…」

 エマは、幼い頃から隣の子爵領のクリスチャンが大好きだった。いつかクリスチャンと添い遂げたいという願いは叶い、中等部に入る前に婚約した。

 高等部に入学したある日、クリスチャンに頼みがあると言われた。
 ゴルドー伯爵の娘、シャルルアンを手助けして欲しいと。
 シャルルアンは、第三王子を慕っている、それはお互い運命の相手なんだと。第三王子の婚約者で聖人のユリアナ様は、真実の愛の二人に割り込んでいるようなものだ。
 シャルルアンを紹介するから、彼女の要望を叶えて欲しいと言われた。

 大好きなクリスチャンの言うことだ、何か腑に落ちない話ではあったが、言われるがままにシャルルアンに会った。

 「あなたの婚約者の人の家は、とても悪いことをしているのよぉ?それを私のお父様が何とかしてあげているのー。婚約を無かったことにしたくないわよねぇ?」

 なんのことか、わからなかった。
 幼い頃から家族で付き合いのあるキャリック家が悪いこと…?
 本当なの?でもクリスチャンとの婚約解消だけは嫌だ。クリスチャンもこの人の手助けをして欲しいと言った。だったら言うことを聞くしかない。

 「あのユリアナは、私たちに嫉妬して、私に嫌がらせをするの!私たちは運命の恋人同士なのに…。あなたも婚約者がいるからわかるでしよ?
 愛する二人の間に割り込んできたら嫌よね?」
 
 そう言われると、嫌だと思った。クリスチャンと結婚するのは私だ。
 そして、言われるがままに、ユリアナの学院での行動を、すべてシャルルアンに伝えた。

 これでキャリック家も救われる、そして私たちの婚約も継続できる。これで良いんだ、すべてクリスチャンと私のためだと、自分に言い聞かせた。

 「私は、私は…よく考えもせず、ユリアナ様が不都合になることを、してはならないことをしてしまいました…本当に、本当に申し訳ありません…!」

 前回の私は、リチャードを愛していただけに、このエマのせいで絶望するほどのショックを受けた。

 私のいる場所に必ずと行ってよいほどにあの二人は現れ、交わっていた。
 シャルルアンは、私にその姿を見せつけるためにエマを利用していた。

 そして、死に戻った後も同じだった。

 でも、恐らくエマは、私の居場所を教えただけで、あの二人が私の前で猿のように盛っていたとは知らないのだろう。
 この度の件で、クリスチャンとも婚約破棄になったと聞いた。

 「エマ、貴女のしたことで、私は大いに傷付いたわ。あの二人の裏切りを目の当たりにしたこと、そして貴女にも。
 でももう終わったことだわ。貴女もお辛いでしょうけど、頑張って?
 そうね、ひとつ言えるのは、悪意はなくとも、自分の行動には責任が伴うの。よく理解ぜずにした行動には、弱い毒のような悪意が含まれることがあるわ。経験した私が教えてあげる」

 エマは顔を引きつらせたあと、泣き出した。あの時泣きたかったのは私よ。

 「お客様がお帰りよ、マーカス、あの手紙を持たせてね」
 
 エマのハンス子爵家は、子爵とエマの兄が魔力を持っており、魔道具を作って生計を立てていた。
 領地は持たず、小さな魔道具の商会を営んでいた。

 この度キャリック子爵家は一族で処刑となるだろう。
 今後、魔物が発生することはないから、悪事を差し引いても領地経営は困難で、没落は目に見えていた。

 そのキャリック家に、言われるがままにお金を貸していたハンス子爵家。

 これを犯罪に加担していたととられるかは、国王レオンハルト様と裁判所の判断となるだろう。

 そしてエマが、シャルルアンに加担していたことが知れたら、恐らくお兄様がこのハンス子爵家も処刑となるよう追い込むだろう。小さなミスを、大きな悪事に変えるくらい簡単にやってのけるお兄様の執念は、怖いくらいだから。

 私はすぐに隣国に転居するよう、ハンス子爵へ手紙を書いた。  
 あなたの娘に裏切られ、もう顔も見たくないので、すぐに隣国に行くようにと。
 隣国トルランは、魔法大国だ。あの親子の魔力なら十分上手く行くだろう。また家族で不自由無く生活できるはずだ。

 幼い頃、私にトルラン語を教えてくれた家庭教師の先生の知り合いを紹介した。その人を頼ってみると良いと付け加えて。

 影に探らせると、ハンス家はすぐに爵位返上と転居の書類を提出し、5日後にはトルランに向かったそうだ。

 中等部で初めて同じ年の女の子と仲良くなった。人の良さそうな、人懐っこい可愛らしい女の子。
 聖人として、大人の中で殺伐とした毎日に、その女の子が私に癒しをくれたのは事実だった。

 彼女も婚約者に裏切られていた。
 幼い頃から好きだった、いつかあの人の妻になりたいと思っていた人に。
 
 同じような目に遭った私が同情できない訳がない。
 でも、その感情が盲目的で、他人に被害が出るようなことがあってはならない。

 エマが成長し、幸せになって欲しいと純粋に思った。




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