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レベル2.女騎士と日常

4.女騎士とスマホ

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 ある日の朝。

 珍しくリファより早く起きた俺は、いつも通り顔を洗って歯を磨いていた。

「今日は郵便来てるかなぁ」

 そのさながら、いつも通り玄関のドアに設置されている郵便受けをチェックした。
 今日の投入物は一通のみ。
 一部分だけぽっこりと膨らんだ、茶色いA4の封筒。

「……ん?」

 取り出してみると、そこには郵便番号も住所も書いておらず、俺の名前だけが書いてあった。
 すなわち、誰かが直接ここに届けに来た。
 もうこの時点で察しがついた。
 前例は1回しかないのに、なぜここまで察せちゃうのか自分でも不思議なくらいである。
 顔をしかめながらその封筒を裏返し、送り主の名を確認する。

「死者処理事務局転生判定課 木村」

 ……。
 木村ぁー。
 べりべりべりべり。
 と、その封を淡々と解いていく。
 なんでだろう。1回目はあれだけ憤慨して引きちぎったというのに、なんだこのテンションの差は。
 いやー、慣れって怖いね。転生ものの主人公馬鹿にできねぇわこれ。
 以前はパスポートやら戸籍謄本やら入ってたけど、今度はなんだ……?
 封筒を逆さまにして中の物体を手の上に出してみると……。
 とすん、と直方体の白い箱が落ちてきた。 
 掌からちょっとはみ出るくらいのサイズで、重さは200グラムいかないくらいか?
 よく見ると側面に何か書いてある。目を凝らして確認してみると、それは……。

 齧りかけのりんごのロゴマークに「iPhone」の文字。

 スマホだった。
 しかも新品。つい最近発売されたばかりの機種である。
 この前の糞つまらない粗品と比べりゃ随分と豪華な贈り物である。
 どういうつもりかは知らんが、こりゃありがたい。
 今使ってるやつ、バッテリーの寿命が来てて交換しようと思ってたとこなんだ。
 もう4年も前のモデルだからなぁ……ちょうどいい、遠慮なく使わせてもらおうか。
 と思ったのもつかの間。
 少し遅れて別の何かが封筒から滑り落ちてきた。
 きれいに折りたたまれた、一通の便箋。
 俺はそれを片手で開き、中の文面を読む。

 ------―
 残暑厳しき折、ますますご清祥のこととお喜び申し上げます。
 死者処理事務局転生判定課担当 木村でございます。

 さて、転生者が現世に移住し、早2週間が経過いたしました。
 この世界での生活にも多少は慣れてきたものと思われます。
 そのため、さらなる現代社会の文化への理解を深めていただきたいということで、本局からスマートフォンを贈呈させていただきます。
 転生者が大いに有効活用できるよう、手ほどきのほど、お願い申し上げます。
 なお本機器の通信会社との契約内容は同封の資料に記載がありますので、ご確認いただきたく。

 以上、宜しくお願い致します。
 ------―

 ……。
 木村あああああああァァァァ!!!!
 俺は心中で叫び、怒りのあまりその封筒を引きちぎった。
 契約書類がドサドサと床に落ちる。
 やっぱりね! 薄々そんなもんじゃないかと思ったよ!
 なんの脈絡もなくスマホくれるってのもちょっと変だもんね!
 それに比べたらリファへの贈り物だっていう方がよほど自然だもんね! 期待するほうがおかしいってもんだよね!
 そもそも月に30万も支給してくれんだから買うなら自分で買えよって話だよね!
 だ が ム カ つ く!

「ざっけんなくそ……」

 俺は悪態をつきつつ、その箱を開けて中のぴっかぴかなスマホを取り出す。
 フィルムを剥がし、電源を入れてみる。
 リファのものだが、レクチャーしろと言われてる以上、初期設定とかはしてやったほうがいいだろう。
 IDの登録、暗証番号の登録、その他もろもろの設定を済ませ、ようやくホーム画面が表示される。
 ソシャゲのアイコンだらけの俺のやつとは違って最低限のアプリしか存在しないメニュー。 
 電話、メール、カメラ、ブラウザ、音楽……。
 最低限、とはいうものの、スマホそのものを初めて触る異世界人にとっちゃこれでもまだ「なにがなにやら」レベルだ。
 これらの機能をいちいち説明してくとなると、どれだけ時間がかかるか。
 どうせなら子ども用スマホとかあるんだからそういう系のくれりゃよかったのに、いきなりiPhoneってのは些か難易度の調整がおかしい気もするがね。
 でもまぁ、そのへんは俺の説明力に一任してるってことだろう。
 だけど、不安だなぁ……今までの現代文化は単純だったりある程度彼女がいた世界とのつながりがあったから、理解の難易度も比較的易しかった。
 が、これはまさしくこの世界にしか存在しない。まったく新しい技術が、いくつもの機能が詰まっている機器。
 こりゃ相当骨が折れそうだ。
 どうしよっかな~。
 もう少しあいつが生活熟練度上げてからのほうが……。
 でもなぁ~。今時スマホ持ってないと何かと不便だからなぁ~。実際色々と「スマホがあれば」っていうような時があったしなぁ~。
 ……。
 俺は悩みながら、意味もなく画面をフリックしたりアイコンをタッチしていた。
 と、その時である。

「……待てよ」

 とある案が俺の頭をよぎった。
 あるぞ、あいつに手軽にスマホの使い方を教えられる方法!
 なんだ、簡単なことじゃないか。これなら、テンポよく安全にスマホの使い方が学べるぞ。
 俺は舌なめずりをして、彼女がこれから使う携帯情報端末に手際よく細工を施していくのだった。

 ○

「……支給品?」

 バターを塗ったトーストを齧りながらリファは俺の言葉を復唱した。

「そ。お前もここに来てしばらく経ったからな。そろそろ持ってもいい頃かな、と」

 そう言って俺はリファに向けてiPhoneを放り投げた。
 片手でそれを難なくキャッチした彼女は、自分にとってはただの薄四角い物体にしか見えないであろうそれを凝視した。

「これが……?」

 俺は頷いて、食べ終えた皿を重ねながら説明する。

「これは、携帯電話と呼ばれるものだ」
「けーたい、でんわ……キカイの一種か?」
「まぁな。簡単に言えば、離れた相手と会話ができるんだ」
「離れた相手と……会話?」

 小首をかしげて難しい表情をするリファ。どうやらイメージが上手くまとまらないらしい。

「よくわからないが……手紙のようなものと思っていいわけか?」
「まぁ似たようなもんだけど……手紙って送り先に届くまで大なり小なり時間がかかるだろ? でも、これを使えばどんなに離れてても、リアルタイムで話すことができる」
「はぁ……」

 実感が無いのか、まだリアクションは薄い。
 試しに一回操作させてみるか。

「リファ、その下部分にある丸いボタン押してみな」
「ボタン……? あぁ、これか」

 言われるがままに親指でぐっ、と押し込むと暗かった画面が明るくなり、現在時刻と日にちが表示された待ち受けが浮かび上がった。

「っ! な、何か出てきたぞ!?」
「それが出てきたら、今のボタンをもう一回押して」
「こ、こうか」

 リファは再度ホームボタンを押下すると、ロックが解除され、ホーム画面に移行する。
 本当であればこの前に暗証番号入力ないし指紋認証が必要なのだが、それは俺が前もって設定しないでおいた。
 映し出されるきれいな星空の背景に、リファは少なからず驚いていた。

「これは……一体どうやってこんなキカイの中に星空が……」
「それは予めそういう絵みたいなのが入ってるんだよ。それは今は置いといて……」

 席を立ち、彼女の隣に座り込むと、画面を指差しながら順序立てて説明していく。

「まず、四角いのが一つ・・あるのがわかるか?」
「あ、ああ。電話、って書いてある」
「うん。で、携帯電話は基本的にこの四角いやつを指で触るだけでいい」
「さわる……だけでいいのか?」

 リファは指示されたとおりに電話のアイコンをプッシュ。
 すると画面が切り替わり、アプリが起動。最初に出てくるのは「よく使う項目」だ。

「あ、『マスター』ってあるぞ!」
「だな。でもって、これを押すと、俺と話すことができる」
「これだけでか!?」
「その通り。物は試しだし、ちょっとやってみよう」

 俺は立ち上がって、廊下へとつながるドアを開けてリビングから出ていこうとする。

「俺は一旦外に出てるから。10秒位経ったら俺の名前の部分を押すんだ。いいな」
「え? あ、うん……」

 リファが了解したのを合図に、俺は廊下を通り抜けて玄関のドアを開け、外に出た。
 そして自分の分のiPhoneを取り出して待機。
 Prrrrrrrr……。
 程なくして着信があった。
 画面には「リファ」と表示されている。
 即座に指をフリックして通話開始。

「もしもし?」
『~~~っっ!!?』

 声にならない悲鳴が通話口の向こうで聞こえたかと思うと、続けざまにガチャガチャと騒がしい音が。

「……」

 俺は通話を続けたまま、部屋の中へと戻る。
 リビングの扉をそっと開けて中の様子を覗いてみると……。 

 床に転がり落ちたスマホを前に腰を抜かしてるリファさんの図。      

「な? わかっただろ?」

 俺が通話口に向けてそう言うと、リファはさらに震え上がった。

「キカイが……キカイが、しゃべった……」
「こういう道具なんだよ、電話ってのは」

 俺はリビングに入り、彼女の落としたスマホを拾ってやる。

「今のは、マスターの声……だったよな?」
「俺の電話にかけたからな」

 そう言って俺は自分のスマホを見せると、リファは目をパチクリさせた。

「そうか……それを持っているもの同士で話すことができるというわけか」
「そゆこと。流石にワイヤードにこういうのはないから驚いたろ」
「まったくだ。クルマやバスを見た時以上に驚いたぞ……」

 大きく息を吐きながら、リファは俺からもう一度スマホを受け取った。

「今まで外出してる時、はぐれちゃったりとか、お前がフラフラとどっか行っちゃったこととかよくあったよな。そういう時のために、これは必要なわけ」
「う」

 そこでリファは苦い顔をした。
 オートレストランの時の勝手に夜間外出から始まり、買い物に行った時などのこいつの失踪率は日に日に上がっている。
 いずれ迷子センターの世話になるなんて話もしたが、いよいよ現実味を帯びてきたレベルだ。
 自宅警備隊が聞いて呆れる。最初は片時も離れずマスターを守るとか宣言してたくせに。

「今のように、何か必要があればそうやって連絡をよこせ。やり方わかったか?」
「あ、ああ。えっとこの電話の四角を押して……マスターを触る……と」
「……とにかく、この手順だけは忘れないようにしとけ。今後またお前が消えた時の手間が省ける」
「うむ、心得た。四角を押して、マスターを触る……マスターを触る……マスターを……触る……ふひ」
「おい」
「し、心配するなマスター! 少し驚いたがこれもこれで慣れれば容易いものよ!」

 ったく、このポンコツは……。
 まぁ、使い方さえ覚えてくれればいいか。

「しかしこんな素晴らしいもの……きっと高価だったのではないかマスター?」
「安くはないわな」
「……すまん、私のためにこんな……」
「いいよ。遅かれ早かれ持たせるつもりだったし。この世界じゃそれ持ってない奴のほうが少ないしな」
「そうなのか!? そんなに普及してるものなのか……驚いた」

 この世界のスマホ事情を知ったリファはしげしげと自分のそれを見つめる。

「いつでもどこでも他人と会話できる、か……そんな叶いもしないようなことをこの世界では実現してしまっているのだな」
「叶いもしないようなこと、か」

 電話そのものが発明されたのはもう100年以上も昔のことだが、よくよく考えてみりゃすごい発明だよな。
 そんなものを当たり前のように使ってるけど……どういう仕組みで動いてるかとか、どうやって作られたかなんて、気にかけたこともなかったな。

「ともかく礼を言うぞマスター。これなら外出中でも安心してマスターとはぐれられるな」
「まずはぐれない努力をしろやい」

 俺は一喝すると、今度は着信時の通話方法を簡単に教え、スマホのレクチャーはひとまず終了となった。

「こんなもんか……。じゃ俺はちょっと出かけてくるから留守番よろしく」
「留守番? どういうことだマスター。外出する時はいつも一緒と言っておったではないか。私だけ留守番なんて……」
「例のコンビニに寄るんだけど?」
「気をつけて行ってきてくれマスター」

 リファはこの近所のコンビニにトラウマがある。
 かつてそこで俺に喧嘩を売ってきたDQNどもを成敗しようと勝負を挑んだが、反対にボコボコにされたという。
 それ以降、リファはあまりあのコンビニの近辺には寄りたがらない。
 やられた直後は「次会った時はこうはいかない」とか威勢良かったのに……根性ねぇな。
 支度を済ませ、玄関前まで見送りに来たリファに留守番中の原則を教えこんでおく。

「いいか、もしかしたら来客が来るかもしれないけど絶対出るなよ。基本的に漫画読んでさえいりゃいいから」
「う、うむ」
「あとは火元にはくれぐれも注意しろよ。コンロとかには一切触れるな。わかった?」
「あいわかった。マスターの自宅は何があっても私が守ろう」

 自宅警備隊の面目躍如といったところか、リファはポンと胸を叩いた。

「ほんじゃ行ってくるわ」 

 靴に履き替え、俺は久々に一人の外出を始めるのだった。
 バタン、とドアを締めて一息。

「作戦成功だぞ、と」

 リファは完全にこれでスマホをただの電話としか認識しないだろう。
 携帯電話。今はそう呼ばれる機器は存在しないと言っていい。
 そもそも電話自体、スマホの機能の一部でしかないのだ。
 携帯情報端末という名前が指し示すとおり、これは電話ではなく小型のPCのようなもの。
 そんなもんをいきなりあんな奴に渡したらどうなることか。
 情報弱者がネット利用なんて、何しでかすかわかったもんじゃない。とてもじゃないがリスクが高すぎる。
 だからあらかじめ、俺が機能制限を施して、ホーム画面のアイコンを電話だけにしておいたわけ。
 
 ちなみに設定とか写真とかメッセとかその手のどうしても消せない奴は、フォルダにまとめて別シートに退避させておいた。極めつけに、あの電話のアイコン→俺の名前をタッチして発信という手順しか教えなかったことで、完全なるチャイルドロックが生まれたのである。
 やりすぎかもって? これで調度いいんだよ。
 異世界人がネット利用なんざ数ヶ月早いわ。

「さて行くか」

 俺はそう呟くと、出発することにした。
 アパートの階段を降り終えて、公道に出ようとしたその時である。 

 Prrrrrrrr……。

 俺のスマホが鳴り始めた。 
 何だと思って発信者を確認すると……。

『リファ』

「……」

 俺はアパートの方を見上げてしばらく沈黙したあと、電話に出る。

「もしもし」
『お、マスターか』
「何か御用で?」
『い、いや特に用というわけではないが……その……そう、復習だ復習! 一回やっただけではきっとすぐ忘れてしまうかもしれない。繰り返して覚えないとと思ってな』
「そうか。どうやら、きちんとできてるみたいだな」
「うむ! 電話でマスターを触る、だな! ふふん、どうだバッチリだろう」

 やだ奥さん、今の聞いた? 電話でどこを触るおつもり? いやらしい子。

「はいはいよく出来ました。ほんじゃ切るぞ?」
「ふぇ!? あ、ちょ、ます――」

 ぴ。
 と俺は有無を言わさず、通話を切った。
 初めてのスマホでワクワクすんのはわかるが、ちょっとは落ち着けよ。というのも無理な話か。
 さて、今日はコンビニでジャンプ買って、あとは適当に買い置き用のお菓子とアイスを調達して……いくらかATMで金もおろしとくか。
 そう予定を考えながらとぼとぼと道を歩くこと数分。

 Prrrrrrrr……。

 またスマホが鳴り始めた。
 今度は発信者を確認せずに出る。

「もしもし」
『ま、マスターか? こちらリファだ』

 おどおどしたような声でリファが言ってくる。

「今度は何?」
『や、あの……えと……ふくしゅ……じゃなくて、そう! 定時連絡だ! 定時連絡!』
「……」
『マスターの家を警備しているからには、逐一状況を報告する義務がある。兵長になる前は警備兵をやっていたが、そこでも異常のあるなしにかかわらず定期的に報告をしていたぞ?』
「そう。で、報告することは!?」
『このるろうに剣心って漫画がすごく気に入ったぞ!』
「あっそ」

 ぴ。
 ツッコむのもめんどくさいと言わんばかりに、俺は冷たく言って通話を再度切った。
 ため息を吐いて俺はまた歩き始めた。

 数分で例のコンビニに到着した俺は、またあのDQNどもがいないか確認する。

 駐車場にも店内にも、そいつらと思しき人物は見当たらない。
 ふぅ、助かった。リファがボコられてる隙を狙って、ぶちのめしちまったからなぁ。
 ヘイト集めた状態でまたエンカウントすると厄介なことは厄介だ。
 とにかくこれで平穏に買い物ができる。
 俺は安堵しながらコンビニのドアを押し開けた。
 その時。

 Prrrrrrrr……。

 またまたスマホが鳴り始めた。
 俺はさっきよりも盛大に、わざとらしくため息を吐くと、ゆっくりとスマホを取り出して電話に出た。

「……もしもし?」
『ま、マスターか……リファだ』
「定時連絡にしてはスパン短すぎですねぇ」
『う……そ、そうだな』

 復習、定時連絡、とそこで言い訳の弾丸が切れたらしいリファは黙ってるしかなかった。

「珍しいのはわかるけどさ、遊び道具じゃないんだから。使いどきってのがあるんだし……」
『……べつに珍しいから乱用してるわけでは……』
「はぁ? じゃなんなんだよ」

 俺が問い詰めても彼女はすぐには答えなかった。
 そして、何秒か経ったあとにか細い声が聞こえてきた。

「――じゃ、つまらん」
「へ?」
「一人じゃ、つまらんと言っているのだっ!」

 いきなり大声を出された俺は、思わずスマホを耳から遠ざける。

「つまらんって……漫画いっぱいあるだろ? どこが退屈なんだ?」
『確かに退屈はしないが……なんだか、マスターがいない家に一人いても……なんとなく嫌なのだ!』
「一人が嫌って……よく言うぜ、勝手に外出中に姿くらましかます奴が」
『っ! ……それは……そうだが』
「……」
『……うぅ、マスタ~』

 弱気な声色で懇願してくるリファ。
 泣きそうな顔で目をうるうるさせてる様子が目に浮かぶ。
 飼い主の帰りが待ちきれない子犬かよまったく。

「わかったよ。心配しないでもすぐ帰るから」
『ほ、ほんとか!?』
「ああ、ジャンプもちゃんと買ってきてやるからおとなしく待ってろ」
『ほ、ほんとにほんとにすぐなんだな!?』

 心なしか嬉しそうな口調に戻ってリファは念押ししてきた。
 毎度毎度テンションの上がり下がりの激しいお人だこと。

「はいはい。じゃ、もう切るぞ? 帰るまでにちゃんと警備しとけよな。任せたぞ」
『う、うむ! 任された! 気をつけて帰ってきてくれ!』
「ほいよ」

 もうかけてくるなよと続けようとしたが、少し考えて黙っておいた。
 やれやれ、意外と寂しがり屋なとこあるんだね。
 ワイヤードでは常に仲間と一緒にいた故の反応だろうか。
 俺はATMで手続きを済ませ、適当にかごに菓子とアイスとジャンプを放り込んでレジへ向かった。
 結構並んでるのでその間Twitterのタイムラインを観察しながら時間を潰す。
 何も考えずにリア友やサークル仲間のつぶやきを流し読みしていた俺だったが、ふとそこで気づいた。

 俺って、さっきのリファみたいにつまらないって思ったこと、全然ないや。

 離れていても、こういうSNSでいつでも連絡を取り合える、動向がわかる。
 ネットサーフィンやソシャゲでいくらでも楽しみは見つかる。
 どんな時でも、世界とつながっていられる。
 でも今のリファは……。
 そっか。そう考えると……あいつの言い分も、ちょっとわかる気がする。
 もし突然ネットが使えなくなったら、きっと俺もあいつと同じことを思うだろうな。
 無意識に使っているけど……本質的には、「誰かとつながっていたい」っていう願望なのかもしれない。

「お次のお客様どうぞー」

 お声がかかった俺はカウンターにかごを置いて会計を待つ。
 今すぐには無理だけど……明日から少しずつ他の機能についても教えてやるか。
 ネットは確かに危険がいっぱいだけど、だからといって使わせないのが正解なわけじゃない。
 きちんと便利な面も危険な面も合わせてしっかり教えてやれば、きっと今の生活が何十倍も便利で、そして面白くなるはずだ。

「……ん?」

 そんなことを考えながらスマホの画面を眺めていると、とあるツイートがさり気なく流れてきた。

 ------------
 なぎさ☆ @naginagi_angel

 知り合いんち遊びに行ったら友達が新しくスマホ買ったって。わら
 でも電話しか使えなくされてかわいそーだったから機能制限解除したげたょ
 まぢおどろいてたけど今一所懸命教えたげてる(汗
 とりまLINEとインスタとあとパズドラもインストールさせてあげてま~す
 新フレゲット。わら
 ------------  

「おまたせしました。240円のお返しとお品物で……って、え? ちょっとお客様!? ちょ、待ってお客様! 待ってください! お品物! うわ、何あいつベン・ジョンソンかよ! おーい! ベン・ジョンソン! お品物とおつり! じゃない間違えた、えっと、ああそうだ! おーい! ベン・ジョンソンお忘れですおつり! 違っ、おつりがベン・ジョンソン!? ちょ、ベン・ジョンソーン!!!」
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