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4章 港湾都市アイラ編
163話 混迷
「……やってくれるわ」
シンは親指の爪を噛みながらそう呟く。
地表から姿を消した村に帰ってきた漁船の船員は、生き延びた家族と再会し喜ぶ者、再会が叶わずに泣き崩れる者、一縷の望みに懸ける者、様々である。
ナッシュとカーシャもご多分に漏れず喜びの涙を流しながら抱擁する中、サイモンからロッカの村と竜の財宝、そして海竜の話を聞き、相手の悪辣さに頭を痛める。
全てが最悪という訳ではない、シンの当初の予想通りランク指定外魔道士の仕業であった場合、よほど名の通った相手、しかも衆目を集めるほどに目立たない限り、どこで何をするのか予測が立たない。英雄クラスの魔道士がテロとは考えにくいが、理由と名分などは後からどうとでもなる。
そういった所から見れば、少なくとも海竜は内陸に逃げていれば直接その被害が及ぶ事は無い。もちろん、海岸線上に人の生存圏は無くなるのだが。
そして最大の問題は、海竜の津波は、固有スキルのような物なのでやろうと思えば何度でも行使できる、第2波が来なかったのは、恐らく他の場所に津波を起こしに行ったのと、警告のつもりなのだろう。
つまり、奪った物を返せ──と。
「つまり、ロッカんとこの馬鹿共は、海竜の卵を盗み出したってのか?」
「おそらく……さすがに向こうも金銀お宝を掠め取られたくらいで津波を起こすほどじゃあないでしょう。アレはアレで海竜にも負担の大きな技ですから」
「やれやれ、アイツらとんでもねえ事しやがって……」
「とりあえず、明日はその村に行ってみましょうか。生き残りがいれば話も聞けるでしょう」
「……大人しく話すと思うのか?」
「口の滑りを良くする方法なんていくらでもありますよ……まあ、事の顛末を周りにばらすと言えば簡単に話してくれると思いますけど」
淡々と話すシンの口調に抑揚は無く、半眼で海岸線の向こう、ロッカの村の方向を見据えるシンの態度にサイモンはそら恐ろしい物を感じ、
「海竜サマより恐え顔してんぞ、シンよ……」
「まさか、俺は話もせずに実力行使に出るような大トカゲとは違いますよ。まずは話し合い、実力行使はその後です」
(結局するんじゃねえのかよ!)
とは、思っていても口に出来ないサイモンだった。
「ホントいい度胸してる」とか「モノを知らん奴が一番怖い」とか呟きながらくつくつと笑うシンの顔に浮かぶ凶相、それを見たのは幸いにもサイモンただ一人だった。
………………………………………………
………………………………………………
「ぎゃあああああああああ!!!!」
シンの足元で絶叫しながら転がりまわる男の姿を見て、ロッカの村の生き残りはみな、戦々恐々としている。
翌日、船を走らせロッカの村に赴いたシン達は、ゾンビの様にノロノロとした動作で、両手で土をかく漁民達を見つける。
恐らくはここも地下に色々と蓄えをしているのだろうが、津波当日、そして翌日の朝から道具を使って早々に撤去作業を終えたカーシャたちと違い、道具も無く、そして強い日差しに照らされ硬くなった泥は、その辺の木切れなどを使っても容易に掘り返すことは出来無さそうだ。
それでも、何をするにしてもまずは先立つ物、そのために村を放棄する前に、異臭漂う泥を掘り返す村人達の姿は、まかり間違えば自分達の姿だったと、何人かは背後でシンに手を合わせていたりした。
そんな彼等の一人にシンは声をかけ、開口一番、
「竜の財宝をどこへやった?」
果たして、大型船に乗ってやってきた男にそんな事を言われた彼等が、シンに対してどんな印象を持ったのだろう。
「何だテメエ? まさかアイツらの仲間じゃねえだろうな!?」
ブン──!!
そう叫びながら男は、大きく拳を振り上げてシンに向かって叩きつける!
パン!
シンはその拳の甲を軽くはたいていなすと、懐から何かを取り出し男に押し当てる、そして──
「ぎゃあああああああああ!!!!」
マッド・ビーの毒針を刺されて悶絶する男を無視し、シンは周囲にいた村人達に笑顔を向けながら、
「ああ、怖がらなくても大丈夫ですよ、私達は別に海賊とかそういう類の者ではありませんので。ただ、あなた方が盗み出した竜の財宝の行方を知りたいだけなんです」
そういってヒラヒラと手を振る反対側の掌には凶悪な毒針が乗っている。
なにより足元で絶叫を上げている男に一瞥もくれない、そんな男の非情さに彼等は逃げ出すことも、そして目を逸らす事すらできない。
シンは彼等に近付きながら、
「……では改めて聞きますね、この中で、竜の財宝、この事について「何も知らない用無し」は誰ですか?」
全員が知っている限りの事を悲鳴混じりに喋りだす、そんな光景を見ながら、村の事をサイモンに任せてシンに付いて来たナッシュをはじめ、今回の事で家族を失うなど、いざとなったら流血沙汰も辞さないと意気込んでいた連中の気は削がれ、少しだけ、そう少しだけ彼等を哀れむ余裕が生まれていた。
「あああああああああ──!!」
「五月蠅え、静かにしてろ!」
ボグッ──!!
ナッシュが足元で転がる頭を蹴り上げると、ピクピクと震えながらも男はようやく静かになった。
──────────────
──────────────
「当の本人は津波に飲まれて死亡か……」
「どうするんだシン? これじゃあ盗まれた竜の卵がどこに行ったか分からねえ」
「何所に? は分からなくても誰が? なら分かりましたよ、行政府です」
「は? 行政府? それじゃなにか、執政官たちがこんな事を引き起こしたって言うのかよ!?」
「そうですよ」
竜の卵、仮にそれを盗み出した者がいたとして、こんな海竜が襲ってくるような危険な場所にいつまでも留まる訳が無い、ということは竜の卵の取引は完了していない。
卵が手元を離れても最後まで取引が出来ると信じてる、そしてこの村で待っていろとの言葉に大人しく従える相手、選択肢は絞られる。
「親の竜は卵の場所を感知出来ますからね、恐らくそのことを話して手元から離すことに同意させたんでしょう」
「一体何の為に行政府が!?」
「さあ? それよりもナッシュさん達はこれからどうするんですか? 村を捨てて別の土地で、っていうのは取り敢えず保留した方がいいと思いますけど」
ここまでの事態を引き起こしては、流石に他の都市群、さらには連合代表が動く可能性も高い、そうなる前にフラッドも事態の収拾に乗り出すだろう。
その時、口封じなどを行えば後に露見した時のアキレス腱になる、それならば、「明確な悪」を用意して他は優遇して囲い込む、そう動くと予想される。
「恐らく第4政都の方から、復興についての打診や補償案などが提示されるはずなので、それを聞くまで、付き合いのある内陸部の村に厄介になるほうが得策ですよ」
「……そんな上手い話が本当にあるのか?」
「向こうにとっては、そこまでしないと自分の首が危ない事態にまで陥ってるんですよ。ともあれ、気が変わった海竜がまた津波を起こす前に避難はした方がいいですね」
「そうだな……それにしても、もしまた津波が来るとなると、係留してるこの船もオシャカになるのか……」
「だったらその間だけこの船貸してくれません? 少しばかり沖に用があるので」
「はあ!?」
ちょっとそこまで、と言わんばかりの気楽な口調のシンに、ナッシュは呆れざるを得なかった。
そして数日後──
第4都市群、そして隣接する第3・第5都市群管轄地域の一部の海岸に津波を見舞った海竜は港湾都市アイラの埠頭に出現し、恐れおののく警備隊に向かって言い放つ。
『汝ラ、我ガ怒リノタケヲ知り、身ノ程ヲ知ッタナラバ、我ガ要求ニ応エヨ──』
シンは親指の爪を噛みながらそう呟く。
地表から姿を消した村に帰ってきた漁船の船員は、生き延びた家族と再会し喜ぶ者、再会が叶わずに泣き崩れる者、一縷の望みに懸ける者、様々である。
ナッシュとカーシャもご多分に漏れず喜びの涙を流しながら抱擁する中、サイモンからロッカの村と竜の財宝、そして海竜の話を聞き、相手の悪辣さに頭を痛める。
全てが最悪という訳ではない、シンの当初の予想通りランク指定外魔道士の仕業であった場合、よほど名の通った相手、しかも衆目を集めるほどに目立たない限り、どこで何をするのか予測が立たない。英雄クラスの魔道士がテロとは考えにくいが、理由と名分などは後からどうとでもなる。
そういった所から見れば、少なくとも海竜は内陸に逃げていれば直接その被害が及ぶ事は無い。もちろん、海岸線上に人の生存圏は無くなるのだが。
そして最大の問題は、海竜の津波は、固有スキルのような物なのでやろうと思えば何度でも行使できる、第2波が来なかったのは、恐らく他の場所に津波を起こしに行ったのと、警告のつもりなのだろう。
つまり、奪った物を返せ──と。
「つまり、ロッカんとこの馬鹿共は、海竜の卵を盗み出したってのか?」
「おそらく……さすがに向こうも金銀お宝を掠め取られたくらいで津波を起こすほどじゃあないでしょう。アレはアレで海竜にも負担の大きな技ですから」
「やれやれ、アイツらとんでもねえ事しやがって……」
「とりあえず、明日はその村に行ってみましょうか。生き残りがいれば話も聞けるでしょう」
「……大人しく話すと思うのか?」
「口の滑りを良くする方法なんていくらでもありますよ……まあ、事の顛末を周りにばらすと言えば簡単に話してくれると思いますけど」
淡々と話すシンの口調に抑揚は無く、半眼で海岸線の向こう、ロッカの村の方向を見据えるシンの態度にサイモンはそら恐ろしい物を感じ、
「海竜サマより恐え顔してんぞ、シンよ……」
「まさか、俺は話もせずに実力行使に出るような大トカゲとは違いますよ。まずは話し合い、実力行使はその後です」
(結局するんじゃねえのかよ!)
とは、思っていても口に出来ないサイモンだった。
「ホントいい度胸してる」とか「モノを知らん奴が一番怖い」とか呟きながらくつくつと笑うシンの顔に浮かぶ凶相、それを見たのは幸いにもサイモンただ一人だった。
………………………………………………
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「ぎゃあああああああああ!!!!」
シンの足元で絶叫しながら転がりまわる男の姿を見て、ロッカの村の生き残りはみな、戦々恐々としている。
翌日、船を走らせロッカの村に赴いたシン達は、ゾンビの様にノロノロとした動作で、両手で土をかく漁民達を見つける。
恐らくはここも地下に色々と蓄えをしているのだろうが、津波当日、そして翌日の朝から道具を使って早々に撤去作業を終えたカーシャたちと違い、道具も無く、そして強い日差しに照らされ硬くなった泥は、その辺の木切れなどを使っても容易に掘り返すことは出来無さそうだ。
それでも、何をするにしてもまずは先立つ物、そのために村を放棄する前に、異臭漂う泥を掘り返す村人達の姿は、まかり間違えば自分達の姿だったと、何人かは背後でシンに手を合わせていたりした。
そんな彼等の一人にシンは声をかけ、開口一番、
「竜の財宝をどこへやった?」
果たして、大型船に乗ってやってきた男にそんな事を言われた彼等が、シンに対してどんな印象を持ったのだろう。
「何だテメエ? まさかアイツらの仲間じゃねえだろうな!?」
ブン──!!
そう叫びながら男は、大きく拳を振り上げてシンに向かって叩きつける!
パン!
シンはその拳の甲を軽くはたいていなすと、懐から何かを取り出し男に押し当てる、そして──
「ぎゃあああああああああ!!!!」
マッド・ビーの毒針を刺されて悶絶する男を無視し、シンは周囲にいた村人達に笑顔を向けながら、
「ああ、怖がらなくても大丈夫ですよ、私達は別に海賊とかそういう類の者ではありませんので。ただ、あなた方が盗み出した竜の財宝の行方を知りたいだけなんです」
そういってヒラヒラと手を振る反対側の掌には凶悪な毒針が乗っている。
なにより足元で絶叫を上げている男に一瞥もくれない、そんな男の非情さに彼等は逃げ出すことも、そして目を逸らす事すらできない。
シンは彼等に近付きながら、
「……では改めて聞きますね、この中で、竜の財宝、この事について「何も知らない用無し」は誰ですか?」
全員が知っている限りの事を悲鳴混じりに喋りだす、そんな光景を見ながら、村の事をサイモンに任せてシンに付いて来たナッシュをはじめ、今回の事で家族を失うなど、いざとなったら流血沙汰も辞さないと意気込んでいた連中の気は削がれ、少しだけ、そう少しだけ彼等を哀れむ余裕が生まれていた。
「あああああああああ──!!」
「五月蠅え、静かにしてろ!」
ボグッ──!!
ナッシュが足元で転がる頭を蹴り上げると、ピクピクと震えながらも男はようやく静かになった。
──────────────
──────────────
「当の本人は津波に飲まれて死亡か……」
「どうするんだシン? これじゃあ盗まれた竜の卵がどこに行ったか分からねえ」
「何所に? は分からなくても誰が? なら分かりましたよ、行政府です」
「は? 行政府? それじゃなにか、執政官たちがこんな事を引き起こしたって言うのかよ!?」
「そうですよ」
竜の卵、仮にそれを盗み出した者がいたとして、こんな海竜が襲ってくるような危険な場所にいつまでも留まる訳が無い、ということは竜の卵の取引は完了していない。
卵が手元を離れても最後まで取引が出来ると信じてる、そしてこの村で待っていろとの言葉に大人しく従える相手、選択肢は絞られる。
「親の竜は卵の場所を感知出来ますからね、恐らくそのことを話して手元から離すことに同意させたんでしょう」
「一体何の為に行政府が!?」
「さあ? それよりもナッシュさん達はこれからどうするんですか? 村を捨てて別の土地で、っていうのは取り敢えず保留した方がいいと思いますけど」
ここまでの事態を引き起こしては、流石に他の都市群、さらには連合代表が動く可能性も高い、そうなる前にフラッドも事態の収拾に乗り出すだろう。
その時、口封じなどを行えば後に露見した時のアキレス腱になる、それならば、「明確な悪」を用意して他は優遇して囲い込む、そう動くと予想される。
「恐らく第4政都の方から、復興についての打診や補償案などが提示されるはずなので、それを聞くまで、付き合いのある内陸部の村に厄介になるほうが得策ですよ」
「……そんな上手い話が本当にあるのか?」
「向こうにとっては、そこまでしないと自分の首が危ない事態にまで陥ってるんですよ。ともあれ、気が変わった海竜がまた津波を起こす前に避難はした方がいいですね」
「そうだな……それにしても、もしまた津波が来るとなると、係留してるこの船もオシャカになるのか……」
「だったらその間だけこの船貸してくれません? 少しばかり沖に用があるので」
「はあ!?」
ちょっとそこまで、と言わんばかりの気楽な口調のシンに、ナッシュは呆れざるを得なかった。
そして数日後──
第4都市群、そして隣接する第3・第5都市群管轄地域の一部の海岸に津波を見舞った海竜は港湾都市アイラの埠頭に出現し、恐れおののく警備隊に向かって言い放つ。
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