転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

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4章 港湾都市アイラ編

172話 破綻

「チィ~~~~~ッス」

 人を食ったシンの態度に困惑よりも怒りが優先したクレイスは、ベッドから立ち上がるとシンに飛び掛る。

 ゴスッ────!!

「あぐぁ!!」
「相手を拘束するため襲い掛かる──パニックを起こしたヤツがとる行動としては合格点をくれてやりたいところだけどよお……少しはベッドの上以外でも運動しろよ、補佐官殿?」

 椅子に腰掛けたままカウンターのケリをクレイスの腹に決めたシンは、飛ばされて再度ベッドの上に倒れこむ姿を見て呆れ顔のままそうぼやく。常備している炭化タングステンの棒で突かなかったのは彼なりの優しさか。

「ぐ……ゴホゴホッ!! ……ナゼここに?」
「ん? それは手段の話か? それとも心情的なものを聞いてるのか?」
「からかっているのか!? オマエが私に会いに来た理由だ!!」

 シンの態度にイラつくクレイスは、腹部の痛みに耐えながらも忌々しい男を睨みつける。
 対するシンは、そんなクレイスの態度もどこふく風で、

「それはホラ、俺もそろそろこの街、いやシーラッドを離れるんでな、その挨拶回りみたいなもんだよ、ここには以前も来た事があるんで道に迷う事もなかったしな」
「!! やはりオマエがアレを!!」
「アレって、どれ?」
「竜の卵だ!! 貴様が盗んだのであろうが!!」
「オイオイ、そんな頭の悪い台詞吐くなよ。竜の巣から卵を盗み出したのはお前等で、俺はソレを取り返そうと動いた、言わば義賊サマだぞ?」
「ぬけぬけと…………!! まさか、貴様が使徒だというのか?」

 点と点が線で繋がった、とでも言いたげに口と目を丸く開けてシンを見るクレイスの顔は、驚愕と、そんなばかな! と言わんばかりである。
 しかしシンは、

「使徒!? ちょっと待て、使徒がこの街に来てるのか?」

 心底驚いた表情を浮かべてクレイスに聞き返す、その驚きの表情は到底演技とは思えず、クレイスも「えっ?」という表情になる。※詐術Lv6

「違う、と言うのか? 使徒が海竜を討伐を果たし、本日その首を船に乗せて戻ってきたそうだが……」
「マジかよ……あれ、じゃああの卵、俺がこのまま貰っていいんじゃん、ラッキー、使徒様感謝だわ♪」
「……………………」

 目の前で喜びの表情を浮かべるシンを見て、クレイスは要らぬ情報をくれてやったと苛立ち、同時に自分の勘違いを恥ずかしく思う。

「しっかし、俺が使徒ねえ……ま、オマエさんのその程度の低いオツムで考えられる事なんてその程度だよな」
「………………なに?」
「あん、聞こえなかったのか? 手前は馬鹿だって言ったんだよクレイス、頭だけじゃなくて耳も悪いのか?」
「馬鹿……だと?」
「ああでも、あの女をたらし込む程度に顔と弁舌は有能らしいな」
「…………………………ハッ!」
「ん?」
「ハーーーーッハッハッハッハッハ!!」

 シンの言葉を聞いて、急に大声で笑い出したクレイス。
 何がそんなにおかしいのか、蹴られた痛みなど消えたように愉しげに、いや狂った様に笑うクレイスの目には涙すら浮かんでいる。

「ハハハハハ────」
「……随分愉しそうだな、何か嬉しいことでもあったのか?」
「ハッ!! これが笑わずにいられるか!? お前達は皆、俺の掌で踊っていただけだと言うのに、それに気付かずに俺を馬鹿呼ばわり、なんと愚かな!! なんと哀れな!!」
「てのひら?」
「そうとも──」

 片眉を上げて訝しげな表情を浮かべるシンを見て気をよくしたクレイスは、自分の立てた計画を、そして計画通り、いや、それ以上の成果をもって今現在第4都市群で展開されている事を滔々とうとうと語って聞かせる。

「……よくもまあ計画をそうペラペラと話せるもんだな、誰かに聞かれるとは思わねえのか?」
「聞かれたところでどうだと言うのだ? 計画は最終段階、今さら動いたところで現場にその事を知らせるにはもう遅いのだよ、距離と時間という物を考えたまえ!」
「手遅れ、そう言いたいのか」
「そうだ、全てがもう遅い! この街アイラも、第4都市群も、あの男フラッドも、そしてタレイア……全て破滅だ。何もかもが終わる……」

 ボスン──

 最初の高揚感に満ちた表情はどこへやら、クレイスはベッドに腰を下ろすと呆けたように口を開け、無表情のまま焦点の合わない瞳で部屋を見つめる。
 何もかも無くなった──クレイスの心情を物語るように。
 そんなクレイスを難しい表情で見つめていたシンだったが、

「どうしたクレイス? 俺を罵らないのか?」
「……フン、今言って聞かせただろう、私を馬鹿呼ばわりしたお前も、他の連中も、その馬鹿によって全てを奪われる。これ以上敗者を貶める事をするつもりは無い」
「そりゃあ誇り高いことで、俺だったら相手の悔しがる顔と負け犬の遠吠えを肴に、美味い酒でも飲むところだけど」
「…………………………?」

 クレイスはここで違和感を覚える。
 何故この男は平然としている? 強がりとも思えない、明らかに有利な立場に居るものの態度だ。

「キサマ……何を隠している?」
「隠す? ハテ何の事やら」
「とぼけるな!!」
「そんなに知りたいなら教えてやるけど……あの情報、ガセ・・だぜ?」
「ガセ……? 何がだ!?」
「だから、討伐隊が全滅したって所から全部♪」
「なん……だと……?」

 クレイスの顔から血の気が引いた──。


──────────────
──────────────


 ──某日某所──

「お前等! そろそろ動く、気ぃ緩めんじゃねえぞ!?」
「「「ヘイ──!!」」」

 頭目の掛け声に、手下の盗賊は気合を入れた声をあげ立ち上がる──。
 ──しかし、

 クスクス──

 どこからともなく笑い声が上がると、小声で会話をする奴等の声も聞こえてくる。

「──オイ、今の聞いたか?」
「ノリノリだな、隊長」

 …………………………。
 …………………………。

「………………お前達、聞こえてるぞ」
「あ、スンマセン、聞こえるように喋ってました♪」

 ドッ────!!

 たちまち周囲に笑い声が響き渡り、その場の全員が堪えていた物を吐き出すかのように喋りだす。

「隊長! そこは「オメエら!」って言わないとダメですって!」
「そうっスよ、こういうのは成りきる事が大事ですぜ?」
「ウルサイ! むしろなんでお前達はそんなに盗賊役が馴染んでるんだ!?」

 盗賊──もとい、盗賊にふんする政都の第2守備隊の面々は、上からの指示を受け、11月の段階からアイラ周辺に集まりつつある盗賊団を、これまた連合防衛隊から派遣されてきたアリオス率いる第6遊撃隊と共に狩り尽くしていた。
 「にわか盗賊」騒動の異様さを不審に思ったフラッドは、即座に他都市群と情報を共有し、第4以外の都市群では逆に盗賊被害が減っている、遭遇・討伐件数も減っている事もあわせ、なにかしらの計画が進行している可能性があると踏んで、割と早い段階から行動を開始していた。
 それが功を奏し、既に8つからなる盗賊団を2つの部隊で壊滅させ、残りの盗賊も第4都市群から離れる際に捕縛、計画の首謀者とその内容は既にその時点でつまびらかにされていたのだった──。

「──まったく、村人に発見されなければいけないとはいえ、盗賊から剥ぎ取ったこんなモノを羽織らないとならんとは……なにより臭いんだよ、この頭目の鎧! どんだけ手入れを怠ったらこんな異臭が出るって言うんだ!?」

 ドッ────!!

 悲痛な訴えはまたしても爆笑を生み、隊長はさらに頭を痛める。

「ああもう、とりあえず移動するぞ、今日と明日で予定された全ての場所をまわって村人の目に留まらないといけないからな」
「ウイッス!! てか隊長、言葉遣い」
「……はぁ……野郎共、付いて来い!!」
「「「「ヘイ──!!」」」」

 隊長一人を除き、彼等は終始愉しげであった──。


──────────────
──────────────


「…………そんな、バカな……」
「山間部の方も、農民たちとは予め打ち合わせをしてるからな。話を振ってきた盗賊たちの手下になるフリをしてアジトに目印を設置したり、討伐隊と戦闘になったら途中で武器を捨てて兵に向かって逃げるように言い含めてあるし、もちろん政都コーンウェルに収監されてる盗賊達も全員ゲロってるから早晩、誰かさんに対して捕縛令が出るのは確実、いや、もう動いてるかな」

 シンの説明を黙って聞いていたクレイスは、目を見開き、脂汗を流しながら小刻みに全身を震わせている。

「まあ、そういう訳だ、多分今生の別れになるだろうから俺はその挨拶に来たってんだよ……で、感想は?」
「…………感想?」
「そ、計画通りに進んでいると思っていたのが実は「相手の掌で踊っていただけ」だと聞かされた心境を教えてくれよ、生憎俺には経験が無くてさ、知りたいんだよ。ねえ、どんな気持ち? 悔しい? 悲しい? それとも恥ずかしい?」
「この……」

 血を流さんばかりに拳を強く握り、プルプルと両腕を震わせたクレイスは、血走った目でシンを睨みつけ、

「貴様が! 貴様さえいなければ!! そうすれば──」
「あ、それ勘違い」
「────は?」
「俺はなんもしちゃいない、軍を動かしたのも、偽情報を流してお前を油断させたのも全て領主のフラッドだ」

 実際シンは何もしていない。
 シンがした事と言えば、歯の卵とフカヒレという新商品をプレゼンして流通に載せる手伝いをしただけで、海竜に関しても、そもそもクレイスも当初は計画に組み込んでおらず、シンのおかげで潤った漁村を再度圧迫するために追加した作戦である。
 それを最終的にシンが討伐したからと言って、これを原因シンが計画を阻止したと言うのもどうかと言う話だった。

「手前の計画を潰したのはフラッドと、政都の守備隊や今は合流して盗賊の残党を狩っているアイラの兵士、シーラッドの防衛隊、いわばシーラッド都市連合と言う集合体が、クレイスという男の企みを弾き返したに過ぎない」
「そん……な」
「まあ、自分が賢いって勘違いしてるヤツは現場を見ようともしないからな、街の様子を見るだけでも違和感に気付いたと思うが」
「違和感……?」
「盗賊だなんだと言ってる割に、街を出入りする人の数は減ったか? 住民の顔に不安な表情は見られたか? 夜の街の明かりは活気を失っていたか? お前には何も見えてない、自分の頭の中で計画を動かしてる内は、あのオッサンフラッドには勝てねえよ」
「ぐっ…………」

 歯を食いしばり下を向くクレイスは、シーツにポトリと涙をこぼし、肩を震わせる。

「………………なぜだ?」
「は? だから──」
「なぜ俺が罰せられないといけない!? 真に罰を受けるべきはあの男だというのに!!」
「………………………………」
「その為に年々も準備に費やした! 信頼を手に入れるためにヤツの元で働くと言う屈辱にも耐えた! それに──」
「黙れよロイス・・・

 ピクッ────!

 ロイス、シンがそう呼んだ瞬間、クレイスは彫像のように硬直する。
 そして、油の切れたからくりのようにギギギと首を回し、驚愕の表情でシンを見つめる。

「ナゼ……その名を……?」
「──さあ、なんでだろうな?」

 シンは懐から古びたロケットを取り出し、掌の上で弄びながらクレイスに見せ付ける。

「キサマ────!!」
「盗賊団「黒狼団」の女頭目アイラの兄にして、第4都市群先代領主の息子ロイス、さて、訂正する所はあるかな?」

 シンは無表情にそう告げた──。
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