聖女は断罪する

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120. 仲良しなのかな?

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 クロエの件は以降、エミールが農地改良や小麦育成の指導などに入るようになった。これはクロエの領地が王宮に借金をし、エミールに顧問料を払う事になった。

「世知辛いわぁ、世の中なんでもお金だよね」

クロエが切実に呟く。

「まぁ、それには賛成ですね」

エドワードが同意する。エドワードも成人後自分の領地となる伯爵領の経営を始めたところだった。

「うちは父親と折り合いが悪くて家を出て行った次兄がやっと戻ってくれるんだけど……ちゃんと経営してくれるのかしら」

クロエが溜息をついた。クロエはレイラに頼んだ領地の件からエミールの元を尋ねる事が増え皆と仲良くなったのだ。

「まず資料を見せて説得、かな。エミール師もいる事だし」

「……エミールさん、あんまり人間と接触し慣れてなくない?」

ロランの言葉にクロエが反発する。皆その意見には賛成ではあった。

「でもいい人だよ」

メルヴィンがフォローにならないフォローをする。

「う、それは認めるけどぉ」

レイラはクロエが来てからあまり声を出さなくなった。嫌々そこにいる風ではないが積極的に会話に参加しなくなったのでペールとロランが心配していた。クロエは時々公爵家の部屋にも入ってくるようになった。どうもルシアとはあまり肌が合わないらしい。

 レイラのクラスの女子達はレイラに対していい気味だ、とまでは思わないが多少のわだかまりをすっきりさせていた。『伯爵令嬢風情が男を侍らすなんて』『やはり高位貴族は高位貴族同士よね』『王族と伯爵令嬢は釣り合わないわ』『ルシア様もなんであんなみすぼらしい伯爵令嬢なんかと……』など姦しい。いままで密やかに育ててきた悪意がいきなり芽吹いたようで毒々しいな、とレイラは感じていたしロランとペールも感じていた。ジュリオとエドワードは悲しいかな、王宮で正妃の元で見ていた女官たちのお陰で『そんなもの』と幼いころに認知してしまっていた。メルヴィンも教会で育てられ散々こういう状況を見慣れていた。とある日、温室でメルヴィンはレイラに訊ねた。

「クラス、辛くない?」

レイラは考えた後首を横に振った。

「そうでもないかな。愛人みたいな毒じゃないしメイみたいな空っぽな器じゃないから気持ち悪くないし。……あの人たちの中にも家同士の駆け引きとかあってああいうことで同調してないとダメだったりする人もたくさんいるし」

レイラは今、自宅で各貴族の力関係を教えられていた。表向きと裏の事情なども教えられている。それを知っている事をレイラはおくびにも出さない。
 令嬢Aと令嬢BがいてAの方が高位貴族だが、爵位の低いBから親が借金しているなどそんな事情を知ってから見るとクラスの令嬢の姿もむべなるかな……、と思ってしまうのだ。

 最近、クロエがくる昼食時にはヴィヴィアンヌは存在を希薄化している。クロエは認知しない。そんな状況なのでレイラもルシアもヴィヴィアンヌに声をかけない。最近の帰宅はレイラの家まではレイラの家の馬車で行き、レイラの家からライン公爵家の馬車に乗り換えルシアとロランが帰るというスタイルが定着していた。
 レイラと同じ馬車に乗る事をペールが羨ましがるとロランがきっぱり言う。

「女三人のおしゃべりに口を挟める男はいないよ」

ジュリオが深く頷いた。

「妹3人のおしゃべりに兄貴は負けるぞ」

エドワードも何とも言えない顔で頷く。側妃宮での妹たちを思い出しているようだ



 「クロエの兄ちゃんって教会で騎士職についてたらしいぞ」

ある日の温室でエミールがメルヴィンに言う。

「結局。家督を継ぐんで還俗して帰ってきたがな」

「クロエどうするのかな」

レイラが呟くとエミールはレイラの頭をぽんとたたいた。

「俺らが気にする事じゃない。クロエの兄ちゃんが考える事さ。俺らじゃどうにもできん」


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