運命の番がユニコーンだった場合…

たんぽぽ

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パパの秘密

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 今日も外から窓ガラスを叩く音が聞こえる。
 このところ毎日やってくる父親は、わたしが結婚して子供を産んで時が流れてお婆さんになってしまう妄想をよく語る。
 
 コツコツと鳴らされる窓を開いてあげると、ベランダに立っていた父はうれしそうに部屋の中に入ってくる。窓の鍵はかかっていないのに、招き入れるまでずっと外で待っているのだから実に迷惑な話だと思う。

「こんばんは私の可愛い娘」
「こんばんはフェル様。夕食ぶりですね」
「うん」

 皮肉も嫌味も通じているのかいないのか、いつでもわたしの小言はスルーされる。
 就寝時間にやってくる父のために用意された三人掛けの広いソファーに並んで座ると、大きな手が頭を撫でてくる。

「今日も私の娘は本当に可愛かった」
「そうですか」
「もちろん、明日も明後日もお婆ちゃんになってもきっと可愛いに違いない」
「そうですか」

 別に「明日のわたしは可愛くないんですか?」なんて聞いてもいないのに。

「今日はどうだった? だれか気になる人はいたかい?」
「……いませんでした」

 数日に一回、今まで出会う機会もなかった同年代の男の子たちと顔合わせをさせられている。これがお見合いの前段階だと気づかないほどわたしはバカじゃない。
 顔合わせのあった日は必ず聞くくせに、わたしが答えるその瞬間まで息をひそめて返事を待つ姿は「イエス」を期待しているとは思えない。

 紹介される男の子たちは全員、この父親にとって都合のいい男で構成されているらしい。
 実際問題ネコであるわたしを冷遇しないよう自分の治める領地から選び抜き、経済状況、家族関係、親戚一同までが調べ尽くされ、男の子たちも知らないだろう家の秘密や弱みが掌握されているのだと、フェンリルの執事がこっそり教えてくれた。
 嫁ぐわたしのため、そして嫁いだ娘に頻繁に会いに行っても邪険にされないようにするために。

「リノは中々手ごわいね」
「ごめんなさい」
「謝ることはないよ。むしろ一生の問題なのだから妥協して選んではいけない……私が世界一素敵な旦那さんを見つけてあげるからね」

 わたしの初恋だと認知されているオオカミの男性は、素行に問題があったため旦那様候補にはなれなかった。

「……フェル様が、わたしの素敵な旦那様になってくれる予定はないんですか?」

 そこまでするならいっそ娶ってくれと思って何が悪いのか。そんなことを思っていたら、口に出すつもりのなかった言葉を愚痴のようにこぼしてしまった。

 言ってしまったと後悔する前に、頭に置かれたままだった手に軽く力が入って、その力に抵抗せずに流されてみたら胸に頭を寄せる感じで抱き込まれ、そして耳元で小さく囁かれたのは拒絶の言葉。

「ごめんね」
「……どうして、謝るの?」
「君が優しい母になって、孫に囲まれる幸せなお婆ちゃんになっても、手の届かない場所へ旅立ってしまっても、君は私の可愛い子ネコだ。これから先、いつ終わるとも知れない私の生涯をかけて君だけを愛し抜くと誓おう」

 毎日もらえる愛の言葉。
 普段より愛が重いのに、わたしが求める愛の言葉と少しだけ何かが違う。

「男として君を愛せない情けない番で申し訳ないと、心の底から思っているよ」
「え」

 緩い拘束から逃れて立ち上がり、ソファーに座る男を見下ろす。

「番って、わかってたの?」
「私が気づいたのは二年前。君はもっと早くに気づいたんだろう?」
「……出会ったときに」

 私を見上げて視線を絡ませた一瞬後、逃げるように視線をそらした父親で番という立場の男は小さく笑った。それは五年間一緒に過ごしているのに初めて見る顔だった。

「ユニコーンはね、生殖能力を持たないんだ」

 あぁ、この顔は嘲りの表情なのだと、自分自身を、ユニコーンという種族を笑っているのだと理解した。
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