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偽りの関係

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何となく、志賀ちゃんの様子が変だった。

朱里が作ってくれた麻婆豆腐を食べながら、ちらちらと朱里の顔を見ている。

その目が、いつもよりも熱っぽいというか・・・

「志賀ちゃん、おいしい?おかわりする?」

見ると、志賀ちゃんのお茶碗が空っぽになっていた。
志賀ちゃんも気づいてなかったのか、朱里に言われてはっとしている。

「あ―――う、うん、お願い。これ、めっちゃうまいね」

ぎこちなく笑いながらお茶碗を差し出す志賀ちゃん。

「ふふ、ありがと」

朱里も嬉しそうに笑う。
何だろう・・・・この雰囲気は。




夕食を食べ終わり後片付けが終わると、リビングでテレビを見ていた俺と志賀ちゃんに朱里がコーヒーを入れて持ってきてくれた。

「どうぞ。じゃ、俺もう帰るね」
「え、もう?一緒にコーヒー飲まないのか?」

いつもは食後に一緒にコーヒーを飲みながら一緒にテレビを観て、雑談をしてから帰るのだ。

「ん。今日はこれからうちでケイの分のごはん準備するから」

サクは、今日はまた光輝くんの手伝いがあるとかで今日は来ていなかった。

「これから?食べてきたりしないのか?」
「俺が作ったものが食べたいって言うから。うちのこおきくん、人使い荒いからね、きっと疲れて帰ってくる」

そう言いながら、おかしそうに笑う朱里。
何となく、もやもやしてしまう。
サクも家族同様で、朱里が光輝くんのことが大好きなことだって知ってるけど。
それでもやっぱり面白くなかった。

「じゃあ、また明日ね」
「あ・・・下まで送ってくよ」

俺が立ち上がると、朱里が不思議そうに首を傾げた。

「隣なのに?」
「そうだけど・・・・」
「ふふ、まあいいけど。じゃ、志賀ちゃん、またね」
「あ、うん、また明日・・・」

そう言って手を振る志賀ちゃんは、やっぱりどこかいつもと違うように見えた。



「もうここでいいよ。史弥、パジャマみたいなかっこだし」

エレベーターを降りると、エントランスから出る前に朱里が立ち止まってそう言った。
確かに、俺は上下よれよれのスウェットで、外に出られるような恰好ではなかったけれど・・・

「・・・朱里、今日志賀ちゃんと何かあった?」
「志賀ちゃんと?別に何も。なんで?」
「いや、なんとなく・・・夕飯の時、志賀ちゃんがきょどってるみたいに見えたから」
「そおかな。なんでだろうね」
「・・・・まあ、いいけどさ。明日も朝からくる?」
「うん、もちろん」
「わかった」
「じゃあね、お休み」

そう言って手を振って歩いていこうとする朱里の手を、俺はとっさに掴んでいた。

「朱里!」

朱里が、きょとんとして俺を見る。

「どうしたの?史弥」

自分でもよくわからなかった。
ただ、無性に朱里に触れたくなったんだ。
朱里に―――

そのまま朱里の手をグイっと引き寄せもう片方の手を朱里の首に回すと、そのままの勢いで口づけた。

朱里の目が一瞬驚きに見開かれたけれど、すぐに俺の首に両手を回すと俺の口付けに応えてくれた・・・。

やわらかい朱里の唇を何度も求め・・・
そろそろ朱里の体から力が抜けていきそうになった時―――

「何してんの?こんなとこで」

めちゃくちゃ冷たい声に、はっとして俺たちは離れた。

マンションのエントランスに腕を組んで立っていたのは、いつにもまして不機嫌そうなサクと―――

「こおきくん!?」

朱里が驚いて、大きなその目をさらに見開いた。

サクの後ろに立っていたのは、サクよりもさらに不機嫌に顔を歪め俺を睨みつける、恐ろしく冷たい目をした端正な顔立ちの男だった・・・・。





「え!光輝くんて朱里ちゃんのお兄さんの?」
「うん、そう」
「うわあ、俺も見たかったなあ。どんな人だった?」
「めちゃくちゃかっこよくて・・・・めちゃくちゃ怖かった」

俺の言葉に、志賀ちゃんはきょとんとして目を瞬かせた。

「え、怖かったの?確か、朱里ちゃんはすごい優しいって言ってなかった?」
「いや・・・ちゃんと話したわけじゃないからよくわかんねえけど。でも俺を見る目はめっちゃ怖かったよ」
「ふーん・・・。それって、ふみちゃんが光輝くんを怒らせるようなことを何かしてたとか?」
「え」

志賀ちゃんが、じっと俺を見ていた。
何かを探っているような視線・・・

「ふみちゃん、朱里ちゃんを下に送って行ったんだよね?それだけで光輝くん怒る?」
「え、いや・・・」
「もしかして、お別れのちゅーでもしてた?」
「!」
「ふみちゃん!」

つい顔に出てしまったようだ。
志賀ちゃんが珍しく怒ったように大きな声を出した。

「何してんのさ!あんなとこで!」
「だって!志賀ちゃんが!」
「は!?俺のせい!?」
「そうじゃないけどさ、今日ちょっと変だったじゃん!」
「変って、何が?」
「夕飯の時、ちらちら朱里のこと見てたじゃん」

俺の言葉に、志賀ちゃんが狼狽えた。

―――やっぱり。

「・・・・3時ごろ、朱里がプリンとコーヒー持って志賀ちゃんの部屋に行ったでしょ?その時に何かあったのかと思って朱里に聞いたんだよ。朱里は何もないって言ってたけど、なんか気になっちゃって・・・・。んで、気が付いたらちゅーしてた」
「・・・嫉妬したってこと?」
「まあ、そうかな。で、実際何かあったの?」

志賀ちゃんがちょっと気まずそうに俺を見る。
志賀ちゃんはすごく正直だ。
こういう時にも嘘がつけない。

「何もないよ。ただ・・・」
「ただ?」
「朱里ちゃんに、聞いたんだよ。ふみちゃんのこと好きなの?って」
「え・・・」
「ふみちゃんの気持ちはわかってるけどさ、朱里ちゃんはどう思ってるのかと思って」
「それで・・・」
「朱里ちゃんもふみちゃんのこと好きって言ってた。で、それはいいけどじゃあサクとの関係は?って」
「え、聞いたの?」
「うん、だって気になったから」
「で・・・・?」
「サクは・・・・家族で、兄弟みたいなもんだって」
「そ、そっか」

ほっと胸をなでおろす。

「ごめん、そういうの聞いた後だからちょっと意識しちゃって、朱里ちゃんのこと見ちゃってた。特に意味はないんだ」
「そっか。ならいいけど」
「で、さっきはサクも光輝くんと一緒にいたんでしょ?何か言ってなかったの?」
「うん。相変わらず冷めた目で俺のこと見てたけど―――」
「怒ってた?」
「怒ってたって言うか・・・。なんか光輝くんの顔色伺ってるみたいな感じだったな」
「え、そうなの?」
「うん。3人でここを出て行くときも、一瞬振り返って俺のこと見たんだけど―――怒ってる感じじゃなくて、どっちかって言うと同情してるみたいな目?してた」

そう。
あの時のサクの目は、明らかに俺に同情してる感じだった。

―――あ~あ、やっちゃいましたね。ご愁傷様

そんな声が、聞こえたような気がしたんだ・・・・。




「ケイ、お前はもう自分の部屋に行け」
「え・・・」
「朱里に話がある」
「・・・わかりました」

俺の言葉に、ケイは渋々頷くと部屋を出て行った。

ここは朱里の部屋。

朱里はきまり悪そうにベッドに座っている。

「―――こおきくん、怒ってるの?」

朱里が上目遣いに俺を見た。

「・・・怒ってはない。怒ってはないけど・・・ちょっとやり過ぎなんじゃないかと思ってる」
「やり過ぎ?」
「お前、あの垣田と・・・・」

俺はそこまで言って唇をかんだ。
口にするのも嫌だった。

人間を不幸にしろと言ったのは俺だ。
そのためにはどんな方法を使ってもいいと。

だけど。
朱里が、他の男に抱かれたと思うだけで、全身が震えるほどの怒りがこみあげてくる。
朱里は弟だけれど、俺にとっての朱里はそれだけの存在じゃなかった。

「・・・・ケイに聞いたんだ?」
「ああ」
「そっか」

そう言って、朱里はごろんとベッドに寝転がった。
その、なんともあっけらかんとした言い方に俺はさらに腹が立った。

「お前・・・・自分がやってることわかってるのか?」
「わかってるよ。人間を―――史弥を、不幸にすればいいんでしょ?ちゃんとやるよ」

朱里は俺と目を合わせることなく、そう吐き捨てるように言った。

「朱里・・・・」
「できるよ。俺だって、悪魔だもん。そのくらい、できる」

その言い方に、俺はさっきまでの怒りとは違う、何か違和感のようなものを感じた。

「朱里・・・・?お前・・・・垣田のこと・・・」

そこまで言いかけたとき。
不意に朱里が起き上がり、傍らに立っていた俺の首に腕を回すと唇を合わせてきた。

「!!」
「・・・・こおきくん・・・・好きだよ」

熱っぽい瞳が、俺を見つめる。

朱里の目には、抗えない。

ずっと昔から・・・・


俺は朱里の体をベッドに横たえると、その上に覆いかぶさり唇を重ねた。

「朱里・・・・」
「こおき・・・・くん・・・・っ、ぁ・・・・・っ」

キスの合間に漏れる朱里の声に、俺の中が熱くなる。

朱里の白い肌が熱を帯び、薄桃色に染まる。

滑らかな肌に手を這わせると、ピクリと震える。

その感度の良さに、さらに俺は溺れていくんだ・・・・。



いつからこうして朱里を抱くようになったのか。

『朱里はお前の弟だ』

父親にそう紹介された日から、俺はずっと朱里が好きだった。

兄弟として、じゃない。

だって、俺は知っていたから。

朱里が、本当の弟じゃないことを―――
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