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【二】二・星降る夜の加護と帝国の呪い
118. 流星祭と新たな出会い〈5〉浦島
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――全員、悪役令嬢って……。えぇ? 私だけじゃなく、このひとも? ミナ姫も??
イラリアからは、聞いていない。そんな話は知らない。
私の知る悪役令嬢は、ただひとり。〝オフィーリア・ハイエレクタム〟だけだ。
――こんな嘘をつく意味がわからないし、本当のことなのかもしれないけれど……でも……?
イラリアも、アルティエロ王子も。悪役令嬢オフィーリアの話しかしてこなかった。
悪役令嬢グラツィアだとか、悪役令嬢ミナだとか、そういうのは教わっていない。知らない。
――それに……〝空〟の悪役令嬢って言ったかしら? 初耳だわ。
自分の他に〝悪役令嬢〟がいるなどとは思ってもみなかったから、私は今、自分でもそうだとわかるほどに混乱している。頭からぐるぐると音がしそうだ。
きっとジェームズ先生には、なおさら意味がわからない会話だったはず。
それでも彼は、私の様子に何か察するところがあったのか、そっと背をさすって「大丈夫だ」と励ますように囁いてくれた。
また子ども扱いされている気がする。先生だって、よくわかっていないくせに。大丈夫じゃないかもしれないのに。
でも、彼がいると、私も安心してしまうのは本当だ。ひとりでいるより、心がずっと楽になる。
「お言葉だが、自称悪役のグラツィア嬢よ」
「ただの悪役じゃなくて悪役令嬢ね。勝手に端折らないでよ、おじさん」
またもや〝おじさん〟呼ばわりされながら、先生はグラツィアに言い返した。
「オフィーリアは、貴女と〝同類〟ではないようだ。そもそもシルビアと同職の者なら、今、護るべきお方の心を乱すのはいかがなものかと」
「過保護ね。オフィーリアも、もう子どもじゃないでしょうに」
「子どもではなくても、貴女よりは年下の学生だ」
「あら、学生に手を出しているの?」
「出していない」
なるほど、グラツィア嬢は、人の気分を害するのが上手なお方のようで。
こうして人を煽ってくるところは、たしかに悪役令嬢らしいかもしれない。
先生に睨まれでもしたのか、グラツィアの瞳が小さく揺らぐ。小綺麗な靴が後ずさる。
「あー……わかった。なるほどね。私、自分が思っているよりも浦島っているみたい……」
「ウラ……? なあ、オフィーリア、どういう意味だ? わかったか?」
「わかりません、が、もしかすると…………」
こういった、間に意味不明な言葉を挟む話し方には、心当たりがある。
気を抜いているときやふざけているときのイラリアだ。彼女の話し方と似ていた。
――もしかして、この人も転生者なの? ミレイやイオリと同類?
ウラシマっているという自覚は、よっぽど彼女の心に衝撃だったのか、何なのか。
グラツィアはひとりでぶつぶつと何かを呟きはじめ、こちらには目もくれなくなってしまった。
私と先生は視線を交わし、そういえば、と今の距離感に気づかされる。
――あら、とっても近いわ。
彼は、潔白だ。私と彼は清い関係だ。
ゆえに手を出している云々と言われると腹が立ったものだが、たしかに、そういう仲だと疑われそうな距離でくっついてはいた。
――イラリアに見られたら、先生が殴られちゃってもおかしくないくらいの距離感だったのに。私ったら、軽率ね。王女でもあるのに。
「えっと……もうちょっと離れましょうか?」
「そうだな。悪い。気づかなくて」
「いえいえ。不審者から守っていただけて、感謝しております」
「誰が不審者ですか」
グラツィアは一言だけ反応し、またひとりでぶつぶつと何かを呟く。これは不審者で間違いない。
「オフィーリア、それで、名の呪いのことだが」
「はい。……と言っても、現状、これ以上は何の対策もしようがないのですよね」
「そうだな。何か伝達があればまた変わるが、今のところはここで待機だ。祭りの場から離れすぎても支障が出るし。自称外務省のやつも役に立たないし」
「誰が自称ですか」
ひとりごとの時間は済んだのか、グラツィアは頬を膨れさせてこちらを睨みつけてきた。
子どもっぽいというか、なんというか。これもイラリアたちと被る気がする。
……やっぱり転生者っぽい。
イラリアからは、聞いていない。そんな話は知らない。
私の知る悪役令嬢は、ただひとり。〝オフィーリア・ハイエレクタム〟だけだ。
――こんな嘘をつく意味がわからないし、本当のことなのかもしれないけれど……でも……?
イラリアも、アルティエロ王子も。悪役令嬢オフィーリアの話しかしてこなかった。
悪役令嬢グラツィアだとか、悪役令嬢ミナだとか、そういうのは教わっていない。知らない。
――それに……〝空〟の悪役令嬢って言ったかしら? 初耳だわ。
自分の他に〝悪役令嬢〟がいるなどとは思ってもみなかったから、私は今、自分でもそうだとわかるほどに混乱している。頭からぐるぐると音がしそうだ。
きっとジェームズ先生には、なおさら意味がわからない会話だったはず。
それでも彼は、私の様子に何か察するところがあったのか、そっと背をさすって「大丈夫だ」と励ますように囁いてくれた。
また子ども扱いされている気がする。先生だって、よくわかっていないくせに。大丈夫じゃないかもしれないのに。
でも、彼がいると、私も安心してしまうのは本当だ。ひとりでいるより、心がずっと楽になる。
「お言葉だが、自称悪役のグラツィア嬢よ」
「ただの悪役じゃなくて悪役令嬢ね。勝手に端折らないでよ、おじさん」
またもや〝おじさん〟呼ばわりされながら、先生はグラツィアに言い返した。
「オフィーリアは、貴女と〝同類〟ではないようだ。そもそもシルビアと同職の者なら、今、護るべきお方の心を乱すのはいかがなものかと」
「過保護ね。オフィーリアも、もう子どもじゃないでしょうに」
「子どもではなくても、貴女よりは年下の学生だ」
「あら、学生に手を出しているの?」
「出していない」
なるほど、グラツィア嬢は、人の気分を害するのが上手なお方のようで。
こうして人を煽ってくるところは、たしかに悪役令嬢らしいかもしれない。
先生に睨まれでもしたのか、グラツィアの瞳が小さく揺らぐ。小綺麗な靴が後ずさる。
「あー……わかった。なるほどね。私、自分が思っているよりも浦島っているみたい……」
「ウラ……? なあ、オフィーリア、どういう意味だ? わかったか?」
「わかりません、が、もしかすると…………」
こういった、間に意味不明な言葉を挟む話し方には、心当たりがある。
気を抜いているときやふざけているときのイラリアだ。彼女の話し方と似ていた。
――もしかして、この人も転生者なの? ミレイやイオリと同類?
ウラシマっているという自覚は、よっぽど彼女の心に衝撃だったのか、何なのか。
グラツィアはひとりでぶつぶつと何かを呟きはじめ、こちらには目もくれなくなってしまった。
私と先生は視線を交わし、そういえば、と今の距離感に気づかされる。
――あら、とっても近いわ。
彼は、潔白だ。私と彼は清い関係だ。
ゆえに手を出している云々と言われると腹が立ったものだが、たしかに、そういう仲だと疑われそうな距離でくっついてはいた。
――イラリアに見られたら、先生が殴られちゃってもおかしくないくらいの距離感だったのに。私ったら、軽率ね。王女でもあるのに。
「えっと……もうちょっと離れましょうか?」
「そうだな。悪い。気づかなくて」
「いえいえ。不審者から守っていただけて、感謝しております」
「誰が不審者ですか」
グラツィアは一言だけ反応し、またひとりでぶつぶつと何かを呟く。これは不審者で間違いない。
「オフィーリア、それで、名の呪いのことだが」
「はい。……と言っても、現状、これ以上は何の対策もしようがないのですよね」
「そうだな。何か伝達があればまた変わるが、今のところはここで待機だ。祭りの場から離れすぎても支障が出るし。自称外務省のやつも役に立たないし」
「誰が自称ですか」
ひとりごとの時間は済んだのか、グラツィアは頬を膨れさせてこちらを睨みつけてきた。
子どもっぽいというか、なんというか。これもイラリアたちと被る気がする。
……やっぱり転生者っぽい。
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