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集中できない
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柔らかい唇。
その感触に、頭が一瞬真っ白になる。
「・・・史弥のことも、好きだよ」
大きな瞳が、艶っぽく細められる。
ぽかんとしたまま何も言えないでいる俺を見て、おかしそうにくすりと笑う。
「ふふ、変なの。昨日は自分からキスしたくせに」
「あ・・・・そ、それは」
「彼女と間違えたんだっけ?そんなに似てるの?俺」
「いや・・・・似てるっちゃ似てるし、似てないっちゃ似てない・・・・」
「ふは、何それ」
「男と女だから、根本的に違うもん。ただ・・・・色の白さとか、大きい目とか・・・・そういうのが、似てる気はする」
「ふーん・・・・?じゃあ、史弥は俺みたいのが好みなんだ?」
うふふ、と艶っぽく笑いながら、朱里が俺に顔を近づける。
咄嗟に後ろに下がろうとして―――
「うわっ」
後ろにあったベッドに引っかかり、そのまま仰向けに倒れてしまう。
「ふはは!何してんの、史弥」
「笑うなよ!朱里が変なこと言うから・・・・!」
「えー、俺のせい?だって、彼女に似てるってことは好みだってことじゃないの?」
「だからッ、男と女じゃ違うだろ?」
「そぉ?ほら、手」
なかなか起き上がれないでいる俺に手を差し出してくれる朱里。
白くてきれいな手は、指も長くてきれいだった。
そっと握ると、ぎゅっと握り返し、そのまま俺を引っ張って起こしてくれる。
「―――サンキュ」
「ん。史弥って、女が好きなんだ?」
「は?そりゃ・・・・普通そうだろ?」
「そっか・・・・」
きょとんと目を瞬かせる朱里。
ちょっと変わってる・・・・・よな。
「じゃ・・・・別の方法考えなくちゃ」
「別の方法?何が?」
「ううん、こっちの話」
「え・・・・」
「朱里くん?指輪見つかった?」
突然扉が開き、作間が顔を出した。
朱里と俺の手元を見て、むっと顔を顰める。
「・・・何してんすか」
「ん?史弥が倒れたから、起こしてあげてた」
「はぁ?倒れた?」
「あ、指輪あったよ、ほら」
そう言って自分の左手を差し出す朱里を見て、作間は小さく溜息をついた。
「よかったね。じゃ、行こう」
「ん。じゃあね、史弥。またね」
「あ、うん・・・・」
そうして、朱里は楽しそうに笑うと行ってしまったのだった・・・・・。
翌日。
その日はずっと仕事をするつもりだった。
溜まってる仕事もあったし、遊んでる暇はなかったんだ。
「・・・・無理だ」
全然集中できなかった。
集中しようとしても、目の前に朱里の笑顔がちらつく。
無邪気な笑顔。
それでいて、何を考えているのかわからないような・・・・
俺のファンだと言っていた朱里。
どうして突然俺の前に現れたんだろう。
『別の方法考えなくちゃ』
あの言葉の意味は・・・・・?
「あ~~~~、ダメだ!!!」
ペンを放り投げ、頭をかきむしる。
「ふみちゃん!?どうしたの!?」
ガチャリと扉が開き、慌てた様子の志賀ちゃんが顔を出す。
「え?」
「大声出して・・・・どうかした?」
「ああ、ごめん、ちょっと集中できなくて・・・・。俺、ちょっと散歩してくる」
「あ、うん、わかった」
そう言って志賀ちゃんは頷いた。
俺は、よく仕事に行き詰ると散歩に出かけるので、志賀ちゃんも慣れっこだ。
グレーのジャージにサンダル履きという格好でぶらりと外に出て、近くの公園へ向かう。
エレベーターでマンションの下へ降りて、通りを出て―――
ふと、隣のマンションを見上げる。
15階建ての、おしゃれな白いマンション。
たしかに、まるで高級ホテルのような外観で、俺、よくこれを素通りしてたな、というくらい存在感のある建物だった。
「―――ここに引っ越すって・・・・あいつら、何ものだよ」
大体、2人で一緒に引っ越してくるのか?
どういう関係?
そんなことを考えて、ぼんやりと隣のマンションを見上げていた。
その時。
「―――これで、引っ越し終わり?」
「終わり。今度は家具を揃えないと―――」
「あれ、史弥?」
そのマンションの豪華なエントランスから出てきたのは、作間と朱里だった。
「・・・・もう、引っ越してきたの?」
「うん、今手続き終わったとこ。今から家具見に行くの。史弥は?どっか行くの?」
「これはまた、ずいぶんラフな格好ですね」
呆れたような作間の言葉にちょっとムッとする。
「うるせぇわ。お前だって似たようなもんだろ?」
おしゃれな紺のロングカーディガンにシンプルな白いTシャツにジーパンという格好の朱里に比べ、よれよれのからし色のTシャツによれよれのスウェット、つっかけのサンダルという俺と似たか寄ったかの格好の作間。
こいつには言われたくねえぞ。
「・・・・公園を散歩してるお爺ちゃんみたいですね」
「ふはは!ほんとだ!ケイ、うまいね」
朱里が楽しそうに笑うと、作間はふふんと自慢げに口の端を上げた。
「・・・・誰かさんたちのせいで仕事に集中できねえから、気晴らしに散歩するんだよ!」
「公園を?」
「公園を!」
「ふはは!史弥面白い!」
キャッキャと声を上げて笑う朱里は、本当に楽しそうでなんだか子供みたいだった。
「ねぇ、俺も公園行きたい!ケイ、行っていい?」
「朱里くん、これから家具・・・」
「それ、明日じゃダメ?」
「えー・・・・」
困ったように眉を下げる作間。
それでも両手を合わせて瞳をうるうるさせる朱里に見つめられ―――
大きな溜息をついた。
「・・・わかりました。じゃあ、明日は絶対ね」
「うん!ありがと、ケイ」
そう言ってにっこり笑う朱里に、照れたようにはにかむ作間。
心なしか、雰囲気が甘い。
なんなんだ、この2人・・・・
「じゃあ、俺はちょっと光輝さんに報告してくるから・・・・1時間くらいで戻るから、朱里くん、くれぐれも気をつけてね」
「はぁい」
ニコニコとかわいらしく手を振る朱里に、若干不安そうな顔の作間。
時折振り返りながらも歩き出す作間を見送り、朱里は俺の肩に腕を回した。
「じゃ、いこ、史弥」
ふっと、艶っぽい流し目を送る朱里に、俺の心臓が跳ねあがったのだった・・・・・。
その感触に、頭が一瞬真っ白になる。
「・・・史弥のことも、好きだよ」
大きな瞳が、艶っぽく細められる。
ぽかんとしたまま何も言えないでいる俺を見て、おかしそうにくすりと笑う。
「ふふ、変なの。昨日は自分からキスしたくせに」
「あ・・・・そ、それは」
「彼女と間違えたんだっけ?そんなに似てるの?俺」
「いや・・・・似てるっちゃ似てるし、似てないっちゃ似てない・・・・」
「ふは、何それ」
「男と女だから、根本的に違うもん。ただ・・・・色の白さとか、大きい目とか・・・・そういうのが、似てる気はする」
「ふーん・・・・?じゃあ、史弥は俺みたいのが好みなんだ?」
うふふ、と艶っぽく笑いながら、朱里が俺に顔を近づける。
咄嗟に後ろに下がろうとして―――
「うわっ」
後ろにあったベッドに引っかかり、そのまま仰向けに倒れてしまう。
「ふはは!何してんの、史弥」
「笑うなよ!朱里が変なこと言うから・・・・!」
「えー、俺のせい?だって、彼女に似てるってことは好みだってことじゃないの?」
「だからッ、男と女じゃ違うだろ?」
「そぉ?ほら、手」
なかなか起き上がれないでいる俺に手を差し出してくれる朱里。
白くてきれいな手は、指も長くてきれいだった。
そっと握ると、ぎゅっと握り返し、そのまま俺を引っ張って起こしてくれる。
「―――サンキュ」
「ん。史弥って、女が好きなんだ?」
「は?そりゃ・・・・普通そうだろ?」
「そっか・・・・」
きょとんと目を瞬かせる朱里。
ちょっと変わってる・・・・・よな。
「じゃ・・・・別の方法考えなくちゃ」
「別の方法?何が?」
「ううん、こっちの話」
「え・・・・」
「朱里くん?指輪見つかった?」
突然扉が開き、作間が顔を出した。
朱里と俺の手元を見て、むっと顔を顰める。
「・・・何してんすか」
「ん?史弥が倒れたから、起こしてあげてた」
「はぁ?倒れた?」
「あ、指輪あったよ、ほら」
そう言って自分の左手を差し出す朱里を見て、作間は小さく溜息をついた。
「よかったね。じゃ、行こう」
「ん。じゃあね、史弥。またね」
「あ、うん・・・・」
そうして、朱里は楽しそうに笑うと行ってしまったのだった・・・・・。
翌日。
その日はずっと仕事をするつもりだった。
溜まってる仕事もあったし、遊んでる暇はなかったんだ。
「・・・・無理だ」
全然集中できなかった。
集中しようとしても、目の前に朱里の笑顔がちらつく。
無邪気な笑顔。
それでいて、何を考えているのかわからないような・・・・
俺のファンだと言っていた朱里。
どうして突然俺の前に現れたんだろう。
『別の方法考えなくちゃ』
あの言葉の意味は・・・・・?
「あ~~~~、ダメだ!!!」
ペンを放り投げ、頭をかきむしる。
「ふみちゃん!?どうしたの!?」
ガチャリと扉が開き、慌てた様子の志賀ちゃんが顔を出す。
「え?」
「大声出して・・・・どうかした?」
「ああ、ごめん、ちょっと集中できなくて・・・・。俺、ちょっと散歩してくる」
「あ、うん、わかった」
そう言って志賀ちゃんは頷いた。
俺は、よく仕事に行き詰ると散歩に出かけるので、志賀ちゃんも慣れっこだ。
グレーのジャージにサンダル履きという格好でぶらりと外に出て、近くの公園へ向かう。
エレベーターでマンションの下へ降りて、通りを出て―――
ふと、隣のマンションを見上げる。
15階建ての、おしゃれな白いマンション。
たしかに、まるで高級ホテルのような外観で、俺、よくこれを素通りしてたな、というくらい存在感のある建物だった。
「―――ここに引っ越すって・・・・あいつら、何ものだよ」
大体、2人で一緒に引っ越してくるのか?
どういう関係?
そんなことを考えて、ぼんやりと隣のマンションを見上げていた。
その時。
「―――これで、引っ越し終わり?」
「終わり。今度は家具を揃えないと―――」
「あれ、史弥?」
そのマンションの豪華なエントランスから出てきたのは、作間と朱里だった。
「・・・・もう、引っ越してきたの?」
「うん、今手続き終わったとこ。今から家具見に行くの。史弥は?どっか行くの?」
「これはまた、ずいぶんラフな格好ですね」
呆れたような作間の言葉にちょっとムッとする。
「うるせぇわ。お前だって似たようなもんだろ?」
おしゃれな紺のロングカーディガンにシンプルな白いTシャツにジーパンという格好の朱里に比べ、よれよれのからし色のTシャツによれよれのスウェット、つっかけのサンダルという俺と似たか寄ったかの格好の作間。
こいつには言われたくねえぞ。
「・・・・公園を散歩してるお爺ちゃんみたいですね」
「ふはは!ほんとだ!ケイ、うまいね」
朱里が楽しそうに笑うと、作間はふふんと自慢げに口の端を上げた。
「・・・・誰かさんたちのせいで仕事に集中できねえから、気晴らしに散歩するんだよ!」
「公園を?」
「公園を!」
「ふはは!史弥面白い!」
キャッキャと声を上げて笑う朱里は、本当に楽しそうでなんだか子供みたいだった。
「ねぇ、俺も公園行きたい!ケイ、行っていい?」
「朱里くん、これから家具・・・」
「それ、明日じゃダメ?」
「えー・・・・」
困ったように眉を下げる作間。
それでも両手を合わせて瞳をうるうるさせる朱里に見つめられ―――
大きな溜息をついた。
「・・・わかりました。じゃあ、明日は絶対ね」
「うん!ありがと、ケイ」
そう言ってにっこり笑う朱里に、照れたようにはにかむ作間。
心なしか、雰囲気が甘い。
なんなんだ、この2人・・・・
「じゃあ、俺はちょっと光輝さんに報告してくるから・・・・1時間くらいで戻るから、朱里くん、くれぐれも気をつけてね」
「はぁい」
ニコニコとかわいらしく手を振る朱里に、若干不安そうな顔の作間。
時折振り返りながらも歩き出す作間を見送り、朱里は俺の肩に腕を回した。
「じゃ、いこ、史弥」
ふっと、艶っぽい流し目を送る朱里に、俺の心臓が跳ねあがったのだった・・・・・。
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