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第一章:本編
吸血鬼の従者、学院へ行く
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王都には、二つの公立学校がある。
一つは国立学園。
職業学校とも呼ばれ、読み書きや四則計算といった基礎から専門的な職業スキルまでを総合的に教える。
例えばパン職人を目指す者には、パンの焼き方から店舗の経営学まで。
様々な職業に対応するため非常に巨大な学園で、優秀な人間を国が役人へと引き抜くことも多々ある。
そのため平民の大半はもちろんのこと、貴族家の人間も通う者は多い。
伯爵以上の上級貴族ならともかく、男爵や子爵といった下級貴族では王政へのコネも乏しい。
家督を継承する者ですら公職につける保証も無いのに、その三男や四女ともなれば。
人間、プライドだけで腹は膨れないのだ。
もう一つが王立学院。
学園が国立なのに対し、王立。
すなわち、王のために尽くす、国政のエリートを育成する学校。
行政職なら課長部長から大臣補佐官まで、王国軍なら中隊長以上の幹部指揮官などが候補になる。
稀に優秀な平民が入学を許されることもあるが、当然に貴族が多い。
ある意味貴族社会の縮図の様な場所であった。
「何で…」
そして、私の目の前には王立学院への入学通知書。
数日前に入学願書は提出したが、それは国立学園に対してだ。
両親は家督を継がせる予定の義妹を王立学院に通わせ、私は家庭教師に学ばせていた。
最終的に中堅貴族の愛人にでも差し出してコネでも作れれば御の字と思っていたらしい。
ただその前に目先のお金に困って、私は愛人どころか保険金目当てに殺されかけ、結果その両親も義妹も既にいない。
両親は死刑、義妹は生きているとはいえ実質的に幽閉、貴族社会には戻ってこられない。
普通は御家断絶が当然なのだが、なぜかフィッツ男爵家は存続を許され、私が家督相続を許された。
とはいえ貧乏男爵に変わりはなく、しかも貴族社会で生きられそうなコネもツテも無い。
なので、手に職を付ける必要がある私は国立学園へ願書を送ったのだが…
「不思議なことはありますまい。
スー様、あなたは爵位を持つ身なのですよ。」
「それはそうですけど…」
困惑する私と対照的に、目の前に立つアラヤさんは当然だと言わんばかりの表情だ。
「私は代官、領地経営の能力に乏しいあなたの代わりに過ぎません。
よろしいですか?
私が去れば、貴族として振る舞い、貴族として領民を導くのはあなたなのですよ。」
分かってはいる。
けれど、様々な貴族に仕え経験が豊富なアラヤさんの域に私が到達できる気が全くしない。
「無礼を承知で申し上げますが、スー様。
フィッツ男爵領の状況は最悪の、その更に下です。
正直、破綻していないのが不思議でならないほどです。」
「領地に重税を課して、そのお金を賄賂に送っていたのは聞きましたが…」
「私が陛下から命ぜられたのは、この絶望しかない状況を、どうにか希望が抱けるレベルまで持ち上げることです。
全く…隠居していた私をこき使うとは、陛下もお人が悪い。」
そう言いながらもアラヤさんは笑っている。
このあまりにも絶望的な状況に、逆にやりがいを感じているらしい。
その経験豊富なアラヤさんでも、ここまで酷い状況は聞いたことすらないらしい。
「ともあれ、スー様には貴族のイロハを学んで頂く必要があります。
陛下もそう思われていることでしょう。
それとも、学院への入学を辞退されますか?」
出来るわけがない。
入学通知書には、教育大臣を務める侯爵様のサインもあるのだ。
よほどの理由もなく辞退などすれば、その侯爵様だけでなく陛下の意を否定することになる。
「まずは、行かれては?
スー様が爵位を返上する気が無いのであれば。」
爵位返上はフィッツ男爵領のために尽力してくれているアラヤさんにも失礼だ。
かなり強引な手まで使って債権を一本化して長期の返済計画を銀行に飲ませたらしい。
契約書にサインする時、銀行の人たちが軒並み複雑な表情をしていた。
最も、それを埋め合わせするためにいくつか他家の極秘情報を提供したそうだ。
何とも方々に申し訳ない。
「分かりました。
明日から入学の準備を始めます。
すみませんが留守中のこと、お願いします。」
「おまかせください、スー様。
卒業までには希望の光がうっすらと見えるくらいには致しましょう。」
一つは国立学園。
職業学校とも呼ばれ、読み書きや四則計算といった基礎から専門的な職業スキルまでを総合的に教える。
例えばパン職人を目指す者には、パンの焼き方から店舗の経営学まで。
様々な職業に対応するため非常に巨大な学園で、優秀な人間を国が役人へと引き抜くことも多々ある。
そのため平民の大半はもちろんのこと、貴族家の人間も通う者は多い。
伯爵以上の上級貴族ならともかく、男爵や子爵といった下級貴族では王政へのコネも乏しい。
家督を継承する者ですら公職につける保証も無いのに、その三男や四女ともなれば。
人間、プライドだけで腹は膨れないのだ。
もう一つが王立学院。
学園が国立なのに対し、王立。
すなわち、王のために尽くす、国政のエリートを育成する学校。
行政職なら課長部長から大臣補佐官まで、王国軍なら中隊長以上の幹部指揮官などが候補になる。
稀に優秀な平民が入学を許されることもあるが、当然に貴族が多い。
ある意味貴族社会の縮図の様な場所であった。
「何で…」
そして、私の目の前には王立学院への入学通知書。
数日前に入学願書は提出したが、それは国立学園に対してだ。
両親は家督を継がせる予定の義妹を王立学院に通わせ、私は家庭教師に学ばせていた。
最終的に中堅貴族の愛人にでも差し出してコネでも作れれば御の字と思っていたらしい。
ただその前に目先のお金に困って、私は愛人どころか保険金目当てに殺されかけ、結果その両親も義妹も既にいない。
両親は死刑、義妹は生きているとはいえ実質的に幽閉、貴族社会には戻ってこられない。
普通は御家断絶が当然なのだが、なぜかフィッツ男爵家は存続を許され、私が家督相続を許された。
とはいえ貧乏男爵に変わりはなく、しかも貴族社会で生きられそうなコネもツテも無い。
なので、手に職を付ける必要がある私は国立学園へ願書を送ったのだが…
「不思議なことはありますまい。
スー様、あなたは爵位を持つ身なのですよ。」
「それはそうですけど…」
困惑する私と対照的に、目の前に立つアラヤさんは当然だと言わんばかりの表情だ。
「私は代官、領地経営の能力に乏しいあなたの代わりに過ぎません。
よろしいですか?
私が去れば、貴族として振る舞い、貴族として領民を導くのはあなたなのですよ。」
分かってはいる。
けれど、様々な貴族に仕え経験が豊富なアラヤさんの域に私が到達できる気が全くしない。
「無礼を承知で申し上げますが、スー様。
フィッツ男爵領の状況は最悪の、その更に下です。
正直、破綻していないのが不思議でならないほどです。」
「領地に重税を課して、そのお金を賄賂に送っていたのは聞きましたが…」
「私が陛下から命ぜられたのは、この絶望しかない状況を、どうにか希望が抱けるレベルまで持ち上げることです。
全く…隠居していた私をこき使うとは、陛下もお人が悪い。」
そう言いながらもアラヤさんは笑っている。
このあまりにも絶望的な状況に、逆にやりがいを感じているらしい。
その経験豊富なアラヤさんでも、ここまで酷い状況は聞いたことすらないらしい。
「ともあれ、スー様には貴族のイロハを学んで頂く必要があります。
陛下もそう思われていることでしょう。
それとも、学院への入学を辞退されますか?」
出来るわけがない。
入学通知書には、教育大臣を務める侯爵様のサインもあるのだ。
よほどの理由もなく辞退などすれば、その侯爵様だけでなく陛下の意を否定することになる。
「まずは、行かれては?
スー様が爵位を返上する気が無いのであれば。」
爵位返上はフィッツ男爵領のために尽力してくれているアラヤさんにも失礼だ。
かなり強引な手まで使って債権を一本化して長期の返済計画を銀行に飲ませたらしい。
契約書にサインする時、銀行の人たちが軒並み複雑な表情をしていた。
最も、それを埋め合わせするためにいくつか他家の極秘情報を提供したそうだ。
何とも方々に申し訳ない。
「分かりました。
明日から入学の準備を始めます。
すみませんが留守中のこと、お願いします。」
「おまかせください、スー様。
卒業までには希望の光がうっすらと見えるくらいには致しましょう。」
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