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「ザラームッ!!」
ハーデスの怒号が、儀式の間を震わせた。彼は床を蹴り、一直線に魔術師へと斬りかかった。イヴを弄び、その尊厳を踏みにじった万死に値する男を、一刻も早くこの世から消し去りたかった。
だが、ザラームは、イヴの覚醒という予想外の事態に狼狽しながらも、手練れの闇魔術師だった。彼は即座に、幾重にも重なった黒い魔術障壁を展開し、ハーデスの渾身の一撃を防いだ。
「ちぃっ、邪魔が入ったか、王太子風情が!」
ザラームは忌々しげに吐き捨てると、すぐさま反撃に転じた。彼が両手を広げると、床の影が蠢き、無数の鋭い刃となってハーデスに襲いかかる。
「聖なる光よ、邪を滅せよ!」
ハーデスは王家の者にしか使えない聖属性の魔法で、影の刃を相殺する。しかし、ザラームの攻撃は止まらない。腐敗の呪いを帯びた緑色の瘴気、空間を切り裂く不可視の斬撃、床の骸骨を操り、アンデッドの兵士として召喚する禁術。おぞましく、多彩な魔法が、息つく間もなくハーデスを襲った。
ハーデスは王家の剣術と聖魔法を駆使して、必死に応戦する。だが、相手は、人生のすべてを禁術の研究に捧げてきた専門家だ。その魔術の練度と、手段を選ばないえげつなさは、正統な魔法の使い手であるハーデスを、じりじりと追い詰めていった。
「どうした、殿下! その程度か! これでは、お前が愛するあの小娘一人、守れんぞ!」
ザラームの嘲笑が、ハーデスの心を掻き乱す。
さらに、その時、物陰に隠れていたヴァルガス公爵が、卑劣にもハーデスの背後から妨害の魔法を放ってきた。それは、動きを鈍らせる重圧の呪いだった。
「ぐっ……!」
体が鉛のように重くなり、ハーデスの動きが一瞬、鈍る。その隙を、ザラームは見逃さなかった。
「終わりだ!」
ザラームの手から、極太の闇の魔力光線が放たれる。ハーデスは咄嗟に剣で防御するが、そのあまりの威力に、体勢を崩して大きく後方へ吹き飛ばされてしまった。壁に叩きつけられ、口の端から血が流れる。
「ハーデス様っ!」
祭壇の上でその光景を見ていたイヴが、悲痛な声を上げた。愛する人が、自分のために傷ついていく。その光景は、彼女の心を何よりも強く揺さぶった。
(私が、守らなければ……!)
イヴの中で、覚醒したばかりの力が、彼女の強い意志に応えて、さらに激しく脈動する。
一方、勝利を確信したザラームとヴァルガス公爵は、満身創痍のハーデスにゆっくりと歩み寄っていた。
「無様だな、ハーデス。次期国王が、こんな闇の魔術師一人に敗れるとは。お前の治世など、たかが知れている」
ヴァルガス公爵が、勝ち誇ったようにハーデスを見下ろす。
「さあ、とどめだ。その首を、国王への土産にしてやろう」
ザラームが、その手に、禍々しい闇のエネルギーを集束させていく。ハーデスは、傷ついた体で、それでもなお、イヴを守るために立ち上がろうと、剣を杖代わりにして体を支えた。だが、もはや限界は近かった。
絶体絶命。
誰もがそう思った、その瞬間だった。
「やめて……!」
凛とした、しかし神々しささえ感じさせる声が、部屋全体に響き渡った。
「ハーデス様を……私の大切な人を、傷つけないでッ!!」
イヴの絶叫が、最後の引き金となった。彼女を中心として、世界が、光に塗り替えられていく。
ハーデスの怒号が、儀式の間を震わせた。彼は床を蹴り、一直線に魔術師へと斬りかかった。イヴを弄び、その尊厳を踏みにじった万死に値する男を、一刻も早くこの世から消し去りたかった。
だが、ザラームは、イヴの覚醒という予想外の事態に狼狽しながらも、手練れの闇魔術師だった。彼は即座に、幾重にも重なった黒い魔術障壁を展開し、ハーデスの渾身の一撃を防いだ。
「ちぃっ、邪魔が入ったか、王太子風情が!」
ザラームは忌々しげに吐き捨てると、すぐさま反撃に転じた。彼が両手を広げると、床の影が蠢き、無数の鋭い刃となってハーデスに襲いかかる。
「聖なる光よ、邪を滅せよ!」
ハーデスは王家の者にしか使えない聖属性の魔法で、影の刃を相殺する。しかし、ザラームの攻撃は止まらない。腐敗の呪いを帯びた緑色の瘴気、空間を切り裂く不可視の斬撃、床の骸骨を操り、アンデッドの兵士として召喚する禁術。おぞましく、多彩な魔法が、息つく間もなくハーデスを襲った。
ハーデスは王家の剣術と聖魔法を駆使して、必死に応戦する。だが、相手は、人生のすべてを禁術の研究に捧げてきた専門家だ。その魔術の練度と、手段を選ばないえげつなさは、正統な魔法の使い手であるハーデスを、じりじりと追い詰めていった。
「どうした、殿下! その程度か! これでは、お前が愛するあの小娘一人、守れんぞ!」
ザラームの嘲笑が、ハーデスの心を掻き乱す。
さらに、その時、物陰に隠れていたヴァルガス公爵が、卑劣にもハーデスの背後から妨害の魔法を放ってきた。それは、動きを鈍らせる重圧の呪いだった。
「ぐっ……!」
体が鉛のように重くなり、ハーデスの動きが一瞬、鈍る。その隙を、ザラームは見逃さなかった。
「終わりだ!」
ザラームの手から、極太の闇の魔力光線が放たれる。ハーデスは咄嗟に剣で防御するが、そのあまりの威力に、体勢を崩して大きく後方へ吹き飛ばされてしまった。壁に叩きつけられ、口の端から血が流れる。
「ハーデス様っ!」
祭壇の上でその光景を見ていたイヴが、悲痛な声を上げた。愛する人が、自分のために傷ついていく。その光景は、彼女の心を何よりも強く揺さぶった。
(私が、守らなければ……!)
イヴの中で、覚醒したばかりの力が、彼女の強い意志に応えて、さらに激しく脈動する。
一方、勝利を確信したザラームとヴァルガス公爵は、満身創痍のハーデスにゆっくりと歩み寄っていた。
「無様だな、ハーデス。次期国王が、こんな闇の魔術師一人に敗れるとは。お前の治世など、たかが知れている」
ヴァルガス公爵が、勝ち誇ったようにハーデスを見下ろす。
「さあ、とどめだ。その首を、国王への土産にしてやろう」
ザラームが、その手に、禍々しい闇のエネルギーを集束させていく。ハーデスは、傷ついた体で、それでもなお、イヴを守るために立ち上がろうと、剣を杖代わりにして体を支えた。だが、もはや限界は近かった。
絶体絶命。
誰もがそう思った、その瞬間だった。
「やめて……!」
凛とした、しかし神々しささえ感じさせる声が、部屋全体に響き渡った。
「ハーデス様を……私の大切な人を、傷つけないでッ!!」
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