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4巻
4-2
◆ ◇ ◆
翌朝。ティナおばあ様も例の見守り隊について話を聞きたいとのことで、【ゲート】を繋いで王城からこっちに来てもらった。
残念ながら、エレノアやルーカスお兄様たちは王城でお勉強だという。ティナおばあ様についていきたい、とかなり駄々をこねていたそうだ。
早速、ハンナお姉さんとマヤお姉さんに見守り隊のことを聞いてみた。
「『アレク君とリズちゃんの見守り隊』って何をしている組織なのですか?」
「活動内容はなんてことはないですよ。アレク様たちに関して探りを入れてくる不審人物を見かけたら、すぐにヘンリー様や兵士に伝えよう、というだけですから」
ハンナお姉さんが言うには、見守り隊では、僕とリズが危ない目に遭わないよう、不審者を見逃さずに通報する取り組みをしているのだとか。
「ちなみに、私やマヤを含むこの屋敷に勤めている者や、お隣のヘンリー様、ジン様のお屋敷の使用人も見守り隊のメンバーですね」
「一般市民や冒険者のほとんどが参加していますよ。それだけ、アレク様とリズ様は町の人に愛されているのです。私たちが声をかけたら、皆、積極的に取り組むと言っていましたわ」
そう言って、マヤお姉さんは微笑んだ。
ヘンリー様とジンさんの屋敷の使用人が参加してくれるのは、なんとなく理解できるけど……まさか町の人まで協力してくれているとは。
この事実には、僕とリズだけでなく、ティナおばあ様もかなりビックリした。
もともと、今日は冒険者ギルドに行って薬草採取の依頼を受ける予定だった。ジンさんたちも誘ってギルドに向かいつつ、道すがら、町の人たちの声を聞いてみよう。
「リズたちを見守るの、大変じゃない?」
まずはリズが、いつも僕たちにニコニコと挨拶してくれる商店街のおばちゃんたちに尋ねた。
「そんなの気にしなくていいんだよ、リズちゃん。こんなに小さい子を狙う悪党がいたら、それこそ、私たちの子どもが襲われる可能性だってあるんだから。このくらいして当然さ」
「そうそう。それに、アレク君とリズちゃんには、うちの領がゴブリンに襲われた時にいろいろと助けてもらったからね。不審者を見つけて通報するくらい、なんてことないわ」
なんというか、みんな、「このくらいの取り組みは、参加して当たり前」って感じの返事だ。
中には、威勢よく握り拳を作っているおばちゃんまでいたよ。
そうこうしているうちにギルドに着いたので、続いては、冒険者の面々に話を聞いてみる。
「皆さんも、見守り隊のメンバーなのですか?」
「そうだぞ、アレク。ただ、もともと冒険者には、何か不審な事案が起きたらギルドに報告する義務がある。冒険者活動のついでみたいなもんだし、何も問題はないぞ」
「そもそも、そんな馬鹿なことをするやつがここに来たら俺たちも困る。だからこの活動は、俺たちのためでもあるんだ」
冒険者たちは「まったく問題ない」と言っていて、気にする素振りがなかった。
そういえば、「何かあったら、ギルドに報告すること」って、冒険者の心得がまとめられた冊子に書いてあったっけ。
最後に話を聞くのは、防壁に常駐している守備兵の人たち。
薬草を採りに森に行く途中で、意見を伺った。
「ああ、見守り隊ですか……町の方から不審者情報をいただくことは、むしろありがたいです。先日は盗賊が街道を行く商隊を襲撃した事案がありました。騎士団としても、町や街道の巡回を強化しているところですので」
守備兵のおじさんが教えてくれた。
他の守備兵たちまで、「不審者を捕まえてやるぞ!」と、やる気満々だったのには思わず笑っちゃったけど……
確かに、見守り隊の活動は、この町にとってもメリットがあることなのかも。
「お前らはまだ小さいんだから、大人の厚意に甘えとけ。それに、小さい子どもを持っている親なら、もともと不審者情報を気にしているもんだからな」
「アレク君とリズちゃんはこの町の救世主よ。みんな、自分の子どもや孫みたいに思っているの」
ジンさんとレイナさんからも言われてしまい、僕とリズは素直に頷いた。
町の人には、いつもとてもよくしてもらっている。ここは彼らのご厚意に甘えることにしよう。
「こんな可愛い子をいじめようなんて、普通じゃ考えられないよ。ここはおばちゃんたちに任せておきな」
僕とリズの頭を撫でながら、いつも薬草採取で一緒になっているドーラおばちゃんまで、同じことを言う。
これまで大人に頼ることがあまりなかったから、少しくすぐったいな。
薬草採取を何事もなく終えて、冒険者ギルドに戻る。
「はい、これで完了です。この依頼をこなしたことにより、Eランクに上がりましたよ」
「おお、やったよ! ランクが上がったよ! わーい、わーい!」
GランクからFランクに上がった時より、少し時間がかかったけど……無事に僕とリズの冒険者ランクがEランクに昇格した。
よほど嬉しいのか、リズとスラちゃんはその場で踊っている。
僕の服のフードの中では、プリンが触手をフリフリしながら喜んでいた。
「おう。よかったな、リズ、アレク。これで初心者卒業だ」
「次からは一筋縄じゃいかなくなるわ。Dランク昇格は大変なのよ」
「でも、リズ頑張るよ!」
周りの冒険者たちは僕たちの頭を撫で撫でして、冒険者ランク昇格を祝ってくれた。
厳つい顔つきの冒険者も、僕たちのそばで破顔一笑している。
悪目立ちしないように、実績を隠してもらっているから少し時間はかかったものの、これで初心者冒険者を無事に卒業だ。
Dランクに上がるためには、とある指名依頼をこなさないといけない。次も頑張らないと。
ところが、ここで事件が起きた。
僕たちの嬉しい気持ちに水を差すように、ギルドに併設されている食堂の方から、声が聞こえてきたのだ。
「けっ、ガキの冒険者ランクが上がったくらいで何を騒いでいるんだ?」
「そうそう。はは、ここのギルドは大したことはないな」
「お子ちゃまのおままごとでちゅか? だははは!」
お酒を呑んで酔っ払っているようだ。真っ赤な顔をした三人の冒険者が、木製のジョッキを片手に下品な笑い声を上げた。
見たことのない顔だ。少なくともホーエンハイム辺境伯領で暮らしている冒険者じゃない。
周囲を見上げてみたけれど、僕たちの周りにいた他の冒険者たちも見たことがない顔みたい。悪態をつく冒険者を、みんな警戒している。
そんな中、決定的な一言を言い放った者がいた。
「あっ! この人たち、悪い人だ!」
リズは頭の上に乗せたスラちゃんと共に、怪しい三人の冒険者にビシッと指を突きつけた。
勘の鋭い妹分と、とっても賢いお供のハイスライムは、三人の本性を見抜いたみたいだ。
「なんだと、コラ。ガキがいきがるなよ?」
「お仕置きが必要だな」
「しつけは厳しくしないとな」
しかし、怪しい冒険者は小さい子どもに馬鹿にされたと思ったらしい。懐からナイフを取り出すと、酔っ払って真っ赤になっていた顔をさらに赤らめ、リズに近づこうとする。
だが、忘れてはいけない。
僕とリズの周りには、ジンさんをはじめとする、とても強い冒険者が控えていることを。
ジンさんが指をポキポキと鳴らしながら、怒り心頭といった様子で不審な冒険者に歩み寄る。
「教育的指導が必要なのはお前らの方だろうが!」
彼のあとに、他の冒険者たちも続いた。
「久々にこんな馬鹿を見たぜ。ギルド内で堂々と刃物を抜くとはな!」
「誰か、ギルドマスターかマリーを呼んでこい。こいつらの身元、調べるぞ」
バキン、ボカン、ドカン!
「「「うぎゃあ!」」」
自らの剣を抜きもせず、ジンさんたちはあっという間に怪しい三人を床に転がした。
酔っ払いが相手とはいえ、やっぱりホーエンハイム辺境伯領の冒険者はとっても強い!
その様子を見て、リズが歓声を上げる。
「おお、凄い凄い!」
かくして、怪しい冒険者たちは、あっという間に組み伏せられた。
普通なら、酔っ払った冒険者が絡んできた……で済む話だけど、事件はここから急展開を迎える。
息を切らして、冒険者ギルドで副マスターをしているマリーさんがやってきた。
「はあはあ……ギルド内で暴れた馬鹿な冒険者って、どいつなの?」
「おお。マリーさん、こいつらだよ」
ジンさんが取り押さえている冒険者を見せる。
マリーさんはすぐに冒険者たちの懐から冒険者カードを取り出し、受付の魔導具に差し込んで身元を調べ始めた。
「この冒険者カード、きちんと登録されている正規のものだけど……こいつら、冒険者ランクが最低のGランクのままだわ。登録場所は、ガイアード共和国ね」
「「「なっ!?」」」
マリーさんの一言に、この場にいる全員が驚愕の表情を浮かべた。
冒険者ランクはともかくとして、まさか共和国から入ってきた冒険者だったなんて。
どうやら僕たちの手に負える状況ではなさそうだ。マリーさんの指示で、ギルド職員が兵士を呼びに詰め所へ向かった。
すると、ティナおばあ様も僕に指示を出す。
「アレク君。【鑑定】を使って、三人を調べてくれるかしら」
実はいつでも魔法を放てるように準備をしていたのだが……勝手に動いたらまずいかなと思い、待機していた。
ティナおばあ様は僕の考えを読んで、あえて指示を出してくれたのだろう。
シュイン、ピカー。
【鑑定】を使うと魔法陣が光り、怪しい冒険者を照らした。
「あっ! この三人、職業が《盗賊》になっています!」
「「「なっ!?」」」
再び、冒険者の驚愕の声が冒険者ギルドに響いた。
僕だって、【鑑定】の結果に驚きを隠せない。
でも、ティナおばあ様、それにジンさんとレイナさんは何か閃いたような顔をしている。
「もしかして、ブッフォンとかいうやつの手下じゃないか?」
どうもジンさんは、この三人がブッフォンが送り込んだ間者ではないかと疑っているみたいだ。
やがて何人かの兵士と共に、たまたま詰め所で打ち合わせをしていたというジェイド様が、慌てた様子で冒険者ギルドにやってきた。
マリーさん、ティナおばあ様、ジンさんたちがジェイド様に事の経緯を説明する。
ジェイド様が兵士に指示を出した。
「すぐに身体検査を行うように!」
「「「はっ!」」」
「俺らも手伝うぜ」
兵と共に、冒険者、そしてスラちゃんとプリンが拘束した冒険者の身体検査を行う。
すると、とんでもないものが次から次へ出てきた。
「こいつ、毒草を持ってやがる」
「あ、通信用の魔導具まで!」
スラちゃんとプリンが三人が持っていたバッグを調べると、さらに怪しいものが見つかる。
「暗闇の中で活動するための服や、眼鏡型の暗視用魔導具ですか……」
兵士の一人が、難しい顔をした。
これだけの不審物が出てきたとあっては、三人とももはや言い逃れはできないだろう。
荷物を検めた後、不審者たちは詰め所に連行されていった。
これから、さらに厳しい取り調べが待っているはずだ。
「彼らを雇ったのがブッフォンだとして……一体何をしたかったのかしらね」
「ああ、実に気になるね。厳しく尋問しよう」
「場合によっては王国も動くわよ、ジェイド。ふふふ、私の可愛い孫に喧嘩を売ったのだから、当然よね」
あーあ……マリーさん、ジェイド様、ティナおばあ様が黒い笑みを浮かべているよ。
あの不審者三人組は、怒らせてはいけない人たちの怒りを買ってしまったようだ。
いずれにせよ、今後の動きは取り調べの結果が出てからになる。
僕とリズ、そしてティナおばあ様とジェイド様は、この出来事を報告するため、いったんヘンリー様の屋敷に向かうことになった。
ヘンリー様のお屋敷に着くと、僕たちは応接室に通された。ジェイド様は、執務室にいるという父親のもとに向かう。
応接室に残された僕たちは、ヘンリー様の奥さん――イザベラ様に事情を説明した。
イザベラ様が眉根を寄せる。
「せっかく冒険者ランクが上がって喜んでいたのに、馬鹿な冒険者に水を差されるなんてね……リズちゃんもつらかったでしょう」
「うん……」
ゴタゴタがひとまず落ち着いた今、悪党をとっちめた興奮から覚めたリズとスラちゃんは、しょんぼりしている。
その様子を見て、イザベラ様がリズを慰めた。
前回冒険者ランクが上がった時は、僕もリズも周りの冒険者にたくさんお祝いしてもらって、ごちそうを食べてウキウキで家に帰ったもんね……
そんなことを思っていると、ティナおばあ様がある提案をしてきた。
「じゃあ、今度、おばあちゃんがお祝いにおいしいものをごちそうしてあげるわ」
「えっ、本当? やったー!」
おいしいものが食べられるとあってか、リズとスラちゃんは一気に元気を取り戻した。
Fランク昇格時はまだ出会っていなかったプリンも、触手をフリフリしながら喜んでいる……このくらいのご褒美はあってもいいよね。
応接室で談笑していると、ヘンリー様とジェイド様が入ってきた。
二人とも、通信用の魔導具を持っている。
ジェイド様によると、早速行われた不審者たちの取り調べで、困った事実が上がってきたらしい。
「どうやら、やつらは斥候として送り込まれたようだ。どうも、このホーエンハイム辺境伯領の情報を得ようとしていたみたいでね。その中には、私を含む領主一家に関わりのある者や、アレク君とリズちゃんの個人情報も含まれていた」
うーん、これはあまりよくない傾向だ。
ジェイド様に続いて、ヘンリー様も口を開く。
「今回の一件について、王城に連絡したんだが……レイクランド辺境伯領でも不審者が捕縛されたらしい。そちらは、『ブッフォンに雇われた』と供述しているようでな。そこで、いろいろと手を打つことにした」
昨日の誕生日パーティーのプレゼントの件もあるし、ガイアード共和国が何か企んでいるのは間違いなさそうだ。
ブッフォンってアダント帝国での一件があったから、今は収監されているはずなんだけど……捕まっているにもかかわらず人を動かせる力があるとしたら、いよいよまずい。
ティナおばあ様の通信用魔導具にも王家から連絡があったみたいで、深いため息をついている。
「ひとまず、レイクランド辺境伯がガイアード共和国側の国境沿いの町の町長と話をすることになったんだ。向こうの町長は責任感がある人物だ。祖国の窮状を憂えているそうだから、事情を教えてくれるだろう。もちろん、こちらとしては軍の精鋭を出して警戒しながらの会談になるけどね」
ジェイド様が、どんな手を打つことになるか教えてくれた。
レイクランド辺境伯は、以前から町長と親交があるのだという。きっと、情報を貰えるはずだ。
さらにもう一つ、打つ手があるらしい。ジェイド様が再び口を開く。
「スラちゃんに指名依頼を出そう。守備兵と一緒に防壁に向かい、身分を偽ってこの領に入り込もうとする者がいないか、監視をお願いしたい。こちらも【鑑定】が使える魔法兵を待機させるが、人手は多いに越したことはないからね」
「おお! スラちゃん、頑張って!」
リズの呼びかけに「頑張る!」と言わんばかりに触手を振って応え、気合を入れている。
スラちゃんはスライム的直感で悪い人を見抜ける。その実力は折り紙付きだ。
「リズちゃんとプリンには、王城で勉強する日以外は屋敷で待機していてもらおうかな。ミカエル君もいるし、私たちで万が一に備えよう」
「うん。リズとプリンちゃんで、ミカちゃんのことを守るよ!」
さすがはヘンリー様。「スラちゃんについていきたい」とごねられないように、リズとプリンにさりげなく役目を与えている。
僕にはヘンリー様が「屋敷で大人しくしていなさい」と言っているようにしか聞こえないけど。
今夜は念のため、ティナおばあ様が僕の屋敷に泊まることになった。
リズは「大好きなおばあちゃんと一緒に寝られる!」と、とても喜んでいた。
◆ ◇ ◆
翌日。スラちゃんは迎えに来た守備兵と一緒に防壁へ行った。
僕とリズは王城で勉強する日だ。プリンを屋敷に残らせ、使用人たちを護衛してもらうことに。
オルトはミカエルのそばにピタッとくっついていて、「守るぞ!」ってやる気を見せていた。
僕とリズは、昨晩屋敷に泊まったティナおばあ様と共に【ゲート】で王城に向かった。
いつもの勉強部屋に行くと、陛下が部屋の前で僕たちの到着を待ち構えていた。
何か問題でもあるのかな? と思ったけど、難しい話ではなかった。
「レイクランド辺境伯には、昨日のうちに魔導船で領地に戻らせたのだが……今日、彼奴は共和国側の町長と会談をするのだ。アレクには、レイクランド辺境伯の送迎を頼みたい」
魔導船とは、長距離の移動に優れた空飛ぶ魔法の船のことだ。
つまり、僕が王城とレイクランド辺境伯領を【ゲート】で繋げばいいってことだよね。
またまた僕は、指名の多いタクシー運転手となりそうだ。
時間になったら陛下が声をかけてくれるそうなので、その間はいつも通り勉強をしよう。
「「「うーんと、うーんと……」」」
リズとエレノア、ルーシーお姉様といった女の子組は、相変わらず問題集を解くのに苦労している。
ルーカスお兄様と僕は、勉強をしながらいろいろな話をした。
「それにしても、大変なことになっちゃったな。まさか共和国と緊張状態になるなんて。アレクは怖くない?」
「ちょっとだけ。僕はブッフォンと会ったことがあるのでよく分かりますが、本当によくない印象なんです」
「確か、アレクはランベルト皇帝の結婚式でブッフォンと会ったんだよね。上に立つ者が悪事を働くと、それが国全体に波及してしまう……ベストール侯爵のことを思い出しちゃったよ」
ルーカスお兄様も、現在の共和国の状況をかなり憂えているようだ。
将来的にブンデスランド王国を預かる者として、隣国の窮地を気にしているのかもしれない。
世の為政者がルーカスお兄様のようにいい人ならと思うが……なかなか思い通りにはいかないものだ。
そうして頑張って勉強をしているうちに、昼食の時間となった。
「「「疲れたよ……」」」
リズたちはすっかり燃え尽きてしまった。食堂に移動したものの、グテーッとテーブルに突っ伏している。
まあ、昼食が運ばれてくればすぐに復活するだろう。
しばらくすると、こちらも午前の仕事を終えて疲れきった様子の陛下が食堂に入ってきた。
「はあ、頭が痛い問題が続くものだ……アレクよ、昼食を食べたら【ゲート】を頼む。レイクランド辺境伯たちの話が終わったそうだ」
どっかりと席に座り、陛下が僕に指示を出した。無事に話はまとまったみたいだ。
急ぎではないということなので、昼食はゆっくり食べられそうだ。
食事が運ばれてくるのを待っていると、陛下がとんでもないことを教えてくれた。
「さっきヘンリーから連絡があったが……防壁の警備をしているスラちゃんが、怪しいやつを複数名捕まえたそうだ。その中に共和国が遣わした斥候がいて、面白い供述をしているそうだぞ。なんでも、ブッフォンが闇ギルドとの繋がりを匂わせているとか……」
それって、結構重要な話じゃない?
世界各地で暗躍する悪名高い犯罪組織、闇ギルド。
斥候の供述は、ブッフォンが闇ギルドと関係している証拠になる。
このあたりの話は、レイクランド辺境伯からもありそうだ。
そう思いつつ、僕は昼食をいただく。
ちなみに、やっぱりリズたち女の子組は、食事が運ばれてきたらあっという間に復活した。
その様子に、ルーカスお兄様は苦笑いを浮かべていた。
翌朝。ティナおばあ様も例の見守り隊について話を聞きたいとのことで、【ゲート】を繋いで王城からこっちに来てもらった。
残念ながら、エレノアやルーカスお兄様たちは王城でお勉強だという。ティナおばあ様についていきたい、とかなり駄々をこねていたそうだ。
早速、ハンナお姉さんとマヤお姉さんに見守り隊のことを聞いてみた。
「『アレク君とリズちゃんの見守り隊』って何をしている組織なのですか?」
「活動内容はなんてことはないですよ。アレク様たちに関して探りを入れてくる不審人物を見かけたら、すぐにヘンリー様や兵士に伝えよう、というだけですから」
ハンナお姉さんが言うには、見守り隊では、僕とリズが危ない目に遭わないよう、不審者を見逃さずに通報する取り組みをしているのだとか。
「ちなみに、私やマヤを含むこの屋敷に勤めている者や、お隣のヘンリー様、ジン様のお屋敷の使用人も見守り隊のメンバーですね」
「一般市民や冒険者のほとんどが参加していますよ。それだけ、アレク様とリズ様は町の人に愛されているのです。私たちが声をかけたら、皆、積極的に取り組むと言っていましたわ」
そう言って、マヤお姉さんは微笑んだ。
ヘンリー様とジンさんの屋敷の使用人が参加してくれるのは、なんとなく理解できるけど……まさか町の人まで協力してくれているとは。
この事実には、僕とリズだけでなく、ティナおばあ様もかなりビックリした。
もともと、今日は冒険者ギルドに行って薬草採取の依頼を受ける予定だった。ジンさんたちも誘ってギルドに向かいつつ、道すがら、町の人たちの声を聞いてみよう。
「リズたちを見守るの、大変じゃない?」
まずはリズが、いつも僕たちにニコニコと挨拶してくれる商店街のおばちゃんたちに尋ねた。
「そんなの気にしなくていいんだよ、リズちゃん。こんなに小さい子を狙う悪党がいたら、それこそ、私たちの子どもが襲われる可能性だってあるんだから。このくらいして当然さ」
「そうそう。それに、アレク君とリズちゃんには、うちの領がゴブリンに襲われた時にいろいろと助けてもらったからね。不審者を見つけて通報するくらい、なんてことないわ」
なんというか、みんな、「このくらいの取り組みは、参加して当たり前」って感じの返事だ。
中には、威勢よく握り拳を作っているおばちゃんまでいたよ。
そうこうしているうちにギルドに着いたので、続いては、冒険者の面々に話を聞いてみる。
「皆さんも、見守り隊のメンバーなのですか?」
「そうだぞ、アレク。ただ、もともと冒険者には、何か不審な事案が起きたらギルドに報告する義務がある。冒険者活動のついでみたいなもんだし、何も問題はないぞ」
「そもそも、そんな馬鹿なことをするやつがここに来たら俺たちも困る。だからこの活動は、俺たちのためでもあるんだ」
冒険者たちは「まったく問題ない」と言っていて、気にする素振りがなかった。
そういえば、「何かあったら、ギルドに報告すること」って、冒険者の心得がまとめられた冊子に書いてあったっけ。
最後に話を聞くのは、防壁に常駐している守備兵の人たち。
薬草を採りに森に行く途中で、意見を伺った。
「ああ、見守り隊ですか……町の方から不審者情報をいただくことは、むしろありがたいです。先日は盗賊が街道を行く商隊を襲撃した事案がありました。騎士団としても、町や街道の巡回を強化しているところですので」
守備兵のおじさんが教えてくれた。
他の守備兵たちまで、「不審者を捕まえてやるぞ!」と、やる気満々だったのには思わず笑っちゃったけど……
確かに、見守り隊の活動は、この町にとってもメリットがあることなのかも。
「お前らはまだ小さいんだから、大人の厚意に甘えとけ。それに、小さい子どもを持っている親なら、もともと不審者情報を気にしているもんだからな」
「アレク君とリズちゃんはこの町の救世主よ。みんな、自分の子どもや孫みたいに思っているの」
ジンさんとレイナさんからも言われてしまい、僕とリズは素直に頷いた。
町の人には、いつもとてもよくしてもらっている。ここは彼らのご厚意に甘えることにしよう。
「こんな可愛い子をいじめようなんて、普通じゃ考えられないよ。ここはおばちゃんたちに任せておきな」
僕とリズの頭を撫でながら、いつも薬草採取で一緒になっているドーラおばちゃんまで、同じことを言う。
これまで大人に頼ることがあまりなかったから、少しくすぐったいな。
薬草採取を何事もなく終えて、冒険者ギルドに戻る。
「はい、これで完了です。この依頼をこなしたことにより、Eランクに上がりましたよ」
「おお、やったよ! ランクが上がったよ! わーい、わーい!」
GランクからFランクに上がった時より、少し時間がかかったけど……無事に僕とリズの冒険者ランクがEランクに昇格した。
よほど嬉しいのか、リズとスラちゃんはその場で踊っている。
僕の服のフードの中では、プリンが触手をフリフリしながら喜んでいた。
「おう。よかったな、リズ、アレク。これで初心者卒業だ」
「次からは一筋縄じゃいかなくなるわ。Dランク昇格は大変なのよ」
「でも、リズ頑張るよ!」
周りの冒険者たちは僕たちの頭を撫で撫でして、冒険者ランク昇格を祝ってくれた。
厳つい顔つきの冒険者も、僕たちのそばで破顔一笑している。
悪目立ちしないように、実績を隠してもらっているから少し時間はかかったものの、これで初心者冒険者を無事に卒業だ。
Dランクに上がるためには、とある指名依頼をこなさないといけない。次も頑張らないと。
ところが、ここで事件が起きた。
僕たちの嬉しい気持ちに水を差すように、ギルドに併設されている食堂の方から、声が聞こえてきたのだ。
「けっ、ガキの冒険者ランクが上がったくらいで何を騒いでいるんだ?」
「そうそう。はは、ここのギルドは大したことはないな」
「お子ちゃまのおままごとでちゅか? だははは!」
お酒を呑んで酔っ払っているようだ。真っ赤な顔をした三人の冒険者が、木製のジョッキを片手に下品な笑い声を上げた。
見たことのない顔だ。少なくともホーエンハイム辺境伯領で暮らしている冒険者じゃない。
周囲を見上げてみたけれど、僕たちの周りにいた他の冒険者たちも見たことがない顔みたい。悪態をつく冒険者を、みんな警戒している。
そんな中、決定的な一言を言い放った者がいた。
「あっ! この人たち、悪い人だ!」
リズは頭の上に乗せたスラちゃんと共に、怪しい三人の冒険者にビシッと指を突きつけた。
勘の鋭い妹分と、とっても賢いお供のハイスライムは、三人の本性を見抜いたみたいだ。
「なんだと、コラ。ガキがいきがるなよ?」
「お仕置きが必要だな」
「しつけは厳しくしないとな」
しかし、怪しい冒険者は小さい子どもに馬鹿にされたと思ったらしい。懐からナイフを取り出すと、酔っ払って真っ赤になっていた顔をさらに赤らめ、リズに近づこうとする。
だが、忘れてはいけない。
僕とリズの周りには、ジンさんをはじめとする、とても強い冒険者が控えていることを。
ジンさんが指をポキポキと鳴らしながら、怒り心頭といった様子で不審な冒険者に歩み寄る。
「教育的指導が必要なのはお前らの方だろうが!」
彼のあとに、他の冒険者たちも続いた。
「久々にこんな馬鹿を見たぜ。ギルド内で堂々と刃物を抜くとはな!」
「誰か、ギルドマスターかマリーを呼んでこい。こいつらの身元、調べるぞ」
バキン、ボカン、ドカン!
「「「うぎゃあ!」」」
自らの剣を抜きもせず、ジンさんたちはあっという間に怪しい三人を床に転がした。
酔っ払いが相手とはいえ、やっぱりホーエンハイム辺境伯領の冒険者はとっても強い!
その様子を見て、リズが歓声を上げる。
「おお、凄い凄い!」
かくして、怪しい冒険者たちは、あっという間に組み伏せられた。
普通なら、酔っ払った冒険者が絡んできた……で済む話だけど、事件はここから急展開を迎える。
息を切らして、冒険者ギルドで副マスターをしているマリーさんがやってきた。
「はあはあ……ギルド内で暴れた馬鹿な冒険者って、どいつなの?」
「おお。マリーさん、こいつらだよ」
ジンさんが取り押さえている冒険者を見せる。
マリーさんはすぐに冒険者たちの懐から冒険者カードを取り出し、受付の魔導具に差し込んで身元を調べ始めた。
「この冒険者カード、きちんと登録されている正規のものだけど……こいつら、冒険者ランクが最低のGランクのままだわ。登録場所は、ガイアード共和国ね」
「「「なっ!?」」」
マリーさんの一言に、この場にいる全員が驚愕の表情を浮かべた。
冒険者ランクはともかくとして、まさか共和国から入ってきた冒険者だったなんて。
どうやら僕たちの手に負える状況ではなさそうだ。マリーさんの指示で、ギルド職員が兵士を呼びに詰め所へ向かった。
すると、ティナおばあ様も僕に指示を出す。
「アレク君。【鑑定】を使って、三人を調べてくれるかしら」
実はいつでも魔法を放てるように準備をしていたのだが……勝手に動いたらまずいかなと思い、待機していた。
ティナおばあ様は僕の考えを読んで、あえて指示を出してくれたのだろう。
シュイン、ピカー。
【鑑定】を使うと魔法陣が光り、怪しい冒険者を照らした。
「あっ! この三人、職業が《盗賊》になっています!」
「「「なっ!?」」」
再び、冒険者の驚愕の声が冒険者ギルドに響いた。
僕だって、【鑑定】の結果に驚きを隠せない。
でも、ティナおばあ様、それにジンさんとレイナさんは何か閃いたような顔をしている。
「もしかして、ブッフォンとかいうやつの手下じゃないか?」
どうもジンさんは、この三人がブッフォンが送り込んだ間者ではないかと疑っているみたいだ。
やがて何人かの兵士と共に、たまたま詰め所で打ち合わせをしていたというジェイド様が、慌てた様子で冒険者ギルドにやってきた。
マリーさん、ティナおばあ様、ジンさんたちがジェイド様に事の経緯を説明する。
ジェイド様が兵士に指示を出した。
「すぐに身体検査を行うように!」
「「「はっ!」」」
「俺らも手伝うぜ」
兵と共に、冒険者、そしてスラちゃんとプリンが拘束した冒険者の身体検査を行う。
すると、とんでもないものが次から次へ出てきた。
「こいつ、毒草を持ってやがる」
「あ、通信用の魔導具まで!」
スラちゃんとプリンが三人が持っていたバッグを調べると、さらに怪しいものが見つかる。
「暗闇の中で活動するための服や、眼鏡型の暗視用魔導具ですか……」
兵士の一人が、難しい顔をした。
これだけの不審物が出てきたとあっては、三人とももはや言い逃れはできないだろう。
荷物を検めた後、不審者たちは詰め所に連行されていった。
これから、さらに厳しい取り調べが待っているはずだ。
「彼らを雇ったのがブッフォンだとして……一体何をしたかったのかしらね」
「ああ、実に気になるね。厳しく尋問しよう」
「場合によっては王国も動くわよ、ジェイド。ふふふ、私の可愛い孫に喧嘩を売ったのだから、当然よね」
あーあ……マリーさん、ジェイド様、ティナおばあ様が黒い笑みを浮かべているよ。
あの不審者三人組は、怒らせてはいけない人たちの怒りを買ってしまったようだ。
いずれにせよ、今後の動きは取り調べの結果が出てからになる。
僕とリズ、そしてティナおばあ様とジェイド様は、この出来事を報告するため、いったんヘンリー様の屋敷に向かうことになった。
ヘンリー様のお屋敷に着くと、僕たちは応接室に通された。ジェイド様は、執務室にいるという父親のもとに向かう。
応接室に残された僕たちは、ヘンリー様の奥さん――イザベラ様に事情を説明した。
イザベラ様が眉根を寄せる。
「せっかく冒険者ランクが上がって喜んでいたのに、馬鹿な冒険者に水を差されるなんてね……リズちゃんもつらかったでしょう」
「うん……」
ゴタゴタがひとまず落ち着いた今、悪党をとっちめた興奮から覚めたリズとスラちゃんは、しょんぼりしている。
その様子を見て、イザベラ様がリズを慰めた。
前回冒険者ランクが上がった時は、僕もリズも周りの冒険者にたくさんお祝いしてもらって、ごちそうを食べてウキウキで家に帰ったもんね……
そんなことを思っていると、ティナおばあ様がある提案をしてきた。
「じゃあ、今度、おばあちゃんがお祝いにおいしいものをごちそうしてあげるわ」
「えっ、本当? やったー!」
おいしいものが食べられるとあってか、リズとスラちゃんは一気に元気を取り戻した。
Fランク昇格時はまだ出会っていなかったプリンも、触手をフリフリしながら喜んでいる……このくらいのご褒美はあってもいいよね。
応接室で談笑していると、ヘンリー様とジェイド様が入ってきた。
二人とも、通信用の魔導具を持っている。
ジェイド様によると、早速行われた不審者たちの取り調べで、困った事実が上がってきたらしい。
「どうやら、やつらは斥候として送り込まれたようだ。どうも、このホーエンハイム辺境伯領の情報を得ようとしていたみたいでね。その中には、私を含む領主一家に関わりのある者や、アレク君とリズちゃんの個人情報も含まれていた」
うーん、これはあまりよくない傾向だ。
ジェイド様に続いて、ヘンリー様も口を開く。
「今回の一件について、王城に連絡したんだが……レイクランド辺境伯領でも不審者が捕縛されたらしい。そちらは、『ブッフォンに雇われた』と供述しているようでな。そこで、いろいろと手を打つことにした」
昨日の誕生日パーティーのプレゼントの件もあるし、ガイアード共和国が何か企んでいるのは間違いなさそうだ。
ブッフォンってアダント帝国での一件があったから、今は収監されているはずなんだけど……捕まっているにもかかわらず人を動かせる力があるとしたら、いよいよまずい。
ティナおばあ様の通信用魔導具にも王家から連絡があったみたいで、深いため息をついている。
「ひとまず、レイクランド辺境伯がガイアード共和国側の国境沿いの町の町長と話をすることになったんだ。向こうの町長は責任感がある人物だ。祖国の窮状を憂えているそうだから、事情を教えてくれるだろう。もちろん、こちらとしては軍の精鋭を出して警戒しながらの会談になるけどね」
ジェイド様が、どんな手を打つことになるか教えてくれた。
レイクランド辺境伯は、以前から町長と親交があるのだという。きっと、情報を貰えるはずだ。
さらにもう一つ、打つ手があるらしい。ジェイド様が再び口を開く。
「スラちゃんに指名依頼を出そう。守備兵と一緒に防壁に向かい、身分を偽ってこの領に入り込もうとする者がいないか、監視をお願いしたい。こちらも【鑑定】が使える魔法兵を待機させるが、人手は多いに越したことはないからね」
「おお! スラちゃん、頑張って!」
リズの呼びかけに「頑張る!」と言わんばかりに触手を振って応え、気合を入れている。
スラちゃんはスライム的直感で悪い人を見抜ける。その実力は折り紙付きだ。
「リズちゃんとプリンには、王城で勉強する日以外は屋敷で待機していてもらおうかな。ミカエル君もいるし、私たちで万が一に備えよう」
「うん。リズとプリンちゃんで、ミカちゃんのことを守るよ!」
さすがはヘンリー様。「スラちゃんについていきたい」とごねられないように、リズとプリンにさりげなく役目を与えている。
僕にはヘンリー様が「屋敷で大人しくしていなさい」と言っているようにしか聞こえないけど。
今夜は念のため、ティナおばあ様が僕の屋敷に泊まることになった。
リズは「大好きなおばあちゃんと一緒に寝られる!」と、とても喜んでいた。
◆ ◇ ◆
翌日。スラちゃんは迎えに来た守備兵と一緒に防壁へ行った。
僕とリズは王城で勉強する日だ。プリンを屋敷に残らせ、使用人たちを護衛してもらうことに。
オルトはミカエルのそばにピタッとくっついていて、「守るぞ!」ってやる気を見せていた。
僕とリズは、昨晩屋敷に泊まったティナおばあ様と共に【ゲート】で王城に向かった。
いつもの勉強部屋に行くと、陛下が部屋の前で僕たちの到着を待ち構えていた。
何か問題でもあるのかな? と思ったけど、難しい話ではなかった。
「レイクランド辺境伯には、昨日のうちに魔導船で領地に戻らせたのだが……今日、彼奴は共和国側の町長と会談をするのだ。アレクには、レイクランド辺境伯の送迎を頼みたい」
魔導船とは、長距離の移動に優れた空飛ぶ魔法の船のことだ。
つまり、僕が王城とレイクランド辺境伯領を【ゲート】で繋げばいいってことだよね。
またまた僕は、指名の多いタクシー運転手となりそうだ。
時間になったら陛下が声をかけてくれるそうなので、その間はいつも通り勉強をしよう。
「「「うーんと、うーんと……」」」
リズとエレノア、ルーシーお姉様といった女の子組は、相変わらず問題集を解くのに苦労している。
ルーカスお兄様と僕は、勉強をしながらいろいろな話をした。
「それにしても、大変なことになっちゃったな。まさか共和国と緊張状態になるなんて。アレクは怖くない?」
「ちょっとだけ。僕はブッフォンと会ったことがあるのでよく分かりますが、本当によくない印象なんです」
「確か、アレクはランベルト皇帝の結婚式でブッフォンと会ったんだよね。上に立つ者が悪事を働くと、それが国全体に波及してしまう……ベストール侯爵のことを思い出しちゃったよ」
ルーカスお兄様も、現在の共和国の状況をかなり憂えているようだ。
将来的にブンデスランド王国を預かる者として、隣国の窮地を気にしているのかもしれない。
世の為政者がルーカスお兄様のようにいい人ならと思うが……なかなか思い通りにはいかないものだ。
そうして頑張って勉強をしているうちに、昼食の時間となった。
「「「疲れたよ……」」」
リズたちはすっかり燃え尽きてしまった。食堂に移動したものの、グテーッとテーブルに突っ伏している。
まあ、昼食が運ばれてくればすぐに復活するだろう。
しばらくすると、こちらも午前の仕事を終えて疲れきった様子の陛下が食堂に入ってきた。
「はあ、頭が痛い問題が続くものだ……アレクよ、昼食を食べたら【ゲート】を頼む。レイクランド辺境伯たちの話が終わったそうだ」
どっかりと席に座り、陛下が僕に指示を出した。無事に話はまとまったみたいだ。
急ぎではないということなので、昼食はゆっくり食べられそうだ。
食事が運ばれてくるのを待っていると、陛下がとんでもないことを教えてくれた。
「さっきヘンリーから連絡があったが……防壁の警備をしているスラちゃんが、怪しいやつを複数名捕まえたそうだ。その中に共和国が遣わした斥候がいて、面白い供述をしているそうだぞ。なんでも、ブッフォンが闇ギルドとの繋がりを匂わせているとか……」
それって、結構重要な話じゃない?
世界各地で暗躍する悪名高い犯罪組織、闇ギルド。
斥候の供述は、ブッフォンが闇ギルドと関係している証拠になる。
このあたりの話は、レイクランド辺境伯からもありそうだ。
そう思いつつ、僕は昼食をいただく。
ちなみに、やっぱりリズたち女の子組は、食事が運ばれてきたらあっという間に復活した。
その様子に、ルーカスお兄様は苦笑いを浮かべていた。
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