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叶わない想い
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「ねぇケイ、たこ焼き器買ってもいい?」
「え・・・・」
料理の材料をスーパーで買い、2人の新居となったマンションの部屋へ戻って来ると、材料を冷蔵庫へしまいながら朱里くんが言った。
「たこ焼き、すごいおいしかった。今度自分でも作りたいんだ」
「いいけど・・・・」
「ほんと?ありがと!史弥と志賀くんも呼ぼうっと」
「楽しそうだね、朱里くん」
「うん、楽しいよ」
「・・・・わかってるの?朱里くん」
「え?」
朱里くんがきょとんとして首を傾げる。
「ここへ来た目的、忘れちゃったの?」
「わ・・・・忘れてないよ。忘れるわけないじゃん」
むうっと頬を膨らませる朱里くん。
まったくもう・・・・
「・・・・あんまり仲良くしちゃうと、朱里くんが辛い思いをすることになるんじゃないの?」
「そんなこと、ない」
「本当に?だって朱里くんは、本来あの世界にいるべきじゃ―――」
「ケイ!」
「・・・・ごめん」
朱里くんは溜息をつくと、手に持っていた材料をテーブルに置き、すっと俺を横目で見た。
あ、やばい。
朱里くんは、たまにこういう目をする。
普段のキラキラした無邪気な瞳とは違う、伏し目がちな、長い睫毛が際立つ艶っぽい視線。
思わず、俺は喉を鳴らした。
「ケイ・・・・・何が言いたいの?」
「いや、俺は―――」
朱里くんがゆっくりと俺に近づき、その白く綺麗な手で俺の頬を撫でた。
「俺と・・・離れたいの?」
「違うよ・・・・俺はただ、朱里くんに辛い思いをさせたくないから―――」
「辛くなんか、ないよ」
「朱里くん・・・・」
「ケイが、いつもそばにいてくれるから・・・俺は、辛くなんかない」
「朱里くん・・・・それなら、俺はずっと朱里くんの傍にいるよ。何があっても―――」
引き寄せられるように、俺たちは顔を近づけ、そのまま唇を重ねた。
朱里くんの長い睫毛が伏せられるのに見惚れながらその細い腰を引き寄せ、空いた手で柔らかい髪をなでるように後頭部を抑え、さらに深く口付けた。
「ん・・・・・ッ」
徐々に体から力が抜け、崩れそうになる朱里くんを支えながら俺は朱里くんの唇を堪能した。
だけどすぐにそれだけじゃ足りなくなって――――
「朱里くん・・・・・抱きたい・・・・」
「・・・・・ん」
切なげに寄せられた眉と、潤んだ瞳。
適度に引き締まって、だけど弾力のある体。
透けるような白さと、魅惑的な赤い唇。
好きにならずにいられない。
子供のころから俺はずっと朱里くんの傍にいて。
好きになるのはごく自然なことだった。
朱里くんは光輝さんのことが好きだったけど・・・・・
それでも構わなかった。
傍にいられるなら・・・・・。
「愛してるよ・・・朱里くん・・・・」
俺の隣で穏やかな寝息を立てる朱里くんの髪をそっと撫でる。
朱里くんが望むなら、俺はずっと朱里くんの傍にいる。
たとえ朱里くんが俺のものにならなくても・・・・・
「史弥、おはよー!」
突然聞こえてきた声に、俺はまだ開き切らない目を手で擦った。
「んぁ・・・・・その声・・・・・朱里・・・・?」
「んふ、わかった?おはよ」
朱里が俺の顔を覗きこみそう言ってにっこり笑った―――
かと思ったら、突然俺の唇にチュッとキスをした。
「っ!!、お、お前なぁ!」
「目、覚めた?」
いたずらっ子のような無邪気な笑顔。
ドキッとする、あの笑顔だ。
「史弥、たこ焼き食べよー!」
そう言って俺の腕を引っ張る朱里。
「ええ?たこ焼きって・・・・お前、本当にプレート買ったの?」
「うん!さっきお店行って、ケイに買ってもらった。材料も買ってきたから食べようよ」
「マジか・・・・」
「てか、史弥いつまで寝てんの?もうお昼過ぎてるよ?」
「・・・・昨日、明け方まで仕事してたから」
変な時間に寝てしまって、真夜中に目が覚めて・・・・
今度は眠れなくなってしまったので仕事を始めたら、気付いた時にはもう外が明るくなってきていた。
「ふーん。時間も忘れるくらい夢中になっちゃったんだ?」
「まぁ・・・・・そうかな」
夢を見たんだ。
海の見える公園で、朱里と並んで海を見てた。
朱里はずっと海を見つめてて。
俺はそんな朱里をずっと見つめてた。
笑みを浮かべてる朱里の横顔は息を呑むほどきれいで。
あんまりきれいで、俺は海なんて少しも見ずに朱里のことだけをずっと見つめ続けてた。
そこで目が覚めて・・・・
夢で見た朱里の横顔が描きたくて。
忘れたくなくて。
それを描き終えるまで、周りが何も見えなくなっていたんだ。
そんな感覚は、本当に久しぶりだった。
ただただ絵が好きで、毎日絵を描くことに明け暮れていた遠い日々に戻ったような錯覚。
そして、描き終えた途端、俺はまた睡魔に襲われ眠りに落ちたのだった・・・・・。
「え・・・・」
料理の材料をスーパーで買い、2人の新居となったマンションの部屋へ戻って来ると、材料を冷蔵庫へしまいながら朱里くんが言った。
「たこ焼き、すごいおいしかった。今度自分でも作りたいんだ」
「いいけど・・・・」
「ほんと?ありがと!史弥と志賀くんも呼ぼうっと」
「楽しそうだね、朱里くん」
「うん、楽しいよ」
「・・・・わかってるの?朱里くん」
「え?」
朱里くんがきょとんとして首を傾げる。
「ここへ来た目的、忘れちゃったの?」
「わ・・・・忘れてないよ。忘れるわけないじゃん」
むうっと頬を膨らませる朱里くん。
まったくもう・・・・
「・・・・あんまり仲良くしちゃうと、朱里くんが辛い思いをすることになるんじゃないの?」
「そんなこと、ない」
「本当に?だって朱里くんは、本来あの世界にいるべきじゃ―――」
「ケイ!」
「・・・・ごめん」
朱里くんは溜息をつくと、手に持っていた材料をテーブルに置き、すっと俺を横目で見た。
あ、やばい。
朱里くんは、たまにこういう目をする。
普段のキラキラした無邪気な瞳とは違う、伏し目がちな、長い睫毛が際立つ艶っぽい視線。
思わず、俺は喉を鳴らした。
「ケイ・・・・・何が言いたいの?」
「いや、俺は―――」
朱里くんがゆっくりと俺に近づき、その白く綺麗な手で俺の頬を撫でた。
「俺と・・・離れたいの?」
「違うよ・・・・俺はただ、朱里くんに辛い思いをさせたくないから―――」
「辛くなんか、ないよ」
「朱里くん・・・・」
「ケイが、いつもそばにいてくれるから・・・俺は、辛くなんかない」
「朱里くん・・・・それなら、俺はずっと朱里くんの傍にいるよ。何があっても―――」
引き寄せられるように、俺たちは顔を近づけ、そのまま唇を重ねた。
朱里くんの長い睫毛が伏せられるのに見惚れながらその細い腰を引き寄せ、空いた手で柔らかい髪をなでるように後頭部を抑え、さらに深く口付けた。
「ん・・・・・ッ」
徐々に体から力が抜け、崩れそうになる朱里くんを支えながら俺は朱里くんの唇を堪能した。
だけどすぐにそれだけじゃ足りなくなって――――
「朱里くん・・・・・抱きたい・・・・」
「・・・・・ん」
切なげに寄せられた眉と、潤んだ瞳。
適度に引き締まって、だけど弾力のある体。
透けるような白さと、魅惑的な赤い唇。
好きにならずにいられない。
子供のころから俺はずっと朱里くんの傍にいて。
好きになるのはごく自然なことだった。
朱里くんは光輝さんのことが好きだったけど・・・・・
それでも構わなかった。
傍にいられるなら・・・・・。
「愛してるよ・・・朱里くん・・・・」
俺の隣で穏やかな寝息を立てる朱里くんの髪をそっと撫でる。
朱里くんが望むなら、俺はずっと朱里くんの傍にいる。
たとえ朱里くんが俺のものにならなくても・・・・・
「史弥、おはよー!」
突然聞こえてきた声に、俺はまだ開き切らない目を手で擦った。
「んぁ・・・・・その声・・・・・朱里・・・・?」
「んふ、わかった?おはよ」
朱里が俺の顔を覗きこみそう言ってにっこり笑った―――
かと思ったら、突然俺の唇にチュッとキスをした。
「っ!!、お、お前なぁ!」
「目、覚めた?」
いたずらっ子のような無邪気な笑顔。
ドキッとする、あの笑顔だ。
「史弥、たこ焼き食べよー!」
そう言って俺の腕を引っ張る朱里。
「ええ?たこ焼きって・・・・お前、本当にプレート買ったの?」
「うん!さっきお店行って、ケイに買ってもらった。材料も買ってきたから食べようよ」
「マジか・・・・」
「てか、史弥いつまで寝てんの?もうお昼過ぎてるよ?」
「・・・・昨日、明け方まで仕事してたから」
変な時間に寝てしまって、真夜中に目が覚めて・・・・
今度は眠れなくなってしまったので仕事を始めたら、気付いた時にはもう外が明るくなってきていた。
「ふーん。時間も忘れるくらい夢中になっちゃったんだ?」
「まぁ・・・・・そうかな」
夢を見たんだ。
海の見える公園で、朱里と並んで海を見てた。
朱里はずっと海を見つめてて。
俺はそんな朱里をずっと見つめてた。
笑みを浮かべてる朱里の横顔は息を呑むほどきれいで。
あんまりきれいで、俺は海なんて少しも見ずに朱里のことだけをずっと見つめ続けてた。
そこで目が覚めて・・・・
夢で見た朱里の横顔が描きたくて。
忘れたくなくて。
それを描き終えるまで、周りが何も見えなくなっていたんだ。
そんな感覚は、本当に久しぶりだった。
ただただ絵が好きで、毎日絵を描くことに明け暮れていた遠い日々に戻ったような錯覚。
そして、描き終えた途端、俺はまた睡魔に襲われ眠りに落ちたのだった・・・・・。
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