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盛大なパレードと、夜遅くまで続いた祝宴が終わり、王宮がようやく静けさを取り戻した頃。ハーデスとイヴは、二人きりで、彼らのために用意された新しい寝室へと足を踏み入れた。
その部屋は、まさしく、夢の続きのような空間だった。部屋中に飾られた純白の薔薇の甘い香りが満ち、数え切れないほどのキャンドルの柔らかな光が、壁や調度品を優しく照らし出している。天蓋付きのベッドには、シルクのシーツが滑らかに輝いていた。
ようやく二人きりになれたという事実に、どちらからともなく、安堵のため息が漏れた。
「……終わったのだな」
「はい。夢のような、一日でした……」
ハーデスは、イヴの後ろに立つと、彼女の髪を飾り付けていた美しい真珠の髪飾りを、一つ一つ、慈しむように外していく。そして、ドレスの背中を締め上げていた、複雑なリボンの編み上げを、その指でゆっくりと解いていった。
彼の指が素肌に触れるたびに、イヴの体は、甘く痺れるような感覚に包まれる。親密で、どこか厳かな、特別な時間が流れていく。
やがて、重いドレスから解放されたイヴが、薄いシルクのネグリジェ姿でハーデスの前に向き直る。その頬は、ほんのりと上気していた。
「本当に……俺の妻に、なってくれたのだな」
ハーデスは、まだ信じられないといった様子で、感慨深げに呟いた。彼は、イヴの華奢な体を、壊れ物を扱うかのように、そっと抱きしめる。
「はい。あなたの妻になれて、私は、世界で一番、幸せです」
イヴは、ハーデスの胸に顔をうずめて、答えた。
「ハーデス様」
「もう、様はいらない。ハーデス、と呼んでくれ」
「……ハーデス」
名前を呼ばれ、ハーデスの腕に力がこもる。
「私、初めてあなたにお会いした時から、ずっと、あなたに憧れていました。雲の上の、手の届かない、眩しい太陽のような方だと」
「太陽? とんでもない。あの頃の私は、ただ自分のプライドしか見えていない、愚かな子供だった」
ハーデスは、自嘲気味に笑った。
「本当は、ずっと気になっていたんだ。いつも静かで、何も語らないお前が、何を考えているのか。どうすれば、俺の方を向いてくれるのか、と。それが苛立ちに変わり、あの婚約破棄騒動になった。……最低の男だったな、俺は」
「いいえ。あの出来事があったから、私は、あなたに本当の気持ちを伝える勇気を持てました。だから、今となっては、感謝しているくらいです」
イヴがそう言って微笑むと、ハーデスは、愛おしさに耐えきれないといった様子で、彼女の唇に、深く、優しい口づけを落とした。
それは、今までのどんなキスよりも、甘く、そして情熱的だった。互いの秘めていた想いを、すべて解き放ち、完全に一つになるための儀式。
ハーデスは、イヴの体を軽々と抱き上げると、天蓋付きのベッドへと運んだ。キャンドルの光が、二人の影を、壁に幻想的に映し出す。
「イヴ……愛している」
「私も……愛しています、ハーデス」
彼の、今まで以上に甘く、激しい愛情に、イヴは恥じらいながらも、しかし、自らのすべてを捧げるように、大胆に応えていく。
すれ違いから始まった二人の恋。多くの困難を乗り越え、ようやく真実の愛で結ばれた夜は、どこまでも甘く、どこまでも深く、ゆっくりと更けていった。
その部屋は、まさしく、夢の続きのような空間だった。部屋中に飾られた純白の薔薇の甘い香りが満ち、数え切れないほどのキャンドルの柔らかな光が、壁や調度品を優しく照らし出している。天蓋付きのベッドには、シルクのシーツが滑らかに輝いていた。
ようやく二人きりになれたという事実に、どちらからともなく、安堵のため息が漏れた。
「……終わったのだな」
「はい。夢のような、一日でした……」
ハーデスは、イヴの後ろに立つと、彼女の髪を飾り付けていた美しい真珠の髪飾りを、一つ一つ、慈しむように外していく。そして、ドレスの背中を締め上げていた、複雑なリボンの編み上げを、その指でゆっくりと解いていった。
彼の指が素肌に触れるたびに、イヴの体は、甘く痺れるような感覚に包まれる。親密で、どこか厳かな、特別な時間が流れていく。
やがて、重いドレスから解放されたイヴが、薄いシルクのネグリジェ姿でハーデスの前に向き直る。その頬は、ほんのりと上気していた。
「本当に……俺の妻に、なってくれたのだな」
ハーデスは、まだ信じられないといった様子で、感慨深げに呟いた。彼は、イヴの華奢な体を、壊れ物を扱うかのように、そっと抱きしめる。
「はい。あなたの妻になれて、私は、世界で一番、幸せです」
イヴは、ハーデスの胸に顔をうずめて、答えた。
「ハーデス様」
「もう、様はいらない。ハーデス、と呼んでくれ」
「……ハーデス」
名前を呼ばれ、ハーデスの腕に力がこもる。
「私、初めてあなたにお会いした時から、ずっと、あなたに憧れていました。雲の上の、手の届かない、眩しい太陽のような方だと」
「太陽? とんでもない。あの頃の私は、ただ自分のプライドしか見えていない、愚かな子供だった」
ハーデスは、自嘲気味に笑った。
「本当は、ずっと気になっていたんだ。いつも静かで、何も語らないお前が、何を考えているのか。どうすれば、俺の方を向いてくれるのか、と。それが苛立ちに変わり、あの婚約破棄騒動になった。……最低の男だったな、俺は」
「いいえ。あの出来事があったから、私は、あなたに本当の気持ちを伝える勇気を持てました。だから、今となっては、感謝しているくらいです」
イヴがそう言って微笑むと、ハーデスは、愛おしさに耐えきれないといった様子で、彼女の唇に、深く、優しい口づけを落とした。
それは、今までのどんなキスよりも、甘く、そして情熱的だった。互いの秘めていた想いを、すべて解き放ち、完全に一つになるための儀式。
ハーデスは、イヴの体を軽々と抱き上げると、天蓋付きのベッドへと運んだ。キャンドルの光が、二人の影を、壁に幻想的に映し出す。
「イヴ……愛している」
「私も……愛しています、ハーデス」
彼の、今まで以上に甘く、激しい愛情に、イヴは恥じらいながらも、しかし、自らのすべてを捧げるように、大胆に応えていく。
すれ違いから始まった二人の恋。多くの困難を乗り越え、ようやく真実の愛で結ばれた夜は、どこまでも甘く、どこまでも深く、ゆっくりと更けていった。
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