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アキラの章

閑話 居酒屋の親父

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 「そう、電話の子機みたいなやつで喋れるの」

アキラと居酒屋の主人が他の人間には全くわからない言葉で喋っている。マルクは呆然と居酒屋の親父とアキラを見ている。

「こないだカレーライス作ってさ」

「どうしてもあの味わなー。今度は昭和のライスカレー食べさせたるさかい、おいで。俺の母親がつくっとったやつやから店みたいなわけにはいかんけどな」

アキラが嬉しそうだ。

「よその家のカレーって興味ある」

「せやな。どのおうちのも美味いんや、不思議と」

居酒屋の親父、鎌田宗介というらしい、は鳥肉を醤油と味醂と酒で味をつけ煮絡めている。横には黄色の錦糸卵と海苔が乗せられた丼飯が置いてある。
 東の国からの輸入食品店で、これらの調味料を見た時に宗介は感動したらしい。味噌から何から買い込んで、そこの店主にこの世界で一番美味い魚は何か聞いて、市場でその魚を買い込んで照り焼きにして食べたら、どうもその魚は鰤とかなり味が近い。で、その魚を求めて海沿いの街に行って、そこに住み着いてる時にマルク達と出会った、という事だった。
 元は食べるのが好きな独身リーマンで、天涯孤独になってからこの世界に来た、らしい。
 何があったのかは本人にも分からず、気がついたら出勤中の格好でここにいた、と。

「さて、照り焼き丼だ」

宗介はこちらの言葉に切り替えて賄い飯を出す。また、アキラと話し出した。

「この国の貴族階級は大体フランスの名前にちかい。で、こちらの言葉や庶民の名前がドイツ語。古語って呼ばれてる言葉が英語とほぼ同じやな」

宗介はリーマン時代、ドイツとの取引があり多少ドイツ語を齧っていたのでこっちではカタコトでも生きて行けた、と。カバンに入れていた独和・和独辞典は手放さずに持っていたらしい。
 最初の地点で、呆然としているとそこを通りがかった冒険者に

『どうかしましたか?』

と尋ねられどうもドイツ語の『どうかしましたか?』に聞こえたので一か八かでドイツ語で

『ここはどこですか?』

と聞き返し、そのまま冒険者ギルドに連れて行かれたという次第だったらしい。で、ギルドの厨房で働いてる時にこの国の台所用語を覚えたり、少し給料を貯めて街を彷徨いていろんな食料品店を覗いたりを繰り返して色々な知識を手に入れた、と。

「ギルドのな、芋の揚げた串はおっちゃんが考案したんや。芋の揚げ物もない、コロッケも。直ぐに冒険者ギルドの支店に広まったわ」

と楽しそうに日本語で話している。アキラに言うにはこっちの言葉、20年以上話してても細かいニュアンスが通じないから今日は久々に喋りまくってる、と。

マルクは宗介の名前、フルネームを初めて知ったし、こんなに喋る男だとも思ってなくて目を白黒させている。

「んな、アキラちゃん、また来てな」



店を出てからマルクは

「あんなに喋るオヤジ初めて見た」

と呟いた。
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