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3巻
3-1
第一章 新しい家族
バイト帰りに電車に轢かれ、なぜか異世界に転生してしまった僕……アレクサンダー。
前世では母親に捨てられ、一人ぼっちで人生を終えた僕だけど、今世ではたくさんの人たちに囲まれて楽しく暮らしている。
妹分のエリザベス――リズや、ハイスライムのスラちゃん。保護者になってくれた、リズの祖母であるティナおばあ様に、僕とリズを見守ってくれる、ホーエンハイム辺境伯家の皆さん。
その他、たくさんの人の力を借りたことで、僕の実家を乗っ取った意地悪な叔父、バイザー伯爵との因縁は無事に解決。
僕とリズは、実の両親に育児放棄されていたいとこのミカエルを保護した。僕たちはまだ赤ちゃんのミカエルと一緒に暮らしているんだ。すくすくと成長していく彼は日に日にできることが増えていて、見ていて飽きない。
冒険者として活動している僕とリズ。魔法の腕前は大人にだって負けない。友達……ここ、ブンデスランド王国の王女様であるエレノアの誕生日パーティーを邪魔しに来た、闇ギルドだって追い払えちゃうくらい強いんだ。
僕たちの活躍ぶりはどんどん広まっているようで、こないだなんてお隣のアダント帝国から、なんと皇女様の誕生日パーティーに招待されてしまった。僕もリズも、もちろんビックリした。
道中でいろいろなトラブルに見舞われながらも、僕たちはなんとか帝国の皇城へ。
お城に着くと、食事に毒を盛られたランベルト皇帝が倒れてしまっていた。僕とリズ、スラちゃんは力を合わせ【合体回復魔法】で治療してあげた。
そうそう、帝国ではランベルト皇帝の娘――僕たちが参加するパーティーの主役、リルムと出会ったんだ。
はじめは人見知りしていた彼女だけれど、スラちゃんとの交流をきっかけに心を開いてくれた。僕はもちろん、同じ女の子のリズ、そしてエレノアとはとっても仲良しになったんだ。
そんなリルムの誕生日パーティーでは大事件が起きた。
権力を欲した帝国の貴族、ジャンク公爵がたくさんのオークを連れて現れたんだ。しかも、彼はパーティー会場の周りにバリアを張り、僕たち参加者を閉じ込めてきた。
ただ、ここでは【身体強化】でリズとスラちゃんが大活躍! たくさんいたオークは、あっという間においしいお肉に変わっちゃった。
途中で闇ギルドがやってきて驚いたけど、なんとかジャンク公爵をやっつけたんだ。
帝国から帰る時、リズとエレノアはリルムと別れるのが悲しくて大泣き。僕も寂しかったけれど、僕は行ったことがある場所に転移できる扉、【ゲート】を作る魔法が使える。
「また会おう」と約束して、帝国を発った。
王国に帰ってきた数日後、延び延びになっていたリズの誕生日パーティーが開かれた。
僕とリズは「これからもずっと一緒にいよう」と約束し、お互いにぎゅっと抱きしめ合ったよ。
やきもちを妬いたスラちゃんとエレノアもくっついてきて、嬉しかったなぁ。
これからも、こんな平和な日が続けばいい。僕はそう願ったんだ。
◆ ◇ ◆
十二月に入り、年末が近づいてきた。比較的温暖なホーエンハイム辺境伯領では雪こそ降らないけれど、朝晩は冷え込む日が続いている。
最近は冒険者として依頼に出かける時、ティナおばあ様からいただいた冬服を着ていた。
それは今日も同じ。僕とリズはいつもの冒険者の装いに加え、もらった上着を羽織っている。
「リズちゃん、フードがついていてとても可愛いケープね」
「うん。寒くなるからって、おばあちゃんがくれたの! リズの誕生日プレゼントなんだよ」
「あらー、それはいいわね」
薬草採取で一緒になることが多いドーラおばちゃんは、リズの格好が可愛いと褒めてくれた。
ちなみに、最近のスラちゃんは、リズが着ているケープのフードによく入っている。フードの中が温かいみたいで、薬草を採取する森に着くまではいつもぐっすりと寝ているんだよね。
今日の薬草採取には、新人の冒険者達が同行している。若いお姉さんたちの三人組で、剣士と魔法使い、シーフという組み合わせ。冒険者を志し、故郷の田舎を出て遠路遥々ホーエンハイム辺境伯領にやってきたという。
初心者講習を受けたばっかりだそうで、お姉さんたちにとってはこれが初めての冒険者活動だ。
「アレク君とリズちゃん、まだ小さいのにもうFランクになったんだ」
「そうだよ。リズ、お兄ちゃんと一緒に薬草をいっぱい採ったんだ!」
「凄いね! ギルドの受付の人から、二人は薬草採取の名人だって聞いたよ」
森に向かう道中、リズはお姉さんたちといろいろ話をしていた。剣士のお姉さん曰く、僕とリズが受けた依頼に同行すれば、確実に薬草が手に入ると言われたらしい。
うん、前にもこんなことがあったな。僕は【探索】の魔法で、リズは野生の勘で薬草が生えている場所を見つけるので、一緒になった冒険者たちにも分けられるくらい薬草が採れるのだ。
薬草採取の名人を目指しているリズは、お姉さんたちに褒められてご機嫌になっている。
楽しくお喋りしつつ、あっという間にいつもの森に到着。
「「「「「グルルル……」」」」」
森に入ってすぐ、五頭ものフォレストウルフが現れた。寒くなってきて食料となる獲物が減ってきたからか、普段よりも気が荒くなっているみたいだ。
僕、リズ、そして飛び起きたスラちゃんは愛用の剣を手に取り、ドーラおばちゃんも自前のごついメイスを構える。新米の冒険者たちを囲むように守り、フォレストウルフを迎撃する準備は万全。
戦闘に慣れている僕たちと違って、お姉さんたちはいきなり魔物が出現したのであたふたしてしまっていて、戦えそうにないのだ。
ここは僕たちが頑張らないと。
「とー!」
リズとスラちゃんがフォレストウルフに先制攻撃を仕掛けた。
「どっせーい!」
メイスを振るうドーラおばちゃん。彼女はとても強いので、僕も安心して背中を任せられる。
【身体強化】で身体能力を向上させての戦闘は、ものの数分で終わった。
やっと武器を構えたお姉さんたちが、僕とリズを見てポカーンとしている。
「ほらほら、森に入ったらいつ魔物が出てくるか分からないよ。すぐに動けるように準備しておくのは、冒険者の基本だ。ボーッとしていないで、ウルフの血抜きをするからこっちに来な!」
「「「はっ、はい!」」」
ドーラおばちゃんの勢いに圧倒されながらも、お姉さんたちが恐る恐る作業を手伝う。何事も経験が大切だ。
ちなみに、僕とリズが倒した分はスラちゃんが自分の分と合わせてササッと血抜きしてくれた。
フォレストウルフの処理が終わったら、その後は予定通り薬草採取だ。
リズは先生役になって、お姉さんたちに薬草の採り方をあれこれと教える。
「薬草は根っこを残して葉っぱを切るの。それで、葉っぱが十枚採れたら一まとめにするんだよ」
「うーん、こんな感じかな? ……簡単だと思っていたけど、薬草採取って結構大変なのね」
お姉さんたちは初めてなので悪戦苦闘している。リズが採った薬草をサンプルにしながら、なんとか植物を見分けているみたいだ。
僕もリズのそばで薬草採取を行う。周囲を監視するスラちゃんを見て、リズが耳打ちしてくる。
「見て見て、お兄ちゃん。今日もスラちゃんのところに他のスライムが集まってるよ。大きいのとか小さいのとか、いーっぱいいる!」
「そうだね。スラちゃん、とっても人気者だ」
薬草採取中は僕とスラちゃんで交代しながらあたりを警戒する。でも、スラちゃんが担当している時だけ、よく野生のスライムが集まってくるのだ。
スライムたちはこちらにちょっかいを出しはせず、スラちゃんと何やら話している様子。
希少なハイスライムであるスラちゃんと違って、一般的なスライムはかなり弱い。討伐対象ではないので放置しているけど……お姉さんたちはスライムがうようよいる光景にビックリしていた。
「お兄ちゃん、いっぱい薬草が採れたよ!」
いつもよりも時間はかかったけど、無事に薬草採取を終える。
スラちゃんは他のスライムにばいばいと触手を振ると、リズのケープのフードにピョンッと飛び込んだ。
ひょっこりとフードから顔を覗かせるスラちゃん。なんだかとっても可愛い。
「お姉さんはたくさん採れた?」
「初めてだったけど、リズちゃんのおかげでしっかり採れたわ。魔物が出てきた時は緊張したけどね」
リズは自分がお姉さんたちにやり方を教えたため、薬草の採れ具合が気になっていたみたいだ。当のお姉さんたちはフォレストウルフと出会った時の緊張感が抜けず、疲れているようだけど……背負いかごにはしっかりと薬草が入っている。
僕たちは後始末をし、冒険者ギルドに戻った。
ギルドに着き、採取した薬草を売却する。
すると、後ろにいたリズがなぜか僕のケープのフードを引っ張った。一体どうしたんだろう?
「……あっ、やっぱり! お兄ちゃんのフードの中に小さなスライムがいる! 黄色っぽい子だ」
「えっ? ……本当だ。いつの間に?」
ケープを脱いでフードを覗く。リズの言う通り、そこにはちっちゃなスライムがいた。
これまでも、薬草を採っている時に野生のスライムが寄ってくることはあった。中には僕たちに興味を持って、体によじ登ってくる子もいた。特に害はないので、基本的にはそのままにしていたけど、いつも森を出るタイミングで元の場所に戻している。
今回フードに入っていたのは特に小さい個体だったから、僕も全然気がつかなかった。
うーん……大きさは、スラちゃんの半分以下ってところかな。
「よいしょっと。わあ、軽ーい!」
リズがフードから小さなスライムを取り出し、手に乗せる。眠っていたらしいそのスライムは、一瞬だけ僕を見上げ、すぐに目をつむってしまった。
ツンツン、ツンツン。
スラちゃんがリズの腕に飛び移り、スライムを突っついた。
「うーん……この子、全然起きない……」
スライムが眠ってしまって、リズは残念そうだ。
小さいスライムを【鑑定】すると、なんとスラちゃんと同じ《ハイスライム》だと判明した。
「せっかくだし、これからも一緒に来る?」と聞きたいところだけど、スライムはぐっすりと寝ていて意思を確認できない。ひとまず、従魔登録は行わないでおこう。
「お兄ちゃん、フードの中にこの子を戻してもいーい?」
「リズのフードにはスラちゃんが入るもんね。いいよ、僕のフードの中に入れて」
「分かったー!」
こうして、僕のフード……今度はいつも着ている冒険者の服のフードに、スライムは戻された。
なんだかいろいろあってお腹が空いたな。僕とリズはドーラおばちゃんと別れ、お姉さんたちと一緒に冒険者ギルドに併設されている食堂に向かう。
テーブルの一つで、Aランク冒険者のジンさんとレイナさんが昼食を食べていた。見知った彼らの席に、僕たちも同席させてもらうことになった。
ジンさんたちと同じステーキ定食を注文し、運ばれてきたそれをもぐもぐと食べながら薬草採取のことを話す。
「――それで、アレクまでフードの中にスライムを入れてるわけか」
「このままアレク君の従魔にするの? スラちゃんみたいに強いのかしら。楽しみね」
一緒の席に着いた新米冒険者のお姉さん三人は、ジンさんとレイナさんがAランク冒険者だと知って目を丸くした。そんな彼女たちに、ジンさんが水を向ける。
「初めての依頼を達成してどうだった?」
「薬草採取がこんなに大変だとは思いませんでした。常に周囲に気を配る必要があるなんて……体力的にも精神的にも疲れました」
「ははは、そりゃそうだ。薬草採取は森の中でこなす依頼だからな。魔物は普通に出てくるし、戦う備えをしないといけないぞ」
初めて依頼をこなした魔法使いのお姉さんが苦労を語ると、ジンさんは笑いながらも的確なアドバイスを送った。さすが先輩冒険者だ。
だいぶ薬草採取に慣れた僕とリズだけど、それでも森に入る際は常にあたりを警戒している。お姉さんたちも経験を積めば、すぐに習慣になるはずだ。
「ホーエンハイム辺境伯領だと、薬草採取は割がいい仕事だ。魔物の討伐依頼も豊富だし、一週間に一、二回薬草を採って、合間に別の依頼をこなせばすぐに冒険者ランクが上がるだろう」
「最初からなんでもこなすことはできないわ。自分の力量や適性をよく考えて、身の丈にあった依頼を受けるのよ。とっても強いアレク君とリズちゃんでさえ、まだ自分たちが幼いことを自覚して、受ける依頼の量を抑えているんだから」
ジンさんとレイナさんの話に、食事の手を止めて真剣に聞き入るお姉さんたち。
僕とリズは薬草採取と回復魔法での治療以外の依頼は受けないように言われている。
報酬がいい依頼はリスクも高い。お姉さんたちは、冒険者という仕事の大変さを学んだみたいだ。
もぞもぞ、ピョーン。
と、ここで小さなスライムが目を覚まして、僕のフードの中からテーブルの上に飛び移った。目をぱちぱちさせて、周囲を見回している。
ステーキ、食べるかな? 僕は自分の定食から一切れのお肉をフォークで刺した。
そっとフォークを近づけると、スライムはもぞもぞ動いて食べ始めた。
「「「「うわー、すっごく可愛い!」」」」
レイナさんをはじめとする大人の女性陣が、小さなスライムが食事する姿に心奪われている。
スラちゃんは基本的に、自分より大きな魔物でさえあっという間に食べてしまう豪快な食事スタイルだ。この黄色いスライムのような食べ方は珍しい。
お肉を食べ終えた小さなスライムは、僕とリズのことをじっと見上げた。ジェスチャーを交えて何か伝えてくるのを見て、リズが言う。
「この子、お兄ちゃんとリズの魔力が気に入ったんだって」
「そうなの? なんだか出会った時のスラちゃんみたいだね」
勘が鋭いリズは、このスライムが話していることもなぜか分かるようだ。
「えーっと……黄色いからプリンちゃん! どお?」
小さなスライムは、リズが付けた名前をふるふると震えて喜んだ。
かくして、プリンと名付けられたスライムは僕たちと一緒に来ることになった。あとで、ギルドの受付で従魔登録してあげないと。
ピョーン。
話が落ち着くと、プリンはテーブルから僕の服のフードに飛び込んだ。そうしてまたすやすやと寝息を立て始める。
「プリンちゃんは、アレク君のフードが気に入ったようね」
レイナさんが中を覗き込んでいるけど、プリンは当分起きなそうだ。
それを見て対抗心が芽生えたようで、リズが自分のフードの中にいるスラちゃんを猛アピールする。
「えっとね、スラちゃんもリズのフードに入るんだよ! スライムってフードが好きなのかな?」
「さすがにそれは分からないな。まあ、スラちゃんもプリンも二人の魔力に惹かれたんだろ? なるべくそばにいて、魔力を感じていたいんじゃないか?」
ジンさんの仮説に、スラちゃんが触手で丸を作った。つまりはそういうことらしい。
魔力に惹かれたハイスライムが近寄ってくる事例は、何件か報告されているそうだ。だから、僕とリズの近くにいたいのか。
食事を終えて受付に寄ったけれど、プリンは一向に起きない。従魔登録は従魔が寝ていてもできるとのことで、プリンの登録は滞りなく終わった。
僕とリズはギルドを出て、手を繋いで歩きながらホーエンハイム辺境伯家の屋敷に戻った。
屋敷の玄関では、領主のヘンリー様の娘で双子のエマさんとオリビアさんが出迎えてくれた。
二人とも、すぐにフードの中ですやすやと眠っているプリンに気がつく。
「珍しい色のスライムだね。黄色いスライムは初めて見たかも」
「とても小さいし、もしかしたらスライムの赤ちゃんかもしれませんね」
起こさないように注意しつつ、エマさんとオリビアさんがプヨプヨとプリンを突っついている。スライムと言えばスラちゃんのようなブルーが定番なので、黄色い子はとても珍しい。
ちなみに、スラちゃんはいつの間にかリズの服のフードの中で寝ていた。
「ふわあ」
「あっ、あくびしてる。リズちゃんも眠そうだね」
「アレク君、リズちゃん。着替えてお昼寝をしたらどうですか?」
「「はーい」」
ちょうど僕たちのお昼寝タイムが近い。エマさんとオリビアさんに手を振って部屋に戻った。
着替えつつ、スラちゃんとプリンは枕元に寝かせておく。
そして僕とリズはもぞもぞとベッドに潜り込み、お昼寝するのだった。
◆ ◇ ◆
今日は王城で勉強をする日。王族の血を引く僕とリズは、週に一回、登城して顔を見せると約束していた。
国王の叔母である、ティナおばあ様の部屋に【ゲート】を繋ぐ。
迎えてくれたティナおばあ様は、僕の肩にちょこんと乗っているプリンの存在に気づいた。
「あら、小さくて可愛いスライムね」
「プリンちゃんってお名前なの。この前の薬草採取で、リズとお兄ちゃんの家族になったんだよ」
僕の肩の上なのにプリンは熟睡している。落っこちないか心配だ。
たまにリズの頭の上で寝ているスラちゃんは落ちたことがないので、この子も平気だと信じたい。
プリンを肩に乗せたまま勉強部屋に向かうと、やはり王家のみんなも気がついた。
「うわあ、すっごく小さい! アレク、この子どうしたんだ?」
「黄色いスライムなんて初めて見たわ」
「すやすやなの」
ルーカスお兄様、ルーシーお姉様、そしてエレノアが口々に言う。みんな、プリンを指でツンツンと突っつくけど、当のプリンはちっとも起きる気配がない。
勉強を教えてくれる国立アカデミーの先生も、プリンを興味深そうに見つめた。
「ほお、これはスライムの幼体ですな。スライムの幼体は物陰や落ち葉の下にいることが多くて、なかなか見つけられないのですよ」
「え? 先生、プリンは僕のフードの中に入り込んでいましたよ?」
「きっとアレクサンダー様が膨大な魔力をお持ちだと分かり、自ら身を寄せたのでしょう。もう少し栄養を蓄えれば、この個体も起きていられるようになるはずです」
先生ってスライムについても詳しいんだ。新しいことを覚えられて、僕はとても満足だ。
とはいえ、このままプリンを肩に乗せていては勉強の邪魔になる。僕は勉強をする机にハンカチを敷き、その上にプリンを移動させた。
さて、ルーカスお兄様と一緒に勉強を始めよう。
今回は、ブンデスランド王国の冬について学ぶ。
「ホーエンハイム辺境伯領は王国の中でも比較的暖かい地域です。ただ、そろそろ王都には雪が降ってきますね。寒さ対策として火鉢や薪ストーブを使っている家が多く、この時期は火事が多発します」
「うーん、火事にならない、いい方法があればいいですね。確か、地域によっては床暖房の仕組みがあるって聞きました」
「ええ。アレクサンダー様のおっしゃる通り、床暖房は北にある厳冬の地域で見られます。しかし、家の設備を大改修する必要があるので、王都ではあまり普及しておりません。安価で安全な暖房用の魔導具が研究されておりますが、完成はもう少し先になるでしょう」
ホーエンハイム辺境伯領は底冷えしないので、朝晩に薪ストーブを焚くだけで大丈夫。
ただ、周囲を山に囲まれた盆地に位置する王都はより寒くなる。石造りで広い王城は、もしかしたら大きな冷蔵庫みたいに冷え切ってしまうのかも。
僕もルーカスお兄様も寒いのは苦手なので、思わず身震いする。
「この城にも暖房用の魔導具はありますが……各部屋に設置するとなると、数がとても多くなりますね」
「便利な品が発明されても、それを使うための維持費がかかりますからな」
ルーカスお兄様の言葉に、先生が残念そうに答えた。
エアコンみたいに、冷暖房を兼用できる魔導具があればいいんだけど……残念ながら、こっちの世界にはまだない。前世の日本のような快適な生活をするためには、まだまだいろいろな努力が必要そうだ。
その後も国立アカデミーの先生の話を聞き、今回の勉強は無事に終了。プリンはずっと机の上で寝たまんまだった。
当分は寝てばっかりなのかな。僕はプリンを指で突きながら、そんなことを思う。
「「「ふしゅー……」」」
僕とルーカスお兄様が別の勉強をしていたリズ、エレノア、ルーシーお姉様のほうを見ると、全員が机の上で伸びていた。机の上にいるスラちゃんだけ、なぜかドヤ顔だ。
何があったんだろう?
その理由は、リズたちの面倒を見ていた、ルーカスお兄様とルーシーお姉様のお母さん――ビクトリア様が教えてくれた。
「書き取りテストをしたら、スラちゃんが一番成績がよかったのよ」
「「「悔しい!」」」
リズたちが声を揃えて叫ぶ。
あ、そういうことね。さすが、スラちゃん。とっても頭がいい。
リズたち三人は「スラちゃんには負けない」と豪語しておきながら、赤点回避がやっとだったみたい。そして追加の補習が決まった、と。
うん、こればっかりはドンマイとしか言いようがない。
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