徳を積みたい鬼が俺を溺愛してくる

餡玉(あんたま)

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16、静司さんの正体

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 あけましておめでとうございます!
本年もどうぞよろしくお願いいたします٩(ˊᗜˋ*)و
良い一年になりますように♡

本日より完結まで毎日更新いたします。
よろしければご覧くださいませ~♪





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「昔から思ってたけど、君は無防備すぎるんだよ」

 唇に笑みを湛えたまま、静司さんは静かな口調でそう言った。スニーカーを履いた足で、音もなく俺の周りを歩きながら。

「昔から……?」
「君が十歳の頃、妖の巣を見つけたろ」
「はっ……?」

 どうして、この人がそんなことを知っているのだ。

 確かに、妖の巣のそばに落ちていた俺のランドセルを見つけてくれたのは、静司さんの父親だ。隠居した今は、ふらふらと放浪の世界旅行に出ている。

 あの時以来、静司さんは俺の面倒をよりまめに見てくれるようになったとはいえ、『妖』の存在について多くは知らないはずだ。じいちゃんがそう言っていた。『古都さんをあんまり心配させるわけにはいかんから、穴に落ちて怪我をしたと説明しておいたぞ』と——……。

 なのに、静司さんははっきりと『妖』と口にした。いよいよわけが分からなくなって、握った拳に汗が滲む。

「あれは『虚無露こむろ』といってね、古くからこの辺りに棲まう邪悪な妖だ。あまり活動的ではないけれど、一度狙った獲物にひどく執着するところがあって、やっかいなんだ。あのとき取り逃してしまったことが悔やまれるよ」
「……静司さん?」
「虚無露は幼い君に印をつけていた。僕らに負わされた傷が癒えたら、必ず君を食ってやろうと狙いを定めていたんだよ。……だから、僕は君にまじないをかけていた。陽太郎くんを虚無露から隠すための、しゅだ」

『虚無露』『僕らに負わされた傷』『まじない』『呪』……次から次へと、静司さんの口から耳慣れない単語が飛び出してくる。

 ……だがその単語はすべてヒントだ。俺はそろそろ、この人の正体に気づき始めていた。

「……陰陽師、なのか? あんた」

 訝しみつつも確信を抱え、俺はストレートにそう尋ねた。
 すると静司さんは、途端にいつも通りの甘やかな笑顔をうかべ、種明かしをするように両手を顔の横でパッと開く。

「ピンポーン! 大正解! 賢いね、陽太郎くん!」
「……ふざけないでよ。……待って、なんで? なんでそんな人が、こんなところに?」
「ふふ、話せば長くなるんだけど……それよりもまず問題なのは、だ」

 静司さんは突然、俺との距離を一気に詰めてきた。そして、ダウンジャケットの襟元に冷たい手を伸ばしてくる。

 ひやっとした感触と共に、チリリっとかすかな痛みが走る。思わずうなじを押さえて静司さんから距離を取ったが、いつ動いたのか全く分からないような素早さに驚かされる。……そういえば、前にもこんなことをされたことがあったような……。

「……なに、今の」
「なにって、確認。今は大丈夫みたいだね」
「は、はぁ!? なんだよそれ! あんた、こないだも俺んち来たとき同じことしたよな!?」
「うん、したよ。あの時はね、君の身体から妖の気配を感じたから。僕のおまじないがそろそろ弱まったのかもしれないなぁと思って、改めてかけ直したんだよ」

 ぴんと人差し指を立てて、静司さんはおっとりと微笑んだ。……が、一瞬後にはまた伶俐な目つきになり、俺を睨むように見据えてくる。その瞳の冷たさに、俺は怯んだ。

「いっておくが、虚無露はまだ死んではいないよ。神社に現れたものは本体ではないからね」
「……えっ……」
「本体はあの洞穴の中だ。だが、確実に君を再び狙い始めている」
「……そんなわけ」

 だって、あいつは黒波が斬り裂いたではないか。俺の目の前で、確かに消えた。……あれが本体ではない?

「虚無露にも知恵がついたきたようだ。遠藤さんに憑いた悪いものの気配に紛れ、君に近づこうとしたんだよ」
「……そんな」
「なぜ、そんなことが起こったのか。君にわかるかな?」
「ちょっ……ちょっと待った。その前に……!!」

 俺にずずいと迫りながら謎かけをしてくる静司さんを両手で押しとどめ、俺は逆に質問を投げつけた。

「なんで……何でずっと隠してたんだ! 陰陽師だってこと……」

 陰陽師というのは、陰陽五行思想に基づく陰陽道を使って暦を読み、占いなどを行う者をさす。奈良時代より始まった律令制度のもと、陰陽寮という部署が置かれたのが始まりだ。

 だが中世以降、陰陽師は徐々に祈祷師や神官のような立ち位置へと変化していく。不思議な力を用いて卜占や厄祓いをおこなったり、霊的な者が引き起こす事件を解決するような仕事をこなすようになったからだ。

 現代にも、陰陽師としての血を引き継ぐ者が存在することは噂で聞いたことがあったけれど、まさかこんな身近に……しかも、静司さんがそうだったとは、にわかには信じ難いことだった。

「隠していたつもりなんてないよ? いつ気づくかな~って、楽しみにはしてたけど」
「は!? なんだよそれ!」
「まぁ無理もないか。僕は一族の中でも特に有能だからな。力を隠しておくことなんて余裕だし」
「……」
「けど、最近黒津地神社で起こった出来事を鑑みて、黙っていたらとんでもないことになるかもなぁ~と思ってね。で、名乗り出ることにしたのさ」
「とんでもないこと……?」

 俺の問いかけに、静司さんはこてんと首を倒して肩をすくめる。二十九歳のくせにあざとい表情がやたらと様になっていて、なんだか無性に腹が立つ。

「僕ら古都家は、代々陰陽師の力を受け継いできた。平安時代は都の名門だったんだけどね、今はこうして関東の片田舎で君のお守りだ」
「……お守り?」
「僕の父も、祖父も、曽祖父も……数世代にもわたって、僕の一族はここで黒津地神社を見守ってきた。都のエリート一族がだ。なんでだと思う?」

 古都家が都出身エリート意識めの一族だということはよくわかったけれど、黒津地神社を見守ってきたと言うのはどういうことだ? しかも、ずっと昔から……。


 ——俺の母さんも、ばあちゃんも、俺と同じで霊的な力があったから……?


 俺たち一族をずっと見守って……いや、見張っていた理由ってなんだ。いざというとき協力してくれるとか? それとも、俺たちが力を使って妙なことをしないように……?

 俺がしばらく押し黙っていると、静司さんはぱんぱんと手を打って「はいブッブー、時間切れ~」と言う。……いちいち喋り方が腹たつけど、俺は我慢して静司さんの話の先を聞くことにした。

「正解はこう。——黒津地神社が、悪鬼を封じた巻物を所有していたからだ」


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