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6章 ライゼン・獣人連合編
286話 オウカ・前編
ライゼンの衛星都市として最南に位置する『ハクロウ』並びに『オウカ』に対し、ドウマが軍を派遣する数日前──。
ドンドンドン!
「はいはい、今開けますよ~。おや、ガインさん、もう動いても平気なのですか?」
「ああ、お前さんに貰った薬のおかげでな。礼を言うぞ、ニールセン」
ガインと呼ばれた男は挨拶もそこそこに、ニールセン=シンの軟禁されている建物の扉を潜り、まるで我が家に戻ってきたかのように、奥の台所までズカズカと入り込む。
台所──かつて、そう呼ばれていたであろうその場所は、どこから用意したのか大小様々なガラス容器がテーブルの上に並べられ、その中には様々な色合いの液体や素材が漬け込まれている。また、かまどの上には大鍋が乗せられ、これまた怪しげな色の液体がグツグツと泡を立てながら煮込まれている。
さながら魔女の館と言った所だが、ここで行われているのは街を救うための薬の調合である。むしろ神聖な場としてガインは祈りでもあげたい気分だ。
ガインは、『頼まれ物』の品物が詰め込まれたズダ袋をテーブルの横に下ろすと振り返り──
「ほら、街の外で採集してきた薬草と諸々あわせて今日の分だぜ、依頼主さん!」
「依頼主は私じゃありません、ここの領主──代官様ですってば。ハイ、これが報酬と依頼達成のサインです……私は錬金術師じゃなくて旅の商人なんですけどねえ」
「いいじゃねえかよニールセン。どうせ街がこの有様じゃあ商売なんか出来ねえだろ」
この街に逗留しているCランク冒険者のガインは、ぼやくシンの背中をバンバンと叩きながら笑いかけ、もたれかかるように肩を組む。
現在、このドウマの街は都市機能が麻痺している。
といっても、どこかの国が攻めてきた訳でも、大規模な災害に見舞われた訳でもない。いや、災害と言う意味では、あながち間違いと言うわけでも無い。
ラトリア熱──南大陸の海岸地域に分布する風土病の一種。
微熱と激しい頭痛および関節痛により、判断力と運動能力の低下を引き起こす。
感染力が強く、短期間で広範囲に伝染するが、死に至る病ではない。
特効薬は無いものの熱と湿気に弱く、温度と湿度の高い場所で三日も安静にしていれば自然に治る。
大した病気と言うわけではない。家の中で安静にしていれば三日後には元気になる──通常であれば。
問題は、現在オウカの街では代官の命により、一部の物資が手に入り難くなっている事である。
例えば、保存のきく食料や冬場の野営に必要な薪の類などが、だ。
病気についての知識が無いオウカでは、初期対応に失敗して都市全体に病気が蔓延、たまたま街に滞在している行商人の口から詳細を知るも、すでに色々と手遅れな状態になっている。
その為現在は、薬師としての知識も持ち合わせていたその行商人が、代替案としての薬を製造している状況であった。
「なんにせよ、アンタが居てくれて助かったぜ!」
「とはいえ、これはこれで劇薬みたいな物ですからねえ……副作用にだけは気をつけていただかないと」
「副作用? そいつはなんか、ヤベェのか?」
「若干の後遺症が一週間ほどありますが、日常生活には何の支障もありませんよ」
顔を顰めるガインに向かって苦笑するニールセン=シンはその後、自身にもたれかかるガインに向かって、曖昧な表情を浮かべる。
離れて欲しい──無言の願いにガインはしかし、さらにシンの体を自分の元に引き寄せると、外の見張り番に聞こえないよう耳元で囁きかける。
「なあニールセン、助けてもらっておいてなんだがよう、なんでオメエ、こんなに病気に詳しいんだ?」
「いろんな所に行商に回っていますからね、この病気についてはまあ、南大陸に渡った時に」
「ほーそうかい。そんじゃまもう一つ、南大陸っていやあ一時期話題になった邪道士ニールセンなんてえ物騒な名前を聞いた事があるんだが?」
「……………………」
ガインの言葉にシンは、まるで初耳だと言わんばかりに目をまん丸にすると、そのまま曖昧な表情を浮かべたまま無言になる。
ガインは続ける。
「まさか、旅の行商人がその名前を知らないなんて事は言わねえよな? 世間は忘れかけてる名前じゃあるが、それでもその名前を聞けば首を傾げるくらいはする。堂々と名乗るような名前じゃあなくねえか?」
「そう言われましてもねえ……まさか、その程度の事で名前を変えるわけにも行きませんし」
「なあニールセン、この際、腹の探りっこはナシにしようや。特級の賞金首がオウカに何の用だ?」
ガインの言葉を聞いたシンは、一瞬で真顔に戻ると目を細め、まるで感情の読めない眼差しでガインに囁き返す。
「今、賞金首と言いましたかな? 邪道士ニールセンに賞金がかけられているのは、国の上層部とAランク以上の冒険者に限定されているはずなんですがねえ……?」
その言葉を聞いたガインは、片手でピシャリと自分のおでこを叩き、そのまま顔を覆いながら、
「アチャー、コイツは失敗したな」
「あいにく、そういうのは経験済みでしてね……さて、本当に失敗かどうかはさて置き、何かナイショのお話でも?」
白旗を上げた態度のガインに対し、多少軟化した顔を見せるシンに促され、ガインは話し出す。
「コッチも大事にする気はサラサラねえんで率直に聞くが……何が目的だ?」
──Cランク冒険者のガインは、オウカの諜報部門に所属するれっきとした軍人であり、外からでは聞こえてこない、冒険者ギルド内での動きや、そこから読み取れる市井の治安などを上に報告する役割を担っていた。
当然そこには、ライゼンとドウマの戦支度の為、徴収にも近いかたちで生活物資を買い占めていった、代官や軍への不満なども入る。
そんな中、突如として広まった伝染病、そしてたまたま居合わせた、病気の対処法を知る行商人。ただちに行政府はその男に対し、病気の収束を依頼する。都市の為に上は動く、全ては住民の為という仮面をかぶり、近々訪れるであろう、ライゼンとドウマの戦の中でも、オウカは住民の為に最善の方法を取ったのだと言い訳するために。
ところが、ここで狂いが生じた──件の行商人についてである。
軍が奇襲をかけたマニエル湿原にたまたま居合わせた、それはよい。保護を求められ、こちらの事情も鑑みて、軟禁と言うかたちで保護しているのも不当な扱いとは言えない。
問題は、その男がニールセンと名乗った事である。
邪道士ニールセン──二年前、南大陸に存在した傭兵国家カドモスを、大地の魔竜と共に滅ぼしたとされる謎の人物。
その悪名を、知ってか知らずか堂々と名乗っている男。いかに病気を治す為とはいえ、素通りするにはその名に付いた噂と悪評は大きすぎた。
ただ名前が同じだというなら問題は無い。だが、仮にその名を知った上での事であれば、その目的を見極めなければならない。
それこそ、安易に捕縛した所を思わぬしっぺ返しを受けるかもしれない。本物であれば尚の事。
そこで白羽の矢が立ったのが、冒険者としての顔を持つガインという訳だ。
「──まさかとは思うが、『カドモスの惨劇』をオウカでやらかすつもりじゃあねえだろうな?」
「なんですか、その恥ずかしいタイトルは……その前に確認しておきますが、ガインさんはどちらに忠義立てておいでで? オウカ、それともライゼン?」
「……あ~。つまり、そういう話か」
「になりますかねえ」
目の前の男が何者であるか納得したガインは、瞬時に頭の中で算盤を弾く。
ライゼンの中央からこのような形で密偵が送られてきたという事は、すでにオウカ離反の情報は筒抜けだという事だ。
しかし、あえてニールセンの名を騙り、オウカ側からの接触を待っていたという事は、詳細までは掴んでいないという事でもある。
果たしてどこまで踏み込むべきか、そこまで考えたガインは、余裕の態度を崩さない男を改めて見やると、ハッとした様に表情を強張らせた。
(──バカが! 中央の意図はともかく、コイツがあのニールセンじゃない保証がどこにある!?)
跳ね上がった心拍数を覚られないようにガインは、シンから身体を離すと、真剣な眼差しを向けながら、シンに向かって質問の回答を答えた。
「これでも俺は忠義に厚いほうでね。ただそれは、『オウカ』って家じゃなく、『オウカ』ってこの都市に対して、だ。上のほうだけで落とし前をつけてくれるなら、いくらでも尻尾を振ってやるさ」
「それは潔い事で。それではもう一つ、獣人はお嫌いですか?」
「……俺は特に嫌っちゃいねえな。ただ、上の連中は軒並み嫌ってやがるぜ、住民はまあ、半々って所か」
「それだけ聞ければ結構ですよ」
そう言ってガインから視線を外したシンは、後ろでコポコポと泡立つ鍋をゆっくりとかき混ぜながら、鼻歌を歌い出す。
そんなシンの後姿を、所在無げに見つめるガインは、居心地が悪いのかシンに話しかける。
「なあ、ニールセン、お前一体──」
「ご安心を、一般の方に被害が及ばないようにとは、あちらさんの意向ですからでね。その為のラトリア熱です」
「──!! ちょ、まさか!?」
「人死にが出るような病気じゃないから大丈夫ですよ、下手に元気だとパニックを起こして大変な事になりそうなので、大人しくなってもらってるだけです」
さらっと、伝染病が自分の仕業だと暴露した男に、ガインは、自分の先程の考えが正しかった事を再認識すると共に、到底勝ち目が無い事を思い知る。
例え有効な手段だとして、それが『能力として出来る人間』と『行動としてやれる人間』の間には大きな隔たりが存在する。
目の前の人間はそれがやれる人間だ、抵抗する事の無意味さを理解したガインは、諦めと同時に、進む方向が決定した事に安堵する。
「……そんで、俺はどうしたらいいんだ?」
「そうですねえ……とりあえず、ここの偉い人に紹介していただけますか?」
「………………………………」
どうやら、ガインが安堵するのはまだ早かったようだ。
ドンドンドン!
「はいはい、今開けますよ~。おや、ガインさん、もう動いても平気なのですか?」
「ああ、お前さんに貰った薬のおかげでな。礼を言うぞ、ニールセン」
ガインと呼ばれた男は挨拶もそこそこに、ニールセン=シンの軟禁されている建物の扉を潜り、まるで我が家に戻ってきたかのように、奥の台所までズカズカと入り込む。
台所──かつて、そう呼ばれていたであろうその場所は、どこから用意したのか大小様々なガラス容器がテーブルの上に並べられ、その中には様々な色合いの液体や素材が漬け込まれている。また、かまどの上には大鍋が乗せられ、これまた怪しげな色の液体がグツグツと泡を立てながら煮込まれている。
さながら魔女の館と言った所だが、ここで行われているのは街を救うための薬の調合である。むしろ神聖な場としてガインは祈りでもあげたい気分だ。
ガインは、『頼まれ物』の品物が詰め込まれたズダ袋をテーブルの横に下ろすと振り返り──
「ほら、街の外で採集してきた薬草と諸々あわせて今日の分だぜ、依頼主さん!」
「依頼主は私じゃありません、ここの領主──代官様ですってば。ハイ、これが報酬と依頼達成のサインです……私は錬金術師じゃなくて旅の商人なんですけどねえ」
「いいじゃねえかよニールセン。どうせ街がこの有様じゃあ商売なんか出来ねえだろ」
この街に逗留しているCランク冒険者のガインは、ぼやくシンの背中をバンバンと叩きながら笑いかけ、もたれかかるように肩を組む。
現在、このドウマの街は都市機能が麻痺している。
といっても、どこかの国が攻めてきた訳でも、大規模な災害に見舞われた訳でもない。いや、災害と言う意味では、あながち間違いと言うわけでも無い。
ラトリア熱──南大陸の海岸地域に分布する風土病の一種。
微熱と激しい頭痛および関節痛により、判断力と運動能力の低下を引き起こす。
感染力が強く、短期間で広範囲に伝染するが、死に至る病ではない。
特効薬は無いものの熱と湿気に弱く、温度と湿度の高い場所で三日も安静にしていれば自然に治る。
大した病気と言うわけではない。家の中で安静にしていれば三日後には元気になる──通常であれば。
問題は、現在オウカの街では代官の命により、一部の物資が手に入り難くなっている事である。
例えば、保存のきく食料や冬場の野営に必要な薪の類などが、だ。
病気についての知識が無いオウカでは、初期対応に失敗して都市全体に病気が蔓延、たまたま街に滞在している行商人の口から詳細を知るも、すでに色々と手遅れな状態になっている。
その為現在は、薬師としての知識も持ち合わせていたその行商人が、代替案としての薬を製造している状況であった。
「なんにせよ、アンタが居てくれて助かったぜ!」
「とはいえ、これはこれで劇薬みたいな物ですからねえ……副作用にだけは気をつけていただかないと」
「副作用? そいつはなんか、ヤベェのか?」
「若干の後遺症が一週間ほどありますが、日常生活には何の支障もありませんよ」
顔を顰めるガインに向かって苦笑するニールセン=シンはその後、自身にもたれかかるガインに向かって、曖昧な表情を浮かべる。
離れて欲しい──無言の願いにガインはしかし、さらにシンの体を自分の元に引き寄せると、外の見張り番に聞こえないよう耳元で囁きかける。
「なあニールセン、助けてもらっておいてなんだがよう、なんでオメエ、こんなに病気に詳しいんだ?」
「いろんな所に行商に回っていますからね、この病気についてはまあ、南大陸に渡った時に」
「ほーそうかい。そんじゃまもう一つ、南大陸っていやあ一時期話題になった邪道士ニールセンなんてえ物騒な名前を聞いた事があるんだが?」
「……………………」
ガインの言葉にシンは、まるで初耳だと言わんばかりに目をまん丸にすると、そのまま曖昧な表情を浮かべたまま無言になる。
ガインは続ける。
「まさか、旅の行商人がその名前を知らないなんて事は言わねえよな? 世間は忘れかけてる名前じゃあるが、それでもその名前を聞けば首を傾げるくらいはする。堂々と名乗るような名前じゃあなくねえか?」
「そう言われましてもねえ……まさか、その程度の事で名前を変えるわけにも行きませんし」
「なあニールセン、この際、腹の探りっこはナシにしようや。特級の賞金首がオウカに何の用だ?」
ガインの言葉を聞いたシンは、一瞬で真顔に戻ると目を細め、まるで感情の読めない眼差しでガインに囁き返す。
「今、賞金首と言いましたかな? 邪道士ニールセンに賞金がかけられているのは、国の上層部とAランク以上の冒険者に限定されているはずなんですがねえ……?」
その言葉を聞いたガインは、片手でピシャリと自分のおでこを叩き、そのまま顔を覆いながら、
「アチャー、コイツは失敗したな」
「あいにく、そういうのは経験済みでしてね……さて、本当に失敗かどうかはさて置き、何かナイショのお話でも?」
白旗を上げた態度のガインに対し、多少軟化した顔を見せるシンに促され、ガインは話し出す。
「コッチも大事にする気はサラサラねえんで率直に聞くが……何が目的だ?」
──Cランク冒険者のガインは、オウカの諜報部門に所属するれっきとした軍人であり、外からでは聞こえてこない、冒険者ギルド内での動きや、そこから読み取れる市井の治安などを上に報告する役割を担っていた。
当然そこには、ライゼンとドウマの戦支度の為、徴収にも近いかたちで生活物資を買い占めていった、代官や軍への不満なども入る。
そんな中、突如として広まった伝染病、そしてたまたま居合わせた、病気の対処法を知る行商人。ただちに行政府はその男に対し、病気の収束を依頼する。都市の為に上は動く、全ては住民の為という仮面をかぶり、近々訪れるであろう、ライゼンとドウマの戦の中でも、オウカは住民の為に最善の方法を取ったのだと言い訳するために。
ところが、ここで狂いが生じた──件の行商人についてである。
軍が奇襲をかけたマニエル湿原にたまたま居合わせた、それはよい。保護を求められ、こちらの事情も鑑みて、軟禁と言うかたちで保護しているのも不当な扱いとは言えない。
問題は、その男がニールセンと名乗った事である。
邪道士ニールセン──二年前、南大陸に存在した傭兵国家カドモスを、大地の魔竜と共に滅ぼしたとされる謎の人物。
その悪名を、知ってか知らずか堂々と名乗っている男。いかに病気を治す為とはいえ、素通りするにはその名に付いた噂と悪評は大きすぎた。
ただ名前が同じだというなら問題は無い。だが、仮にその名を知った上での事であれば、その目的を見極めなければならない。
それこそ、安易に捕縛した所を思わぬしっぺ返しを受けるかもしれない。本物であれば尚の事。
そこで白羽の矢が立ったのが、冒険者としての顔を持つガインという訳だ。
「──まさかとは思うが、『カドモスの惨劇』をオウカでやらかすつもりじゃあねえだろうな?」
「なんですか、その恥ずかしいタイトルは……その前に確認しておきますが、ガインさんはどちらに忠義立てておいでで? オウカ、それともライゼン?」
「……あ~。つまり、そういう話か」
「になりますかねえ」
目の前の男が何者であるか納得したガインは、瞬時に頭の中で算盤を弾く。
ライゼンの中央からこのような形で密偵が送られてきたという事は、すでにオウカ離反の情報は筒抜けだという事だ。
しかし、あえてニールセンの名を騙り、オウカ側からの接触を待っていたという事は、詳細までは掴んでいないという事でもある。
果たしてどこまで踏み込むべきか、そこまで考えたガインは、余裕の態度を崩さない男を改めて見やると、ハッとした様に表情を強張らせた。
(──バカが! 中央の意図はともかく、コイツがあのニールセンじゃない保証がどこにある!?)
跳ね上がった心拍数を覚られないようにガインは、シンから身体を離すと、真剣な眼差しを向けながら、シンに向かって質問の回答を答えた。
「これでも俺は忠義に厚いほうでね。ただそれは、『オウカ』って家じゃなく、『オウカ』ってこの都市に対して、だ。上のほうだけで落とし前をつけてくれるなら、いくらでも尻尾を振ってやるさ」
「それは潔い事で。それではもう一つ、獣人はお嫌いですか?」
「……俺は特に嫌っちゃいねえな。ただ、上の連中は軒並み嫌ってやがるぜ、住民はまあ、半々って所か」
「それだけ聞ければ結構ですよ」
そう言ってガインから視線を外したシンは、後ろでコポコポと泡立つ鍋をゆっくりとかき混ぜながら、鼻歌を歌い出す。
そんなシンの後姿を、所在無げに見つめるガインは、居心地が悪いのかシンに話しかける。
「なあ、ニールセン、お前一体──」
「ご安心を、一般の方に被害が及ばないようにとは、あちらさんの意向ですからでね。その為のラトリア熱です」
「──!! ちょ、まさか!?」
「人死にが出るような病気じゃないから大丈夫ですよ、下手に元気だとパニックを起こして大変な事になりそうなので、大人しくなってもらってるだけです」
さらっと、伝染病が自分の仕業だと暴露した男に、ガインは、自分の先程の考えが正しかった事を再認識すると共に、到底勝ち目が無い事を思い知る。
例え有効な手段だとして、それが『能力として出来る人間』と『行動としてやれる人間』の間には大きな隔たりが存在する。
目の前の人間はそれがやれる人間だ、抵抗する事の無意味さを理解したガインは、諦めと同時に、進む方向が決定した事に安堵する。
「……そんで、俺はどうしたらいいんだ?」
「そうですねえ……とりあえず、ここの偉い人に紹介していただけますか?」
「………………………………」
どうやら、ガインが安堵するのはまだ早かったようだ。
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