運命の番がユニコーンだった場合…

たんぽぽ

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添い寝フレンド

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 目を背けた番は一度小さく息を吐いて、ちょっとだけ昔話をしようと言い出した。

「絵本や物語には描かれていない部分がいくつかあるんだ」

 視線を合わせないまま突然語り始めたのはおとぎ話の秘密。

「始まりの一族と呼ばれている者たちは皆、一本の大樹から産まれたんだ。ユニコーンをのぞく他の種族は対の男女で産まれて、それが数回続いたのちに大樹は枯れてしまった」

 今現在の自然生まれと大きく違う点は、全員が成熟した大人の状態で産まれたこと。そして一緒に産まれた男女は一目で惹かれあい、仲睦まじく寄り添うその現象はつがいと呼ばれるようになる。
 大樹が枯れて、いつの間にか番という存在を得られる人は減っていき、今ではほとんど出会えない不思議な関係。

「その中で我々だけが一人きりで産まれた。先に産まれたユニコーンは今度こそ、今度こそと女性の誕生を夢見たけれど、結局七人の男を産んで大樹は力尽きてしまってね」
「フェル様は何人目?」
「三番目、だったかな?」

 どうでもいいことを訊ねるわたしの声に顔を上げて、ちょっと首をかしげて思い出すようにそう言って、またうつむいて話を戻す。

「まあ、大樹が枯れた頃にはネコやイヌの番から産まれた子供が大人になっていたから、同種族にこだわる必要なんてなくなった」
「うん」
「他種族と関係を深めた結果、性的な能力がないと気づいたわけだ。それならそれでと割と簡単に受け入れたけど」
「うん」

 個人的なことだから、それが種族的なモノだと気づくのにはかなり時間がかかったらしい。まだ日にちを数える暦という存在もない時代だから、どれだけの月日が経過したのか正確なところはわからないらしいけど。

「その頃になると、種族によって寿命が違うということもわかってきた」

 最初に産まれたネコやイヌが次々と寿命を迎えて、その後の世代までが眠り始めた。同時期に産まれたドラゴンの子供はやっと走り回れる程度にしか成長していないのに、いつの間にか後から誕生した命が親世代のドラゴンを追い越して老いていく。
 力の弱い者は寿命も短いのだと認識され始めた。

 最弱種族のネコに産まれた女の子のわたしにとって、相槌を打ちにくい話題が淡々と語られていく。

「でもほら、性的な欲求とは別に子供が欲しいなぁと……そっちに考えが移動したまでは別に良かったんだけど、自分の子供は無理だろう?」
「はぁ」
「だから、よそから貰ってきちゃうバカが現れて」

 誘拐、という言葉が頭をよぎった。

「その子供は親元に無事返されたんだけど、他種族の間で子供にユニコーンを近づけるなっていう暗黙の了解みたいなのができてしまった。我々とその他、という対立ができかけた中で、今度は大地が赤ん坊を産み始めたもんだから、これはユニコーンへの救済だと言いだした何人かのユニコーンが、産まれたての赤ん坊を拾い集めだしてねぇ」

 大地が比較的よく産むネコやイヌ、オオカミやトラの赤ちゃんにとってユニコーンは存在自体が毒のようなもの。
 集められた赤ちゃんたちは、与えられる愛情とは逆にすぐ気絶して満足にご飯も食べられないから衰弱していくばかり。

「自身の子を持つ親がその状況を良しとするわけもなく、ドラゴンとペガサスの有志によって救い出されたその子供たちは、ネコやイヌによって育てられた。それからずっと、自然生まれの子を育てる役割を続けているよ」

 孤児院の始まりにユニコーンが大きく関わっているとは思わなかった。孤児院は自然生まれの上位種を保護し引き取ってくれる里親を探すための機関で、自然生まれの下位種族はそのついでに育てているだけだと聞いていたから。
 長い時を経て、いつの間にか役割や存在理由が逆転してしまったのかもしれない。

「……実をいうと私も見つけた子供を持ち帰った経験がある」
「あー」

 この件には触れないでおこうと思った。

「えぇっと、それで、嫁が無理なら子供だけでも欲しいってところに、わたしが来たと?」
「その前にまずはユニコーンが無類の少女好き、という世界認識をちょっとだけ訂正させてくれ」
「違うんですか?」
「違わないけれど、我々としては子供が欲しい、子供が好きという根本があって、そこから派生して男の子より女の子を育てたいという気持ちが偶然、たまたま、驚いたことにユニコーン全員が出した結論だったという事実を知っていて欲しい」
「はあ。なるほど。わかりました」

 つまり少女が好きなのは間違いないと。

「君が私のところに来たときは本当に大変だったんだ。ユニコーンに近づける子ネコなんて奇跡みたいな存在だから……」

 皆が子ネコを欲しがって、一歩間違えば大陸全土を巻き込む戦争に成りかけたなど、そんなこと誰も教えてくれなかった。

「我々が本気で争えば他種族も確実に巻き込んでしまう。最初のドラゴンやペガサスたちが老い始めた今、変化のないユニコーンが最強種だと証明されたようなものだから……。まあ、君に嫌われるのを恐れて、正面から力業で奪いにくるような奴はいなかったけれど」

 明らかに自分に怯え、自分のせいで弱体化した赤ん坊を想って手放した遠い過去とは違う。
 気絶してもちゃんと食事を摂れる子ネコは、ユニコーンにとって存在自体が奇跡。

「最初の三年は、虎視眈々と君を狙う同種族を退けるのが私の一番大事な仕事だった。後の二年は……君に会ってみたいと連絡をよこす他種族への返事」

 一緒に暮らし始めて五年。会うのは使用人と商人、そしてその商人の家族や護衛ばかりで、たまに舞台俳優を眺める程度だった。ドラゴンなんて一度も見たことがない。
 なんとなくそんな気はしてたけど、わたし、完全に外界遮断の家ネコ生活してたみたい。
 それが今では逆に一度会って話をして欲しいと、私の旦那様候補に連絡をとっている。

「私たちが番だと知った他のユニコーンの反応はどうだったんです?」
「ん? いろいろだよ。本当に。おめでとうと祝ってくれた奴もいれば、自分の番を探してずっと世界を飛び回ってるのもいるし、逆に絶対会いたくないと引きこもってしまったり」

 それでも全員、子ネコを連れ帰って自分の娘にするのを諦める、と言ってくれたらしい。

「ユニコーンにそういう能力がないってことは理解しました。でも、子供がいなくても、夫婦ってなれるでしょう?」
「わざわざそんな関係になる必要がないだろう? 私たちはすでに親子で、家族なんだから」

 今まで数百年、自分に生殖能力がないことを悲観することはなかったフェル様は、この二年、ずっと悩んでいたと告白した。

「このまま親子というぬるま湯の中で、想うままに愛を伝えて生きていきたい」
「結婚しても家族は家族よ?」
「今はね。でも、これから先、君は大人になるんだよ」
「もうほとんど大人と一緒でしょ? 半年もしないうちに成人するんだし」

 子供は望まないと伝えても、首を振ってかたくなに拒絶する。

「結婚しても関係がかわらないなら、今のままでいいじゃないか。いつか番ではない男に惹かれることもあるかもしれない。その時に後悔するんじゃ遅いんだ」

 今の夫よりいい男を見つけたから離婚して再婚するなんて簡単にできるわけじゃないんだと、フェル様は泣きそうになりながらわたしの手を握りしめた。

「……わかった。わかりました」
「リノ」
「わたしだって、別にフェル様が好きで、大好きで、結婚したいほど愛してて、一生そういう関係にならなくても全然平気で、愛だけで全て乗り越えるって言うほど、愛してるってわけじゃないから!」

 言っててなんだか悲しくなった。なんだこれ、なにこの女々しい感じ。なんで、こんなに……。

「さすがにそこまで言われると、お父様ツライ」
「はいはい。お父様お父様」

 暖かくて大きな手から自分の手を引き抜いて、逆に手首をつかんで引っ張ると、こっちの意図に気づいたフェル様は大人しくソファーから立ち上がった。

「今日はなんか、いろいろごめんね。おやすみリノ」

 いつも通りぷちゅっと頬に口づけようと近づいてくる顔を空いている手のひらで押し返し、手首をつかんだままベッドに向かう。

「あの、ちょっと……ごめん、本当に無理なんだ」
「はぁ? 別に、性交渉しましょうなんて、言ってませんけど? そっちに話を持っていくのやめてくれません? わたしまだ未成年ですよ」

 あぁ、なんだろう。すっごくイライラする。

「添い寝してくださいお父様」
「そいね?」
「そうそう。添い寝、添い寝」

 添い寝フレンドというものがあったなと、なんの役にも立たない知識を思い出した。

「父親で番なんですから、ついでにもう一つオトモダチって関係を増やしてもいいですよね?」
「お友達って、私とリノが友達になるのか?」
「そうですよ。お友達は添い寝します。添い寝をするだけのお友達です。ただ寝るだけ、何もしません」

 引っ張っても動かないから、後ろに回って背中を押す。
 パワーバランス的に、フェル様にその気がなければ一ミリも動かないはずなのに、言葉を交わすたびに少しずつベッドに近づいていく。

「大丈夫、大丈夫。親子だとアウトな年だけど、オトモダチなら添い寝余裕だから」

 男と女の関係は無理でも、わたしを愛していると毎日飽きもせず垂れ流すこの男が、添い寝という言葉に惹かれないわけがない。そんな確信が持てるくらい、フェル様の愛でわたしは満たされてる。

「でも、さすがに添い寝は、なんて言われるか」

 ちらりと視線を扉に向けて、理性を崩す最後の一押しをわたしに求めてくるから、一周回っていっそ笑えてきた。

「今日添い寝してくれないなら、誰かとお見合い結婚して、お父様が会いに来ても絶対に会いません。これから先ずっと、一生、わたしが死ぬまで」

 ベルトを外せば寝苦しくない程度にラフな格好をしていたフェル様は、さっとベルトを引き抜いて、シュッと布団の中にもぐりこんだ。

「明日、皆が何か言ってきたら、私を守ってくれるかい?」
「おやすみなさい」

 そんなこと知らない。自分でなんとかしてよ、ばか! と言わなかっただけ、わたしはまだ理性的だったと思いたい。
 免疫のない子ネコが近づけば気絶するほど恐ろしいユニコーンなのに、体から放たれる香りをかぐとホッとする。ゼロ距離の今、たとえその腕に抱きしめてもらえなくても、香りに包まれているだけで心が満たされる。
 
 この先……もしかしたら……万が一。そんなあやふやな未来予測で二人の関係が立ち止まってしまうなら、その時がくるまでこのぬるま湯に浸って、お互いを慰めあって求め合うのもそう悪くないと思う。


 翌朝、ノックの後に侍女が勝手に入ってくるいつもの朝とは違い、内側から開けるまで、寝室の扉は誰の侵入も許さなかった。

 

― 添い寝friEND ―
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