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第一章 迷子と子猫とアガサ村
みんなでコロッケ
しおりを挟む家に着くと、すでに庭には薪の山ができていた。
「すご……い!」
「やあ、ミーナちゃん。もうすぐ終わる。危ないから離れてて」
ゴッツはそう言うと、軽々と斧を振るって残りの薪割りを終わらせた。
それを雨除けのある薪置き場に積み上げる。
「おやまあ。相変わらずゴッツは馬鹿力だね。早くて助かる。はいよ、お茶」
「おう」
汗を拭きながら縁側に座るゴッツ。
「ゴッツさん、これもどうぞ。さっきはラルがゴメンね」
と、まだ暖かいコロッケを差し出す。
「どうしたんだい?」
「いやあ、俺が無言で付いてったら痴漢かなんかと間違えられちまって」
「お前さんは、気は優しいのに顔が怖いからね」
「おい、婆さん。はっきり言い過ぎだろ」
苦笑いしながらコロッケを口に運ぶ。
「うん、うまい。ひと仕事の後だから、余計にうまい」
子供のような笑顔でコロッケをほおばるゴッツさん。本当においしそう。
「…うちの分は夕御飯にしようかと思ってたけど、今、食べちゃう?」
するとラルだけでなく、おばあちゃんまでが大きくうなずいた。
コロッケを食べ終わると、おばあちゃんはゴッツさんの冒険手帳に判を押し、小ビンを差し出す。
「さあ、報酬のポーションだよ」
「おお、ありがてえ。今、どこへ行ってもポーションがなくてね」
「ゴッツさんも新しいダンジョンに潜るの?」
「ん? ああ、まあ……」
浮かない顔だ。
ダンジョンは内部の探索が進まないと、その規模も傾向も発生する魔物や魔獣の種類も分からないらしい。もう少し詳しく聞いてみたかったけど、おばあちゃんは心配そうに空を見上げた。
「ゴッツ。追い出すようで悪いが、日が暮れる前にお帰り」
「そうだな。急げばギルドへの完遂報告も今日中にできそうだ」
と立ち上がったが、急にモジモジとし始めた。何だろう。おトイレかな?
「ミーナちゃん…」
「はい?」
「その……ええと………触ってもいいかな?」
……… は い !?!?
(もしかして、やっぱり変態さんでした?)
白目で固まったミーナに気づかず、ゴッツは続けた。
「………ラル君に」
あ、ラルか。
見ると、ラルはコロッケが乗ってた包み紙を前脚で押さえ、なめている。
うん、可愛い。
「こんな小さな闇豹は見たことがねえ。可愛いなぁ」
厳つい顔をデレっと緩ませてラルを見ている。
ゴッツさん、もしかして猫好き?
「可愛いですよね!?」
つい、握りこぶしで熱くなった。
「うん、可愛いな!!」
ゴッツさんも目をキラキラさせながら拳をグッと握る。
今!ここに子猫好き…もとい、【子闇豹好き同盟】が結成された!!!
ゴッツさんは大きな体を小さくかがめ、チョッチョッと舌を鳴らして手を差し出すが、ラルは振り向きもしない。
「ラル、おいで」
声をかけると、ヒョイと膝に飛び乗ってきたよ。
……聞こえないフリしてたな?
「この…背中の辺りでどうですか? ね? お願い、ラル」
『…ミーナが、そう言うなら……』
ラルをしっかりと抱え、背中をゴッツに向ける。
ゴッツはおずおずと手を伸ばし、黒く艶やかな背中をそっとなでた。
「おい、坊主。お前のご主人様を怖がらせて悪かったな」
ニャア~
あ、返事した。
「じゃ、またな」
今度こそ手を振りながらゴッツは山道を下りていった。
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