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【二】一・聖女と勇者の会議は踊る
113. 聖女と勇者の探索パーティー〈9〉聖女
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レグルシウスとファリア・ルタリから来た異国の聖女と勇者を歓迎するパーティーの最中。
我が国ベガリュタルの聖女ふたりは、あれよあれよという間にホールから抜け出してしまった。
――逃げ出すわけにはいかないのに、もう……
ふたりきりの休憩室。ソファの上で。
華やかなドレスを着た可愛いイラリアが、私に覆い被さっている。空色の瞳は熱い感情を宿してこちらを見、私の胸をどきどきと焦らせた。
「んぅ」
しなやかな指が頬に触れ、ぷにぷにと優しく突いてくる。
「イラリア……そんなに触ったら、お化粧が……」
「私のフィフィ姉さま」
「ちゃんと他家の方と踊っていたところまでは、いい子だったのに……」
「悪い子の私はお嫌いですか?」
「うぅ、そんなことはないけど……せっかくのドレスも皺になっちゃう……」
「じゃあ、体勢を変えてあげますね」
「あっ」
さりげなく胸や脇腹を掠めながら、イラリアは私の脇に手を差し入れて抱き起こす。
彼女の醸し出す圧のせいか、それとも私も心の底では彼女を求めてしまっているのか、あるいはやっぱり体の調子が悪いのか。イラリアの好きなようにされるのを止められない。
「バレないように頑張らないと駄目ですよ?」
「ん……」
「いい子に立っていてね」
彼女より背の高い私の頭を、慣れた手つきでぽんぽんと撫でてから。イラリアは私の背後に回る。そのたわわな胸をむぎゅっと押し付け、私を抱きしめた。
「イラリア」
「姉さま、本当に大丈夫? 今も具合は平気?」
私の心臓の鼓動を確かめるように、彼女の左の手のひらが胸元へと触れる。
「ええ、平気よ」
「どうしてあいつにハグされていたの? うん?」
「それは、兄様本人に訊いてほしいけれど……。感極まってというか、私を心配して、というか。今日は、悪意のあるものじゃなかったわ。私が弟とするのと同じようなものよ。信じて」
「姉さまは、ご自分の立場をわかっておいでですか」
「貴女こそ。私たちは今すぐに広間へ戻るべきだわ」
イラリアの手が艶めかしく動き、違うところへと触れてくる。
「ね……イラリア……だめ……」
「私が満足したら、パーティー会場に戻らせてあげますから」
「わ、私たちの状況は、良くないわ。アル兄様は、帝国の方々と繋がっていて、私たちの知らない情報を持ってて……セルジオ王子も、んっ、魔道具については、私たちより先を行っている。昼間の私やレオンたちは、セルジオ王子の掌の上だったということでしょう?」
「ええ、そのようですね」
同じ王家に連なるきょうだいでも、王太子決定の儀を終えても。
王子王女らの関係は、平らではない。ただ協力するだけでなく、それぞれの思惑をもって動いていることもある。
「レオンたちはレオンたちで、あの家の生まれだから、戦術と勇者の歴史については、私たちより――ねえ、イラリア、わかっている?」
「何をです?」
「私とイラリアは、聖女の心臓蘇生――死者の復活の成功者であるという諸刃の剣は持っているけれども。それ以外の魔法情報については圧倒的に弱い。このままだと、食われるわよ」
「今は姉さまの方が私に食べられちゃいそうですけど」
「……、ふざけない、で」
「ふざけてません」
「――イラリア?」
私を容赦なく責めていた手付きは、変わらなかったけれど。
どうしてだろう、彼女が泣きそうになっている、ような気がした。
震える脚に力を入れて、彼女に弄られ続けながら、振り向こうとする。彼女に導かれてキスをする。
「ん、いらりあ……」
「フィフィ姉さま」
「なぁに、イラリア」
「死んじゃだめだよ」
「……ええ。まだ死なないわ」
私は彼女の手の甲をそっと撫で、「続けていいわ」と呟いた。
「愛してます。フィフィ」
「ええ、私も。貴女を愛しているわ――」
結局、私とイラリアが広間に戻ったのは、それから数十分後のことだった。
我が国ベガリュタルの聖女ふたりは、あれよあれよという間にホールから抜け出してしまった。
――逃げ出すわけにはいかないのに、もう……
ふたりきりの休憩室。ソファの上で。
華やかなドレスを着た可愛いイラリアが、私に覆い被さっている。空色の瞳は熱い感情を宿してこちらを見、私の胸をどきどきと焦らせた。
「んぅ」
しなやかな指が頬に触れ、ぷにぷにと優しく突いてくる。
「イラリア……そんなに触ったら、お化粧が……」
「私のフィフィ姉さま」
「ちゃんと他家の方と踊っていたところまでは、いい子だったのに……」
「悪い子の私はお嫌いですか?」
「うぅ、そんなことはないけど……せっかくのドレスも皺になっちゃう……」
「じゃあ、体勢を変えてあげますね」
「あっ」
さりげなく胸や脇腹を掠めながら、イラリアは私の脇に手を差し入れて抱き起こす。
彼女の醸し出す圧のせいか、それとも私も心の底では彼女を求めてしまっているのか、あるいはやっぱり体の調子が悪いのか。イラリアの好きなようにされるのを止められない。
「バレないように頑張らないと駄目ですよ?」
「ん……」
「いい子に立っていてね」
彼女より背の高い私の頭を、慣れた手つきでぽんぽんと撫でてから。イラリアは私の背後に回る。そのたわわな胸をむぎゅっと押し付け、私を抱きしめた。
「イラリア」
「姉さま、本当に大丈夫? 今も具合は平気?」
私の心臓の鼓動を確かめるように、彼女の左の手のひらが胸元へと触れる。
「ええ、平気よ」
「どうしてあいつにハグされていたの? うん?」
「それは、兄様本人に訊いてほしいけれど……。感極まってというか、私を心配して、というか。今日は、悪意のあるものじゃなかったわ。私が弟とするのと同じようなものよ。信じて」
「姉さまは、ご自分の立場をわかっておいでですか」
「貴女こそ。私たちは今すぐに広間へ戻るべきだわ」
イラリアの手が艶めかしく動き、違うところへと触れてくる。
「ね……イラリア……だめ……」
「私が満足したら、パーティー会場に戻らせてあげますから」
「わ、私たちの状況は、良くないわ。アル兄様は、帝国の方々と繋がっていて、私たちの知らない情報を持ってて……セルジオ王子も、んっ、魔道具については、私たちより先を行っている。昼間の私やレオンたちは、セルジオ王子の掌の上だったということでしょう?」
「ええ、そのようですね」
同じ王家に連なるきょうだいでも、王太子決定の儀を終えても。
王子王女らの関係は、平らではない。ただ協力するだけでなく、それぞれの思惑をもって動いていることもある。
「レオンたちはレオンたちで、あの家の生まれだから、戦術と勇者の歴史については、私たちより――ねえ、イラリア、わかっている?」
「何をです?」
「私とイラリアは、聖女の心臓蘇生――死者の復活の成功者であるという諸刃の剣は持っているけれども。それ以外の魔法情報については圧倒的に弱い。このままだと、食われるわよ」
「今は姉さまの方が私に食べられちゃいそうですけど」
「……、ふざけない、で」
「ふざけてません」
「――イラリア?」
私を容赦なく責めていた手付きは、変わらなかったけれど。
どうしてだろう、彼女が泣きそうになっている、ような気がした。
震える脚に力を入れて、彼女に弄られ続けながら、振り向こうとする。彼女に導かれてキスをする。
「ん、いらりあ……」
「フィフィ姉さま」
「なぁに、イラリア」
「死んじゃだめだよ」
「……ええ。まだ死なないわ」
私は彼女の手の甲をそっと撫で、「続けていいわ」と呟いた。
「愛してます。フィフィ」
「ええ、私も。貴女を愛しているわ――」
結局、私とイラリアが広間に戻ったのは、それから数十分後のことだった。
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