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〈悪役王子〉と〈ヒロイン〉花街編
【31】七日目――悪役王子様と、全部 −3− ★
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白い衣装を纏っているから〝白王子〟だ、ともうひとりの彼に名付けられた彼が、ベッドの上で着衣のまま仰向けになっている。礼服に包まれたままの下半身には、これまた宝石で作られた玩具――空色の張り形が装着されていた。
雄芯を模したこの空色の石像には血管のような銀色が這わされており、本物の誰かのそれを固めてしまったのではないかと思うほどに精巧なつくりだ。
「ちょっと昔の僕のものを模して作られているから、今のアリシアなら無事に挿入できる大きさだよ」
『僕らはアリシアのことなら何でも知っているからね。耳の形や大きさも、勃起した時の花芽の大きさも』
「大丈夫。きみならできるよ」
『頑張れ、アリシア』
「……っ」
フィリップの見た目をしたフィリップが、ふたりもいる。それは、ふたりの魔王様の姿をした彼に愛された昨晩よりも、ひどく幸せで恐ろしい状況だった。
(もう、本当は、とっくに駄目になっていたのかもしれない。堕ちていたのかもしれない。わからない。もうわからない)
私は――まだ〝未来の王妃〟でいられておりますか?
アリシアは自問する。心の中の悪魔にも訊いてみる。返事は、ない。答えはない。
「手伝ってあげるから、挿れてみよう?」
「はぅん……っ、ん」
もう一方の彼――黒い衣装を纏っているので、白王子が仕返しとばかりに〝黒王子〟と名付けていた――に両手で支えられ、アリシアはゆっくりと腰を落としていく。「ここだよ」と確信めいた調子で言う彼は、アリシアの蜜口の位置や中の角度までわかってしまっているのだろう。彼女を円滑に導いた。
「あ……っ」
硬質なものがそこに触れ、陰唇でその先端を咥え込み、アリシアはドキリとする。このまま落としていけば、もう中に挿入できてしまいそう……と。
黒王子フィリップは「大丈夫だよ」「好きだよ」と言いながら片腕で腰を抱き直し、もう片方の手で彼女の花芽をいじりはじめた。きっとまた恐怖感や緊張感をほぐそうとしてくれている。
(こんなに訳がわからない世界でも、私は、貴方様のことが、ずっと好きで。幼き頃より抱いておりました尊敬や親愛の情は、一緒に育っていくにつれて、そのまま恋の情にまで成長したのです。愛しているのです)
アリシアはときめきと性感をおぼえながら、彼女の下で切なげにする白王子フィリップの顔を見た。
彼は誘うように己の唇をしっとりと舐め、息をつき、色気のあふれるフィリップらしい声で言う。
『アリシア。ここに、きてくれ。ずっと、きみを待っていたんだ』
「ふぃ、フィリップ様――」
ぬぷぷぷぷ……と。気づいた時には身体が動き、彼女はそれを迎え入れようとしていた。花芽への愛撫に、未知の行為にドキドキしながら腰を落とし、ちゅぷりとそれを根元まで咥え込む。
「はぁあっん――っ」
『偉いよアリシア』
「よく頑張ったね」
白王子はふわりと微笑み、黒王子は彼女の耳元で囁く。そして彼の指示を聞いたアリシアは、もうひとつの穴でも彼を迎え入れる準備を始めた。
もうひとりの王子様にキスで移された媚薬のせいだろうか、それとも、多めに焚かれた青楼の香の匂いのせいだろうか。今日はいつもより何かが効いているようで、今宵も人生最高の快楽をもたらされてしまう予感があった。
「ぅん……っ」
下の彼の胸元に手を置いて、花芽を擦り付けるように身体を前へと倒し気味にし、臀部と彼との間に隙間を空ける。
たった一週間で、アリシアは、こういった行為を覚えてしまった。もうできるようになってしまった。
今の彼女は、ひとりの娼妓だ。
(大丈夫。もう受け容れられる)
さらに身体を前へと倒し、アリシアは「どうぞ、おいでください」と黒王子のフィリップに言う。
彼は「愛してるよ。アリシア」と爽やかな調子で言いながら、彼女のそこに雄芯を触れさせた。
『ねえ、アリシア。あのね、聞いて?』
彼らの告白が、きっと予定どおりに始まる。
「僕は、きみを守りたかった」
『オトメゲームの黒い顔を、きみには忘れたままでいてほしかった』
「だから、きみにその黒を隠した。見せないようにした」
『きみは、この世界に生きていてくれればいい。きみが生きてさえいれば、それでいいんだ』
「僕の本当の願いだよ。想いだよ」
『僕らが、ふたりになっている理由。普通の人間には使えない、分身魔法を使えている理由』
「もう、きみは、わかっちゃったかな。アリシアは、賢く強かな〝未来の王妃〟だから」
『魔王様と分身と三人えっちをするっていうのが昨晩のイベントだったけど、もちろんあれは変身した僕で』
「ねえ、答えてみて。アリシア……」
爽やかさの残滓に、切なさと悔しさと恐ろしさのような感情たちを掻き混ぜて。彼はとても苦しそうな声で言った。
アリシアは、答えなければならない。
――道を。選ばなければならない。
「貴方様は、フィリップ様は、殿下は、悪役王子様は…………〝魔王様〟……なのですよね?」
「……正解」彼のその呟きは、夜に小さく瞬く星のようだった。
台詞めいた調子で、白王子フィリップと黒王子フィリップは、悪役王子は続けて言う。
『僕は、このミラフーユ王国の王太子であり、この世界の魔を統べる王の――正式なる後継者』
「未来の国王であり、未来の魔王だ」
『――きみは、この僕を知っても』
「――僕と一緒に、僕の隣で生きてくれるか」
ふたりからの問いに、アリシアは、迷うことなくこくりと頷く。
照れ隠しも誤魔化しも妥協も嘘も何もない。
これは、彼女が真っ直ぐに選ぶ答えだった。
「はい、もちろん。フィリップ様と一緒に生きてまいります。この命が尽きる日まで、貴方様の隣に……っ」
ずぷり、と背後の彼がアリシアを拓く。
前方の彼は彼女を抱いて、キスをする。
「にゃあ……っ」
下から、後ろから突き上げられ。背後の手からは子宮を揺さぶられ。愛され。愛され。果てて。愛されて。
「結婚しよう。アリシア。絶対に」
『結婚も、えっちも、僕とだけだよ。一生』
「一生。きみは僕の妻で。最愛の妃だ――」
そうして彼女は、彼らは、青楼の閨での最後の場面を作り終え、このイベントを終えようとしていた。
この時、この場所を。〝今〟を身体に覚え込ませるように。ひたすらに抱いて抱かれて愛し愛される夜を過ごした。
ヒロインは――攻略対象外の悪役王子と生きる道を選びとった。ふたりは生存の道を進もうとしていた。
ただ、ひとつ、この世界に存在する問題点は。
――このヒロインは、【バグ】っている。
「フィリップ様……っ」
フィリップと魔王の間で交わされた契約のすべてを、彼女は知らない。
アリシアと■■の間で交わされた契約のことを、彼は存在さえ知らない。
「アリシア。大好きだよ」
彼女の心を巣食うそれの存在を、悪役王子は、まだ知らない。
雄芯を模したこの空色の石像には血管のような銀色が這わされており、本物の誰かのそれを固めてしまったのではないかと思うほどに精巧なつくりだ。
「ちょっと昔の僕のものを模して作られているから、今のアリシアなら無事に挿入できる大きさだよ」
『僕らはアリシアのことなら何でも知っているからね。耳の形や大きさも、勃起した時の花芽の大きさも』
「大丈夫。きみならできるよ」
『頑張れ、アリシア』
「……っ」
フィリップの見た目をしたフィリップが、ふたりもいる。それは、ふたりの魔王様の姿をした彼に愛された昨晩よりも、ひどく幸せで恐ろしい状況だった。
(もう、本当は、とっくに駄目になっていたのかもしれない。堕ちていたのかもしれない。わからない。もうわからない)
私は――まだ〝未来の王妃〟でいられておりますか?
アリシアは自問する。心の中の悪魔にも訊いてみる。返事は、ない。答えはない。
「手伝ってあげるから、挿れてみよう?」
「はぅん……っ、ん」
もう一方の彼――黒い衣装を纏っているので、白王子が仕返しとばかりに〝黒王子〟と名付けていた――に両手で支えられ、アリシアはゆっくりと腰を落としていく。「ここだよ」と確信めいた調子で言う彼は、アリシアの蜜口の位置や中の角度までわかってしまっているのだろう。彼女を円滑に導いた。
「あ……っ」
硬質なものがそこに触れ、陰唇でその先端を咥え込み、アリシアはドキリとする。このまま落としていけば、もう中に挿入できてしまいそう……と。
黒王子フィリップは「大丈夫だよ」「好きだよ」と言いながら片腕で腰を抱き直し、もう片方の手で彼女の花芽をいじりはじめた。きっとまた恐怖感や緊張感をほぐそうとしてくれている。
(こんなに訳がわからない世界でも、私は、貴方様のことが、ずっと好きで。幼き頃より抱いておりました尊敬や親愛の情は、一緒に育っていくにつれて、そのまま恋の情にまで成長したのです。愛しているのです)
アリシアはときめきと性感をおぼえながら、彼女の下で切なげにする白王子フィリップの顔を見た。
彼は誘うように己の唇をしっとりと舐め、息をつき、色気のあふれるフィリップらしい声で言う。
『アリシア。ここに、きてくれ。ずっと、きみを待っていたんだ』
「ふぃ、フィリップ様――」
ぬぷぷぷぷ……と。気づいた時には身体が動き、彼女はそれを迎え入れようとしていた。花芽への愛撫に、未知の行為にドキドキしながら腰を落とし、ちゅぷりとそれを根元まで咥え込む。
「はぁあっん――っ」
『偉いよアリシア』
「よく頑張ったね」
白王子はふわりと微笑み、黒王子は彼女の耳元で囁く。そして彼の指示を聞いたアリシアは、もうひとつの穴でも彼を迎え入れる準備を始めた。
もうひとりの王子様にキスで移された媚薬のせいだろうか、それとも、多めに焚かれた青楼の香の匂いのせいだろうか。今日はいつもより何かが効いているようで、今宵も人生最高の快楽をもたらされてしまう予感があった。
「ぅん……っ」
下の彼の胸元に手を置いて、花芽を擦り付けるように身体を前へと倒し気味にし、臀部と彼との間に隙間を空ける。
たった一週間で、アリシアは、こういった行為を覚えてしまった。もうできるようになってしまった。
今の彼女は、ひとりの娼妓だ。
(大丈夫。もう受け容れられる)
さらに身体を前へと倒し、アリシアは「どうぞ、おいでください」と黒王子のフィリップに言う。
彼は「愛してるよ。アリシア」と爽やかな調子で言いながら、彼女のそこに雄芯を触れさせた。
『ねえ、アリシア。あのね、聞いて?』
彼らの告白が、きっと予定どおりに始まる。
「僕は、きみを守りたかった」
『オトメゲームの黒い顔を、きみには忘れたままでいてほしかった』
「だから、きみにその黒を隠した。見せないようにした」
『きみは、この世界に生きていてくれればいい。きみが生きてさえいれば、それでいいんだ』
「僕の本当の願いだよ。想いだよ」
『僕らが、ふたりになっている理由。普通の人間には使えない、分身魔法を使えている理由』
「もう、きみは、わかっちゃったかな。アリシアは、賢く強かな〝未来の王妃〟だから」
『魔王様と分身と三人えっちをするっていうのが昨晩のイベントだったけど、もちろんあれは変身した僕で』
「ねえ、答えてみて。アリシア……」
爽やかさの残滓に、切なさと悔しさと恐ろしさのような感情たちを掻き混ぜて。彼はとても苦しそうな声で言った。
アリシアは、答えなければならない。
――道を。選ばなければならない。
「貴方様は、フィリップ様は、殿下は、悪役王子様は…………〝魔王様〟……なのですよね?」
「……正解」彼のその呟きは、夜に小さく瞬く星のようだった。
台詞めいた調子で、白王子フィリップと黒王子フィリップは、悪役王子は続けて言う。
『僕は、このミラフーユ王国の王太子であり、この世界の魔を統べる王の――正式なる後継者』
「未来の国王であり、未来の魔王だ」
『――きみは、この僕を知っても』
「――僕と一緒に、僕の隣で生きてくれるか」
ふたりからの問いに、アリシアは、迷うことなくこくりと頷く。
照れ隠しも誤魔化しも妥協も嘘も何もない。
これは、彼女が真っ直ぐに選ぶ答えだった。
「はい、もちろん。フィリップ様と一緒に生きてまいります。この命が尽きる日まで、貴方様の隣に……っ」
ずぷり、と背後の彼がアリシアを拓く。
前方の彼は彼女を抱いて、キスをする。
「にゃあ……っ」
下から、後ろから突き上げられ。背後の手からは子宮を揺さぶられ。愛され。愛され。果てて。愛されて。
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そうして彼女は、彼らは、青楼の閨での最後の場面を作り終え、このイベントを終えようとしていた。
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ただ、ひとつ、この世界に存在する問題点は。
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