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イヴの絶叫と同時に、彼女の体から放たれる黄金色の光が、爆発的にその輝きを増した。それは、もはや単なる光ではない。生命そのものの息吹であり、邪悪を許さぬ聖なる意志の奔流だった。
光の奔流は、儀式の間全体に広がり、ザラームが張り巡らせていた邪悪な空気を、まるで朝日に溶ける霧のように浄化していく。床に描かれていた血の魔法陣は、聖なる光に焼かれて完全に消滅し、アンデッドの兵士たちは、浄化の光を浴びて塵へと還っていった。
「な、なんだ、この力は……!? 私の魔力が、霧散していく……!?」
ザラームが、自らの力が弱まっていくのを実感し、狼狽の声を上げる。ヴァルガス公爵に至っては、その神々しいまでの光景に、腰を抜かしてへたり込んでいた。
そして、光の中心で、イヴの姿がゆっくりと変容していく。
彼女を縛り付けていた最後の物理的な枷が、内側から溢れるマナの奔流によって、ガラス細工のように砕け散った。自由になった彼女は、祭壇の上に静かに立ち上がる。光を吸って輝く黒髪は風もないのに優雅に舞い、黄金色に輝く瞳は、もはやこの世の者とは思えぬほどの威厳を宿していた。
その背中には、幾重にも重なった、巨大な光の翼の幻影が広がっていた。
「馬鹿な……。伝説は、真実だったというのか……。人の身でありながら、精霊そのものを、その身に降臨させるなど……!」
ザラームは、恐怖と、そしてそれ以上に、手の届かぬ至宝を前にしたかのような、狂信的な歓喜に打ち震えていた。
イヴは、一切の感情を浮かべないまま、傷ついたハーデスに視線を向けた。そして、そっと手を差し伸べる。すると、彼女の手のひらから、温かな緑色の光が放たれ、ハーデスの体を優しく包み込んだ。それは、あらゆる傷を癒す、強力な治癒の魔法だった。ハーデスの傷は瞬く間に塞がり、消耗していた体力が回復していくのが分かった。
「イヴ……」
ハーデスは、その奇跡のような光景に、ただ呆然と彼女の名を呼んだ。
「さて、次はあなたの番です」
イヴの、神託のような声が、ザラームに向けられる。彼女は、ただ静かに、地面へと手をかざした。
すると、砦の硬い石床を突き破り、無数の巨大な蔦や茨が、生命を得た蛇のようにザラームに襲いかかった。ザラームは必死で闇の魔法で抵抗するが、聖なる生命力に満ちた植物の勢いは止まらない。あっという間に、彼の体は茨の檻に捕らえられ、身動きを封じられてしまった。
「おのれ、小娘が! 私を、神に等しいこの私を、なめるなぁぁぁっ!!」
ザラームは最後の力を振り絞り、自らの生命力さえも魔力に変換し、最強の闇の魔法を解き放った。凝縮された純粋な破壊エネルギーの塊が、イヴに向かって撃ち出される。
だが、イヴは動じなかった。彼女は、自分の胸の前に、両手でそっと円を描く。すると、そこに巨大な光の魔法陣が展開され、完璧な障壁を形成した。
闇のエネルギーは、光の障壁に触れた瞬間、何の抵抗もできずに、完全に無効化され、かき消されてしまった。
「そん……な……」
ザラームの顔に、初めて完全な絶望の色が浮かんだ。
イヴは、静かに裁きを告げる。彼女が両手を広げると、天から降り注ぐかのように、浄化の光がザラームの体を包み込んだ。それは、肉体を破壊する魔法ではない。その存在の根源である、歪んだ魔力そのものを、無に返す神聖な儀式だった。
「やめろ……やめてくれ……! 私の力が、私の知識が、私の夢がぁぁぁっ……!!」
ザラームの悲痛な叫びも虚しく、彼の体から邪悪な魔力が霧散していく。やがて、その痩せこけた体は急速に老化し、力を失ったただの無力な老人となって、茨の檻の中でぐったりと意識を失った。
圧倒的な力の差。それは、もはや戦いですらなかった。神聖な存在による、一方的な、裁きと浄化だった。
光の奔流は、儀式の間全体に広がり、ザラームが張り巡らせていた邪悪な空気を、まるで朝日に溶ける霧のように浄化していく。床に描かれていた血の魔法陣は、聖なる光に焼かれて完全に消滅し、アンデッドの兵士たちは、浄化の光を浴びて塵へと還っていった。
「な、なんだ、この力は……!? 私の魔力が、霧散していく……!?」
ザラームが、自らの力が弱まっていくのを実感し、狼狽の声を上げる。ヴァルガス公爵に至っては、その神々しいまでの光景に、腰を抜かしてへたり込んでいた。
そして、光の中心で、イヴの姿がゆっくりと変容していく。
彼女を縛り付けていた最後の物理的な枷が、内側から溢れるマナの奔流によって、ガラス細工のように砕け散った。自由になった彼女は、祭壇の上に静かに立ち上がる。光を吸って輝く黒髪は風もないのに優雅に舞い、黄金色に輝く瞳は、もはやこの世の者とは思えぬほどの威厳を宿していた。
その背中には、幾重にも重なった、巨大な光の翼の幻影が広がっていた。
「馬鹿な……。伝説は、真実だったというのか……。人の身でありながら、精霊そのものを、その身に降臨させるなど……!」
ザラームは、恐怖と、そしてそれ以上に、手の届かぬ至宝を前にしたかのような、狂信的な歓喜に打ち震えていた。
イヴは、一切の感情を浮かべないまま、傷ついたハーデスに視線を向けた。そして、そっと手を差し伸べる。すると、彼女の手のひらから、温かな緑色の光が放たれ、ハーデスの体を優しく包み込んだ。それは、あらゆる傷を癒す、強力な治癒の魔法だった。ハーデスの傷は瞬く間に塞がり、消耗していた体力が回復していくのが分かった。
「イヴ……」
ハーデスは、その奇跡のような光景に、ただ呆然と彼女の名を呼んだ。
「さて、次はあなたの番です」
イヴの、神託のような声が、ザラームに向けられる。彼女は、ただ静かに、地面へと手をかざした。
すると、砦の硬い石床を突き破り、無数の巨大な蔦や茨が、生命を得た蛇のようにザラームに襲いかかった。ザラームは必死で闇の魔法で抵抗するが、聖なる生命力に満ちた植物の勢いは止まらない。あっという間に、彼の体は茨の檻に捕らえられ、身動きを封じられてしまった。
「おのれ、小娘が! 私を、神に等しいこの私を、なめるなぁぁぁっ!!」
ザラームは最後の力を振り絞り、自らの生命力さえも魔力に変換し、最強の闇の魔法を解き放った。凝縮された純粋な破壊エネルギーの塊が、イヴに向かって撃ち出される。
だが、イヴは動じなかった。彼女は、自分の胸の前に、両手でそっと円を描く。すると、そこに巨大な光の魔法陣が展開され、完璧な障壁を形成した。
闇のエネルギーは、光の障壁に触れた瞬間、何の抵抗もできずに、完全に無効化され、かき消されてしまった。
「そん……な……」
ザラームの顔に、初めて完全な絶望の色が浮かんだ。
イヴは、静かに裁きを告げる。彼女が両手を広げると、天から降り注ぐかのように、浄化の光がザラームの体を包み込んだ。それは、肉体を破壊する魔法ではない。その存在の根源である、歪んだ魔力そのものを、無に返す神聖な儀式だった。
「やめろ……やめてくれ……! 私の力が、私の知識が、私の夢がぁぁぁっ……!!」
ザラームの悲痛な叫びも虚しく、彼の体から邪悪な魔力が霧散していく。やがて、その痩せこけた体は急速に老化し、力を失ったただの無力な老人となって、茨の檻の中でぐったりと意識を失った。
圧倒的な力の差。それは、もはや戦いですらなかった。神聖な存在による、一方的な、裁きと浄化だった。
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