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風使いのジン
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いつか見た青い月が覗いている。それも二つ。なぜ月が二つもあるのだろう。
よく見ると、紫がかった青色をしている。森の奥にある泉のそばで見上げた、群青の月。そして泉に映るもう一つの月。緑がとりまく世界で、蒼く輝く月。
「――お山がふうっと息を吹きかけて、月を青くするんだよ」
優しい声がよみがえる。懐かしい気持ちが沸き起こり、次に痛みが襲った。
呻きながら重いまぶたを開くと、茜色の空が広がっていた。気が付けば、草むらに横たわっている。しばらくぼうっと何も考えずに、夕焼けの中で滑空する鳥を眺めていた。
全身をズキズキと疼く痛みが、顔に張り付く髪が、先ほどの悪夢のような出来事が夢ではなかったのだと思い知らせる。濡れ鼠のまま横たわっていたせいか、地面が湿っていて気持ちが悪い。乾いた場所を求めて、鉛のように重い身体をよじる。
傍らに人影があった。
「目が覚めたか」
知らない男の声だ。眩しさに目を細めたユキを、男は少し首を傾けて見下ろす。背後で輝く夕日が、その素顔を影の中に隠している。後ろで一つに束ねた男の髪が風にそよぐ。その人影は、声を聞かなければ女と見まごうばかりの、ほっそりとした姿をしていた。
男が近づいてきて、痛みと疲労で思い通りに動けないユキを助け起こし、自身も隣に腰を下ろす。
「まさに濡れ衣だな」
抑揚のない声。冗談を言って笑わそうというわけではないようだ。しかし、しかし。
ユキにとっては人生二度目の死にそうな思いをしたというのに、もっと気の利いた慰め、例えば「怖かったな、もう大丈夫だぞ」といった優しい言葉をかけてくれてもよいのではないか。
小さな不服を覚えたおかげで、思考力が回復してきた。今、この男は「濡れ衣」と言った。つまり、ユキに咎のないことを知っていたのだ。だから、水責めの刑にあっているユキを救い出してくれたのだ。
隣に座る男の顔をそっと覗き込む。こちらを見返すまなざしに見覚えがあった。確か二度、この瞳に出会っている。一度目は郷屋敷の渡り廊下で。二度目は郷巡りの姫御輿のそばで。
「へ、あれ、姫様……え、でも男……」
「残念ながら、俺は姫様ではない。俺は姫に仕える剣だ」
そう言うと、男は視線を外して前を向いた。姫に仕える剣、それはつまり、姫君ただ一人を守るために存在する、剣役。
――あぁ、知らねえのか? 姫をお守りするお役目のことさ。刀守の中から選ばれる、最も優れた剣豪だけが登りつめることのできる最高の地位だ
いつかの平七の話が思い起こされる。まだ何の波乱もなかった時の記憶だ。
――いいか、剣役ってのは誉れ高き男のことだ。姫の数だけ剣役がいる、ってえことはだ、今は一人しかいねえんだ。刀守の中で最強の男たあ、一体どんな猛者なんだか
その猛者が、目の前にいる。
「風仁……?」
「いかにも」
しかし当人は、“猛者”という言葉が似合わないような優男だ。
「ジン殿?」
「仁親だ。仁に親しむと書いて、仁親。……読み書きはできるか」
「は、はい、わかります」
「そうか」
「あの、助けていただき、ありがとうございました」
「ああ」
それきり会話が途絶え、二人の周りを静寂が取り巻いた。
沈黙が流れる。相手は、これ以上話を続ける気はないようだ。
口火を切ったのはユキだ。
「あの、聞いてもいいですか」
「内容による」
聞きたいことはたくさんある。ありすぎて、何から聞けばいいのかわからなかった。
目の前にいる人物が剣役なら、ユキを水責めにしていたあの大柄な男は誰なのか。なぜ姫御輿に剣役の仁親が乗っていたのか。それでは本物の姫君はどこにいるのか。そして、平七がなぜあんなことをしたのか。
「……風使いなんですか」
自分の口からでてきた言葉に、ユキ自身が驚いていた。他に聞くことが、もっと重要なことがあるだろうに。
「誰かが言い出したことだ。風使いかと問われても、俺自身では是も非もない」
人づてに伝わる話というものは、得てして不確かなものだ。たしか、由ノ進は刀守である父親から聞いたと言っていた。
――剣を振るう姿からついた通り名らしい。略して“風仁”。なんでも、風を操っているかの如き身のこなしだそうだ
「でも、風を操っているみたいな剣技だって」
「俺は風森村の生まれだ。風と共に生きてきた」
答えになっていない答えに、何と返せばいいのかわからなかった。困惑するユキの様子を横目でちらりと見て、風使いは言葉を重ねる。
「風読みが生まれる唯一の村だ。俺は風読みではないが、風を利用して立ち回ることはできる」
「風読み?」
「風読みは、殿のそばで助言を行う重要なお役目だ。風森村には、風を読める者が多からずいる。風を読むというのは、天気の先触れをつかむことだ。その能力の高い者が、風読みとして殿に仕える」
これがこの男の話し方なのだろう。要点だけを淡々と口にする。なにせ通り名でしか存在を知られていない男だ。普段は奥屋敷で姫君の御守りをしていて人と接する機会がない故に、人に話すということがあまり得意ではないのかもしれない。
鍛錬中のおしゃべりで色々なことを知ったつもりになっていたが、ユキにもまだ知らないお役目があったようだ。
「郷を繁栄させるには、天気を読んで正しい行動をせねばならぬ。天気はあらゆるものに影響を及ぼす。作物、疫病、船出、そして戦」
物騒な言葉に、ユキは思わず身を固くする。草むらをひゅうっと吹き抜ける風が、濡れた衣服を乾かしていく。
「戦なんて滅多にないが、最近きな臭い動きが見えていてな。お前の兄貴分がそれだ」
そう言いながら、仁親は先ほどまで前を見つめていた顔を、再びユキの方に向けた。
「村々を襲っては、殺戮とはく奪を繰り返している集団がいる。領内の見回りを強化しても、被害は増えるばかりだった。どうも郷守のなかに内通者がいるということまでは掴んだが、そいつがなかなかしっぽを出さない。調べを進めるうちに、怪しい者が数名でてきた。それを今回の郷巡りで炙り出す計画だった」
一気に言い終えると息をつく。その先は、言うまでもない。
「それが、平七のアニキだった……」
「そうだ。そしてお前も疑われていた。平七が外から連れ込んだ人間だからだ」
水責めにあっていた理由がわかった。簡単なことだ。自分を引き入れ、常に行動を共にしていた男が姫君に切りかかったのだ。仲間だと思われない方が難しい。
「どうして、おいらが加担していないってわかったんですか」
「あの時のお前の様子を見ればわかる。むしろ、よく咄嗟に動けたものだと感心した」
剣役ともあろう男に褒められ、むず痒い気分になる。ユキが平七の異変を察知できたのには理由があった。
「あの時、平七のアニキに初めて会った時のことを考えていたんです」
闇夜を一人で駆けた、悲しい記憶をぽつりぽつりと口にする。
「おいら、賊に追われて森の中を走っていたんです。途中でこけて、逃げなきゃダメだって、追いつかれるぞってわかってても、身体が動かなくて。平七のアニキが、行き倒れてる俺を見つけてくれたんです。だから、アニキはおいらの恩人だと思っていたんです」
話すほどに記憶が鮮明になり、嗚咽が漏れ、だんだんと呼吸がせわしなくなる。
「今まで考えないようにしてきました。思い出そうとすると、すっごく辛くて。でも、よく考えるとおかしいんです。……だって、アニキの持つ明かりはおいらの足元を照らしたんです。見回り番なら、郷屋敷の方からやってくるはず。それならおいらの頭上を照らすはず。それなのに、おいらの逃げてきた方向から来たんです。それで……」
「それで、平七に不信感を抱いたと」
無言で首を縦に振るユキ。涙があふれて止まらない。
「アニキを疑うなんてどうかしてる。鍛錬だってよくしてもらってたのに。だから信じてた。それなのに……ぐすっ……命の恩人だと思っていたのに……」
「結果的に、お前の勘は正しかった」
ユキの肩に、骨ばった手が乗る。
「お前の行動は、お前自身を救った」
「でもおいら、おっかあたちを救えなかった。村のみんな、おいら以外殺されちまった」
ひとたび流れた涙はとどまることを知らない。頬を撫でる風も、とめどない涙を乾かすには力及ばず、袖口が再び濃い色に染まる。
少年の慟哭はしばらく続いた。
薄明の空が、ぼんやりと夕焼けの余韻を残している。
気が済むまで涙を流し、ユキの両目は泣き腫らして赤くなっていた。
「これを使え」
いつの間に用意したのか、仁親が濡らした手ぬぐいを差し出した。
「ありがとうございます」
手ぬぐいの冷たさが心地良い。両目を瞑ってまぶたを冷やし、昂った心を静める。こんな風に人前で大泣きしたのはいつぶりだっただろう。
顔を上げると、隣でずっとユキを見守っていたであろう仁親の目線とぶつかった。ユキは、その瞳に映る自分の姿になぜか懐かしさを覚え、しばらく見入っていた。
「なんだ」
訝しげな声で問われ、ユキは慌てて視線を下げる。
「仁親殿の目は、お月さまみたいだなって」
「そんなこと、初めて言われたぞ」
眉根を寄せる仁親に一瞬怯むも、少年は果敢にも話を続ける。
「昔、村のはずれにある森の奥で泉を見つけたんです。月光できらきらしてて、今にも女神さまがでてくるんじゃねえかってくらいきれいな泉でした。……その水面を照らしていた青い月みたいだ」
思いっきり泣いた後の一種の清々しさも手伝って、ユキは少し饒舌になる。
「おいらの生まれた村では、時々青いお月さまが見えるんです。おっかあが、『山が呼吸しているからだ』って言ってました。山が呼吸するって、おいらにはどういうことかわからなかったけど。おっとうは、『寝息を立てているんだろ。山だって夜は寝たいさ』って」
もう会うことの叶わない顔が浮かび、思わず涙があふれそうになって慌てて袖で拭う。
「ああ、山吹村か」
また泣きそうになったユキの様子に気づかないふりをして、相槌を打つ。
「知っているんですか」
「ああ。あそこは珍しい地形で、山の息吹の影響で月が青く見えるんだ。何故かは知らない。知りたければ、東吾にでも聞けばわかるかもしれない」
初めて聞く名前に首をかしげる。ユキの知る限り、郷守にも刀守にも “東吾” という名の人物はいない。そもそも、一介の郷守であるユキに、剣役と繋がりのある知り合いなどいるはずがない。
「お前を水車に括り付けて回していた男だ。あいつは風読み、森羅万象に通じている。この世の不思議を知る男だ」
あっけにとられて、涙も引っ込んだ。
「あの人は剣役ではなかったのですか」
「……先ほど名乗ったはずだが」
自分の間抜け具合に、恥ずかしさで全身が熱くなる。涙ではなく、今度は汗が噴き出した。ユキは、真っ赤になった顔を両膝の間にうずめ、身悶えしそうな身体を力いっぱい抑えた。
東吾という名のあの大男が、剣役のはずがない。今、郷にいる姫君はたった一人。そして目の前にいる仁親こそが、その姫君をお守りする剣役なのだから。
「策は全て東吾が考えた。隙を与えれば姫を狙ってくるだろうと踏んだ。俺が囮になって、姫様のふりをした。俺の役を、あいつがやった」
それでは、ユキが姫君だと思っていたのは剣役で、剣役だと思っていたのは風読みだったのだ。郷屋敷の庭先で見惚れた姫君は、女人ですらなかった。
「気が付きませんでした……その、まさか男だったなんて」
少し熱の残る顔を上げたユキが、小声で呟く。
「郷の花の御命を、危険にさらすわけにはいかないからな」
なんてことない風に答える顔つきは、まさしく一流の剣士、姫君を守る剣役のものだ。姫君の身に万が一があれば、郷は枯れる。仁親の肩には、姫君一人の命だけではなく、郷に暮らす人々全員の命に対する重責がのしかかっているのだ。
それだけに、平七の罪は重い。ユキは覚悟を決め、ずっと気になっていた問いを切り出した。
「アニ……平七、は、どうなったんですか。まさか、殺したんですか」
刀を構えた姿勢で地面に沈んだ平七の姿が、ユキの脳裏に浮かぶ。
「大事な情報源だ、死なない程度に斬った」
「死なない程度……」
ユキが力いっぱい掴んでも抑えられなかった平七を、この優男の手にかかれば、手加減しても造作なく捕らえることができるのだ。それも、身動きしづらい姫装束を纏った状態で。
女子の恰好が似合う小柄な体躯の一体どこに、それだけの力を秘めているのだろう。先ほどユキを支えた腕は、華奢な体つきからは想像できない力強さだった。ユキは改めて、隣に座る仁親の頭のてっぺんから足先まで、まじまじと見つめた。
身体の大きさでいえば、平七の方が一回りほど大きい。さらに、ユキが剣役だとばかり思っていた東吾という風読みの方が、上背も肩幅もあってがっしりとしており、武人という言葉が似合っていた。
ユキは自身の小柄な体つきに引け目を感じていた。由ノ進も弥助も大柄で力強く、身体の小さなユキや伊助はいつも打ち負かされていた。
どのくらいの鍛錬を積めば、決して大きいとはいえない身体でも、剣役に選ばれるほどの領域に達することができるのか。身の程知らずなこの問いは、ユキの心の中に留め置くことにした。
「先ほどの話だが」
ふいに話しかけられて、ユキは我に返った。
「山吹村からここまで駆けてきたのか」
「はい。走ることは昔から得意で。……むしろ、走ることしかできなかった」
賊に立ち向かう力があれば、親や村の皆を助け出せたかもしれない。もっと身体が大きくて腕力があれば、せめて母親を背負って一緒に逃げることもできたかもしれない。しかし実際は、己一人が逃げのびることで精いっぱいだった。
「そうか」
空模様と同じく暗く沈んでしまった少年の様子に、仁親は話を切り上げることにした。
「そろそろ暮れる。郷守長屋まで送ろう」
「い、いえ!方向を教えていただければ、自分で歩いて帰れます」
有難い話だが、自分よりはるかに身分の高い者に送ってもらうなど、畏れ多いことこの上ない申し出だ。
「おかげさまで、だいぶ衣も乾きましたし」
常春の夕月郷は、日が沈んだ後も空気にぬくもりを感じるほど、温かな気候をしている。
「水車に縛られ回されていたやつが何を言う。自力で起き上がれもしなかったのだ、強がることはない」
衣服が乾いて水分の重さがなくなったとはいえ、満身創痍のユキのどこにも、歩いて帰る余力など残っていなかった。当然仁親は、それを見抜いている。それでも、郷守としてのなけなしの矜持がユキにも残っていた。
「しかし、剣役の御方に背負ってもらうなんて申し訳が立たないです。姫様でもないのに」
恐縮しきりのユキに仁親は、案ずるな、と一言呟くと指先を口元に近づけた。まもなく、軽快な足音が近づいてきた。
(なんだ……?)
夕闇の中姿を現したのは、鬣をなびかせながら走る、筋骨隆々とした馬だった。
「すげえ。おいら、こんな立派な馬初めて見ました」
村で見かけるのは、荷馬車を引く驢馬か、せいぜい行商人が連れている壮年を過ぎた馬くらいだ。若々しく、細身ながらも鍛え抜かれた肉体、それを支える四本の逞しい脚。平民の生きる世界ではお見受けできないお宝だ。
仁親の傍らに足を止めた馬は、大きな体をそっと主へ寄せる。仁親曰く、この馬は“天翔ける駿馬”だという。どんなに遠い所へでも、疾風のごとく駆けてゆける天翔馬。立派な異名を持つ馬は、主人に呼ばれ見るからにご機嫌な様子だ。仁親は愛馬を一撫ですると、まずユキの腰をつかんで馬の背に押し上げ、自分もその後ろににすっと飛び乗った。重力を感じさせないような、軽やかな騎乗だった。
「落ちないように気をつけろ。ゆけ、アマト」
そう言って、仁親がトンっと馬の腹を蹴ると、馬はゆっくりと前進しだした。
“天翔ける駿馬”と聞いて、一体どんな速さで駆けるのか恐々としていたユキの心配をよそに、仁親は馬に乗り慣れないユキに合わせて、緩やかな調子で馬を進める。
それでも最初はおっかなびっくり、馬が歩みを進めるたびにお尻が浮いて戸惑うユキだったが、次第に余裕が出てきたようで、背後の仁親に声をかける。
「“アマト”と呼んでましたけど、それがこの馬の名ですか」
「ああ」
頭上から返事が降ってきた。
「アマトかあ。素敵な名前だ」
「そうか?」
「おいらなんて、雪の日に生まれたからユキって名付けられたんです。こんなに温かな郷なのに、雪が降ったなんて信じられないですよね」
「……そうだな」
それきり仁親は何も話さなくなった。
馬の闊歩する足音はまるで子守歌、馬上の揺れの心地良さはさながらゆりかごのようで、次第にユキを眠りへ誘ってゆく。
仁親は、己に背をあずけて寝息を立てる少年の腹を片手でぐるっと抱え込むと、もう片方の手で手綱を握る。そうして愛馬の腹部をもう一蹴りすると、馬は待ってましたとばかり、速度を上げて走りだした。
よく見ると、紫がかった青色をしている。森の奥にある泉のそばで見上げた、群青の月。そして泉に映るもう一つの月。緑がとりまく世界で、蒼く輝く月。
「――お山がふうっと息を吹きかけて、月を青くするんだよ」
優しい声がよみがえる。懐かしい気持ちが沸き起こり、次に痛みが襲った。
呻きながら重いまぶたを開くと、茜色の空が広がっていた。気が付けば、草むらに横たわっている。しばらくぼうっと何も考えずに、夕焼けの中で滑空する鳥を眺めていた。
全身をズキズキと疼く痛みが、顔に張り付く髪が、先ほどの悪夢のような出来事が夢ではなかったのだと思い知らせる。濡れ鼠のまま横たわっていたせいか、地面が湿っていて気持ちが悪い。乾いた場所を求めて、鉛のように重い身体をよじる。
傍らに人影があった。
「目が覚めたか」
知らない男の声だ。眩しさに目を細めたユキを、男は少し首を傾けて見下ろす。背後で輝く夕日が、その素顔を影の中に隠している。後ろで一つに束ねた男の髪が風にそよぐ。その人影は、声を聞かなければ女と見まごうばかりの、ほっそりとした姿をしていた。
男が近づいてきて、痛みと疲労で思い通りに動けないユキを助け起こし、自身も隣に腰を下ろす。
「まさに濡れ衣だな」
抑揚のない声。冗談を言って笑わそうというわけではないようだ。しかし、しかし。
ユキにとっては人生二度目の死にそうな思いをしたというのに、もっと気の利いた慰め、例えば「怖かったな、もう大丈夫だぞ」といった優しい言葉をかけてくれてもよいのではないか。
小さな不服を覚えたおかげで、思考力が回復してきた。今、この男は「濡れ衣」と言った。つまり、ユキに咎のないことを知っていたのだ。だから、水責めの刑にあっているユキを救い出してくれたのだ。
隣に座る男の顔をそっと覗き込む。こちらを見返すまなざしに見覚えがあった。確か二度、この瞳に出会っている。一度目は郷屋敷の渡り廊下で。二度目は郷巡りの姫御輿のそばで。
「へ、あれ、姫様……え、でも男……」
「残念ながら、俺は姫様ではない。俺は姫に仕える剣だ」
そう言うと、男は視線を外して前を向いた。姫に仕える剣、それはつまり、姫君ただ一人を守るために存在する、剣役。
――あぁ、知らねえのか? 姫をお守りするお役目のことさ。刀守の中から選ばれる、最も優れた剣豪だけが登りつめることのできる最高の地位だ
いつかの平七の話が思い起こされる。まだ何の波乱もなかった時の記憶だ。
――いいか、剣役ってのは誉れ高き男のことだ。姫の数だけ剣役がいる、ってえことはだ、今は一人しかいねえんだ。刀守の中で最強の男たあ、一体どんな猛者なんだか
その猛者が、目の前にいる。
「風仁……?」
「いかにも」
しかし当人は、“猛者”という言葉が似合わないような優男だ。
「ジン殿?」
「仁親だ。仁に親しむと書いて、仁親。……読み書きはできるか」
「は、はい、わかります」
「そうか」
「あの、助けていただき、ありがとうございました」
「ああ」
それきり会話が途絶え、二人の周りを静寂が取り巻いた。
沈黙が流れる。相手は、これ以上話を続ける気はないようだ。
口火を切ったのはユキだ。
「あの、聞いてもいいですか」
「内容による」
聞きたいことはたくさんある。ありすぎて、何から聞けばいいのかわからなかった。
目の前にいる人物が剣役なら、ユキを水責めにしていたあの大柄な男は誰なのか。なぜ姫御輿に剣役の仁親が乗っていたのか。それでは本物の姫君はどこにいるのか。そして、平七がなぜあんなことをしたのか。
「……風使いなんですか」
自分の口からでてきた言葉に、ユキ自身が驚いていた。他に聞くことが、もっと重要なことがあるだろうに。
「誰かが言い出したことだ。風使いかと問われても、俺自身では是も非もない」
人づてに伝わる話というものは、得てして不確かなものだ。たしか、由ノ進は刀守である父親から聞いたと言っていた。
――剣を振るう姿からついた通り名らしい。略して“風仁”。なんでも、風を操っているかの如き身のこなしだそうだ
「でも、風を操っているみたいな剣技だって」
「俺は風森村の生まれだ。風と共に生きてきた」
答えになっていない答えに、何と返せばいいのかわからなかった。困惑するユキの様子を横目でちらりと見て、風使いは言葉を重ねる。
「風読みが生まれる唯一の村だ。俺は風読みではないが、風を利用して立ち回ることはできる」
「風読み?」
「風読みは、殿のそばで助言を行う重要なお役目だ。風森村には、風を読める者が多からずいる。風を読むというのは、天気の先触れをつかむことだ。その能力の高い者が、風読みとして殿に仕える」
これがこの男の話し方なのだろう。要点だけを淡々と口にする。なにせ通り名でしか存在を知られていない男だ。普段は奥屋敷で姫君の御守りをしていて人と接する機会がない故に、人に話すということがあまり得意ではないのかもしれない。
鍛錬中のおしゃべりで色々なことを知ったつもりになっていたが、ユキにもまだ知らないお役目があったようだ。
「郷を繁栄させるには、天気を読んで正しい行動をせねばならぬ。天気はあらゆるものに影響を及ぼす。作物、疫病、船出、そして戦」
物騒な言葉に、ユキは思わず身を固くする。草むらをひゅうっと吹き抜ける風が、濡れた衣服を乾かしていく。
「戦なんて滅多にないが、最近きな臭い動きが見えていてな。お前の兄貴分がそれだ」
そう言いながら、仁親は先ほどまで前を見つめていた顔を、再びユキの方に向けた。
「村々を襲っては、殺戮とはく奪を繰り返している集団がいる。領内の見回りを強化しても、被害は増えるばかりだった。どうも郷守のなかに内通者がいるということまでは掴んだが、そいつがなかなかしっぽを出さない。調べを進めるうちに、怪しい者が数名でてきた。それを今回の郷巡りで炙り出す計画だった」
一気に言い終えると息をつく。その先は、言うまでもない。
「それが、平七のアニキだった……」
「そうだ。そしてお前も疑われていた。平七が外から連れ込んだ人間だからだ」
水責めにあっていた理由がわかった。簡単なことだ。自分を引き入れ、常に行動を共にしていた男が姫君に切りかかったのだ。仲間だと思われない方が難しい。
「どうして、おいらが加担していないってわかったんですか」
「あの時のお前の様子を見ればわかる。むしろ、よく咄嗟に動けたものだと感心した」
剣役ともあろう男に褒められ、むず痒い気分になる。ユキが平七の異変を察知できたのには理由があった。
「あの時、平七のアニキに初めて会った時のことを考えていたんです」
闇夜を一人で駆けた、悲しい記憶をぽつりぽつりと口にする。
「おいら、賊に追われて森の中を走っていたんです。途中でこけて、逃げなきゃダメだって、追いつかれるぞってわかってても、身体が動かなくて。平七のアニキが、行き倒れてる俺を見つけてくれたんです。だから、アニキはおいらの恩人だと思っていたんです」
話すほどに記憶が鮮明になり、嗚咽が漏れ、だんだんと呼吸がせわしなくなる。
「今まで考えないようにしてきました。思い出そうとすると、すっごく辛くて。でも、よく考えるとおかしいんです。……だって、アニキの持つ明かりはおいらの足元を照らしたんです。見回り番なら、郷屋敷の方からやってくるはず。それならおいらの頭上を照らすはず。それなのに、おいらの逃げてきた方向から来たんです。それで……」
「それで、平七に不信感を抱いたと」
無言で首を縦に振るユキ。涙があふれて止まらない。
「アニキを疑うなんてどうかしてる。鍛錬だってよくしてもらってたのに。だから信じてた。それなのに……ぐすっ……命の恩人だと思っていたのに……」
「結果的に、お前の勘は正しかった」
ユキの肩に、骨ばった手が乗る。
「お前の行動は、お前自身を救った」
「でもおいら、おっかあたちを救えなかった。村のみんな、おいら以外殺されちまった」
ひとたび流れた涙はとどまることを知らない。頬を撫でる風も、とめどない涙を乾かすには力及ばず、袖口が再び濃い色に染まる。
少年の慟哭はしばらく続いた。
薄明の空が、ぼんやりと夕焼けの余韻を残している。
気が済むまで涙を流し、ユキの両目は泣き腫らして赤くなっていた。
「これを使え」
いつの間に用意したのか、仁親が濡らした手ぬぐいを差し出した。
「ありがとうございます」
手ぬぐいの冷たさが心地良い。両目を瞑ってまぶたを冷やし、昂った心を静める。こんな風に人前で大泣きしたのはいつぶりだっただろう。
顔を上げると、隣でずっとユキを見守っていたであろう仁親の目線とぶつかった。ユキは、その瞳に映る自分の姿になぜか懐かしさを覚え、しばらく見入っていた。
「なんだ」
訝しげな声で問われ、ユキは慌てて視線を下げる。
「仁親殿の目は、お月さまみたいだなって」
「そんなこと、初めて言われたぞ」
眉根を寄せる仁親に一瞬怯むも、少年は果敢にも話を続ける。
「昔、村のはずれにある森の奥で泉を見つけたんです。月光できらきらしてて、今にも女神さまがでてくるんじゃねえかってくらいきれいな泉でした。……その水面を照らしていた青い月みたいだ」
思いっきり泣いた後の一種の清々しさも手伝って、ユキは少し饒舌になる。
「おいらの生まれた村では、時々青いお月さまが見えるんです。おっかあが、『山が呼吸しているからだ』って言ってました。山が呼吸するって、おいらにはどういうことかわからなかったけど。おっとうは、『寝息を立てているんだろ。山だって夜は寝たいさ』って」
もう会うことの叶わない顔が浮かび、思わず涙があふれそうになって慌てて袖で拭う。
「ああ、山吹村か」
また泣きそうになったユキの様子に気づかないふりをして、相槌を打つ。
「知っているんですか」
「ああ。あそこは珍しい地形で、山の息吹の影響で月が青く見えるんだ。何故かは知らない。知りたければ、東吾にでも聞けばわかるかもしれない」
初めて聞く名前に首をかしげる。ユキの知る限り、郷守にも刀守にも “東吾” という名の人物はいない。そもそも、一介の郷守であるユキに、剣役と繋がりのある知り合いなどいるはずがない。
「お前を水車に括り付けて回していた男だ。あいつは風読み、森羅万象に通じている。この世の不思議を知る男だ」
あっけにとられて、涙も引っ込んだ。
「あの人は剣役ではなかったのですか」
「……先ほど名乗ったはずだが」
自分の間抜け具合に、恥ずかしさで全身が熱くなる。涙ではなく、今度は汗が噴き出した。ユキは、真っ赤になった顔を両膝の間にうずめ、身悶えしそうな身体を力いっぱい抑えた。
東吾という名のあの大男が、剣役のはずがない。今、郷にいる姫君はたった一人。そして目の前にいる仁親こそが、その姫君をお守りする剣役なのだから。
「策は全て東吾が考えた。隙を与えれば姫を狙ってくるだろうと踏んだ。俺が囮になって、姫様のふりをした。俺の役を、あいつがやった」
それでは、ユキが姫君だと思っていたのは剣役で、剣役だと思っていたのは風読みだったのだ。郷屋敷の庭先で見惚れた姫君は、女人ですらなかった。
「気が付きませんでした……その、まさか男だったなんて」
少し熱の残る顔を上げたユキが、小声で呟く。
「郷の花の御命を、危険にさらすわけにはいかないからな」
なんてことない風に答える顔つきは、まさしく一流の剣士、姫君を守る剣役のものだ。姫君の身に万が一があれば、郷は枯れる。仁親の肩には、姫君一人の命だけではなく、郷に暮らす人々全員の命に対する重責がのしかかっているのだ。
それだけに、平七の罪は重い。ユキは覚悟を決め、ずっと気になっていた問いを切り出した。
「アニ……平七、は、どうなったんですか。まさか、殺したんですか」
刀を構えた姿勢で地面に沈んだ平七の姿が、ユキの脳裏に浮かぶ。
「大事な情報源だ、死なない程度に斬った」
「死なない程度……」
ユキが力いっぱい掴んでも抑えられなかった平七を、この優男の手にかかれば、手加減しても造作なく捕らえることができるのだ。それも、身動きしづらい姫装束を纏った状態で。
女子の恰好が似合う小柄な体躯の一体どこに、それだけの力を秘めているのだろう。先ほどユキを支えた腕は、華奢な体つきからは想像できない力強さだった。ユキは改めて、隣に座る仁親の頭のてっぺんから足先まで、まじまじと見つめた。
身体の大きさでいえば、平七の方が一回りほど大きい。さらに、ユキが剣役だとばかり思っていた東吾という風読みの方が、上背も肩幅もあってがっしりとしており、武人という言葉が似合っていた。
ユキは自身の小柄な体つきに引け目を感じていた。由ノ進も弥助も大柄で力強く、身体の小さなユキや伊助はいつも打ち負かされていた。
どのくらいの鍛錬を積めば、決して大きいとはいえない身体でも、剣役に選ばれるほどの領域に達することができるのか。身の程知らずなこの問いは、ユキの心の中に留め置くことにした。
「先ほどの話だが」
ふいに話しかけられて、ユキは我に返った。
「山吹村からここまで駆けてきたのか」
「はい。走ることは昔から得意で。……むしろ、走ることしかできなかった」
賊に立ち向かう力があれば、親や村の皆を助け出せたかもしれない。もっと身体が大きくて腕力があれば、せめて母親を背負って一緒に逃げることもできたかもしれない。しかし実際は、己一人が逃げのびることで精いっぱいだった。
「そうか」
空模様と同じく暗く沈んでしまった少年の様子に、仁親は話を切り上げることにした。
「そろそろ暮れる。郷守長屋まで送ろう」
「い、いえ!方向を教えていただければ、自分で歩いて帰れます」
有難い話だが、自分よりはるかに身分の高い者に送ってもらうなど、畏れ多いことこの上ない申し出だ。
「おかげさまで、だいぶ衣も乾きましたし」
常春の夕月郷は、日が沈んだ後も空気にぬくもりを感じるほど、温かな気候をしている。
「水車に縛られ回されていたやつが何を言う。自力で起き上がれもしなかったのだ、強がることはない」
衣服が乾いて水分の重さがなくなったとはいえ、満身創痍のユキのどこにも、歩いて帰る余力など残っていなかった。当然仁親は、それを見抜いている。それでも、郷守としてのなけなしの矜持がユキにも残っていた。
「しかし、剣役の御方に背負ってもらうなんて申し訳が立たないです。姫様でもないのに」
恐縮しきりのユキに仁親は、案ずるな、と一言呟くと指先を口元に近づけた。まもなく、軽快な足音が近づいてきた。
(なんだ……?)
夕闇の中姿を現したのは、鬣をなびかせながら走る、筋骨隆々とした馬だった。
「すげえ。おいら、こんな立派な馬初めて見ました」
村で見かけるのは、荷馬車を引く驢馬か、せいぜい行商人が連れている壮年を過ぎた馬くらいだ。若々しく、細身ながらも鍛え抜かれた肉体、それを支える四本の逞しい脚。平民の生きる世界ではお見受けできないお宝だ。
仁親の傍らに足を止めた馬は、大きな体をそっと主へ寄せる。仁親曰く、この馬は“天翔ける駿馬”だという。どんなに遠い所へでも、疾風のごとく駆けてゆける天翔馬。立派な異名を持つ馬は、主人に呼ばれ見るからにご機嫌な様子だ。仁親は愛馬を一撫ですると、まずユキの腰をつかんで馬の背に押し上げ、自分もその後ろににすっと飛び乗った。重力を感じさせないような、軽やかな騎乗だった。
「落ちないように気をつけろ。ゆけ、アマト」
そう言って、仁親がトンっと馬の腹を蹴ると、馬はゆっくりと前進しだした。
“天翔ける駿馬”と聞いて、一体どんな速さで駆けるのか恐々としていたユキの心配をよそに、仁親は馬に乗り慣れないユキに合わせて、緩やかな調子で馬を進める。
それでも最初はおっかなびっくり、馬が歩みを進めるたびにお尻が浮いて戸惑うユキだったが、次第に余裕が出てきたようで、背後の仁親に声をかける。
「“アマト”と呼んでましたけど、それがこの馬の名ですか」
「ああ」
頭上から返事が降ってきた。
「アマトかあ。素敵な名前だ」
「そうか?」
「おいらなんて、雪の日に生まれたからユキって名付けられたんです。こんなに温かな郷なのに、雪が降ったなんて信じられないですよね」
「……そうだな」
それきり仁親は何も話さなくなった。
馬の闊歩する足音はまるで子守歌、馬上の揺れの心地良さはさながらゆりかごのようで、次第にユキを眠りへ誘ってゆく。
仁親は、己に背をあずけて寝息を立てる少年の腹を片手でぐるっと抱え込むと、もう片方の手で手綱を握る。そうして愛馬の腹部をもう一蹴りすると、馬は待ってましたとばかり、速度を上げて走りだした。
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