貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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82.前国王夫妻

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 レオンハルト国王陛下の父親で、前国王ロードリックは、王家所有の僻地にある城に住まいを移した。

 表向きは隠居としたが、実質は軟禁されることになった。その場所に、正妃であるフローレンスも一緒に移った。

 城とは名ばかりの古い建物で、そこには年老いた夫婦が、管理人として住んでいる。
 その老夫婦に生活方法を教わり、自分たちだけで生きていく術を学びながら、元国王と王妃の二人で生きていくことが決まった。

 側妃アリアドネは、毒杯となった。

 アリアドネは、幼い頃から親に言い聞かせられ、王妃になることが自分の使命だと思っていた。
 そして、自分自身も王妃になりたいと思っていた。

 厳しい家庭教師の指導も、王妃になれるためだと思うと頑張れた。

 しかし、ロードリックは外交で訪れた国の王女に一目惚れし、その女を正妃として迎えた。
 悔しかった。信じられなかった。
 国内で妃を選ぶとばかり思っていた。国内で爵位も年齢も、ロードリックに相応しいのは自分しかいなかったのに。

 お父様もお母様も、怒りと悔しさを隠しきれなかった。
 
 でもね、あなた…と、お母様がお父様に話している内容を聞いてしまった。
 子ができなければ、側妃を娶るしかないわよね?と。
 どういうことか…?その事を理解したのは3年後だった。いよいよ正妃に子が出来なかった。
 
 そして、私に声がかかったのだ。
 ロードリックの側妃にと。
 
 嬉しかった、やっと願いが叶った。 
 この日のために、厳しい教育にも耐えてきた。
 ロードリックがフローレンスと婚姻した後、私に婚約の申込みが殺到したが、お父様もお母様もその申込は受けなくて良いと言った。

 このままでは、婚期すら逃してしまうと不安になっていたところでの報せだった。

 式は簡素なものだったが、それでも妃になれる。ロードリックも素敵な人だ。これで、正妃より先に懐妊すれば、私の地位も盤石なものになるだろう。

 ところが、私が輿入れしてすぐに、正妃フローレンスが懐妊したと聞いた。

 嘘でしょ…?今の今まで子が出来ないと言っていたから、私が側妃として後宮に入ったのに、どういうこと!?

 正妃が産んだ子は、男子だった。
 よほどの愚か者でない限り、この男の子が王太子として擁立され、次期国王となるのだろう。

 フローレンスが出産した3ヶ月後、私も男の子を出産した。

 フローレンスとは、ほぼ交流が無いにもかかわらず、この男の子たちはどこで顔合わせをしたのか、とても仲が良かった。
 そして、我が息子ライナルトは、王子教育が進むと、隣国に留学すると言い出した。こんなに優秀な息子だ、もしかしたら、この子が王太子として指名されるかも知れないのに。

 ライナルトに、次期国王としての教育を受けるように言うと、兄上と争うつもりは毛頭ない、兄上ほど国王に向いている人はいない。あの優秀な人を国王にできなければこの国は終わりだ、とまで言い、最後には王位継承権も放棄すると言った。

 なぜ!?なぜ我が息子も、私をすんなり王妃にさせてくれないの?

 その後、フローレンスが懐妊することはなかった。
 
 私は第三王子となるリチャードも出産し、二人の王子を産んだとして、立場的にもフローレンスより優位だと思っていた。

 フローレンスは体調を理由に、公の場に出てくることはほとんどなかった。
 しかし、国王夫妻で出席しないとならない行事には、国王陛下の横に、腹立たしいくらい美しく輝き立っていた。

 そんなフローレンスを、陛下も愛おしい瞳で見つめていた。
 その事に思うことはなかった。
 しかし、ライナルトが次期国王になることを望んでいた私は、ロードリックにさり気なくライナルトの優秀さを伝え続けた。

 そんな時、我が息子で第三王子のリチャードが、愚かなことをした。
 婚約者だった聖人を虐げ、学院で不貞行為をし、その女学生と結ばれるために、なんの罪もない聖人を断罪したのだ。

 その上、その聖人とレオンハルト殿下に呪いの魔法を掛け、その後、自分の父親である国王とフローレンスにも呪いを掛ける計画をしていた。

 なぜなの!?なぜ?どうして!?どうして私の足を引っ張るの?
 運良く側妃となり、王子を二人も産んだ。そして、もしかしたらライナルトが次期国王になったかも知れない。

 そうなれば、私は国王の母として、国王を産んだ女として、生涯記録に残り、国中の羨望の的だったのに!

 しかし、それどころではない話しを聞かされた。

 正妃フローレンスがなかなか懐妊しなかったのは、私のお父様がフローレンスの食事や飲み物に不妊薬を入れるよう指示していたからだったのだ。

 フローレンスが輿入れの際、健康には問題なく、妊娠するにも問題無いと医師から証明されていたにもかかわらず、懐妊しなかったのは、お父様の差し金だった。

 王宮のメイドに高いお金を渡し、指示していたのだ。

 私の輿入れの際に人事異動があり、そのメイドがフローレンスの側から外されたことで、不妊薬の混入が出来なくなり、フローレンスはすぐに懐妊した。

 国王ロードリックも秘密裏に調べさせていたが、その人事異動でようやくそのメイドだとわかり、そのメイドに高い金を払って指示していたのが、お父様だとわかったのだ。

 しかしそれは、フローレンスの願いで公にはしなかった。
 結果、レオンハルトを授かった、私はあなたに愛されているから、それで十分よと言って。
 そして、なるべく危険な目に遭わないようにと、表に出る政務は体調を理由に辞退していた。

 私が側妃として後宮に入ってから、国王ロードリックが私の部屋に訪れたのは、閨の時と、その他数回だけだった。

 お父様とお母様は、処刑された。
 私は死ぬまで幽閉すると言われた。私が何をしたの…?私はただ、王妃になりたかっただけなのに…
 
 リチャードは貴族牢に入れられた。不貞行為をしていた女子学生と一緒に。
 その女子学生と一緒に聖人に罪を作り上げ、婚約破棄すると自ら宣言したそうだ。
 

 私の人生は何だったの…?
 私を真に愛してくれた人はいたの?
 そうか、そうね、私も誰も愛していなかったかも知れない、私自身しか。

 幽閉されるなら、毒杯をと言った私の願いは、ロードリックが叶えてくれた。
 私がそれを飲み干すと、ロードリックの冷えた瞳が私を見つめていた。
 私の最期に見たものがそれなんて…

=====

 「あなた、私は食事を一食作るのに、こんなに大変だなんて思わなかったわ」

 ロードリックは、困った顔で笑う目の前の妻を愛おしい瞳で見つめた。

 美しく、朗らかで、いつまでも少女のような可愛らしい、最愛の人。

 私の、国を統べる能力の無さも、この美しい人は笑い飛ばしてくれた。

 だったら、レオンハルトに譲って、私たちは一緒のお墓に入りましょう?と。

 さすが元王女だ。私に何かあれば、すぐに命をもって償う覚悟ができている。
 そうだな、君と一緒なら土の中でも楽しそうだ。そう言うと、幸せそうにクスクスと笑った。

 レオンハルトは、私たちに寛大な処置をした。そう思いたい。
 この僻地で、何も出来ない私たち二人で生活しろと言った。

 今までは、言えばすべてが用意された。
 食事のときは、ナイフとフォークを持つだけで良かった。
 風呂には、服を脱ぐだけで良かった。

 言えば周りがその通りに動き、身の回りのことすべてが整い、警護され、なんの煩わしさもなく生活も執務も出来た。

 今はどうだ。食事ひとつに、二人で何時間もかかる。風呂にも薪から準備しないと入れない。
 ここに来て最初の5日は風呂に入れなかった。

 管理人の老夫婦は、私たちのことは何も知らない。

 「あんた薪も割ったこと無いのか?どうやって…、ああアンタお貴族さまか?なら仕方無いな、ハハハ!」
と、笑われると、フローレンスも一緒に笑っていた。

 ここで、いつまで安全に幸せに過ごせるかわからない。
 元国王夫妻がここにいると嗅ぎ付けて、押し入ってくる賊がいるかも知れない。
 世の中に、そういった悪意を持つものは数え切れない。
 私もその一人だったのだから。

 この地で生きることが償いとなるのだと、レオンハルトが言っている気がした。
 それなら、私たちはここで生きていくしかない。
 いつまで?許されるまで?
 それはいつだ…?

 どのような最期でも、女神の元へいくまでは、この最愛の人を守り、生きていくしかないのだ。

 

 













 

 
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