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ココロノトビラ

お願い…嘘だって言って…

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それから数日経ったある土曜日。桜は結子に連絡を入れている。

『あのね…明日のアリバイ…お願いしてもいい?』
『アリバイ?どうしたぁ?』
『……先生の所…行ってきたい…もしかしたら会えるかも知れないし…話したい…』
『そか、解った!!大丈夫!任せて?』

そうして翌日の日曜日に内緒で会いに行く事を決めた桜。アリバイは結子に頼んだ。これで大丈夫…そう考えていた。

会えたら話したい事が沢山ある。それに加えて聞きたい事も…知りたい事、聞きたい事…山のようにあった…それを整理して、桜は明日の事を母に伝えに行った。『解ったわ』と笑いかけてくれた母に、ありがとうと答えて再度自室に戻る桜の背中を見てほんの少し、母も安堵していた。

翌日、桜は着替えをして10時には家を出た。そうして聞いていた住所を辿り、公共を乗り継ぎながらも陵透の家に向かっていた。

「ここだ…」

そうして高層マンションの13階目指してエレベーターに乗り込んだ。高鳴る鼓動…居なかったらどうしよう…もし出てきてくれなかったら…そう思う桜の気持ちなど知る由もなくエレベーターは桜の指示した13階に到着してチーンと軽い音と同時に扉を開ける。ここからでも見晴らしは良い。1つ…2つと扉を超えていく。そうしてぴたりと止まった先、陵透の部屋だった。震える手をキュッと握りしめて深呼吸しながらもチャイムを押す。

お願い…出て…

祈るような思いで返事を待っていた。

『…はい?』
「あ…えと…」
『…桜か?』
「うん…」

ガチャリと開いた扉、そこには見慣れない靴が1足ある。中に入れて貰うと奥からは凛音が出てきた。

「あ、桜ちゃん?」
「あ…こんにちわ…」
「じゃぁ陵透?俺ちょっと出てくるから…」
「は?いいのに…」
「大丈夫。また後で来るわ。連絡入ったし」

そう言うと携帯を見せて上着を着て凛音は靴を履く。見慣れない靴の持ち主は凛音の物だった。

「じゃぁね、桜ちゃん」

そうして桜と入れ替わりに凛音は陵透の部屋から出て行った。靴を脱げずに玄関に居た桜に声をかけて中に入る様に促した陵透。リビングに入るとテレビも付いておらず、先ほどまで凛音が飲んでいたと思われるマグカップが置いてあった。それを片付け、湯を沸かしながら陵透は桜に聞いていた。

「それで?」
「え?……」
「今日はどうした?」
「あの…陵透に聞きたい事…あって」
「…だろうと思った。辞任の事?それとも距離を置こうと言った事?それとも電話に出ない事?」

正確に、そして的確に陵透は桜の疑問を見透かしていた。キッチンでコーヒーと紅茶を1つずつ用意しながら沸くのを待っていた陵透。鞄を下ろし近付いた桜はトン…と背中に凭れた。

「桜?」
「……なんで…?どうして陵透だけ…」
「桜……まって?」
「何で…?何で陵透辞めなきゃ…行けないのよ…」

気付けば凭れていただけから腕は陵透の前方に回り、巻き付いていた。1度沸かし終えている湯は思っているよりも早くに沸騰した。コンロの火をカチリと消し、前に回る桜の手に自身の手を重ねた。

「桜…離して?」
「…嫌ぁ…」
「桜…ほら…」

そうして陵透はそっと桜の手を緩めて自身の体から解いた。そうして体の向きを変えると、そっと上から見つめて聞いていた。

「僕だけが苦しい思いをしている訳じゃない。」
「陵透だけ…だよ…ホストやってた理由だってちゃんと解ってもらえるはずなのに…」
「解っては貰えない。もし解ってもらえるとしてもその理由を逃げ道にしたくない。」
「逃げ道だなんて…」
「それに…桜とは少し距離を置こうって言ったじゃないか…僕らには冷却期間が必要だと…なのにどうして来た…電話に出なかったからか?だとしたらどうして避けてるかも知れないって思わなかった…」
「だって…陵透ならちゃんと話してくれると思って…」
「僕が…僕がどんな思いで…」
「陵…す…ッッ」

桜の言葉を最後まで聞く事なくその場でグイッと体を反転させ、冷蔵庫に押さえつける陵透。右足は桜の両足を割り左手は脇の下に付き、右手でそっと頬を撫で包み込む…

冷静に何て出来る訳無い…初めて桜を抱いた場所で…これほどまでに淋しさを募らせ、今…目の前にその愛おしい相手が居る…手放したのは自分なのに…

「冷却期間も何も…関係ない…僕は…ただ桜を守りたかった…何があっても…何を失っても…桜の…」
「でも…だったら私にも守らせて…陵透の事…」
「それは…止めておいた方がいい…桜にはこれからまだたくさんいろいろある…」
「いろいろあるなら…!!いろんな思い出は陵透と作りたい…」
「桜…」
「どうして…?なんでそれすらも願っちゃいけないの?!好きなのに…ただ好きなだけなのに…どうして…」
「……桜」
「まだ陵透とやりたい事だってたくさんあるの!いっぱいキスだってしたい…それに行きたい所もあるし、叶えたい夢もあるの…!別れたくな『桜…ッッ』」

桜の言葉を遮る様に陵透は半ば強引に顎を持ち上げ噛みつく様に口唇を重ねる…舌を挿し入れ、息付く間もないほどに絡め合う…

クチュ…チュク…ハァハァ…ンン……チュク…

静かな部屋に水音が響く…桜の手も陵透の腕に添わせる…冷蔵庫に付いていた陵透の手もまた桜の頬を包み込み、片腕は腰を抱いていた…幾度も角度を変えて、互いの唾液が口内一杯に交じり合う…下着の中に手を入れ、陵透の手はブラのホックを捉える。パチンと外し、肌をなぞる指は胸元へと誘われていく…

「陵…ン…け…」
「…チュク…」

潤んだ瞳…甘く変わる吐息…熱を帯びる声…全て陵透が仕込んできたもの…そしていつもならば一番の至福の時間に変わる瞬間だった…
貪る様に首筋、鎖骨へ舌を這わせ、舐めあげる陵透…耳元で時折名前を呼ぶ声に桜もいつも以上に感じ始めていた…
そんな時だった…フワリと桜の体が宙に浮いた…部屋を超え、寝室に向かいドサリと桜を降ろし、桜の服を剥ぎ取って行った陵透…

「陵…透……ぇ…」
「…ッッ…!」

止めなくてはいけない…ここで今…桜をこの腕に抱いたら…もう自分の気持ちに歯止めなんて効かなくなる……そんな事解っている……それなのに…理性が…どこにあるのか解らない…

「…ッ…桜…」
「…ハァハァ…ンゥ…」

キョウ ハ ヤサシク シテヤレソウニ…ナイ…・・・

そう思いながらも陵透は本能の赴くままに、自身の愛情をたっぷりと染み渡らせるように…桜の胸を揉みしだいた…そのまま、桜の胸に咲く突起を時折甘噛みしながらも丁寧に舐めあげていく。露わになるその体を、陵透の指はスルリを滑り、なぞって行く…その度に桜の声は甘く響いていく…閉じられている桜の両膝を開き、その間に陵透けは体を沈める…スカートを捲し上げると、太ももをなぞり、下着越しにそっと秘部に触れた…

「ァッ…ン…」
「こんなに溢れてる…」
「ァア…ンァ…」
「いけない子だ…」

そう言いながらも小さく笑いスルリと下着を下ろす。トロリと蜜は繋がり、しっかりと潤いを満たしていた。顔を埋め、指で開きながら開拓した蕾を舌先で焦らし始めた…

チュク…クチュ…チュッ……

ヤらしく響く水音と、桜の喘ぎ声が一層寝室に響いた…吸い付き、擦り、また舐める…大きく膨れ上がる桜の蕾はひくひくと震えていた。びくりと腰が跳ねたのを見ていつもならやめる陵透だったがこの日はやめる事をしなかった…

もっと感じて…桜…

そう言わんばかりにただ舐め続けている…腰の振りが止まらず、痙攣しているかのように振れ出した頃合いを見て体を起こし、親指で口唇を拭うとニッと笑い桜に覆いかぶさる。口唇を重ねながらも左手で指を絡め、右手は桜の体内に侵入していた。

キスの水音と、秘部の水音…互いの唇から洩れる吐息…すべてを重ね合っていた…ふっと体を起こすととろんとした目つきで下から桜は見上げていた。

頼むから…そんな目で見ないで…桜……・・・ッッ

そう思う陵透の心と裏腹に桜は甘く啼くような声で名前を呼んだ…

「陵透…」

と……
堪らず陵透は棚に手を伸ばし、ゴムを出す…ピリっと封を切り、するりと自身の大きくなった一物に装着した。

「痛かったら言って…?」
「ハァハァ…ん…」

そうはいっても陵透の中で止めてやれる自信など微塵もなかった…グッと両足を持ち上げて宛がうとゆっくりと中に入れ込んだ陵透。そのままズルリと中に進んでいく…きつく感じたのも一瞬で、すぐに桜の秘部は陵透を受け入れた。桜の甘美の声が上がる…容赦なく陵透は奥へと突き上げる…同時に擦れ合い、弾ける水音が木霊する…

「イ……・・ク…ッッ」

ゴムの中とはいえ陵透は白濁とした性欲をたっぷりと吐き出した。ゆっくりと抜き出し、ゴムを処理し、再度桜の秘部に顔を埋めて、愛撫を始める…突き上げられた感覚と、度重なる愛撫に桜の意識はもうろうとし始めていた。そして最後に大きく腰が震え跳ねあがると、クタリとベッドの波に沈み込んだ……そんな桜の様子を見てようやく愛撫の嵐を止めた陵透……衣服を身に付け、すっかりと冷めきった湯をそのままカップに入れコーヒーを作る。熱く火照った体にはちょうど良かった。

「何してんだ…僕は…・・ッハ」

手を見つめ、そっと、ゆっくり握り返してみる…柔らかく、吸い付くような肌…とろりと絡む蜜…失いたくない…どれほどにこの腕の中に抱き入れ続けれたら幸せだろう…そう思っても、どれほど願ってもかなわない事等誰よりも知っているはずだった…今抱けば、こうした感情に自身が呑み込まれる事も解っていた…それなのに…
コクリと一口飲んだ陵透は前髪をクシャリと掻き上げ、ふと天井を仰いだ。その時だ、寝室から桜が出てきた。

「陵…透?」
「あ、起きて大丈夫か?」
「大丈夫…あのね…、陵透……私」
「桜…、ごめん」
「…え?」
「ごめん…あんな事して…」
「謝らないで?なんで謝るの?」
「…ッッ」
「陵透…ッ」
「…もうここには来るな…」
「…どうして…」
「いいから…来るな……メールやライン、電話もするな…」
「私達…付き合ってるんだよね?」
「……」
「陵透!!…答えてよ…」
「ごめん…」
「…・・して…どうして?」
「……ッッ」

桜の問いかけに答えられなかった陵透。そんな時だ…チャイムが鳴った。幸いにも桜は服を着て出てきてくれていた。その為横を通り、玄関口に向かった。入口に立っていたのは凛音だった。

「もうそろそろ大丈夫?」
「ちょうどよかった、凛音。」
「は?」
「桜の事、近くの駅まで送ってやって…?」
「は?何で俺…」
「頼むよ…」

そう言いながらも取りあえず中に入った凛音。小さな廊下を通りリビングに入ると沈黙で桜は帰り支度をしていた。

「桜…凛音が近くの駅まで送ってくれるから。」
「…いい」
「桜…」
「いらない…1人で帰れる…」
「待てって…!」

凛音の目の前であまり見た事の無い様な陵透の表情に凛音も驚いていた。

「離して…もうんでしょ?」
「そんな事は言っていない」
「だったら何で肝心な事は黙ってるのよ…!!」
「桜…頼むから。凛音に『大丈夫だっていってるじゃん!』…ッッ」

どう自分の感情をコントロールしていいか解らない桜。あんなに目一杯の愛情を注ぎこまれた直後に『別れ』にも似た事を突きつけられた。それなのに、気付けば今、また…陵透の腕に抱きしめられていた。

「頼むから…僕がお願いしている内に…凛音の車で帰って…」
「陵…透……」
「桜…」

そうしてフッと腕を緩めた陵透。凛音の方に目をやると頭を掻きながら『解ったよ…』と呟き桜の歩みを待った。靴を履きに玄関に向かう桜を見て、凛音はひと言陵透に声をかけた。

「…ばぁか」
「うるさい…頼んだからな?」
「離したくないくせに」
「うるさい…!」

そうして桜の待つ玄関に、凛音は向かった。
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