【R18】それでも殿下は婚約破棄したいとお望みですか?

きららののん

文字の大きさ
43 / 44

43

しおりを挟む
盛大なパレードと、夜遅くまで続いた祝宴が終わり、王宮がようやく静けさを取り戻した頃。ハーデスとイヴは、二人きりで、彼らのために用意された新しい寝室へと足を踏み入れた。

その部屋は、まさしく、夢の続きのような空間だった。部屋中に飾られた純白の薔薇の甘い香りが満ち、数え切れないほどのキャンドルの柔らかな光が、壁や調度品を優しく照らし出している。天蓋付きのベッドには、シルクのシーツが滑らかに輝いていた。

ようやく二人きりになれたという事実に、どちらからともなく、安堵のため息が漏れた。

「……終わったのだな」

「はい。夢のような、一日でした……」

ハーデスは、イヴの後ろに立つと、彼女の髪を飾り付けていた美しい真珠の髪飾りを、一つ一つ、慈しむように外していく。そして、ドレスの背中を締め上げていた、複雑なリボンの編み上げを、その指でゆっくりと解いていった。

彼の指が素肌に触れるたびに、イヴの体は、甘く痺れるような感覚に包まれる。親密で、どこか厳かな、特別な時間が流れていく。

やがて、重いドレスから解放されたイヴが、薄いシルクのネグリジェ姿でハーデスの前に向き直る。その頬は、ほんのりと上気していた。

「本当に……俺の妻に、なってくれたのだな」

ハーデスは、まだ信じられないといった様子で、感慨深げに呟いた。彼は、イヴの華奢な体を、壊れ物を扱うかのように、そっと抱きしめる。

「はい。あなたの妻になれて、私は、世界で一番、幸せです」

イヴは、ハーデスの胸に顔をうずめて、答えた。

「ハーデス様」

「もう、様はいらない。ハーデス、と呼んでくれ」

「……ハーデス」

名前を呼ばれ、ハーデスの腕に力がこもる。

「私、初めてあなたにお会いした時から、ずっと、あなたに憧れていました。雲の上の、手の届かない、眩しい太陽のような方だと」

「太陽? とんでもない。あの頃の私は、ただ自分のプライドしか見えていない、愚かな子供だった」

ハーデスは、自嘲気味に笑った。

「本当は、ずっと気になっていたんだ。いつも静かで、何も語らないお前が、何を考えているのか。どうすれば、俺の方を向いてくれるのか、と。それが苛立ちに変わり、あの婚約破棄騒動になった。……最低の男だったな、俺は」

「いいえ。あの出来事があったから、私は、あなたに本当の気持ちを伝える勇気を持てました。だから、今となっては、感謝しているくらいです」

イヴがそう言って微笑むと、ハーデスは、愛おしさに耐えきれないといった様子で、彼女の唇に、深く、優しい口づけを落とした。

それは、今までのどんなキスよりも、甘く、そして情熱的だった。互いの秘めていた想いを、すべて解き放ち、完全に一つになるための儀式。

ハーデスは、イヴの体を軽々と抱き上げると、天蓋付きのベッドへと運んだ。キャンドルの光が、二人の影を、壁に幻想的に映し出す。

「イヴ……愛している」

「私も……愛しています、ハーデス」

彼の、今まで以上に甘く、激しい愛情に、イヴは恥じらいながらも、しかし、自らのすべてを捧げるように、大胆に応えていく。

すれ違いから始まった二人の恋。多くの困難を乗り越え、ようやく真実の愛で結ばれた夜は、どこまでも甘く、どこまでも深く、ゆっくりと更けていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...