公爵令嬢姉妹の対照的な日々 【完結】

試験は終わった！

　ヴィクトリアの試験の朝。朝食はヴィクトリアの好きなものが並んでいる。

「頑張りなさい」

サヴェージはそれだけを言う。ヴィクトリアは首を縦に振って応える。

「トリアがいつも通りの実力を出せばいいだけだから」

ポールは事も無げにヴィクトリアに告げる。

「ええ。……がんばりますわ」

ヴィクトリアは静かに宣言する。

「力む必要はない。トリアの本気をだせばいい」

兄の言葉にヴィクトリアはしっかりと頷いて応えた。



　
　「おかえりなさいませ」

試験が終わり疲れた様子のヴィクトリアをメイド長が迎える。今まではエリスの役目であったがヴィクトリアはエリスの顔を見るのを拒んでいるからだ。

「ただいま戻りました」

「お疲れでしょうからお茶を用意しますね」

「私の部屋のバルコニーにお願いできます？」

「かしこまりました」

メイド長は静かに頭を下げる。ヴィクトリアはゆっくりと自室に戻る。ヴィクトリアは荷物を自分の机に置く。勉強用の道具は自分で用意し片付けるのがヴィクトリアの流儀だった。
　すぐに専属侍女のアリーナがお茶の用意をもって入って来た。

「すぐに用意しますね」

「お願いね」

ヴィクトリアは靴を脱ぎストッキングを脱ぎ室内履きに履き替える。解放された足がとても楽でヴィクトリアの表情が緩む。

「あ、お嬢様また勝手に脱いで」

「私室だからいいでしょう」

「……そうですけど」

ヴィクトリアはドレス以外は自分で支度をする。これはサヴェージの教育方針の一つで身の回りの事ぐらい自分の手で、というものだった。特にポールは

『貴族といえどいつ何時戦場へ出る事があるかもしれぬ。魔獣退治に行くこともある』

と躾けられている。これはバイユ公爵家の教育方針でもあった。ただし令嬢は対象にならないことも多かったがヴィクトリアはシャルルに嫁ぐつもりであったので何があってもいいように料理や掃除も一応は出来るようになっている。シャルルが何かしでかす可能性はある、とヴィクトリアは思っていた。逆になにもしなさ過ぎてそれを咎められる可能性だってあるとも。



　「ああ、解放感」

ヴィクトリアはそう言いながらアリーナが入れたお茶と小さなサンドイッチを口にした。

「アリーナも一緒に」

「いえ、……今日は止めておきます」

アリーナは続けてヴィクトリアに訊ねる。

「今日は晩餐はどうしますか？」

「今日は楽したいの。……部屋で軽食をおねがいしていいのかしら」

「聞いておきますね」

　ヴィクトリアの願いは却下された。兄の友人が来るので顔をだせ、と。

「……めんどうだわ」

「お嬢様、今から用意しないと間に合いません。ミリエルはお嬢様のお風呂を手伝って」

「わかりました」

ミリエルはヴィクトリアを風呂に追い立てる。

　長い金髪を緩くあみ前にたらす。胸の下で切り替えるデザインのドレスにしてコルセットを着けずに済むようにとアリーナは配慮した。ヴィクトリアの外見は淑やかな令嬢風にみえる。

「化粧も最小限にしましょう」

ふわふわのブラシがヴィクトリアの顔の上を滑り用意は全て整った。