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#1 毒殺における最低限の憶測【糾弾ホームルーム篇】

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 芽衣の意見では納得できないのか、それともどうしても安藤を犯人にしたいのか、本田は反論する。ただ、アベンジャーのことを犯人と呼ぶことに関しては賛成のようだ。

「一馬、残念だけど根本的な前提がある以上、昼安藤を犯人だと決め付けることはできないと思うぜ」

 そこで声を上げたのは、本田の親友である秀才。坂崎だった。本田と一緒に野球の真似事をしていた頃が懐かしく思えてしまうのは安藤だけなのだろうか。あの時は大いに笑われてしまったが、それでも構わないから、あの頃に戻りたい。

「あぁ?」

「一馬、資料をよく読んでみろよ。牛乳のどれに毒が混入されていたのかは、犯人ですら知らなかったんだ。だから、みんなの牛乳に手を触れるチャンスが昼安藤にあったとしても、意図的に狙った相手に毒の入った牛乳を渡すのは不可能なんだよ。犯人だって毒がどれに混入されているかは知らないんだからさ」

 さすがは本田の親友である。誰もが彼に対して萎縮してしまいがちであるが、坂崎だけは実に軽々しく意見できる。そして、その意見もまた――筋が通っていた。

「でもよ、じゃあ誰が7人を殺したんだ? 狙って牛乳を渡すことができたのは昼安藤だけだろ?」

 坂崎の説明を聞いても、本田はまだ納得できないようだった。どうしても安藤を犯人にしたいらしい。それならばそれで、安藤は自分の容疑を晴らすだけだ。そのためには考えなければならない。

 ――犯人ですら、牛乳のどれに毒が混入されていたのかを知らなかった。それどころか、全員の牛乳に手を触れることができたのは安藤だけであり、他の人間は自分に配られた牛乳にしか触れることができなかった。ならば、どうやって犯人は7人に毒を飲ませたのか。根本的な発想が違うことに、安藤は気付いていた。

「そもそも、犯人は狙って7人に毒の入った牛乳を渡したんだろうか? 毒の入っておる牛乳のパックが判別できない以上、特定の人物を狙うなんて不可能だろうて」

 やや古風な言い回しのハスキーボイスは、体育会系の熱血漢である根津だった。それに続いて口を開いたからなのか、芽衣の声が妙に細くて、透き通っているかのように聞こえた。

「無差別――だと思う。誰か特定の相手を狙うことは、どう考えたって無理。犯人にだけ、毒入りの牛乳パックを判別できたっていうなら話は変わってくるけど、そうじゃない以上、7人は狙って殺害されたというよりも、たまたま運悪く毒入りの牛乳パックを受け取ってしまったがゆえに、亡くなってしまったと考えたほうがいい」
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